強く気高く孤高のマミさん【完結】   作:ss書くマン

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35話 貴女に一度会ってみたい

 

 

 

 

 杏子とマミが衝突を起こして数日。さやかは現在、学校の机に顔を伏せてとある事を考えていた。

 佐倉杏子。さやかを護ると言った魔法少女。彼女の存在はさやかの中で大きな疑問を残し立ち去ったからだ。

 

 数日の間、マミに特訓を見てもらいながら杏子の事を聞いていた。しかし、聞けば聞くほど杏子のことが気になってしまい、ふとした拍子に何度もため息を吐いてしまっていた。

 

 敬愛や、それ以上の感情を抱いてしまっている先輩であり、魔法少女としての強さも高い位置にいるマミが、あそこまで追い詰められる姿を見てしまったのは、今でも思い返せば衝撃が走りさやかの頭から離れなかった。

 あのマミにあそこまで肉薄する魔法少女。世界中を探せばもちろん居るだろうが、自分と同じぐらいの歳であり、まさか隣街という身近な場所にいるとは思いもしなかった。

 

 追い詰められていた姿も衝撃的ではあったが、さやかにとってはそれだけには留まらず疑問に感じたことがあった。

 衝突していた少女____杏子はマミの愛弟子。つまり、魔法少女を殺しているマミが、自分のような存在を作るために育て上げた存在。魔法少女を殺しているマミに弟子などはいないだろうと思っていたので、突然弟子に会わせてあげると言われたときは、想像が出来なかった。

 しかし、杏子の顔はいつまでも頭にこびりついている。初めて見た時に感じられた雰囲気。目の前にいる少女は、マミと同じ魔法少女だと直感で理解した。

 

 後ろに束ねられた赤い髪の毛。夜空には際立って見えていた真紅の佇まい。燃えたぎるような魔力。完全に目を奪われてしまったあの瞬間。そして、なぜか自分に対して異様なこだわりを見せる口調。どれもこれも、さやかにとっては気になることばかりであった。

 

「はぁ……」

 

 杏子の事を考えるたびに、何度も不意にため息が漏れてしまう。マミから杏子のことを聞いたとは言え、詳しい内容などは教えてもらう事は出来なかった。

 曰く、会いに行くのだったらその時に直接聞けば良いと言われてしまい、さやかもそれ以上聞くような真似はできずに居た。

 人の過去をむやみに口外しない、杏子への配慮だったのだろうか。それとも、本当に会いに行くと分かっているから言ったのか。

 要は聞けるには聞けたが、さやかが気になっている詳しいことは聞けずじまいに終わり、疑問を消化しきれずモヤモヤとしたフラストレーションが溜まっている状態だった。

 

 教えてもらったのは、二人がどのような出会いで始まり、どのように過ごして来たか。本当に日常的な話の内容しか教えてもらうことは出来なかった。

 だが、その中でマミはこう言った。たまたま杏子と出会い、師匠にして欲しいと言われ、徹底的に教え込んだ魔法少女だと。

 そう、徹底的と言った。

 さやかも教えて貰っている魔女や使い魔の見つけ方に始まり、魔力の流し方。それ以外にも、マミが今まで積み重ねてきた全ての技術を教えれるだけ押し込んだと言った。

 それは、魔法少女の殺し方も教えたと言う意味だった。

 

 最終的にはとある事件を切っ掛けに、マミの掲げる正義には賛同出来なくなり、今のように決別して元の場所を中心に活動している。さやかには、そのとある事件や、一体何があったのかを聞きたかったのだが、勿論それらも杏子と会った時に聞きなさいと言われるだけだった。

 

「はぁ……」

 

 さやかは思い返すたびに何度もため息を吐き、一体何があったのだろうかと考えていた。

 話から聞いた杏子の印象は、自分と同じようにマミの事を尊敬してやまないと言った少女であった。

 だが、あの時目にした杏子からは、そんな印象など微塵も感じることが出来ず、まるで話で聞いている人物とは全く違う印象しか受けることが出来なかった。

 

「(佐倉杏子……会いたいな……)」

 

 杏子の事を思いながら、額を机に押し付けて伏せていたのだが、少しだけ額が痛くなり始め、首を回して頬を机に付けるように体勢を変えた。

 すると、桃色の特徴的な髪の毛をツインテールをした、さやかの大切な親友であるまどかが、艷やかな黒色の長髪をした少女である、ほむらの後を追っかけている姿が見えた。

 

