強く気高く孤高のマミさん【完結】   作:ss書くマン

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44話 結束した正義達

 

「あら、眠っているの?」

 

「みたいです。魔法少女のあたし達と違って、まどかにはこの空気に当てられ続けたのは負担が大きかったらしくて、今は気絶したみたいに眠っています」

 

「元々、この世界のまどかは巻き込まれた側に近いんだ。幸いこいつが関わる話はとっくに終わって、今は魔法少女中心の話をしてる。あたし達の話し合いが終わるまで、静かに寝かせてやんのが一番だろ」

 

「まどか……」

 

 マミの目線の先。さやかの膝下には、規則正しいリズムで呼吸をしているまどかが眠っていた。

 

 突然現れたキュゥべえに聞かされた一つの仮説。

 それにより一悶着があった室内は、常人では耐えきれぬほどの雰囲気が充満していた。

 その重圧に耐えられる者は、自らの命を天秤に捧げ、常に命のやり取りに身を置かれている状況に追い込まれる覚悟と気力を持った魔法少女だからこそだ。

 しかし、まどかは魔法少女のような特異な力を持っている訳ではない。

 命のやり取りをしたこともなければ、節々を吹き飛ばされる程の攻撃も、身をすり潰そうとする殺気も、たった一人でこの世から消えるかもしれない戦場に赴いたりはしていない。ただの人間だ。

 

 だが、まどかは乗り切った。

 感情の嵐が吹き荒れた空気を一身に受け止め、更には包み込もうとし、自らが関わる話を全て聞き終えたのだ。

 

「(成り行きで無理やり背負ってしまった大量の因果かもしれない。だけどこいつには、元々それを背負い、未来へ繋げる覚悟を持っていたのかもしれない)」

 

 杏子は目の前に映る桃色の少女の事は、ほむらの目を通して語られた話でしか詳しく知らない。

 さやかの立場にいる古い友人でも無く、共に勉学を励んだ学友でも無い。

 立場も暮らしも歩みも、全く異なる場所で過ごしていた人種だ。

 それでも杏子には___そんな杏子だからこそ、この短時間でまどかの本質が薄っすらと見えたように感じていた。

 

 ほむらが繰り返してきた大量の時間軸。

 その数だけ目の前で繰り返されて来た、ほむらの決死の制止を振り切り、魔法少女の契約を結んでいたまどかの姿。

 自らの全てを差し出し行われてきたであろう、自己犠牲の極地へ至る道の先に、まどかが何を望んでいたのか。それは、杏子にも分からない。

 しかし、決してほむらの望む世界ではないことだけは想像が出来てしまった。

 不思議にも、これ以上もなくはっきりとだ。

 

「(今回で終わらせないと、本当の意味で繰り返せない状況に追い込まれる……かもしれないな)」

 

 今では四人の魔法少女が紅茶を片手に、机に並べられた資料を眺めながらワルプルギスの対策を画策している最中である。ほむらにとってこの状況は奇跡だと語った。

 杏子にとっても、自分を含めた一定以上の実力を持つ曲者が協力し合うのは、ある意味奇跡と言っても良い。

 だからこそ、これで終わらせなければならないとも思っていた。

 失敗に終わった先のことを見据えてしまえば、世界が滅ぶ事が生易しいと思える世界が誕生してしまうのではないかと。根拠もなにも無い直感ではあったが、そんな事態が頭に過ぎってしまったからだ。

 

「それで、話の続きなのだけど……」

 

 まどかが眠っている事に気づき、中断されていたワルプルギスへの対策を進める会議。

 予定通りの時間に行えたとは言えないが、一度対策を立て始めた途端にトントン拍子に話が進んでいった。

 

 ワルプルギスとの戦いでまず初めに決めたことは、誰が何処を担当することであった。

 作戦の担当を決めるのは大きく分けて三つであり、その一つは目は、災害の元凶であるワルプルギスを倒すために攻撃を与える者。

 二つは目は、ワルプルギスの攻撃による二次災害。街の崩壊を食い止める者。

 三つ目は、他の魔法少女のサポートに徹底する存在である。 

 

