強く気高く孤高のマミさん【完結】   作:ss書くマン

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3話 敵か、味方か

 

 

 

 

ここはどこだろう。

 

ふわふわとした感触が身を包む。

あったかくて優しい雰囲気が体を通して伝わってくる。

甘くていい香りが漂う。

 

何か、不思議な出来事が起きた気がする。

ここに居る前に、怖くて恐ろしい出来事が。

 

悪夢のような、悪意をそのまま形にしたような。

全てがぐちゃぐちゃに塗りつぶされていたような。

私は、それが容赦なく振りかざされるのを震えて待つことしかできなかった。

 

そうだ、その後に、私の体を優しい光で包まれたんだ。

声が聞こえた。

それは…そう、安心させるような、優しい声。

 

ほら、今もその声が、私を呼んでくれている。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫…?」

 

「……わぁ」

 

目を開けると、そこには金色の瞳が鹿目まどかを覗いていた。

仰向けになっている鹿目まどかからは、金色の瞳と同じように、金色の綺麗な髪の毛が美しいカーテンの周りにかかっている。

整っている顔立ちと、少しばかりたれ目なためか、優しい雰囲気に拍車が掛かっているように思えた。

その姿に、鹿目まどかは思わず静かに声を上げ、見つめてしまう。

 

「えっと、大丈夫かしら?」

 

「わ、す、すみません…思わず…」

 

苦しげに寝ていた鹿目まどかに声をかけた巴マミは、数秒間見つめられ苦笑いをしてしまう。

それが伝わったのか、鹿目まどかは心配してくれていた巴マミに謝る。

 

 

「ふふ、その様子だと大丈夫そうね」

 

「なーにしてんのまどか」

 

「さ、さやかちゃん?」

 

巴マミはその様子に安心し顔を上げる。

そして、見つめ合う二人を後ろで見ていた美樹さやかは、呆れて鹿目まどかに声をかける。

声をかけられた鹿目まどかは、美樹さやかに目を移し名前を呼ぶ。

 

知り合いである美樹さやかの声を聞いた鹿目まどかは、落ち着きを取り戻し周りを見渡す。

綺麗に整理された部屋。

三角形状に作られたガラスの机の上には、ケーキとカップが三つ置かれていた。

美樹さやかは、その一つをほおばりながら鹿目まどかに話している。

 

先ほど顔を上げた巴マミは、鹿目まどかが起きたことを確認した後、時間が経ち冷めた紅茶を入れ直していた。

紅茶のいい香りがする。

先ほど寝ていた時に香ってきたものはこれだったのかもしれない。

香りに気づくと、先ほど感じていた柔らかな感覚を思い出す。

どうやらソファーに寝ていたようだ。

上から薄く柔らかい毛布がかけられている。

自分の状態から、丁寧に優しく寝かされていたことが分かる。

 

「まどかも起きたんならケーキ食べなよ。 マミさんの手作りなんだって」

 

「マミさん?」

 

 まだ状況の把握が済んでいないのに加えて、寝起きの頭を出来るだけ動かしながらも自分の身の回りを確認していた鹿目まどかは、美樹さやかが聞きなれない人物の名前を口に出していたことに気が付いた。

 

 美樹さやかと友人になってからの年月は少なくなく、美希さやかの親友を上げるとするならば鹿目まどかが真っ先に名が挙がると自称している。それだけ共に行動している時間は多く、鹿目まどか以外の知り合いがどれほど存在しているかなどはある程度把握しているつもりだ。そんな親友であろう鹿目まどかですら、マミという少女らしきの名前を指している人物は聞き覚えがあまりにもなく、慣れてもなかった。

 

 確かに、聞き覚えがなく聴き慣れてもいない名前ではあるが、それでも鹿目まどかの頭には自分の意志とは関係なくイメージが浮かんでしまう。それは、例え寝起きで動いていない頭であろうと誰を指しているのかは明白だった

 今ここに置かれている状況を、うろ覚えではあるが怖い思いをしてなすすべなく叫び声を上げる前に、意識を手放した自分を、ソファーに優しく寝かしてくれたこの状況を作り出したその少女がマミであり、先程鹿目まどかの顔を覗かせ、吸い込まれそうなほどに美しく輝く金色の瞳と、同じような色をした手入れの行き届いている髪の毛がその肩から優しく撫でるように流れている、母性を感じさせる微笑みを返してくれたあの少女の事を指していることであると。

 

 

 

 

 

 

「ケーキは口に合うかしら…?」

 

「はい、とっても美味しいです」

 

 台所から温め直した紅茶とケーキを鹿目まどかに渡したあと、巴マミは鹿目まどかが普段の落ち着きを取り戻すまで傍に座っていた。温かい紅茶と甘いもの、それに加えて見知った人物である美樹さやかが近くにいる事が功を奏しているのか、彼女の表情が見るからに和らいでいるのが感じられていた。