「ほむらちゃん何で逃げるの?」

 

「貴女が追いかけるからよ」

 

「ほむらちゃんが逃げるからでしょ!」

 

「私は話したくないって言ってるのに、まどかがしつこいから逃げるのよ」

 

「だって話してくれないんだもん!」

 

「だから話したくないって言ってるの」

 

「何やってるんだか……」

 

 授業が終われば、その休み時間中何度も追いかけ回すまどかと、それから逃げるように速歩きで校舎を歩き回るほむら。最初はさやかも二人を止めていたのだが、まどかにとってのほむらに当たる、杏子の存在がさやかの目の前に現れてからは、まどかの気持ちを考えると、頑なに喋らないようにしているほむらの事も気になってしまい、今では大人しく眺めるだけにしていた。

 

 ほむらもほむらでまどかから逃げていると言いながら、まどかが追うことの出来る速さで動いていた。

 魔法少女であるほむらであれば、本当に追われたく無いと言う強い気持ちがあるのなら、まどかの目の前から消えるように逃げる事など容易いはずなのにしていなかった。

 それに気付いたさやかは、ほむらもあれこれ言いながらも、結局大好きなまどかに追われるこの状況を、もしかしたら楽しんでいるのだろうなと思い若干呆れていた。

 

 次の授業が始まるチャイムが鳴れば、二人は大人しく席に着き始める。まどかも流石に授業中にまでテレパシーを使って、ほむらを問いただそうとはしなかった。

 授業に集中出来なくなる事や、邪魔をしてしまうことを配慮しているのだそうだ。

 とは言え、授業が終わればほむらを追いかけ回す。消極的なまどかがあそこまで積極的に動き回るのも、さやかにとっては何だか感慨深いものがあった。

 

 その日のお昼休。さやかとまどかとほむらの三人は、いつものように屋上でご飯を食べていた。

 ほむらと関わる前までは、まどかとさやかの二人で食べることが多かったのだが、ほむらと出会ってからはその内に無理やり連れて食べる機会が多くなっていた。

 

 つまり、先ほどまでほむらを追いかけ続けていた状況は一転して、現状ではお昼ごはんという時間を利用されまどかに捕まえられていた。

 

「いつになったら話してくれるの?」

 

「その時になったら話すと言ったでしょう」

 

 一貫して、ほむらの口は硬かった。

 

「だって、私がほむらちゃんを救っただなんて、そんな話をされても分かんないよ」

 

「取り敢えず、あなたは魔法少女にならなければ良い」

 

「まぁ、それにはあたしも賛成だね。ほむらが何を隠しているのかはさっぱりだけど、魔法少女になる事に関しては、ほむらの肩を持ちたいかな」

 

 魔法少女にはならないで欲しいと言う要望に、さやかも同じような意見を出していた。

 

「さやかちゃんは今どうしてるの?」

 

「あたし?」

 

 魔法少女にならないほうが良いと言うが、魔法少女になってしまったさやかに反応するように、まどかはあれから何をやっているのかを聞いていた。 

 

 杏子との衝突以来、まどかがさやかの魔法少女活動に付いていくことは無くなった。

 と言うのも、魔法少女として本格的に特訓をし始め、その内容にはまどか及び、魔法に対して何の抵抗力を持っていない一般人が側に居ると、どうしても危険が及ぶことが多すぎた。

 そして杏子のときのように、魔法少女と衝突するような状況がまた訪れてしまえば、更に危険を及ぼしてしまう事になってしまう。

 まどかに危険が及べば、その側には知らぬ間にほむらが付いてくれるであろうが、それでも少しの間、ある程度落ち着くまでは付いて来て欲しくない。まどかを危険に晒したくないと思うさやかも同意していた。

 

 二人はお互いに無事で居て欲しいと思っている。さやかの命は短いと言っても良い。だからこそ一緒に過ごす時間を削りたくはなかったのだが、まどかが居るからと言って特訓をサボり、魔女との戦いで命を落としてしまう本末転倒な事態は避けたかった。

 それはまどかも同じで、自分を理由にさやかの邪魔をすることはしたくないと思っていた。

 今は一緒に居られる時間が少ないかもしれない。だが、これからもさやかと過ごしたいと言う思いがあるからこそ、まどかは大人しく魔法少女活動に付いて行かないことを決めていた。