 これら三つの条件。

 それぞれに十分な適正を持っている魔法少女は、この場に集まっていた。

 

「攻撃担当は杏子と巴マミが。被害を食い止めるのは私が。サポートはさやかさんが。配分はこれで問題ないと思うけど……」

 

「それが妥当だな」

 

「あたしもそれに賛成だよ」

 

 二つ目の担当である、街の被害を食い止める役割を担ったのはほむらとなった。

 

 今回の戦いで主軸となる人物は、ワルプルギスとの戦いに慣れているほむらと思いきや、ほむら自身がサポートに回ることを申し込んでいた。

 それには訳があり、ほむらが体験した過去の経験上、兵器を使った攻撃の効き目が薄い事が多かった事から来ていた。

 

 ほむらの固有魔法による弊害で、扱う武器は魔法で作られたものではなく、現代兵器に少量の魔力を付与している物を使用していた。

 つまり、魔法少女たちが極当たり前に行っている魔法での攻撃をほむらは行えず、この世の物で作られた武器を利用しているのである。

 ただの魔女にならそれでも十分な威力を与えることが出来ていた。

 しかし、ワルプルギスには十分なダメージを与えることが出来なかったのだった。

 

 それが分かったのは、過去のマミやまどかがワルプルギスに攻撃を加えていた時である。

 現代兵器よりも威力は少なかったはずなのに、ダメージを与えられている姿を何度も目にしていた。

 その経験から餅は餅屋というように、魔力の塊であるワルプルギスには魔力が込められた攻撃ではない限り、思った以上のダメージを通すことは出来ないと考えた。

 結果、ほむら自身が前線に出るのではなく、今までの経験と持ちうる武器。持っている能力の特性を最大限に活かせる街の被害を食い止めるに回るのが、立場としては一番だと考えついたのだった。

 

「美樹さんは他の魔法少女のサポートに徹底するということで、異論はないかしら?」

 

「ん、大丈夫だよ。と言うより、それ以外に選択肢は無いと思うし、あたしが持っている能力的にも一番だと思う」

 

 三つ目の担当である、他の魔法少女や周りのサポートに徹底する役割を担うのはさやかになった。

 と言うよりも、さやかが言った通り他の選択肢が無いという方が正しい。

 

 さやかは魔法少女になって間もない存在だ。

 契約して間もないとは言え、マミに修行を付けてもらい実力は他の魔法少女よりも劣っていない。

 寧ろ、持っている知識や覚悟は他の魔法少女よりも突出しており、条件次第ならば圧倒出来る実力を秘めている。風見野で出会った魔法少女との戦いでもそれが大きい。

 それでもさやかには、魔女との戦いによる経験が圧倒的に不足している。

 緊急事態に対応出来る脳と体を鍛えれていなければ、その場の状況で何を取り、何を捨てるかの取捨選択が出来るか怪しかった。

 

 とは言え現状の能力であれば、安心してサポートを任せられる状態に仕上がっている。

 十分以上の足の速さを持っており、自身に受けた傷の回復も早く、他の魔法少女の傷を癒す事が出来る。

 それさえあれば、ほむらがカバーしきれない場面をカバーする役目を請け負いながら、使い魔達との戦闘も十分に対応出来ると考えた結果であった。

 

「それで……今回の戦いで最も重要になる、ワルプルギス本体に攻撃する役割及び、見滝原への進行を食い止めるのが杏子と巴マミの二人。異論はないわね?」

 

「あぁ、大丈夫だよ」

 

「……」

 

 1つ目の担当であるワルプルギスに攻撃を与える役割。それは、今回の戦いにおいて最も重要となる役割である。

 

 その役割に必要なのは、相手の攻撃に対応出来る総合的な高い基礎能力。

 ワルプルギスや使い魔が蔓延る戦場の中心であろうとも、瞬時にその場を切り抜けることが出来る豊富な経験則と判断力。

 その上で、ワルプルギスにも通用する強大な攻撃魔法を持っていること。

 これら三つの条件に当てはまる人物は、この中においてマミと杏子以外にはいなかった。

 

