強く気高く孤高のマミさん【完結】   作:ss書くマン

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33話 お久しぶりね

 

 

 

 

 夕方と言うには少し暗くなりつつある、夜の初め頃。恭介の様子を見に行っていたさやかはその帰りに、マミから集まるように言われていた場所に足を運ぼうとしていた。

 さやかには、呼ばれた理由は分かり切っている。魔法少女になったばかりのさやかを指南するために呼んでいるのだと察していた。

 

 これから生きるか死ぬかの戦いに、絶望を振りまく正真正銘の化け物たちと戦い続ける世界へ、本格的に踏み込み始める。しかし、さやかに不安は無いでいた。

 心の底から憧れて、親愛にも似ている感情を抱いている巴マミが、いつも側にいてくれている。それだけで、さやかの不安なんてものは消し飛んでいた。

 

「さてと、そろそろ行きますかな……ん?」

 

 公園に向かおうと病院の自動ドアを開いたのだが、そこには、居るはずのない人物が目に入り足を止める。

 

「さやかちゃん……」

 

「あれ、まどか。どうしたのこんな所で?」

 

 扉を開けた先には、さやかの事を待っていたであろう、不安そうな表情をしているまどかの姿があった。

 さやかは小走りでまどかのもとに駆け寄ると、それを向かい入れるようにまどかは抱き着いていた。

 

「おわっ……まどか、どうしたの?」

 

「さやかちゃん……あのね、私、何も出来ないし、足手まといにしかならないって分かってる。でも、お願い。邪魔にならない所までで良いの。行ける所まで一緒につれてって貰えたらって……」

 

「ありゃりゃ」

 

 さやかの胸に抱き着きながら、涙交じりにお願いを申し出ていたまどかを見て困った表情をして、泣いているまどかの背中を落ち着かせるように擦る事しか出来なかった。

 

「まどかは泣き虫になっちゃったね。って、その原因の一人が言っちゃ駄目か」

 

「ごめん……駄目だよね、迷惑だってのは分かってたの。でもあたし、さやかちゃんの事が心配で……」

 

 魔法少女になって以来、さやかの事を心配し続けていたまどかの気持ちは、その対象であるさやかにも痛いほど伝わっていた。

 迷惑になると言っているが、魔法少女の戦いに付いて行く事は、まどか自身にも命の危険が伴う行為である。それは、マミの死ぬ姿を脳裏に刻みつけたまどかが言うには、本当に勇気がいる事だ。

 

 たとえ付いていく事を許可して、まどかに使い魔が襲いかかろうとしたら、それこそ死ぬ気で阻止する事は、たとえ親友ではなくてもさやかにとっては当たり前だ。

 だが、それだけ身を挺しても、自分自身を心配してくれているまどかには、感謝してもしきれなかった。

 

「駄目なんかじゃないよ、すっごく嬉しい。でも____」

 

 だが、さやか一人で魔法少女の活動をする訳ではない。さやかの側にはマミが居る事もあり、素直に付いて来て欲しいとは言えないでいた。

 それでもまどかは、何度もお願いをして付いて行かせて欲しいと頼み込もうとしていた。

 

「お願いだよさやかちゃん……マミさんにもお願いする、だから、私も連れて行って欲しいんだよ」

 

「(うーん、どうしたもんだろうか)」

 

 まどかのお願いを無下には出来ない。しかし、マミが付いて行かせる事を了承するとは思えないでいた。

 

 さやかがマミに対して、魔女退治に付いて行かせて欲しいと頼み込んだときも、相当無茶を言って許可を貰っていた。さやかの覚悟が伝わったというのもあるが、それをした結果、魔法少女になる事を決断付ける原因にもなったのだ。

 そして、さやかを魔法少女にさせてしまった事を、マミは酷く後悔していた。だからこそ、その二の舞にならないように、まどかを連れて行くのは反対するに決まっているだろう。

 

 さやかはあの時の出来事を思い出しながら、頭を悩ませていたが、やはり親友の頼みは断れないと思うように、体の力を抜きながらまどかへ答えていた。

 

「分かった。取り敢えず、一緒に言ってみようか。断られたらそのときはその時。一度言ってみても問題は無いんじゃないかな」

 

「ほ、本当! ありがとうさやかちゃん!」

 

「お礼するのはまだ早いんじゃない? 結局、あたしはマミさんの指示に従うだけだからね」

 