 

「あたしはね、今まで通りマミさんに特訓を付き合ってもらいながら、ソウルジェムの穢れを溜めたグリーフシードを態と孵化させて、その魔女と戦ったりしてるよ。それに、マミさんとも戦ったりしてるかな」

 

「マ、マミさんと戦ってるの?」

 

「一回も攻撃を当てたことはないけどね。それに、私の技を開発してたり、魔法少女としての基礎を勉強してたり。あ、それと家にお呼ばれして甘えさせて貰ってるよ。それぐらいかな」

 

 幸いさやかが願いを叶えた内容は、他者の傷を治す癒やしの願いだった。

 そのおかげもあり、さやかの持っている固有魔法は癒やしの系統の願いで得られた強い回復魔法。激しい特訓で消費された体力もあっという間に回復をして、身体に与えてしまった生傷もまるで元から無かったかのように綺麗に治すことが出来ていた。

 しかし、魔法少女としてまだまだ魔力の使い方がおそまつなのか、魔法を使った量に対してのソウルジェムの穢れが多く、マミからグリーフシードを貰うことが多かった。

 

「マミさん本当に強くてさぁ、これからもあたしの攻撃を当てられる気がしないよ……それで、ほむらに聞きたい事があったんだよね」

 

「何かしら?」

 

 マミとの特訓の最中に気付いたことがあったと言うように、ほむらへ質問をしていた。

 

「消えたり現れたりしてるのって、一体どうやるの?」

 

 刹那と表現してもいい程に、目を凝らしていても分からない速さで移動しているほむらの魔法。もちろん単純な仕掛けであり、からくりが分かってしまえば簡単な事であった。

 だが、キュゥべえですら詳しく解明できていない魔法と言えど、時を止めるなんて暴挙を言われるまで自力で気付くまでが難しい。さやかも何をしているのか全く理解出来ておらず、こうして直接ほむらに聞いていたのだが、ほむらは首を横に振っていた。

 

「残念だけど、これは私の固有魔法。真似をして出来るものではないの。諦めなさい」

 

「そっか。まぁ、そんな感じしてたから別に良いよ」

 

 この魔法を扱うことは出来ないと言われたさやかは、なんとなくそんな気がしていたと言うように、特に落ち込んでいる様子を見せてはいなかった。

 他にも、一体どんな原理でそんな事が出来るのかを聞いてみたのだが、それも首を横に振られてしまった。

 

「それを言ったら、私の正体が分かるから内緒にさせてもらうわ。それに、あまり魔法少女相手に手の内を明かしたくはないの」

 

「あたしはマミさんと一緒にいるから、そりゃそうか」

 

 実際は、マミにはもうほむらの魔法やどんな存在なのか気付かれているのだが、それを知らないさやかは勝手に納得をしていた。

 そんな事を話していると、お弁当を食べながら聞いていたまどかの手が止まる。表情も少しばかり暗くなっていたのに気付いたほむらは、声をかけていた。

 

「どうしたの?」

 

「この前の、魔法少女同士で戦ってるのを見て……もしかしたら、ほむらちゃんやさやかちゃん。マミさんだって、戦う日が来るのかなって思うと……」

 

 魔法少女に手の内を明かしたくはないというのは、何れ戦う日が来る時に対策を取られたくはないと言う意味にも聞き取れる。そして、まどかは魔法少女同士が実際に戦っている姿を見てしまった。

 それを思うと、今は仲良くご飯を食べていても、もしかしたら近い未来二人が戦う事になり、どちらかが命を落としてしまうのではないかと想像すると、自然と食の進みは無くなっていた。

 

「んー、ほむらやマミさんと戦うかぁ……あんまり想像は出来ないけど、そんな未来もあるかもしれないね」

 

「嫌だよそんなの! 友達同士で戦うなんて……」

 

 ほむらには時間軸を何度も超えた弊害で、友人と呼んでいた少女たちと衝突を繰り返してきた過去がある。だからこそ、まどかの言う友達同士で戦うというのは、安易に想像ができてしまった。

 戦うだけには収まらず、何度も命を奪った事もあった。戦ってはいないが、大切な存在であるまどかの命すらも奪った事があった。

 