 杏子の持っている高い戦闘能力と相手を撹乱させる幻影魔法。洗練された幻影魔法は見破ることは難しく、高度な拘束魔法も覚えていることで防御方面には分厚い。

 ワルプルギスが相手だろうと杏子に傷を付けられるのは至難の業だろう。

 それを攻撃に転換することも容易く、杏子の十八番であるロッソ・ファンタズマ。高い戦闘能力を持っている数十人の杏子が攻撃に仕掛けるその技を使えば、圧倒的な火力を押し付けることが出来る。

 

 近距離から中距離。条件次第で遠距離までカバー出来る能力を持っており、白兵戦において圧倒的な力を発揮出来る。

 搦手も豊富で相手の攻撃を避けつつ、直接高打点を叩き込むことが出来る。そんな杏子が前線に出ない理由は無い。

 それは、杏子と共に攻撃を担当するマミも同様であった。

 

 マミの魔法であれば、使い魔の邪魔さえなければ徹底的に攻撃に専念することが可能であり、杏子以上の圧倒的な高火力を押し付け続ける事が出来る。

 総合的な能力も高く、多種多様な搦手。魔力操作に固有魔法である対応力の高いリボン。

 その他にも魔法少女から経験を得た多彩な魔法を駆使すれば、サポートに回るほむらと同じく街の被害に対応出来るのが強みであった。

 

 主体の攻撃が遠距離とは言え、杏子の土俵である近距離戦で渡り合う力を持っている。

 たとえほむらとさやかの防御網を通り抜けた使い魔がいたとしても、マミのリボンや攻撃からは逃れられないだろう。

 そういう意味では、マミの役割は攻撃だけではなく全体のサポートも担っていた。

 

 ワルプルギス殲滅から街への被害を食い止める作戦。ここに集まっている魔法少女が決行に移せば、全ての内容を最高水準にまで引き上げることが出来る。

 ほむらを含め誰もがそう思っていたのだが、先程まで口を固く閉ざしていた少女が、静かに口を開いた。

 

「少し待ってもらっていいかしら」

 

「……どうしたのかしら?」

 

 マミが、この作戦の内容に異を唱えたのだ。

 

「私は少しの間、サポート徹底して回りたいの」

 

「え、どういうことですかマミさん?」

 

 サポートに徹底して回りたい。それは、前線から身を引きたいという意味であった。

 魔法少女としての経験が浅いさやかでも、作戦内容は完璧だと思えたのだが、それに異を唱えたマミには不思議そうな顔をすることしか出来なかった。

 

 そして、それはさやかだけではない。

 

「おい、サポートはさやかとほむらで十分だろ。あんたとあたしが前線に出ないと、あたしだけがワルプルギスと戦う羽目になるぞ」

 

 マミがワルプルギスト戦わなくなると言うことは、結果的に主な攻撃を与える魔法少女は杏子一人になってしまう。

 杏子は一人でワルプルギスを倒す自信があるとは言え、態々リスクを上げてまで戦いたいと思うほど戦闘狂ではない。

 マミが作戦に参加するのなら、前線に出て攻撃に参加して欲しいと考えていた。

 

 しかし、それでもマミははっきりした口調で続けた。

 

「私は見滝原と、そこに住む人々を護るためにワルプルギスと戦うの。決してワルプルギスを倒すことが最優先ではない。ここまでは良いかしら?」

 

「続けなさい」

 

 静かに聞いているほむらはマミの確認に冷静に答え、それを聞いたマミは続けて話し始める。

 

「ワルプルギスは人の目に見えない。だけど、災害として認識されるのよね?」

 

「ええ、大型の台風として見滝原にやってくるわ……もしかして」

 

 そこでほむらは気づいた。

 前線から身を引きたいと願うマミが何を言い出すのかを。

 

「台風による被害は大きい。私達がワルプルギスと戦っている間にも、小さな被害が街全体に降り注ぐはず。避難している人たちは多くいるでしょうけど、遅れる人も必ずいるはずよ。だから、私はその人達を全て避難させるまで戦場に参加することが出来ない___いえ、厳密には被害を食い止めるためにワルプルギスと戦うけど、()()()()()()()()()()()()()

