強く気高く孤高のマミさん【完結】   作:ss書くマン

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41話 結束し始める想い

 

「おまたせマミさん」

 

 さやかの言っていた用。それは、放課後に約束している魔法少女の特訓の事だった。

 仁美に急ぎで話したいと呼ばれてしまい、待たせてしまうマミへ遅れて来る事を連絡していたのだが、それでも想像していたよりも長くなってしまい謝っていた。

 

「そんなに待ってないから大丈夫よ。それに、私だけじゃなかったから」

 

 謝るさやかに特に待ってないと返しながら、何処か別の場所を見るように視線を動かしていた。

 さやかはその視線に釣られて首を動かしたのだが、視線を向けた先にはここには居ないはずの少女が立っていた。

 

「さやかちゃん」

 

「まどか? どうしてここに」

 

 本格的に特訓を見て貰う理由で、まどかにはしばらく魔法少女の活動には付いてこないようにと伝えてたのだが、そのはずなのにまどかの姿を見たさやかは疑問を浮かべていた。

 

「さやかちゃんに会いたかったんだ」

 

「そっか。それならしかたないね」

 

 会いたかったと伝えられ、さやかはまどかの頭を撫でようと近づき手を伸ばそうとしたのだが、その手を握られてしまい叶わずにいた。

 一体どうしたのだろうかと、さやかは握られた手をそのままに首をかしげていると、引っ張られるように力を加えられ、さやかはそのまままどかに連れられていた。

 

「はい、さやかちゃん。ここに座って?」

 

「え? う、うん……」

 

 さやかが腰を添えられる程度の場所まで引っ張られ、そこにはハンカチが敷かれていた。

 その上へと座るように言われてしまい、何が何だか分からないと思いながらも、言うことを素直に聞き入れそこに腰かける___すると、さやかの正面にまどかが立ち始めていた。

 

「どうしたのまどか?」

 

「さやかちゃん……」

 

 疑問の声をそのままに、まどかは正面に座るさやかの頭を軽く抱きかかえ、控えめではあるが女の子らしい膨らみがある胸へと押し付けていた。

 いきなり座らせて来たのは、お互いが立ったままでは身長差があったからだとさやかは思いながら、まどかから香る柔らかい匂いを感じ、思わず目を閉じてしまっていた。

 すると、まどかは胸の中にいるさやかの頭を撫で始め、そのまま落ち着いているさやかに話しかけていた。

 

「お疲れ様、さやかちゃん。私、さやかちゃんの親友で良かった。一緒に過ごせることが出来て、同じ時間に生まれて、本当に良かった。さやかちゃん、頑張ったね……」

 

 まどかからのいたわりの言葉。決して同情で言っている訳ではない、まどかの本心。

 人の感情に敏感な節があるさやかには、それが分かっていた。

 

 優しく、柔らかい声が耳を通り抜ける。そのたびにさやかは息がつまり、目頭が熱くなり、まどかの胸に押し付けていた一部の布は、水分を含み濡れ始めていた。

 

「よーし、よーし……頑張ったね……」

 

「何よ、本当に……何でそんなに優しいのよ……」

 

「大好きだよ、さやかちゃん」

 

「っ……あたしは、安心した……あの時仁美を護れて良かったって。恭介を取られちゃうって、思わなかった……っ!」

 

 仁美が言っていたように、昔から追いかけていた好きな男の子を取られてしまう。その焦りから、あの時工場で助けなければ良かったと、そんな事を思わずにいられたことが、さやかにとって何よりも嬉しかった。

 

 嘘偽り無く、自分には覚悟が出来ていた。メッキのように剥がれやすく脆い、無理やり言い聞かせているだけの覚悟ではなく、命を捧げてまで愛した男の子を取られようとしても、それでも揺るがなかった信念。

 まどかの胸から離れたさやかの瞳は、涙で濡れて輝いていた。濁ることを知らない透き通るような青い瞳は、確かにそこに存在していた。

 