 

 早めに目が覚めていた美樹さやかも、先程不思議な現象に襲われた時の記憶が頭にこびりついていたのか、起きた時には落ち着きが無い様子ではあったが、今ではマミが用意していたケーキを美味しいと言いながら、緊張で強ばっていない心からの満面の笑顔でこちらに返してくれるほどには落ち着いていた。

 

 折角落ち着きを取り戻した彼女たちには酷な話かもしれないが、いや、そんな彼女たちだからこそ、その元凶である先ほどの不思議な現象について話さなければいけない。話す義務が、聞く義務が彼女たちを含め巴マミにもあった。

 いきなり本題について話し始めるのも良いのかもしれないが、ここは先ほどの現象についてのキーワードを会話に含ませ、それに気がついた彼女たちが聞いてくるのを待つべきか。そんな風に話すことは決まっているものの、自分の力不足で彼女たちが魔女の結界に巻き込まれるのを阻止できなかった挙句に、意識を強制的に遮断したことを思い、せめてもの気遣いを怠らずに考えていたのだが、そんなマミの思考とは他所にその白い生き物は突然現れる。

 

「やあ」

 

「ひゃ!」

 

「うわっ!」

 

「……」

 

 決して短い付き合いではない巴マミのことなどは気にしない様子で、その白い生き物、インキュベーターは三人の中心にある机の上にいつの間にか座っていた。あまりに唐突な登場でまどかとさやかは驚きの声を上げるのとは裏腹に、巴マミは自身の頭に軽い頭痛が襲っているように感じ、少しばかり下に俯きながら額に手を添えていた。

 

 二人を気遣うように考えていた話についても、インキュベーターの登場により強制的に今しなければいけない事になった。しかし、何故インキュベーターが今になって登場してきたのか疑問が残るところだろう。まどかとさやかの意識が戻ってからはある程度の時間は経っていた。もし、今みたいに唐突に現れるのであればまどかの意識が戻り次第現れれば良かったはずだ。

 

「(そうなることを予想して私が全て説明をするからキュゥべえには現れないように釘を刺したのだけど…やっぱり無駄だったみたいね、私が悩んでいると所を見通して現れた。それを分かってて…趣味の悪い)」

 

 キュゥべえに驚いている二人を他所に、巴マミは顔を下に俯いてながらも、その瞳はキュゥべえを力強く捉えていた。

 とにかく、まずはこの慌ただしい空気をどうにかしなければいけない。自分が思っている通りに物事が運ぶわけではないと切り替えながら巴マミは顔を上げ、急に現れた喋る白い生命体に驚いている彼女たちの意識をはっきりさせるべく、手を叩き大きな音を出すことで注目を自身に向けながらもこの空気を一瞬で切り替えさせた。

 

「はい、注目」

 

「あ、マ、マミさん」

 

「キュゥべえ、現れるなら私が本題を話している時に現れなさい。急に現れてもただ怖がらせるだけではないのかしら? ごめんなさい二人共、驚いたでしょうけどその子をよーく見てみて?」

 

 驚いている彼女たちはマミの言うとおりに先ほどの生命体に目を向けとあることに気づく。そう、見たことがある生き物だと。体毛は白く、瞳は赤く、耳らしき部分から同じ色をした触手のようなものが生えている生き物などこの世には存在しないはずだった。しかし、それでも彼女たちはその生き物に見覚えがあると気づく。

 

「も、もしかして私たちが助けた生き物…?」

 

「そうだよ、僕の名前はキュゥべえ。鹿目まどかに呼びかけて助けてもらった。そして、君たちにお願いしたいことがあるんだ」

 

「お、お願い…?」

 

「……」

 

「僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「駄目よ」

 

 まどかがここに運ばれ意識を取り戻したあと、何度も身の回りの空気や自分自身の気持ちが変わるような感覚があった。初めは不安。意識が闇の中に沈んでいたとき、なにかとても怖い目にあっていた気がして、内容はおぼろげではっきりとは覚えてなくても、そのことが頭にこびり着いていた。それが不安で、不安で、仕方が無かった。

 

 だけど、それをぬぐい去るように暖かい光が体を包んでくれた。まどかはその心地よく感じる光に安心した。闇からまどかだけをすくい上げるように、誰かが助けてくれたのだと。そして、目が覚めるとその光を放っていたであろう少女が、心配そうな表情をしながらこちらを覗き込んでいた。同性なはずなのに、その整った顔付きや雰囲気などに目を奪われ思わず見惚れてしまいながらも、その後体に掛かっていた柔らかい掛け布団やソファーを見て、倒れていた自分の身の回りを守ってくれたのだろうと無意識に分かって、心の中に感謝の気持ちが広がっていた。