 

 マミの目的はあくまでも見滝原の街を護ることだ。

 魔女や使い魔を殺すことも、自分と同じ魔法少女を殺すことも、見滝原を護る為の手段であり、決して目的ではない。

 それは、ワルプルギスという巨大な存在を殺すことも例外では無かった。

 

「それこそ、早めにワルプルギスを倒せば良い話ではないのかしら? 資料を見た通り、これだけの魔法少女が揃っていれば倒せない訳がない。予定通りに倒してしまえば、街の被害も最小限に抑えることが出来るはずよ」

 

 ほむらの資料通りの内容であれば、マミと杏子の力を以てすればワルプルギスを倒すことは容易いはずだった。

 作戦に沿って動けば街の被害も最小限に抑えれる。誰もがそう思っていたのだが、マミにはとある事柄が頭に引っかかっていた。

 

「キュゥべえが話していたわよね? まどかさんが魔法少女にならなければ、ワルプルギスを倒すことが難しいって。その事を視野に入れるなら、まずは人員救助を最優先。その後、街の被害を食い止めるためにワルプルギスを討伐するべきだと判断したの」

 

 キュゥべえは決して嘘はつかない。

 姿を消していたはずのキュゥべえが、マミとほむらを含めた魔法少女が集まる場所に姿を現し、まどかが魔法少女にならなければ倒すのが難しいと語るのなら、それ相応の理由や何かが存在する。

 マミにはそれを無視することが出来なかった。

 

「本気で、一人も犠牲を出さずに倒せるとでも思うの? あなたも資料を見たでしょう。確かに魔法少女が三人以下で倒せるかもしれない。でも、街を一つ破壊し尽くすほどの力を持っているのも事実だと言うことを」

 

 ほむらの言う通り、マミが考えていることは無謀にも近いことだった。

 マミが見滝原を一人で護り続けてきたことは知っている。しかし、それはただの魔女や使い魔だったからだ。

 今回相手にする魔女は他の魔女とは一線を凌駕し、伝承に伝えられているほどの存在だ。

 そんな相手を前に不可能だとほむらは思っていたのだが、目の前にいる少女の目には揺れることのない意思を持って返してきた。

 

「思うのでは無い、やるのよ。そして、出来る方法が私にはある。街の被害を全て食い止めることは出来ないけど、見滝原にいる全ての人間を護ることがね……それに、今回は一人ではないもの。あなた達が手伝ってくれているのなら、尚更問題の無いことよ」

 

「……」

 

「仕方ない……こうなったら言う事聞かねぇよ。それがこいつだ」

 

「はぁ……」

 

 この時代のマミに詳しく知っている杏子からの援護射撃。

 それを受けたほむらは、ため息を吐かざるを得なかった。

 

 軽く頭に手を抑えつつも、納得しなければ話が進まないと分かり、嫌々ではあったが切り替えることに決める。

 

「仕方ないわね。それでも、杏子と美樹さんが作戦通りに出てくれるのなら、倒せる戦力は十分にある」

 

「早めに戻るから、お願いするわ」

 

 こうしてトラブルに見舞われ、主力の一人であったマミがサポートに回ることが決定してしまったものの、予定していた会議は無事に終了した。

 

「マミさんの言うその方法って、どんな魔法なんですか?」

 

 それを見計らって、先程マミが話した事についてさやかが質問をし始める。

 

 見滝原の人たちを護る方法。平然と言ってのけてはいたが、その方法が何なのか理解出来なかった。

 

「あまり手の内は見せたくないのだけど……そうね、もう大丈夫かしら」

 

「(ん……? 何だ、マミのやつ。もしかして話すつもりなのかよ)」

 

 さやかにその事を指摘され少し悩む様子を見せてはいたが、何かに納得した様子に切り替えると、質問について話し始めた。

 

「私の魔力を見滝原全体に満たしている。それは良いかしら?」

 

「はい。探ろうと意識すれば、薄くですけどマミさんの魔力を感じます」

 