「マミさん、ありがとう。あたしの心も体も、強くしてくれて……マミさんが居なかったら、あたしは……」

 

「これからよ。これから貴女が二人を護っていくの。それは、貴女だけにしか出来ない事でしょう?」

 

「はい……あたしは、絶対にあの二人を護ります___だから、あたしをもっと強くしてください。どんなことにも負けない魔法少女に」

 

「えぇ。私が必ず、最高の魔法少女に育ててあげるからね」

 

 目の周りに付いた涙を袖で拭い取り、混じりっ気の無い笑顔で強く宣言していた。

 そんな事は当たり前だと、マミは後輩の成長を喜ぶように受け入れ、座っていたさやかに手を伸ばしていた。

 伸ばされた手を握り立ち上がると、その勢いで正面に居たマミとまどかを抱きしめた。

 

「まどか、マミさん。ありがとう。大好き」

 

「うん。私もさやかちゃんのことが大好きだよ」

 

「ふふっ。私もよ、さやかさん___貴女も、そう思うでしょう?」

 

 さやかを見で言ったのでは無く、何処か違う場所にいる誰かに呼びかけるように話していた。

 そこには、マミの声に反応し長い黒髪を風になびかせる少女___ほむらが姿を現していた。

 

「ほむら!」

 

「美樹さん」

 

 ほむらの姿を見たさやかは、思わず大きな声で名前を呼んでいた。 

 そんなさやかにゆっくりと近づいてくるほむらに、さやかはお礼を言い出していた。

 

「ありがとうほむら。助言してくれたおかげで、あたしは落ち着いて話をする事が出来たんだ。ほむらが居なかったら、あたしは……」

 

「私は、美樹さんにお礼を言われるようなことはしてないわ。全て美樹さんが考え出した答えだもの」

 

「それでもありがとう。ほむらの友達で、本当に助かった___だから、今度は私がいっぱい助ける番だ。あたしの助けが必要なら、必ずあたしを呼んで。絶対に助けるから」

 

「!!」

 

 絶対に助ける。何かと因縁の多かったさやかにそう言われ、少しだけ面を食らってしまう。それもつかの間、突如柔らかい感触がほむらの身を包んだ。

 正面に居たはずのさやかが近づき、ほむらを抱きしめてその身体を押し付けられていた感触だった。

 いつもならさやかの頬を手の平で打てば良いのだが、そんな気分になれなかったほむらはその抱擁を受け入れたままでいると、耳元でさやかの声が聞こえ始めた。

 

「ありがとうほむら。大好きだ」

 

「あっ……み、美樹さん! 私も、その……」

 

 助言をしてくれたほむらを抱きしめ、耳元で大好きと言う。感謝を伝えているだけで他意はない。

 ほむらもそれは分かってはいる。しかし、抱きしめていたさやかからは見えてはいなかったが、その言葉に表情を赤くし、恥ずかしくなりながらもさやかに答えようとした。

 

 散々嫌な態度を見せてしまったかもしれないが、私も本当は嫌いじゃなかった。

 寧ろ、あなたの事は好きだった。

 そう伝えようとしたのだが、その前にはほむらの身体からさやかが離れていた。

 

「いきなり抱きしめちゃったけど、ほむらはあんまり好きじゃなかったよね」

 

「え」

 

「さ、マミさん! 特訓始めましょう! もう身体が疼いて仕方ないんですよ!」

 

「……」

 

 鈍いようで鋭い。しかし、鋭いようで鈍かったさやかは、ほむらの言葉を最後まで聞く前には頭を切り替え始め、予定通りにマミから特訓を受けようと張り切っている様子を見せていた。

 そんな姿を見たほむらは内心大きくため息を吐きながら、赤くなっていた表情は冷めきってしまい見る影も無かった。

 