「それでもありがとう、さやかちゃん……」

 

「よーしよしよし、甘えん坊さんめ」

 

 さやかの表情を伺いながら話していたまどかは、取り敢えず了承してくれた事にお礼を言い、再びさやかの胸に抱き着いていた。

 そして、さやかと共にマミの居る場所へ向かうように、抱き着くのを止めてさやかの腕を組み始めていた。

 

 前まではこんなにも抱き着いてくる子では無かったと思いながらも、自分も含んだ人たちのせいで色々追い込まれているのだろうと考えながら、さやかはまどかの腕をそのままにして、止めていた足を歩き出していた。

 

 

 

 

「あら、さやかさん。お人形さんみたいに可愛い子を連れているわね」

 

「そうでしょう? あたしの大切なお嫁さんですから、そりゃあもう可愛くて可愛くて、可愛すぎて肌身離さずってな訳ですよ」

 

「マミさん……」

 

 まどかと腕を組んだまま、マミの下に現れたさやかは、まるでくっ付いている事が当たり前だというように、笑いながら話していたのだが、その反面まどかの表情はやはり不安そうであった。

 

「それは仕方がないわね……なんて、言うと思っているのかしら?」

 

「ありゃー、お人形作戦は失敗ですか」

 

 さやかの茶番に付き合うようにマミは笑っていたが、その目つきは徐々に変わり、まるで悪戯をする子供に叱るような声を飛ばし始めた。

 流石に無理があったかと言うように、さやかは目線をそらしながら頬をかいていたのだが、腕に引っ付いていたまどかは離れて行き、マミの前に一歩踏み出していた。

 

「マミさん! わ、私もさやかちゃんに付いて行かせてほしいんです! 魔法少女でもない私が付いていっても何も役に立ちません! でも、さやかちゃんの側に私はいたいんです! だから、お願いします!」

 

「まどか……」

 

 今までにないほど、まどかの声には譲りたくはないと言う意思と勇気が満ちていた。

 それもそのはずであり、マミから受けたプレッシャーを忘れてはいないのは、さやかが覚えていたようにまどかも同様であった。

 つまり、まどかはマミに対して、真正面からぶつかりに行っている最中なのだ。それがどれだけの勇気が必要なのかは、隣で見ていたさやかには十二分に伝わっていた。

 

 だからこそ、そんな親友の姿を見ていたさやかは、黙っていられるほどお人好しではない性格を、持ち合わせてはいなかった。

 

「ねぇ、マミさん。私からもお願い出来ないかな。無茶を言ってるのは分かってる。マミさんが断らないと行けない立場だってのも知っている。だけど、あたしもまどかと一緒に居る時間が欲しいんだ」

 

「さ、さやかちゃん……っ!」

 

 マミの指示に従うと言っていたのにも関わらず、説得を手伝おうとしているさやかの声を聞いたまどかは、嬉しそうに顔を崩していた。

 

 二人の真剣な眼差しがマミを見ている。お願いを聞いているだけで、微動だに喋らないでいたマミは、その答えを出すようにゆっくりと口を開いた。

 

「良いわよ」

 

 あたりの空気が静まり返った。

 

「……へっ!?」

 

「えっと……今なんて言いました?」

 

「だから、良いわよ」

 

 まさかの言葉に、頼み込んでいた二人は信じられないと言った表情をしている。絶対に断られるだろうと身構えていたのに、長時間悩むような事もせずにYESと答えられ、二人は素っ頓狂中を隠そうとせずに拍子抜けをしていた。

 まるで綱引きをしている最中に、向かい側が急に力を緩めて来て、思わず転けてしまうような感覚になり、本当に付いて行っても良いと言ったのか何度も聞き返してしまった。

 

「あ、あはは。いやいやいや……本当に良いんですか?」

 

「え、あれ? わ、私、聞き間違いかな」

 

「分かった、それじゃあ駄目に変更するわね。行きましょうさやかさん」

 

「あ! すみません付いて行かせてくださいお願いします!」

 

 折角了承を下しているというのに、何度も聞き返してくる二人があまりにもしつこいと思ったのか、その要望通りにお断りへと変更しようとすると、まどかが急いで止めに入っていた。

 

 そんな中、さやかは質問があるというように手を挙げる。

 