 さやかはうなずきながら、自分自身の体の周りを見渡していた。

 目線の先には何も無い空間のように見えて、常にマミの魔力が滞留しているのが分かっているように。

 

「魔法を使うときは、魔力がないと使えないわよね? 逆を言えば、魔力があれば魔法が使える。見滝原に魔力を満たしているということは___」

 

「そういうことだったのね……」

 

 そこまで言われ、ほむらは気が付き思い出した。

 ループして日が経っていなかった頃。いつも通りの場所にいる魔女を狩ろうとしていた矢先、ほむらが倒そうとする前に魔女の反応が消え、倒されている瞬間が何度もあった。

 時を止めて移動できるほむらの魔法以上の速さで、魔女の反応が消えていたことを。

 

「まさか、特定の位置で魔法が使えるってことですか!?」

 

「ええ。私が学校にいる間も魔女や使い魔を倒せれたのは、これが理由だったの」

 

「それでも、マミが助けようとしている一般人には魔力が含まれていないだろ。それを見つけるにはどうするんだよ」

 

 杏子が指摘していた通りに、魔力で人や物を見分けるには魔力を持っていなければならない。

 契約を結んでいる者でなければ、ただの人間は魔法少女にように魔力を持っていないのだ。

 それを見分けることはマミにも不可能であり、今話した方法では一般人を助けることが出来ないことになる。

 だが、杏子の指摘した問題の解決方法はあると言うように、小さく笑みを浮かべながら答え始めた。

 

「避難し始める人の動きに合わせて、その人達に私の魔力を一時的に付着させるの。そうすれば、避難所から離れて、孤立している私の魔力___つまり、避難に遅れている人に飛んでいけば良いわ」

 

「そんな事が出来るんですか!? やっぱりマミさんって凄いなぁ」

 

 魔力を持っていない人たちをカバーすることが出来る。それを聞いたさやかは尊敬の眼差しを含めながら声を上げるのだが___

 

「さやか。それが出来るのに今までやらなかったのは、なんでなんだって話だろ」

 

「え、どういう事?」

 

「リスクがあるんだよその方法には」

 

「ふふっ。流石ね、佐倉さんは」

 

 そう、杏子の言う通りこの話には大きなリスクが伴っていた。

 

「そんな事をすればね、常に魔力操作を強いられて魔力の消費は激しくなるし、私の頭が情報を処理しきれずにパンクしかねないの。魔法少女とはいえ、私の脳はただの人間。そんな状態になってしまえば、私は身動き取れずに魔法を使うことに集中せざるをえない」

 

「あ、だから後ろに下がってサポートに徹底したいって言ったんですね!」

 

「そう言うことよ」

 

 この方法を使えば、確かに街の人々の全てを救うことは出来るだろうが、その代わりにマミの体と脳には大きな負担が強いられる。

 それこそ、身動き出来ない状態になってしまう事もあり、後方でサポートに徹底したいと言う話を持ちかけていた。

 

「そんな状態でワルプルギスの被害に対処出来るのかしら?」

 

 そこまで聞いたほむらは一つの疑問を問いかけた。

 それもそのはずであり、身動きの取れない状態になるほどの負担がかかってしまう。だったら、サポートに回ったとしても被害に対処出来ないと思ってしまうのは仕方無かった。

 

 しかし、そんなほむらの疑問にも十分に落ち着いて答え始めていた。

 

「私のソウルジェムでさえ濁りは早くなるでしょう。グリーフシードの消費も多少あるかもしれないけど、それでも出来ないことではないわ。幸いにも資料から見て、災害として訪れる大型台風は過去に起きた台風と比較しても巨大なもの。避難を楽観視している人たちは少ないでしょうから、出遅れている人の数も少ないはずよ」

 

「避難に遅れる人の数が少ないから、負担が少なく済む可能性の方が高いって言いたい訳ね」

 

「ええ」

 

 避難に遅れている人の数が多ければこの話は破綻してしまうが、それでもマミの意思を折ることは出来ないだろう。

 ほむらに譲れない正義(もの)があるのと同じように、マミにも譲れない正義(もの)があったからだ。

 