 背中を向けたさやかを睨みつけている。今回の時間軸のさやかは良い方だと思っていたが、やはり他の時間軸同様、何処か歯車が噛み合わない。

 さやかのせいで微妙な不満感を溜めてしまいながら、ほむらは用が済んだと思いその場を立ち去ろうとしたのだが、足を止めてしまった。

 

「特訓を始める前にまどかさんを家に送って頂戴。私は私で暁美さんに話があるから」

 

 特訓を始めるかと思いきや、ほむらを呼び止める声が聞こえたからだ。

 

 はっきり言えばその声を無視をして立ち去りたいと思っていた。

 露骨に人払いをしようと、まどかとさやかをその場から離れさせ、二人だけの空間を作り上げようとしていたからだ。

 

「まどかを送るのは大歓迎ですけど……マミさんとほむらが二人っきりになるんですか?」

 

 しかし、ほむらの心情を代弁するように、さやかは不安そうに口を開いていた。

 それもそのはずで、確実に衝突が起きてしまう二人を置いていってしまう。さやかが魔法少女になる前にはもう、実際に戦っていることのある二人であれば尚更心配であった。

 

 いくら話があるとは言え、そんな二人を置いて行くことはあまりしたくはない。

 だが、そんなさやかの不安を取り除くようにマミは苦笑いを見せながら、そんな事は起こさないと小さく手を振っていた。

 

「ついさっきの雰囲気で、殺し合いをするほど私は血に飢えている訳じゃないんだからね?」

 

「ほ、本当ですか? 正直それに関してはあんまり……」

 

「私の経歴を知っていたらそう思われても仕方ないけど、とにかく暁美さんには色々聞きたいことがあるだけなの。安心して行って来て」

 

「マミさんがそう言うなら分かりました。取り敢えず、まどかを家まで送ってきますね! ほらまどか、行こ!」

 

「うぇひひ……それじゃマミさん! ほむらちゃん! また明日ね!」

 

 マミの様子に安心したのか、言う通りにまどかを送ろうとして手を握る。さやかに手を握られた事にまどかは嬉しそうな声で笑い、二人に別れの挨拶を言い伝え、手を振っていた。

 

「ええ、まどか。また明日」

 

 先程のさやか同様、混じりっ気の無い笑顔で手を振られ、それを見たほむらも嬉しそうに微笑みながら手を振っていた。

 

 遠ざかる二人の背中を見送り、しばらくすればその姿は見えなくなると、ほむらの微笑みはまるで無かったかのように消え失せる。

 呼び止めてきたマミへ振り向き、その時のほむらの表情は酷く冷たかった。

 いつ何が起きても良いように警戒を怠らず、神経を鋭く尖らしていたのだが、その反面マミの表情は余裕で満ち溢れていた。

 

 と言うよりも、敵対の意思があまりにも少ない。まるで戦う気は無い姿を見せているかのように、攻撃的な雰囲気は感じられなかった。

 

「大丈夫よ。本当に何もする気はないから」

 

「信じられないわね。貴女ほど他の魔法少女に対して、明確な殺意を向けてくる人は見たこと無いもの」

 

「随分と嫌われてるようだけど、まぁ仕方がないわよね。それぐらい警戒するのが正しい反応だもの」

 

 戦う気は無いと見せかけて、油断した所に攻撃をする。そんな不意打ちをするような雰囲気も微塵も感じられず、ほむらは仕方ないと思い本題に入ろうと口を開いた。

 

「それで、一体何を聞きたくて私を呼び止めたのかしら」

 

「教えて欲しい事があるの」

 

「内容によるわ」

 

 教えて欲しいと言われても、情報の有利を取っていたいほむらには、言われた通り教えて上げるほど優しい人間ではない。

 ただ、先程も述べているように教えて欲しいという内容にもよる。それは、ほむら自身もマミたちに教えなければならない情報があるからだった。

 

 内容によると答えられたマミは、そのまま何を教えて欲しいのかを語りだす。

 