 あの時の事はあまり思い出したくはない。だが、ほむらにとってあの時まどかの命を奪った記憶は、自分自身を変える大きな切っ掛けでもあった。

 杏子が語る、自分自身の何かが変わった瞬間なのだろう。あの日から、まどかを助けるために友人の命を奪うことに躊躇しなくなった自分がいた。

 だが、今の時間軸に居るさやか達を殺すことはしたくない。もしかすると、今までで一番穏やかに接することが出来ている。更に言えば、いつもなら警戒心をこれでもかと言うほどに見せつけているさやかが、自ら手を伸ばして来てくれている状態が続いている。まどかの言う通り、今はまだ戦いたくはないとは思っていた。

 

「友達同士って訳じゃないけど、ほむらと一緒に居た杏子って子。一体どうやって知り合ったの?」

 

「私が見滝原で活動している時、巴マミに襲われたことがあったの」

 

「少し前に一度衝突したって話だよね」

 

「ええ。それで、巴マミの情報を集めている時に出会ったのが、佐倉杏子よ」

 

「ふーん」

 

 嘘は言っていない。だが、本当のことも言ってはいなかった。

 まるでキュゥべえのような話術だ。ほむらは心の中で自虐気味に笑っていたが、とは言え本当の話を言う訳にはいかない。今のさやか達になら話しても良いかもしれないが、余計な混乱を招く事は避けなければと考えていた。

 

「それにしては仲が良さそうだけど、昔からの知り合いだったとか?」

 

「私と杏子は初めて出会ったわ。だけど、話していく内にお互いの考え方が合っていたから、仲良く見えていたのかもしれないわね」

 

「それにしては何だか前から知っていたような感じがするけど……あ、そう言えばほむらってあたしたちの事も昔から知っていた様に話すよね」

 

「……どういう意味かしら?」

 

「もしかしたらさ、ほむらって未来から来てたりして? って、なーんて、流石にそんな事ないか! いくら魔法少女だからって、時を超えるなんてそんな事出来るわけないよねー!」

 

「……」

 

 鋭い。ほむらはそう思っていた。

 冗談交じりに笑いながら話しているとは言え、実際に時を超えてやって来たほむらは図星を突かれてしまい、一瞬硬直してしまった。

 しかし、ポーカーフェイスを貫き通しバレることはなかったが、さやかの話に耳を傾けていたまどかは、何かに気付いたような表情をしていた。

 

「(時を超える、かぁ……もし、過去のほむらちゃんを私が助けていたとしたら、ほむらちゃんが救ったって言う話も、何だか意味が合うような……)」

 

 もし仮に、過去の自分が魔女になる真実を知らないまま契約を果たし、魔法少女になっていたら。魔法少女になる前のほむらを助けているのだとしたら。その考えは、何の裏付けも無い机上の空論だとしても、まどかにはしっくり来る考えのような気がしていた。

 さやかの言う通り、まどかはほむらとは会った事は無いにも関わらず、一方的に知っているような口ぶりをしていた。

 まどかだけが忘れているという線は薄い。ほむらのような特徴的な女の子を忘れるはずがない。しかも、そんな少女を救ったと聞けば、更に忘れるなんて薄情なことはしないはずだ。

 

 時を超える。さやかの思いも寄らない一言が、まどかには頭の中に引っかかり、ほむらの横顔をじっと見つめ続ける事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後。さやかとマミは魔法少女としての特訓を続けていた。

 休む暇は無いという様に、時間が許される限りさやかはマミに特訓を申し出て、それを受け取ったマミも、さやかを後押しするように特訓を付き合っていた。

 

 早く強くなりたいと願い、そのための努力を惜しまないさやか。そして、さやかを強くさせたいと言うマミ。2つの歯車が丁度良く噛み会った結果、得られた成果は目覚ましいものであり、一つの技を完成させていた。

 

「よし……行きます!」

 

 マミが魔法で作った木人形に向けて、さやかはサーベルを腰に添えて構える。身体には魔力が流れ、主に足と腕に集中して循環して、足元には飛び出そうとしているさやか専用の発射台である、青色の魔法陣が展開されていた。

 