 だが、サポートに回るとはいえ戦場には出てくれる。考えなしに行動する訳でも無いと考えたほむらは、固まった体の力を抜いていた。

 すると、近くにいたさやかがほむらの肩を優しく叩き話しかけていた。

 

「あたしとほむらと杏子の三人がいれば倒せるんでしょ? だったら大丈夫だって!」

 

「……仕方ないわ。私達もあまり楽観視するのは良くないけど、そうするしかないみたいね」

 

 さやかに元気付けられるようにそう言われた。

 ほむら自身も現像ではこの方向で進むしか無いと分かっていたのだが、さやかの言葉に後押しされるように意思を固くしたのだった。

 

「取り敢えず、大体の配置は決まったわ。後は連携と、美樹さんの強化に努めましょう」

 

「暁美さんもよ」

 

「……」

 

 作戦は決まり、ほむらの言う通り後は作戦通りに動けるかどうかの連携を整えること。

 経験不足が目立ってしまうさやかの特訓を勧めると言うことで終わるつもりだったのだが、横からマミにあなたも特訓するようにと言われてしまう。

 すると、それについての提案を申し出る人物がいた。

 

「それなんだけど、ほむらはあたしが世話するよ。マミはさやかを頼む」

 

「え、良いの? てっきりあたしの特訓って杏子が見てくれると思ったんだけど」

 

 特訓する話となり、さやかを気にかけているはずの杏子が、ほむらを任せて欲しいと言ったのだ。

 戦い方もマミと比べれば杏子の方が似ているのだが、杏子自身がそれに抗う意見を言いだし、さやかは少し驚きながら聞き返していた。

 しかし、それには訳があると話し始める。

 

「出来ればあたしもそうしたい___けど、魔法少女を一から面倒見るんなら、悔しいけどマミの方が適任だ。相手に合わせてスタイル変えられて、頭で考えずに体に直接叩き込める方法を取れる。さやかにはそっちの方が良いだろ」

 

「それって頭を上手く使えないって言ってる?」

 

「任せて頂戴。元々さやかさんの面倒は私が見ていたのだがら、大丈夫よ」

 

「否定はしてくれないんですねマミさん」

 

「私も、出来れば杏子に教えて貰いたいわ」

 

「ま、そう言うことでよろしく」

 

 ほむらの詳しく書かれた資料のおかげもあり、話し合いにはそこまでの時間は取られなかった。

 各自、目の前の机に並べていた書類を片付け始めていきながら、さやかは膝下で眠っていたまどかをゆっくりと揺さぶり、話が終わったことを伝えていた。

 

「ふあぁ……ごめんさやかちゃん。私、いつの間にか眠っちゃってて……」

 

「気にしなさんなって。まどかはそれぐらいリラックスしてたほうが丁度良いよ」

 

 寝起きで小さくあくびを漏らしながら、眠たそうに目を擦っているまどかの姿。

 見てくれは何処にでもいるような少女のはずなのに、一歩間違えてしまえば世界を滅ぼしかける力を秘めているなんて、さやかには到底思えなかった。

 しかし、それが嘘偽りのない事実であることも理解している。

 

「後片付けは私達でやっておくから、さやかさんはまどかさんを送って行ってあげて」

 

「はーいマミさん! と、言うことで。今日はもう終わりだから、一緒に帰ろう」

 

「うん、さやかちゃん___あっ!」

 

 さやかはまどかの手を引きながら部屋を出ようとすると、資料を片付けていたほむらが小さく手を振りながらこちらを見ていた。

 それに気づいたまどかは、ほむらと同じように小さく手を振り返し、バタバタと物音がしている部屋に向けて小さく声を出した。

 

「またね、ほむらちゃん」

 

 聞こえていたか分からない。だが、まどかには部屋を出る瞬間、先程手を降っていたほむらが少しだけ微笑んでいたように見えていた。

 

「聞こえたかな?」

 

「うん、聞こえたと思うよ。ほむらがまどかの声を聞き逃す訳無いじゃん」

 

「だと良いな」

 