「暁美さんの目的はまどかさんの契約を阻止する事。それにこだわる理由は置いといて、貴女から感じる雰囲気から、阻止するために何度も時を繰り返してることが分かる___だけど、どうしてそこまで過去をやり直す必要があるのかが、私には分からなかった」

 

「……」

 

「それだけ大切な少女なら、契約させないぐらい魔法少女にとっては造作も無いこと。荒っぽいけど、手足を縛って監禁すれば解決してしまう簡単な話。貴方ならそれが出来る覚悟を持っているはずよ……なのに、貴方は何度も時を繰り返している。それは一体何が原因だと言うの?」

 

 確かにマミの言う通り、まどかを魔法少女になる未来から救うのがほむらの願いであり、それだけなら手足を縛り付け監禁すれば簡単な問題であった。

 しかし、それだけでは済まされない重要な事態が見滝原を襲う。それを回避出来ない限り、まどかを魔法少女の未来に歩ませてしまう。

 だからこそほむらは、途方も無い時を繰り返し今に至るというのだが、マミにはそれが一体何なのかが分からずにほむらを呼び止めていた。

 

 ベテランの域に入り込むほどの時間を費やしたとしても、ほむらはまどかを救うことは出来ていない。その事実は変えられないものであり、マミの頭に引っかかっていた。

 その理由を知りたいと言い出したのだが、ほむらは好都合だと思っていた。

 なぜならば、この情報はマミやさやかに伝えておきたい情報だったからだ。

 

「そう、ね……私もその事については、貴女と話したかった事なの。丁度良いわ」

 

「私に話したかった? そう言ってくれるのなら、聞かせてもらおうじゃない」

 

 まさか自分から話したいと言われるとは思わないでいたマミは、怪訝な表情になりながらもすぐに切り替えていた。

 そして、ほむらはマミの知りたかった答えを出そうと口を開き始めた。

 

「ワルプルギスの夜。それが、見滝原に来るわ」

 

「ワルプルギスの夜、ですって……? それが一体何の関係が___なるほど、そう言うことね。大方、まどかさんがワルプルギスの夜を倒そうと契約して、それが繰り返されている感じかしら」

 

「話が早くて助かるわね」

 

 心優しいまどかの事なら、見滝原を襲う超大型魔女を倒そうと願いを叶えてしまう。と言うか、それぐらいしか候補がないと思っていたマミは、ほむらの顔色を伺いながらも魔法少女になってしまう繋がりの答えを出していた。

 案の定それが正解だと伝えられ、マミは納得をする表情を見せる。

 

 しかし、このままではほむらだけではなく自分自身も不味いと考え始める。

 ワルプルギスの夜の事を言い伝えだけではあるが、その強さをなんとなく知っている。このままでは確実に見滝原に大きな被害をもたらす可能性が出てしまい、悩むように顎へと手を当てていると、そんな姿を見ていたほむらが声をかけてた。

 

「私の家にはワルプルギスの夜に関する資料が大量にある。それを目に通してもらうのはどうかしら」

 

「……」

 

「私は構わない。元々、ワルプルギスの夜には私を含めた杏子と巴マミの三人で挑む予定だった。まどかの契約を防ぎつつ、ワルプルギスの夜を討伐する。それが私の目的」

 

 長い間繰り返して培われたワルプルギスの夜の資料。それは、マミにとって喉から手が出るほど欲しい情報であった。

 

 何時、何処でワルプルギスの夜が現れるかも分からない。前兆はあるかも知れないが、どの様に攻撃をしてくるのか、行動パターンなども一切分からない怪物。

 それはいつも戦っている使い魔や魔女も同じだが、そんなものとは格が違う伝説上の化け物だ。

 

 その魔女について確実な情報を手に入れられる。情報を手に入れれば、見滝原の住民を護ることに繋がる。

 ならば、それに食いつかないマミではなかった。

 

「それじゃあお言葉に甘えて、ワルプルギスの夜の資料に目を通させて貰っても良いかしら?」

 

「それがどういう意味か、はっきり言って欲しいわ」

 