 身体に力を入れ始めると、それに呼応するように青色の魔法陣が発光し、さやかを押し出すように発射した。

 地面を走るのではなく、体勢を低くして真っ直ぐに飛んでいる。その先には木人形が置かれていたのだが、それに斬りかかることもなく通り抜けた。

 通り抜けた先には新たな魔法陣が作られており、その魔法陣は向かってきたさやかを反射するように空中へと押し上げた。

 空中へと押し上げた先には、更に新たな魔法陣が作られる。同じ様にさやかを反射すると、反射された先にはまた新たな魔法陣が作られていた。

 魔法陣の反射を繰り返す毎に、元々速かったさやかの動きは乗算されるように加速し続け、最後には青い閃光と言ってもいいほどの残像を見せてしまう速さまで到達した。

 

「ッ!!」

 

 速度が乗りに乗ったさやかは、遂に木人形に向けて腰に添えていたサーベルを抜き取り突進していく。

 木人形の目の前に近づいたその瞬間、さやかはとある技名を言い放った。

 

「スクワルタトーレ!」

 

 一瞬の出来事。ほむらのような知覚出来ない速さとはまた違った、純粋な速度の到達点だった。

 青い閃光を作り出した速度を保ったまま、サーベルを持っていた腕には魔力を循環させている。魔力は身体の速さに合わせるように、木人形に向けて抜き取られたサーベルを言葉通り、目に留まらぬ速さで切り刻み始めた。

 

 それは刃物の壁であった。

 目の前に振り回された刃物は、塊を作り上げるようにさやかの壁となり、そのままの勢いで通り過ぎてしまえば、木人形には大きな大穴を作り上げて木っ端微塵になってしまっていた。

 

「はぁ……はぁ……や、やった! 上手く出来ました!!」

 

 着地も成功させたさやかは、木人形の惨劇を見てガッツポーズを取りながら喜んでいた。

 

「ええ、魔力の流し方や身のこなしの速さ。今のさやかさんであれば十分に上手く出来ていたわ」

 

「えへへ! 褒められちゃいました!」

 

 マミからのお墨付きを貰って嬉しそうに飛び跳ねていたさやかは、そのままマミに抱きついていた。

 しかし、確かに上手く出来ていたのだが、それでもマミは内心物足りなさを覚えてしまっている。

 

 威力は確かに絶大だ。魔女にこの技を放ってしまえば、魔女の攻撃もろとも弾き返し貫き切り刻むことが出来る剣術だろう。だが、速度が乗るまでの準備がどうしてもかかってしまっていたことが、マミには問題点だと感じていた。

 

 マミの考えていた剣術であるスクワルタトーレ。想定では何度も反射されずに、初速だけである程度の威力が出せれれば十分に戦えるといった技だった。

 しかし、魔法少女になったばかりであり、素質もそこまで多くはないさやかでは、足や腕に魔力を循環させる準備や、その空きを埋めながら速度と威力を最高潮に持っていく為に、魔法陣の反射を何度も使用する方法しか無かった。

 

 今のままでは対策されてしまえば危うい技だ。

 さやかの進行方向に物を置かれてしまえば、速度の乗ったさやかが勝手にぶつかり自滅してしまう。魔法少女や魔女の反応を超えるまでの速度に達すれば良いのだが、それまでの時間が惜しい。

 防御をどうしてもおろそかにしてしまうので、ハイリターンハイリスクな技に仕上がっていた。

 

「どうしましたマミさん?」

 

「え? いや、何でも無いのよ……あら、さやかさんもう回復したの?」

 

 先程まで特訓続きで息をあげていたさやかは、いつの間にか疲労を回復したのか、落ち着きを取り戻していた。

 

「はい! マミさんの特訓のおかげで、何だかすぐに回復出来るようになりました! と言ってもまだまだ燃費が悪いんでソウルジェムを濁しちゃいますけど、このおかげでマミさんの厳しい特訓について行けるんですよね」

 

「そうね。確かにさやかさんの固有魔法をは回復。癒やしの願いを叶えた恩恵もあって、魔法少女になったばかりでも強い回復力を持っているわ」

 

「やっぱり今のままじゃ燃費は悪いですけど、特訓する分には効率良いですよね。グリーフシードさえあれば疲労で動けないなんてことはないので」

 

 あれだけ動いても元気な姿を見せるさやかを見て、マミは何かを考えるように顎に手を添えていた。

 そして、防御がおろそかのさやかにとある提案を出した。

 

「さやかさん」

 

「なんですか?」

 

「次は攻撃にも防御にも使える技術を教えましょう。場合によってはデメリットの多い技術だけど、今のさやかさんならきっと上手く使いこなせると思うわ」

 

「あたしなら使いこなせる、ですか?