 さやかに手を引かれながら聞いて見ると、間を置くこともなく必ず聞こえたと即答した。

 そんな風に、他愛もない話をしながらしばらくまどかの家まで歩き進めていたのだが___

 

「……」

 

「まどか、どうかした?」

 

「うん、ちょっとね」

 

 まどかが急に立ち止まったのだった。

 そして、さやかは気付いた。

 握っている手のひらが、少しだけ震えていることを。

 

 今頃になって、まどかは意識してしまった。

 当たり前のように別れの挨拶を言い合い、こんな風に友人と共に帰るこの生活が、もうすぐで終わってしまうのではないかと。

 近々この街を襲う魔女は、今まで戦ってきていた魔女とは訳が違う。もし、その魔女を倒せなかった場合のことを、まどかは考えてしまった。

 

 目の前で手を引いてくれている親友も、この街を護っていた憧れの先輩であるマミも、過去の自分が命がけで救った少女であるほむらも、全てが消えてしまうのではないかと思ってしまった。

 すると、まどかの自然に体が震え始めていた。

 想像したものを拒絶するように。

 

「ごめん……ごめんねさやかちゃん……何だか、震えが止まらなくて」

 

 だからこそ自然に足が止まり、下に俯いてしまう。

 さやかを握っていた手には力が入っていく。

 

「今更だよね、こんなの……だって、みんな戦い続けてきたんだよね……私がのんびり生きているときに、みんなみんな、戦ってきたんだよね……」

 

 これから消えていくかもしれないさやかの命を繋ぎ止めているかのように、まどかの手には自分が思うよりも力が入り赤く染め上げた。

 

「……?」

 

 すると、強く握りしめていた手から暖かく優しい光が漏れ、体の震えが解され、癒やされていく感覚が訪れ始めた。

 まどかはその感覚がある、握っていた手に目を向ける。そこには、何処までも透き通るような水色の光が、まどかの手を包み込んでいた。

 

「大丈夫だって」

 

「さやかちゃん……」

 

 包み込んでいる光のように、さやかの瞳は何処までも真っ直ぐで、迷いのない、透き通る水色が映し出されていた。

 

「根拠は無いさ。でもね、あたし達は生きてまどかの下に帰るよ。街のみんなも無事で、被害も少なく抑える。それが出来なきゃ、ほむらを過去に戻してしまって、街も壊され、最悪世界が滅ぶかもしれなくなる……そんな未来、あたし達は絶対にさせない」

 

「……」

 

「それにさ、あたしがまどかに嘘をついたことあると思う?」

 

「何回かある、かな」

 

「あ、あれ? そこは嘘でも無いって言う流れなんじゃないの?」

 

「__ふふっ」

 

 思っていた答えが返ってこなかったことに、さやかは頭をかいていてしまう。

 そんな姿を見ていたまどかは少しだけ笑みを浮かべ始めていたことに気付き、同じように笑みを浮かべていた。

 

「うん……大丈夫。もう大丈夫だよ。ありがとう、さやかちゃん」

 

「そっか。どういたしまして」

 

 いつの間にかまどかの体には震えが無くなり、表情も迷いの無い顔つきを浮かべていた。

 それが良いのか悪いのかはさやかには分からなかった___だが、目の前の護るべき親友の不安が拭えたことに間違いはないと思っていた。

 

 止まった足を動かし、もう少しばかり歩き進めると、見慣れた形をした一軒家が顔をのぞかせ始める。

 二人が目指していた目的地である、まどかの家だ。

 

「ただいまー」

 

「おー、おかえりまどか」

 

 自分の家が見えたことに、まどかは思わず駆け足で向かい扉を開けると、そこには廊下を歩いていたまどかの母親___鹿目詢子が娘の帰りを迎え入れていた。

 甘く和やかな雰囲気をしたまどかとは違い、強気で頼もしくも優しい雰囲気を纏っていた詢子は、飛びついてくるまどかをしっかりと受け止めていた。

 

「久しぶりさやかちゃん。最近遊びに来ないから、たっくんが寂しがってたわよ」

 

「あはは、お久しぶりですおばさん。もし良かったら、また今度お邪魔させてください」

 