「あのー、マミさん。一応聞きたいんですけど、どうして了承してくれたんですか? はっきり言って断られるかと……」

 

 さやかだけではなく、まどかにも同様の疑問が心の中にあった。

 なにか理由がない限り、付いていく事を了承するはずがない。そう思ったさやかは、何を考えてその答えを出したのかが気になっていた。

 

「さやかさんが魔女から人を護るという事を覚えてほしいから、かしら。私の偽物を使っても良いのだけど、偽物だと油断しそうだし。何よりまどかさんのお願いを……さやかさんと一緒に居たいって気持ちを、私が断るのは少し違うかなって」

 

「マ、マミさん……!」

 

「いざとなったら私が護る。それはあたり前の事だけど、今度こそさやかさんのように、魔法少女にさせたくないって想いが私の中にはあるから、私もまどかさんの側にいたいって言うのも、理由に含まれているかしらね」

 

「あ、あはは……すみません」

 

「あ、別に責めている訳では無いのよ。私が魔法をもっと研究出来ていれば、さやかさんを魔法少女にさせる事は無かった。私も悪いのよ……って、この話はもう終わっているのだから、本当に気にしないの。ね?」

 

 取り敢えず、まどかは魔女退治に____もとい、さやかの特訓に連れて行っても良いと言う許可を貰えた事に、喜びながらさやかに抱き着いていた。

 さやかもまどかのお願いがあっさりと通った事に嬉しく思っていたが、先程マミが言った通り、まどかは自分が護らなければいけない。そう胸に刻みこみ意識をすると、喜ぶだけでは終わってはいけないと、切り替えるようにマミを見て頷いていた。

 

「さ、行きましょう。一言入れているにしても、遅くに帰ったらご家族が心配しちゃうわ。さやかさんは前科持ちなのだから、特に気を付けないとね」

 

「いやー、流石に2日連続でマミさんの家に泊まるのは迷惑ですからね。ちゃんと行ってきますって言いましたよ」

 

 まどかを連れて行く方針が決まった所で、深夜までには必ず帰らなければならないと言うように歩き出した。

 それを追いかけるように、まどかはさやかの腕を組みながら、さやかはマミに言われた前科の事を思い出しながら笑って歩いていた。

 

「さやかちゃん、マミさんのお家に泊まってたの? 良いなぁ……ねぇマミさん、私もお泊まりしに行って良いですか?」

 

「ええ、もちろん歓迎するわ。その時は、そうね……紅茶の淹れ方を教えてあげるから、まどかさんのご家族に、日頃の労りとして淹れてあげるのはどうかしら?」

 

「わぁ! それとっても素敵です! 私もマミさんみたいに美味しい紅茶を淹れてみたいです!」

 

「あ、それあたしも覚えたい! ねぇねぇ良いですよね! あたしもマミさんに教えてもらいたいです!」

 

「ふふっ、良いわよ。皆で淹れた紅茶をいただきながら、パジャマパーティーなんて悪くないわね」

 

 空にはまだ赤色を残している夜の初め頃だとは言え、女子中学生が歩くには危険な薄暗い道を通ろうとしている。だが、そんな心配など無縁そうに、姦しいという言葉が似合うように喋り歩いていた。

 

 

 

 

 薄暗く電灯が届かない、如何にも何かが出て来そうな道を歩き続けて数分。魔法少女の衣装に身を包んではいないが、さやかはマミに教えられた通りに、魔力を利用して魔女や使い魔を探知しようと試みていた。

 しかし、さやかが思っていたよりも上手くいかず、頭を悩ませながらマミへと助け舟を要求していた。

 

「う、うーん……マミさんヘルプミー!」

 

「最初に言ったとおり、私達の中には魔力があるの。それは手品でも何でも無い、本当に実在するもの。固定観念を捨てて、自分自身の魔力を感じて、それを広げる意識を持つ……まぁ、口では言っても難しいでしょうね」

 

「体を強化する感覚だったり、武器や衣装はポンポン作れたりはするんですけど、魔力を広げるって意識がどうも……」

 

 そう言いながらさやかは魔法少女に変身し、自分の武器だと言うように、刀のような一本のサーベルを作り出していた。

 日本人であるさやかが意識しやすいようになのか、刃が付いていない部分は黒く染め上げられ、身幅は一般的なサーベルよりも太く作られていた。

 サーベルや刀と言った武器が混ざりあったような、魔法少女らしい不思議な武器ではあったが、マミがマスケット銃を何本も生成しているのと同様に、さやかの武器も自由自在に増やす事が出来ると言いながら、何本も作ったり消したりを繰り返していた。