 

 そう言いながら、マミはマスケット銃を一丁出現させた。

 

「魔法少女にはね、魔法を使って人体の感覚を薄すめたり無くしたりする事が出来るの。それを応用したのが痛覚遮断。痛覚を薄くして、身体の痛みを感じさせないことが出来る」

 

 出現したマスケット銃を、さやかに向けて構え始める。おもむろに銃口を向けられたさやかは、何をする気なのか分からず後ずさりをしていた。

 

「痛みがあるからこそ人は躊躇する。動きが鈍る。そして、恐怖を感じてしまう……だけど、その痛覚を遮断出来れば、さやかさんは攻撃と防御共に、最高の出力を出すことが出来るかもしれないわね」

 

「ま、まさか……」

 

 話をし続ける内容を聞いて、何が起きてしまうのかを察した。今から痛覚遮断を教え込むために、マミの銃弾を受けなくてはならないと。

 

「デメリットは、許容出来ないほどの傷を負えば痛みを感じなくても身体が動かなくなる。動かなくなる前に脳が危険信号を送ってくれるのだけど、魔法で遮断しているせいで気づく事が出来ない。つまり、自分の体の状態や情報が分からなくなってしまうの」

 

 穏やかに説明している反面、少女に向けて銃口を突きつけている異様な光景。さやかは少し青ざめながら息を呑んでいた。

 

「でもね、貴方ならそのデメリットを打ち消すことが出来る」

 

「あたしの、回復魔法ですか?」

 

「その通りよ。ソウルジェムが濁りきらない限り、貴方は攻撃を受け続ける事や、防御を考えずに攻撃を加えることが出来る……もしかしたら、私にも勝てるかもしれないわ」

 

 マミに勝てる。そう言われて、さやかは明らかに目の色を変えて反応を示した。

 

「マミさんに、勝てる……ですか?」

 

「諸刃の剣には間違いはない。使い方を間違えれば確実に自分の首を絞める。だけど、さやかさんなら使いこなせると信じている……どうかしら、やって見る価値はあると思うの」

 

 淡々とした説明をされながら突然銃口を向けられ驚いてしまったが、そうと決まればさやかの意思は早く固まった。

 魔女と使い魔と戦い続ければ、無理やりマミの戦いに付いていった時の様に、魔女に腕が吹き飛ばされてしまう場面に追い詰められる時が来るだろう。ならば、いつ起こるか分からない大怪我に怯えるより、今この場で強い痛みを与えられながらも、自分自身の糧に出来る方を選んだ。

 

「やります。あたしなら大丈夫です!」

 

「良い返事よ、さやかさん。いきなり体の中心を撃つのは危険だから、まずは手の平に撃ちましょう」

 

 さやかは腕を横に上げて、手の平を大きく見せる。的を狙うようにマスケット銃構えたマミは、トリガーに指をかけ始めた。

 

「精神的な負担はソウルジェムを濁らせる。だから、痛みなんてものは無いと考えるの。貴方の世界には痛みという言葉は存在しない。暗示をかけるように、思い込み、身体に浸透させる……無理矢理でも理解させないと、貴方は常に痛みを感じ続けなければならない。分かったわね?」

 

「は、はい……!」

 

 魔法少女という人体を超越した構造を持って、受けた傷を即座に治すことが出来る回復魔法を使えたとしても、手の平とは言え身体に銃弾を撃ち込まれる恐怖。その事実から出てくる冷や汗や、青ざめる表情を隠すことは出来なかった。

 

 痛みを受ける覚悟は出来ている。しかし、今から覚える技術はその痛みを受け入れてはいけない。分かってはいたが、それでも歯を食いしばり、痛みを消すのではなく耐えるという意識に向いてしまっていた。

 

「……頑張ってね」

 

 この様子では短時間で痛みを完全に消す事が難しいかもしれない。マミはそう思いながらも、人の形をした物体に躊躇など微塵も感じさせない動作で、トリガーに力を入れて乾いた銃声を響かせた。

 

「________!!!」

 

 人に見られないように音の通りが悪い場所で特訓をしていた。

 だが、それでも銃弾を受けたさやかの聞くに堪えない悲痛な叫び声は、まるで街全体を覆うのではないかと言うほどに通りの良いものだった。

 

 

 

 

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