 

 まどかがの無事がわかると、マミは微笑みを返してくれた。出会って数秒、いや、目が覚めて数秒。それも唐突な顔合わせで、相手にはそんなつもりはないのかもしれないけれど、まどかにはその微笑みに慈愛のような、母性のような、何かしらの不安に怯えている少女を優しく抱きしめるように暖かい、そんな気分にさせてくれる気持ちになっていた。

 

 それからは、まどかが落ち着きを取り戻すまで時間はかからなかった。マミがそばについてくれて、見知った親友が無邪気な笑顔をしていて、そんな空間に自然と馴染んでいき、安らぎを覚えていた。

 不安な気持ちになることはなかった。まどかは出会って数分の彼女と共に、暖かいカップを片手に花が咲き始めるうら若き少女たちはゆっくりとお茶会を楽しんでいた。

 

 しかし、そんな雰囲気が過去のものかのように、光の速さでその暖かい空気がおいていかれるような気がした。それほどの一瞬の出来事だった。

 重く、冷たく、苦しい。まどかの隣から感じられるその少女からは、先程まで感じていた慈悲深い愛のようなものは、母性のようなものは無く、まるで氷水で冷やされた手で心臓を掴まれているような、そんな錯覚にも陥ってしまうほどに緊張感が漂っていた。

 

「……はっ……はっ……!」

 

 呼吸をやめまいと弱々しくも息を吸い込むが、体が震え上手く落ち着かせることができない。心臓の鼓動がまどかの中でうるさく響き渡ってる。それとは他に、カチカチとどこからか小さく硬いものがぶつかり合う音が聞こえてくる。音の方向は目の端で捉えることができたから直ぐに分かった。さやかの歯がぶつかり合っていた音だった。下を俯き、手を強く握り自分を押さえ込んでいた。怖いのは自分だけではなく、さやかも同じように体を震わせていた。

 

 まどかはただキュゥべえと名乗った生き物を見つめていた。そうしなければ、視線をさやかが座っている方向とは逆に少しでも動かしてしまえば、この空気を作り出しているであろう彼女を見てしまいそうになったから。あんなにも優しく接してくれた彼女が、キュゥべえが口にした魔法少女の言葉でここまで豹変したのが信じられなくて、信じたくなくて唯々キュゥべえを見つめることしかできなかった。

 

 時間はそれほど経ってはいないし、キュゥべえはまどかを見つめ返すだけで契約に関して口を開くことはしてなかった。いや、口を開くことを許していないのだ。この空間を支配している彼女が、これ以上にないほど感じている空気が物語っていた。

 

 しかし、体を震わせて身を守ることしかできないほど、考える事を放棄しなければ耐えられないほど張り詰めた空気は、まるでリボンの紐を解くように徐々に消えていった。先程までの出来事がまるで嘘のように消え失せ、何事もない空気に戻ってはいたが、体の震えが止まっていないことが先程までの出来事は現実に起きたことなのだと深く刻まれていた。

 

 そんなまどかの肩に手を添え、背中から腰にかけて撫でるように徐々に滑らせていき優しく包容するものがいた。突然のことに体は強く拒否反応を起こし震え上げるも、その手は優しくまどかを撫で、耳元に囁いた。

 

「ごめんなさい、キュゥべえだけじゃなくて、私まであなたたちを驚かせてしまって」

 

「あ…あっ……マ…マミ…さん」

 

「ごめんなさい…貴女を守るはずなのに、怖がらせてしまって…さあ、目を開けて…?」

 

「あう……うぅ……」

 

 まどかから体が離れていき、両頬に手が添えられる。緊張から身が解かれ、思わず涙がこぼれ落ち、その涙で濡らしたまぶたを開きたくはなかった。

 もし、開いた先にいる彼女を見て、この感情が、先程まで感じていた温かい感情が壊れてしまうのが怖かったから。私たちを助けてくれた彼女が、全く違うものに見えてしまうことが怖かった。怖くて怖くて、仕方が無かった。

 

「大丈夫…大丈夫よ。私は巴マミ、貴女の味方…」

 

「マ…マミ…さん」

 

 まぶたを開く。固く閉ざされていたはずのまぶたは、ゆっくりと開き始める。その先には、まどかが思うような景色は広がってはいなかった。

 

「鹿目さん…もう、貴女を怖い目に合わす事はしないわ…こんな私を、受け入れてくれるかしら…?」

 

「マミさん……」

 

 吸い込まれそうなほどにその輝く瞳は、まどかが初めに見た時と同じものだった。闇からすくい上げてくれた、慈悲深い愛がその手から感じられるような気がした。まどかに許しを請う、少し困ったような表情で微笑んでいたマミは様になっており、先程までの不安を取り除いてくれた。

 

だから、まどかは答えてしまう。

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 

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