 

「……ん?」

 

 すると、何処からか強い視線が向けられているような感覚に気づく。さやかは視線が感じる方に向きを変えると、そこには目を輝かせながらさやかを見ているまどかの姿があった。

「さ、さやかちゃんの魔法少女衣装……可愛い! かっこいい!」

 

「ふっふーん、どうよどうよ? ……って、まどかは一回見たでしょうが」

 

 衣装を披露するように、その場で一回転をしたさやかを見て、まどかは顔を近づけながら鼻息を荒くしている。しかし、衣装を見るのは初めてでは無いだろうと、さやかは仁美が襲われていた時の事を思い返していた。

 

「そうだけど、あのときはさやかちゃんの衣装をまじまじと見れる状態じゃなかったもん。魔法少女の衣装さやかちゃん、可愛いなぁ……」

 

「うーん、悪い気はしない。寧ろまどかの視線が気持ち良くてどうにかなっちゃいそう」

 

 まどかから向けられる目線に、さやかはゾクゾクとした感覚を覚え、自分を自分で抱きしめるように腕を回しながら体を動かしていた。

 そんな様子を見ていたマミは、手の平同士を軽く叩き、意識を切り替えさせるように大きな音を出していた。

 

「こーら、集中集中。取り敢えず、魔女までは私が案内します。それまで、私の魔力をさやかさんに纏わせるから、他人の魔力を感じられる意識を持てるようにしていきましょう」

 

「了解です!」

 

 さやかに魔力を纏わせ始めたマミは先頭に立ち、探知して把握している使い魔や魔女へと歩き始めて行った。

 その間に、さやかは言われた通りにマミの魔力を感じようとするのだが、やはり上手く行かず音を上げるように声を出していた。

 

「コ、コツみたいなのとか無いんですかね?」

 

 コツと聞かれたマミは顎に手をやりながら考える。

 杏子は元々素質を持っていたり、魔法少女として活動していた期間がある程度あった。だからこそ、教えるのにそこまで苦労は無かったのだが、後ろにいる少女は魔法少女に生まれ変わったばかりで、知識も経験も全く無いに等しい。その割には、相手が精神に訴えかけてくる後方支援型とは言え、初戦で魔女と戦い、真正面から打ち勝っているのだから、中々良い魔法少女になるのかもしれないと思っていた。

 

 話を戻して、マミはコツをどうしたら良いのかを考えると、まずは自分の魔力を感じる事を前提にしなくてはならないと思い、それに関しての助言を言い渡した。

 

「さやかさんの武器や衣装は、一体何で出来ていると思う?」

 

「私の武器と衣装ですか? それは勿論、あたしの魔力で出来ていると思うんですけど……」

 

「そうね、それは私も同じ事で、私の武器や衣装も魔力で出来ているの。だから、まずは貴女自身の魔力を把握する事が大切だと思うわ。さやかさんの魔力を、さやかさん自身が確りと感じてあげたら、自然と私の魔力を感じる準備が出来ていると思うの。だから、まずはさやかさんの魔力を具体的に感じられるようにしましょう」

 

「私の魔力……」

 

 そう言いながら、さやかの手にはサーベルを出現させたり消したりを繰り返していた。

 そうする事で、どの様に自分の中にある魔力が流れて、こんなにも大きな物質を作り出しているのかを、愚直に感じようとしていたのだろう。それはマミの助言を聞き、さやからしく噛み砕いて消化しようとしている証拠だと、マミはそう思いながら微笑んでいた。

 

 しばらく薄暗い路地裏を歩き続けていると、現実ではありえないようなグロテスクな空間が、マミたちの目の前に現れていた。

 

「さ、ここに使い魔がいるみたいだから、さやかさんが頑張って倒しましょう。魔力の感知の方はどうかしら?」

 

 サーベルを胸に構えて集中するように静かにしていたさやかは、マミの質問に答えるように、ゆっくりと口を開き始めた。

 

「何となく、ですけど……私の魔力がどんなものなのか分かってきて、それを操ろうと努力している最中です」

 