 大量にあるワルプルギスの夜の資料は、ほむらが文字通り命がけで集めて来たもの。確かに手伝って貰う予定ではあったが、それがどういう意味なのかをマミの口から言って貰わなければならなかった。

 

 ほむらにとって、何時裏切られる可能性があるか分からない魔法少女。殺すことなど躊躇しない人物だ。

 そんな人間を安々と信用出来る訳がないのだが、見滝原を護るという条件の中であれば、これ以上に無いほど信用することが出来る魔法少女に変化する。

 口約束と言えど、それが何より代えがたい契約書の役割となる事を、ほむらは理解していた。

 

「結界を持たないワルプルギスの夜が現れれば、何らかの形で見滝原に影響を及ぼし、確実に焦土に変えられる。そんな事、私が許すはずが無い……手伝わせて。貴女の計画に」

 

 ほむらの言う通り、はっきりと伝えたマミは協力関係を作ろうと手を伸ばした。

 しかし、ほむらはその手を握ることはしない。

 

「貴女が何を仕掛けているか分からない。その手を握るのは遠慮させてもらうわ」

 

「まぁ、それが正しい反応ね___でも、殺すとしてもワルプルギスの夜を倒した後。そんな魔女相手に、貴女と戦う余裕は多分無いでしょう。それに、私は必ず見滝原の人々を護る。そのためなら、貴女を殺すことなんて無いもの」

 

「……」

 

 人を護ることには替えられない。そのためには、必ずほむらの力が必要と言うように、マミはその手を差し伸べ続けていた。

 

 勿論ほむらも分かっている。協力関係中であれば裏切ることはしないと言うことは。

 しかし、命を狙われている身からすれば、その手を握ることに躊躇していたのだが、仕方がないと言うように差し伸ばされている手を握り返していた。

 

「契約成立ね。暁美さん」

 

「そのセリフは止めて頂戴。虫酸が走るわ」

 

 契約という言葉を使われ、某白い獣の姿が頭に過ぎったほむらは、心底嫌そうな声を出していた。

 

「ふふっ、それぐらい警戒心を持ったほうが良いって事よ」

 

 言われなくても持っている。そんな風にほむらは思っていると、さやか達が去っていった方角から人影が向かって来ていた。

 青色の髪の毛をしている姿が見え、さやかがまどかを送り戻って来たのだろう。大きく手を振りながらこちらへ走っている姿を表していた。

 

「おーいマミさーん! まどかを送りましたー……って、げぇ!? マミさんとほむらが握手してるぅ!?」

 

 ありえない組み合わせだと思っていた二人の握手を見てしまい、さやかは隠す気が微塵もない声で驚いていた。

 そんなさやかを迎え入れたマミは、ほむらから手を離したと同時に、どうしてこの様な事態になったのかを説明し始めていた。

 

「さやかさん、少し事情が変わったの。やっぱり見滝原には少し大変なことが起きるみたいよ」

 

「大変なこと、ですか? もしかして、前に言ってた見滝原の魔法少女には時間が無いって話ですか」

 

「覚えていたのね……それにより、これからは暁美さんも一緒に戦うメンバーの一人になるわ。話を聞いていた感じ、やっぱり時間は無さそうだから、少しだけ巻き気味で特訓を再開して行くわよ」

 

「え、えぇ!? ほむらとマミさんが共闘ですか!? いや、一体何があったんですか。流石に変わり過ぎじゃ……」

 

 数日前に殺し合いをしようとしていた二人が、今では協力関係になっている。それは、先程に見た握手が物語っている事は分かっていた。

 しかし、どうしてそこまでの経緯になったのかが抜けていたため、さやかは困惑をしていた。

 

「それだけ重要な事態が起きるって言う意味よ。佐倉さんにも見滝原に来て貰うから、詳しい話はその時にさせてもらうわね」

 

「きょ、杏子も来るんですか!? あ、あの。それって今話すことは出来ないんですか? 本当は聞くの怖いんですけど、それ以上に気になりすぎて……」

 