「……ん?」

 

 家まで送ってきてくれたさやかの姿を見るやいなや、詢子は不思議そうな顔をしながらさやかの側に近づいて行く。

 妙な顔つきを作りながら近づいてきた詢子に、さやかは思わず後退りしてしまう。

 しかし詢子は、そんなさやかを気にする様子もなく眺め続けていると、何かに気づいたかのように声をかけた。

 

「ど、どうしました?」

 

「ねぇ、さやかちゃん。少し変わった……って言うか、雰囲気が見違えたわね。何かあった?」

 

「(あ、あっちゃー……こりゃまずったかも)」

 

 不思議そうな表情をしていたが、その表情には似合わないしっかりとした口調でさやかに言った。

 そしてさやかはまずいと考え始める。まどかとは違い、目の前にいる人物はひどく鋭い感性を持っていたことを思い出したからだ。

 たった数秒の会話と、さやかの姿を見ただけで何かがあったと疑ってくるほどに。

 

「あはは。何を言ってるんですか。久しぶりって言ってもそんな時間経ってないですよ?」

 

「んー……なーんか変なんだよね。目の前にいる子はさやかちゃんなのに、まるでさやかちゃんじゃない人を見てるみたいでさ」

 

「(ま、まずいよこれ。このままだと絶対バレるよ……!)」

 

 さやかは至って平常心を装おうとしていたのだが、内心は非常に焦っていた。

 詢子と同じように、まるで別人になったと言った仁美は、さやか本人と多くの会話を重ねた経緯があるからこそ気付いた結果だ。

 しかし目の前にいる詢子は、ただの世間話とさやかの姿を数秒眺めただけなのに、さやかの本質を見抜き始めていた。

 

 このままではバレてしまう。

 魔法を使わない限りバレるはずはないのだが、いきなり詰め寄られたことで動揺を隠せず、何かの拍子に自ら口を割ってしまうかもしれないと心配になり始め、無理矢理ではあるが行動に移した。

 

「あ、もうこんな時間だ! それじゃあまどかまた明日ねー!」

 

「あ、ちょっと」

 

「あー……またね、さやかちゃん!」

 

 このままではまずいと思ったさやかは、不思議そうな顔をするのを止めずにこちらを見続けている詢子を振り切ろうとする一心で、不自然だろうとも無理やりここから退散することを決行した。

 逃げ出すように飛び出していったさやかを眺めていた詢子は、何が何だか分からないような顔をしてしまう。

 

「どうしたのさやかちゃん? あんなに焦っちゃって」

 

「分かんない。お母さんが怖かったのかな?」

 

「なーんでよ……」

 

 急ぎの用事があるようにも思えなかったので、さやかの親友である愛娘に聞いていたのだが、あまり嬉しくない返答が返ってきたことにがっかりとしていたのだった。

 

「ふー、おばさん鋭すぎるでしょ。女の勘で片付けて良いレベルじゃないよ……」

 

 勢い良く飛び出していったさやかは、魔法少女の身体能力を使いまどかの家が見えなくなる位置にまで走り終わっていた。

 走り疲れたことによる汗は出ていなかったが、妙な冷や汗がにじみ出ているような気がして、袖を使い額を拭うポーズをとっていた。

 

「さーて、行きますかー」

 

 息を整え終わるとさやかはソウルジェムを取り出し、魔法で作られた大きな白いマントを使い体を包み込む。

 そこから出てきた体には、先ほど着ていた見滝原の制服は何処にもなく、魔法少女としての衣装で現れそのまま空高く飛翔した___三人の影がある場所に。

 

「もう大丈夫です。時間かけてすみません」

 

「良いのよ。少し時間をかけてあげたほうが、まどかさんも心配しないでしょう」

 

「それじゃ、ワルプルギス討伐に向けての特訓を始めるとするか」

 

「ええ……必ずこの世界で、全てを終わらすために」

 

 月明かりに照らされていた四人の影は、音を立てることもなく静かにその場から消えていった。

 この世界を。街を。少女を護る正義を持った者が。

 

 

 

 

 

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