「さやかさんは魔法少女に生まれたばかりだから、ゆっくりで良いのよ____と、言いたい所だけど、魔女や使い魔はさやかさんの成長を待ってくれるほどお人好しでは無いわ。一人でも多く護るためには、一分一秒でも強くならなければならない。それを忘れないでね」

 

「はい!」

 

「それじゃあ入りましょう。それと、まどかさんは必ずさやかさんが護ってあげるのよ」

 

「勿論です! まどか、あたしが絶対に護ってあげるから、安心してね」

 

「うん! さやかちゃんがいてくれるなら、怖くないよ!」

 

 異様な空間に足を踏み入れ始める三人。魔女の結界と違い、使い魔の結界は小さく、すぐ目の前に使い魔らしき物影が映っていた。

 

「使い魔発見! 早速あたし戦ってきます!」

 

 そう言いながら、マミが複数のマスケット銃を生成している様に、複数のサーベルを地面へ突き刺し、それを銃弾のように見立て、空中にいる使い魔に向けて投擲しようとしていた。

 だが、投擲するための腕が、誰かに掴まえられるように止められてしまう。何事かと思いながらさやかは振り向くと、マミの手がさやかの腕を止めていたのだった。

 

「マ、マミさん? どうしたんですか?」

 

「空中にいる相手に向けて剣を投げる。それはとってもいい考えだと思うわよ。だけど、さやかさんのようなタイプは遠距離技を伸ばしていくよりも、まずは素直に攻めて得意な分野を伸ばしていきましょう」

 

「あたしが魔女を倒した時みたいに、突撃しても良いって事ですか? だけど、今はまどかが居るから……」

 

「攻撃は最大の防御。あなたの足の速さを生かして、先手必勝で意識の外にいる状態の敵を叩き切る。まどかさんも傷つかずに、使い魔を倒せる。大丈夫よ、さやかさんなら出来る……それとも、私の助けがいるかしら?」

 

「……そんな事を言われたら、さやかちゃんも頑張っちゃいますよ!」

 

 ウィンクをするように片目を閉じながら、さやかに発破をかけるように煽りを入れると、それに反応を隠さないようにさやかは頬を叩き、足に魔法を流し始める。サーベルや魔法少女の衣装と同じく、さやかが元々使えていた魔法。それは、初めて魔女を倒したときにも使用していた、さやかの瞬発力などの速度を上昇させる、自己強化の魔法であった。

 

「よし……攻撃は___最大の防御っ!!」

 

 マミに言われた事を意識した掛け声と共に、さやかの足が付いていた地面には青色の魔法陣が現れる。その瞬間、さやかは爆ぜるように、一本の青い線を描くように飛び出し、居合斬りの要領で腰の鞘へ収めていたサーベルを構えながら、使い魔へと一直線に向かって行った。

 

 曲がる事などは一切していない。マミに言われていた通りに、何も考えず素直に切り伏せようと、さやかは全力で突進して行く。すると、空中に居た使い魔は、近づいてくるさやかに気付き振り向き始めてはいたが、その反応を許す暇も、抵抗をさせる事もせずに、さやかは鞘に収めていたサーベルをシュッと、風を切る音を立てて抜き取り、使い魔を通り過ぎて行った。

 

 そのまま勢いに任せて空中に流れていたさやかは、自己強化の魔力が無くなった事を示すように失速していく。重力に従い地面へ着地をし終える前には、抜き取っていたサーベルを腰の鞘へと収め終わっていた。

 魔法で作られた金属らしき物質がぶつかり、カチャンと音がなる。その音と同時に、空中に居た使い魔は綺麗に真っ二つに割れ始め、結界が静かに崩れていった。

 

「ふぃいい……」

 

 結界が崩れる事を確認したさやかは、体に入れていた力を抜くように息を吐くと、そのまま片膝を地面に突きながら息を整えていた。

 深呼吸をしているさやかに、遠くから見ていた二人が駆け寄ってくる足音が聞こえる。その音に振り向くと、マミが手を叩きながらさやかを褒めていた。

 

「うん、良い感じだったわよ。生まれたばかりの魔法少女にしては、中々のものだったわ」

 

「えへへ、そう思いますか? あたしも、なんだかしっくり来る感じがあったんです。魔女を倒したときは無我夢中だったんですけど、意識をしながら戦ってたら、何だか予想以上に上手く行っちゃって」

 