 杏子も集まってから話すと言われるが、見滝原で活動しているほむらはともかく、風見野にいる杏子まで呼ぶ事態。まどかを送っていった時とは、あまりにも状況が一変しすぎていた。

 

 取り敢えず詳しい話は置いておき、一体何があってここまで変わったのか。大まかな内容だけでも知りたいと話すと、それを汲んでくれた様に軽く話し始めていた。

 

「そうね……見滝原に超弩級魔女と言い伝えられている、ワルプルギスの夜が現れるの。私の知っている限りで最悪の魔女であり、見滝原へ確実に災厄をもたらすわ」

 

 

 

 

「なるほど、ほむらにそんな過去が……だから知らない人の事を詳しかったり、丁度良いタイミングで現れたり、まるで未来でも知っているような雰囲気を出してたんだね___そして、まどかが大好きな女の子で、そのまどかを護るためにずっと繰り返して来た……そっか。ほむらは本当にずっと、まどかを護って来てくれてたんだね」

 

「信じて、くれるの?」

 

 ほむらの詳しい過去を聞いてはいないが、何故初対面なはずのまどかに異様なこだわりを見せるのか。それが解決出来る話を聞いたさやかは、たとえ未来から来たと言う突拍子のない話だとしても、思い当たる節が何個も思いついていたので思っていたよりも簡単に飲み込めてしまっていた。

 疑う余地もせず、納得したような表情を見せながら何度も頷いているさやかを見て、ほむらはほんの少しだけ不安そうな表情で見ていた。

 

「え? 何言ってんの。あたしがほむらの話を信じない訳無いって。それにここまで来て信じないとか、どんだけ馬鹿な話だっつーの」

 

「美樹さん……」

 

「それに言ったでしょ? あたしの助けがいるなら言ってくれって。飛んで行くからって。言ってから一日も経ってないけど、早くもそのお願い事が来ただけじゃん」

 

 ほむらを安心させるように嘘を交えて言っているのではない。本当にほむらのことを信じていると、さやかは言っていた。

 

 ほむらの過去で、今と同じ様に未来の事を話さなかった時間軸が無い訳ではなかった。

 むしろ、早く皆を助けようと積極的に話す事が多いぐらいだった。

 だが、そのたびに疑いの目を向けられ、トラブルの因になり、行き着く先が魔女と言う真実を中途半端に知ってしまった魔法少女達は絶望した___さやかもその一人だった。

 

 何を言っても信じようとはしなかった。さやかは他の魔法少女達と仲違いを起こさせようとしているのではないかと、説得を試みようとするたびに反発を起こしてきた一人だった。

 そんな彼女が、今までなら真っ先に反発を起こすさやかが、全てを信じてくれた上で助けようと言ってくれる。信じてくれる。手を差し伸べると言った。

 そんなさやかに、過去のほむらがどれだけ残酷な事をしてしまったのかを知らないはずだ。

 言っていないから当たり前かも知れない。魔女になった彼女を何度も殺して来た。

 魔女になる前の彼女に何度も拳銃を向けていた。

 反発を起こしてくるたびに、何度も敵意を向けていた。

 そんな事など目の前のさやかは知らない。だが、そんな彼女と同じ顔をした少女にして来た、消えることのない真実だ。

 

 胸が苦しい。心臓病は魔法で治っているはずなのに、締め付けられる感覚が襲っていた。

 ほむらはこの感覚を知っている。過去に何度も感じたことのある痛みであり、もう二度と感じることのない感覚だと思っていた。

 

 これは罪悪感だ。

 全てを捨てたはずなのに、捨てきれなかった感情が絡みついていた。

 苦しいと思うように胸のあたりの服を握りしめていると、そんなほむらを見ていたさやかが笑いかけていた。

 

「ちょっとほむら、そんな顔しなさんなって。あたしは頑丈だからさ。だから今度は、あたしがほむらを護ってあげるからね」

 