「さやかさんはあれこれ手を伸ばして行くよりも、自分の分野を押し付けて、無理やり土俵に入れて戦っていきましょう。その後、私が搦手を教えてあげるから、まずは素直にね?」

 

「了解です!」

 

 そう言いながら、マミは魔法少女の姿に変身し、ビルの上に飛び乗っていく。さやかもその後を追っていくように、まどかを抱きかかえながら、マミに付いていったのだった。

 

 しばらくの間、マミが魔女や使い魔を見つけて、その使い魔達をさやかに戦わせる状態が続いていた。

 見滝原市内に隠れている魔力を持った使い魔などは、マミの掌上(しょうじょう)に居るも同然だったので、さやかが倒すごとにマミは次の相手を見つけるというサイクルが連続で行われていた。

 休憩を挟む時間は少なく、あるとしてもさやかのソウルジェムが濁った時に、マミが持っていたグリーフシードを渡すぐらいの時しか無かった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「さやかちゃん……」

 

「休憩を取る時間は無いわよ」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! さやかちゃんに少しだけ休憩させて上げませんか?」

 

 息を荒げているさやかの様子を見ていたマミは、それでも休憩を挟む事をせずに次へ行こうとしていた。

 しかし、それを見ていたまどかは、オーバーワーク気味に動き続ける状況を見過ごす事が出来ず、マミに向けて口を挟んでいた。

 だが、肝心のさやかはまどかの肩に手を置き、口を挟まないでと言うように、首を横に振っていた。

 

「ど、どうして、さやかちゃんだって大変____」

 

「大変なのは、承知の上……マミさんに、無理を言って、あたしは魔法少女になった……それに、これには意味があると思う……そうでしょう? マミさん」

 

 激しく呼吸をしながら喋っているせいで、喋りが絶え絶えになりながら、不安げなまどかを宥めるように、さやかは声をかけながらマミを見ていた。

 そして、まどかの心配している気持ちやさやかの視線に答えるように、マミは答えていた。

 

「多分、見滝原に居る魔法少女には時間がないの。確証は持ってないけど、それまでにはさやかさんを強くさせたい。大変な事をさせているのは理解しているわ。だけど、その為に私がさやかさんの側にいてあげているの。だから、さやかさんには付いて来て欲しいと思っているわ」

 

「へへっ、大丈夫ですよマミさん! あたしなら全然平気です!」

 

「ありがとう、さやかさん……それじゃあ行きましょう」

 

 マミは何も言わずに付いて来てくれる事にお礼を言いながら、さやかに背中を見せて次の場所へと飛び立とうとする。しかし、その足は飛ぶ事を止めるように止まり、咄嗟に何かを感じたと言うように瞼を閉じながら、静かに空を見上げていた。

 

「どうしました、マミさん?」

 

 今まで見せていなかった急な反応に、さやかは空を見上げ続けているマミに声を掛ける。しかし、マミはさやかの声を無視して、まるで昔に聴いていた音楽を久々に耳に入れて懐かしむかのように、少しばかり頬を上げて笑っていた。

 そして、さやかに背中を向けてはいながらも、空に仰いでいだ顔だけをそのままさやかに回すようにして、口を開いていた。

 

「ふふっ……美樹さん、少しだけ寄り道して行きましょうか。あなたに会わせたい人がいるのよ」

 

「会わせたい人……ですか?」

 

 突然の申し出に、さやかは困惑を隠せないように聞き返していた。

 それもそのはずで、さやかにはマミから紹介されるような人物など想像が出来ないでいたからだ。

 夜の初め頃だった赤色を含んだ夜空は、すっかり赤みが抜けた夜空へと変わり、街の光で辺りが明るく輝いている。そんな時間帯に会わせたい人がいると言われても、答えようがないでいた。

 

「ええ、あなたにとってもぴったりな女の子……私が最初に仕込んでいた、愛弟子の魔法少女にね」

 

 

 

 

 

 

 

 風見野にいた二人は教会から移動して、見滝原市に向かうバスに乗り数十分揺られていた。

 しかし、見滝原に入る前には下車しており、そこから歩いて更に数十分が経とうとしていた。

 

 教会で話し込んでいた事もあり、夕焼け空はすっかり夜空に変わり、女子中学生が二人で出歩くのは少しばかり危なくなってくる時間帯ではあった。しかし、杏子達はそのまま何もないように歩き続けていたのだが、見滝原市に入ろうとしたその時、先頭を歩いていた杏子がふと立ち止まっていた。