「違う、違うの……私はいつも、美樹さんを……」

 

「あーはいはい。それはそれ、これはこれ。今までのほむらと、今のほむらの感じで、違うあたしが何やらかして来たか、なんとなく察するよ。いっぱい迷惑かけちゃったんでしょ? だけど、今度こそは助けさせて。それが今度のあたしだから」

 

 そう言うと、ほむらの肩を抱いていていた。

 

 今度こそは必ず助ける。さやかにとってほむらが今まで体験して来た内容などは詳しく聞いておらず、全くと言っていいほど知らないが、それでも長い時間繰り返して来ている事は分かっている

 マミと同じベテランの雰囲気。それは、最低でも一年以上は繰り返している計算となる。

 その内にどれだけ迷惑をかけていたかも知らない。しかし、他の人達を捨てなければならないほど磨り減り、尖りきったほむらの精神を見れば、それを察するぐらいさやかには簡単なことだった。

 

「ありがとう、美樹さん」

 

 さやかの言葉を聞いたほむらは、屈託のない笑みを浮かべている。それを見たさやかは、満足そうに笑い返していた。

 

「良いって良いって! それに、お礼を言いたいのはこっちなんだから。何度もあたしを助けてくれて、まどかだってずっと護ろうとして頑張ってきたんだもん。だったら、今度こそ絶対に護ろう。あたし達が居れば、ワルプル……えーっと」

 

「ワルプルギスの夜よ。さやかさん」

 

「あ、そうそう! ワルプルギスの夜! そんなもん一捻りだって! なんたってあたし達には、見滝原を護る女神マミさんと、風見野の聖女杏子が付いてるんだから!」

 

 見滝原に住む人々を魔女や使い魔から全てを護る。一人の魔法少女では到底出来ない行いをやり切ってしまっている、規格外な強さを持つマミが戦ってくれる。

 この場には居ないが、マミと同じ様に他の魔法少女とは格が違う強さを見せた杏子も参加してくれる。

 

 この二人が居ればどんな魔女が相手だとしても、負けることは無いと断言出来るほど戦力が存在している。

 それを分かっているほむらも、さやかの言葉に同意するようにうなずいていた。

 

「ええ。この二人が居ればワルプルギスの夜を確実に倒せる。今度こそ、まどかを救う……!」

 

「今日は佐倉さんが居ないから、ワルプルギスの夜に向けてさやかさんを鍛えましょう。また明日にでも佐倉さんを呼んで来てくれないかしら?」

 

「わかったわ」

 

 共に戦うのだとしたら連携は必要となってくる。その相手がワルプルギスの夜であれば尚更だ。

 

 戦力は十分にあるとしても、相手は結界を持たない魔女であり、どの様に見滝原へ被害が来るのか分からない。

 資料を見れば大体の内容は把握出来るが、マミは万全を期した準備を整えておきたいと思い、魔法少女になったばかりのさやかを一人で十二分に戦えるように。そして、連携に付いていけるように鍛える方針で進めていた。

 

「それじゃあさやかさん。これからは少し厳し目に行くわよ。ワルプルギスの夜は普通の魔女とはレベルが違う。それまでの間に、貴女に他の魔法少女の一歩先を行く強さになってもらうわね」

 

「分かりました!」

 

「それと……」

 

「何かしら?」

 

 さやかを今から鍛えると言うのに、ほむらを見始めたマミ。何かを思うような視線を向けられたほむらは、首を傾げながら聞いていた。

 

「ほむらさんはその魔力探知の方をどうにかしなさい。もっと上手に出来るはずよ」

 

「そう言われても、私の魔法の性質上伸びる気がしないのだけど」

 

 時を巻き戻し、時を止める魔法。世界の構造にあまりにも違反している魔法を獲得するのには、ほむらの中にある全ての資質を願いのみに注ぎ込んだことで成り立っている。

 ありとあらゆる力を注ぎ込んだその結果、その代償として限定的な期間でしか使えない魔法と言う縛りと、魔法少女にとって基礎的な分野は平均以下しか望めない。

 だからこそ伸びる気がしないと言っているのだが、それでもマミの表情が曇ることはなかった。

 