 

「どうしたの?」

 

「ん……」

 

 そこには何もないはずなのに、まるで目の前には大きな壁があるように下から上へと視線を動かしていた。

 それを見ていたほむらは、とある事を思い出すようにハッとして、杏子に喋りかけた。

 

「ここから、マミの魔力が満ちているのね?」

 

 そう聞かれた杏子は、ほむらの顔を見返す事をせずに小さくうなずいた。

 

「ここから一歩でも踏み入れれば、あたしが見滝原に入ってきた事がすぐにバレる。なまじ感知能力を鍛えられてるせいで、マミの魔力が満たされている空間が、壁のようになって見えるんだ。それに、まるで全方向から視線を受けているかのように肌に刺さる雰囲気……頭では分かってるが、やっぱり……な」

 

 緊張しているのか、何度も深呼吸をし続ける杏子。それを近くで見ていたほむらは、見滝原でいつも視線を感じていたあの時の感覚を思い出していた。

 

 落ち着かせるように瞳を閉じていた杏子は、意を決したように見開き、ほむらに声をかける。

 

「よし……入るぞ」

 

「本当に良いのね?」

 

「何れ衝突は起きたんだ。マミから逃げる事は出来ないし、あたしも逃げ出す気はない。それに、今じゃ無ければ駄目だ。ほむらと言う特異点(イレギュラー)が居る今だからこそ、見滝原で何かが変わり、さやかを助ける事が出来るかもしれない」

 

 ほむらの瞳を見つめながら、杏子は力強く構えていた。

 特異点(イレギュラー)。この時代のキュゥべえと契約をしておらず、何度も時間を逆行し続けていた、魔法少女にとって異端中の異端である人物。そんな者が存在している今だからこそ、マミに対面する絶好の機会だと言った。

 

 杏子は右足を上げる。最早、その足を誰にも止める事は出来ない。

 マミの魔力が満ちている水面に、杏子のつま先が触れ、その爪先から徐々に飲み込むかのように、つま先から足へ。足から体へ。体は全身へと受け入れていった。

 

「っち、全身にマミの魔力が纏わり付いてきやがる」

 

「場所は分かっているの?」

 

 そう言いながら、体に付いているホコリを払うかのように、手の平を使い払う動作をしていた。

 魔力をあまり感じる事が出来ないほむらは、一体どんな感覚なのだろうと思いながらも、鬱陶しそうにしている杏子に向けて、さやか達が何処に居るのかを尋ねていた。

 

「あぁ、お誂え向きにマミの魔力とさやかっぽい魔力が移動している……こっちに気づいたみたいだな、あいつらから向かって来るみたいだぜ。と言っても、ここからじゃ距離がある。あたしたちも向かうか」

 

「分かったわ。先導して頂戴」

 

 杏子の表情が険しいものになり、赤色に輝いているソウルジェムに魔力を流し込み、魔法少女に変身していた。

 同時にほむらも紫色の魔力を流し、魔法少女に変身した姿を確認すると、杏子はその場から飛び出し、魔法少女だからこその脚力でマミたちの下に向かっていった。

 

 時間はそうかからない。距離があると言っても、車以上の速度を出せる魔法少女同士が向かい合おうとしていたのだ。

 そして、走り続ける事数十秒。ほむらは強化した視力で、向かい側の空中を眺めていると、明らかにこちらへと向かってくる人影が現れ始めていた。

 それを確認したのはほむらだけではなく、姿だけには留まらず魔力自体も感知する事が出来る杏子も同様だった。

 対面する瞬間に、血のように赤い魔力を体に纏わせる杏子は、その腕に自身の獲物で多節棍の槍を出現させていた。

 

「来るぞ」

 

 杏子はほむらに待ったをかけて、その近くにあるビルの上に着地をする。そして、杏子たちが会おうとしている、目的の人物が目の前に現れた。

 

「佐倉さん! お久しぶりね!」

 

 杏子達が居たビルから少し離れていた場所に、月明かりをスポットライトのようにその身に光を浴びながら、黄色に輝くマミが姿を現した。

 久しぶりの再会に懐かしむかのように、喜びが含まれるような甲高い声を杏子にかけながら、しっとりとした視線で見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

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