「暁美さんって見滝原で過ごしてきたのよね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「魔法は誰に教わったかしら」

 

「……貴女よ、巴マミ」

 

 ほむらが答えるだろう言葉を聞いたマミは、小さく頷いていた。

 

「やっぱりそうよね。使い方が似てるもの……そして、暁美さんが出会ってきた巴マミは今の私より弱いはずだけど、どうかしら?」

 

「ええ。今まで出会ってきた巴マミは、魔法少女としての強さは勿論あった。だけど、今の貴女ほど極端な思想に染まっている訳では無かったもの」

 

「だったらまだ伸び代はあるはずよ。今の私は暁美さんが知っている私よりも魔法の研究がずっとずっと進んでいるもの」

 

「……」

 

 ほむらがルーキー時代のように、今のマミから特訓を見てもらえば強くなる可能性は十分にある。

 しかし、それはお互いに魔力を流している状態を作ってしまい、確実に射程距離内で行動し合うことになる。

 はっきり言えば、殺し合いに発展してしまう可能性があるリスクを冒してまで、無理に強くなろうとは思わなかったのだが、そんなほむらの気持ちを察したのか、マミは一つの提案を出していた。

 

「大丈夫。暁美さんも流石に私が近くにいるのは嫌でしょうから、そうね……このノートを見てなさい」

 

「これは?」

 

 突如マミの手にリボンが集まり、一冊のノートを形作る。それを渡されたほむらは不思議そうにページを捲ると、そこにはデフォルメされた魔法少女姿のマミが魔法を使っている姿や、それに説明を入れるように文字が書かれていた。

 可愛らしく描かれた絵を流しながら、書かれている内容を読み進んでいると、魔力探知について詳しく書かれている文章だった。

 

「これは私の記憶を参考に作った魔力探知の指南書。基礎がある程度出来ている貴女が見れば、私に教えられなくても一人でレベルアップ出来ると思うの」

 

「これは、凄いわね……けど、良いのかしら? 私は何れ貴女の敵になる可能性は大きいはずよ。私が強くなれば、それだけ貴女に不利益となるはずだけど」

 

 ほむらが強くなれば強くなるほど、敵対した時の対処が難しくなるはず。それが分からないはずが無いのだが、そんな事はお構いなしにノートを手渡してきたマミに聞いていた。

 

「それはそうかもしれないけど、そんな事よりも優先されるのは見滝原を護ること。暁美さんも出来るだけ強くなって貰って、万全な状態で挑むことが、今の私が出来る事だと思っただけよ」

 

 魔法少女を倒す行為はあくまでも街の人々。魔法に抵抗できない人間を護るためにしている。

 仮にほむらと戦うとしても、ワルプルギスの夜を倒して街の復興が落ち着いた時になるだろうと話しながら、意識を切り替えるように手を叩き始めていた。

 

「それじゃあまずは、さやかさんの回復魔法を燃費良くしていきましょう。ワルプルギスの夜には、貴女の回復魔法は大いに役に立つと思うわ」

 

「了解です!」

 

「暁美さんは先程も言ったけど、そのノートを見て自分に足りないと思った所を練習しておきなさい。分からないことがあって、どうしても力を借りたいって内容があったら遠慮なく言って頂戴ね」

 

「……ええ、分かったわ」

 

 まるで昔に戻ったみたいだ。

 マミから魔法を教えてもらうこの構図が、ほむらには懐かしく思えていた。

 

 雰囲気はあの時のマミよりも冷たく鋭い。しかし、今も昔もマミから魔法を学ぶ事は、あまり変わらない出来事なのかも知れない。

 さやかを絞りに絞っているマミの姿を見ながら、手渡されたノートを広げていたのだった。

 

 

 

 

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