強く気高く孤高のマミさん【完結】   作:ss書くマン

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8話 いつもとは違う世界

 

 

 

 

 

「ほむらちゃん、急に呼んでごめんね?」

 

「別に構わないわ…」

 

「……」

 

 まどかはほむらと話がしたいと思い、現在お昼休みの屋上で、石で作られた腰掛に座っていた。まどかと共に食事を取っているさやかは、ほむらのことを不審に思いながらも、魔法少女としての意見は貴重な情報だとまどかに説得され静かに座っている。

 さやかは悪い人間ではないのだが、強い印象に弱く、その時に感じた考えに固執してしまう性格でもある。魔法少女だとしても、拳銃片手にキュゥべえを追いかけ走り回っていたというものは良い印象ではない。とは言え、キュゥべえが今まで何をしてきたかという説明をマミから受けているので、ほむらに対しての考えは改めなければいけないとは思っているが、ほむらが何故そのような行動を取っていたのかが気になるところではあった。まどかは、これ以上魔法少女や魔女を増やさないために私たちを守ってくれているかもしれないと言っているが、ほむら自身の考えを聞くまでは大人しくする事が重要だろうと考えた。

 

 仮の話ではあるが、魔法少女が魔女を生み出すといった話を聞いていなければ、ここまでほむらに対して考えることはなかっただろう。ほむらはいたずらに魔法少女を増やすことを、グリーフシードの取り分が減ることを嫌い、魔法少女を生み出すキュゥべえを倒している嫌な奴としか思わなかっただろう。そうなると、こうして対話を試みること自体無かった話だと思う。自分自身感情的な行動を取ることは否めないと考えてはいるが、まだまだ感情の整理をする事が難しい年相応というものなのか、分かってはいても中々直すことができない。そういった所をキュゥべえは利用しているのだろうと思うと、キュゥべえが自分たちのような少女を狙う理由もなんとなく分かってしまう。分かったところで、キュゥべえのしていることは許せないのは変わりはない。

 

「それで、話っていうのは何かしら?私はあなたに呼ばれてここに来たわけだけれども」

 

「うん、話っていうのはね…って、ほむらちゃん、もしかして今日のお昼ご飯はそれだけなの?」

 

「……何か問題でもあるかしら?」

 

 ほむらはここに呼ばれた話。つまりは、本題の魔法少女についての話をまどかに促し、まどかはそれに答えようとするのだが、その前にほむらの手に持っているものに注目してしまった。まどかはお昼ご飯を食べながらゆっくり話でもしようと思ったのだが、まどかの持っている色とりどりの鮮やかなお弁当と対照的に、ほむらは栄養補助食品。つまりは、プロテインバーやチューブに入ったゼリー状の飲料だけが広げられていた。

 慣れた手つきでその袋を開けていき、作業と言わんばかりに淡々と齧っている。ほむらがどんな生活をしているかは分からないが、その食事風景はあまり健康的ではないのではと思いながらも、妙に様になっている姿にまどかとさやかは苦笑いを浮かべてしまう。

 ほむらは無口で無表情だが、その恵まれた容姿から人の目を引き付けるものがある。だが、決して安易に自分を見せないし、触れさせない。クールな性格といえばいいのだろうか。彼女は無駄なことを嫌い、自分の感情を荒立てることはせず、言うなれば、さやかとは真逆の性格をしているだろう。そんなほむらだからこそ、色とりどりの可愛いらしいお弁当を開いているよりも、時間を削らず栄養を補充するための、安易な栄養補助食品を食べている姿のほうが似合っているように見えてしまうのだろうか。

 とはいえ、似合っている似合っていないといった問題は別にして、まどかはそんな姿のほむらを不憫に思えて仕方がなかった。勝手に人のことを憐れむのは失礼かもしれないが、決して相手を蔑むような意味で思っているわけではない。ただ、彼女には何か美味しいものを食べてほしいと感じてしまった。

 

「ほむらちゃん、もし良かったら私のお弁当食べてみない?とっても美味しいよ」

 

「え?」

 

 食事は心を豊かにしてくれる。自分が今食べているお弁当も、料理が得意なお父さんが丹精込めて作ってくれたお弁当だった。見た目からもそのお弁当にどれだけの思いが込められているのか分かるほどで、それに比例して味も美味しいものに作られている。まどかはそんなお父さんのお弁当をいつも楽しみにしていた。お父さんの料理は自分にとって楽しみだと思えるのは、とても大切な気持ちだと思っている。だからこそ、ほむらにもその楽しみを分けてあげたいと思ってしまったのだろうか。魔法少女の話も大切かもしれないけど、それ以上に、今はこうして一緒に食事をしていることを楽しみたい。魔法少女の真実を重く受け止めてしまったからそう思っているのかはわからない。ただ、自分がそうしたいから行動を起こす。そんな想いで十分なのかもしれない。

 

「それは悪いわ。私は私で食事を持ってきているもの」

 

「それじゃあほむらちゃんのそれと私のおかずを交換しないかな?」

 

「……」

 

 妙に押しの強いまどかにほむらは、無表情ではあるが心の中で困惑してしまう。

 まどかに魔法少女の契約をしてほしくないほむらにとっては、魔法少女についての話を持ち掛けられたときは、何を話すのか少しばかり不安になっていた。そもそも、まどかの契約を止めるために、幾つもの時間軸を渡り歩いてきたのだが、裏路地でまどかたちに出会ってから、次の日に話をしたいとまどかが持ち掛けてくる時点で珍しい事であった。マミとの出会いも他の時間軸とはかけ離れた出会い方をしているのに、まどかたちにもその影響が来ているのか、いつもならさやかが自分とは関わらないようにまどかに言い聞かせているはずなのに、そういった様子も特に無い。むしろ、今回のさやかは友好的なように見える。いつもなら警戒心を分かりやすいほどに向けてくるのだが、そういったこともせず、静かにこちらの話を聞いている。小さな違いかもしれないが、珍しいことには変わりはなかった。

 話を戻して、お弁当を変えてほしいと願うまどかに目を向ける。不安そうな様子もなく、怯えるような震えもなく、力強い意思でこちらに話しかけている。こうなったまどかは何が何でも自分の意志を貫こうとするものであった。それは、違う時間軸のまどかの話かもしれないが、まどかはまどかに変わりはない。そう思い、ほむらは諦めるようにため息を付き、まどかに話しかける。

 

「分かったわ…私のを一つ上げるから、あなたのも一つ頂戴」

 

「うん!今日は唐揚げが特に美味しいから、唐揚げを上げるね!」

 

「ほーむら、私のハンバーグも上げるから一個頂戴」

 

「……そ、そう…分かったわ…」

 

「うぇひひ、さやかちゃんも一緒に交換だね」

 

 これは夢なのだろうか。ほむらにとってはそう思えて仕方がなかった。今回の時間軸はイレギュラーだと分かっていたけれども、さやかにまでここまで影響が出ているとは思ってもいなかった。ほぼ全ての時間軸で起きることなのだが、基本的にほむらとさやかは敵対関係にあることが多い。さやかに対して友好関係を築こうとしないほむらも悪いのだが、さやかの勘の鋭さと感情的に動く所が噛み合わなさ過ぎるというものもある。お互い、必要以上に関わろうとしないのも悪いのかもしれないが、そもそも性格の相性があるのだろう。

 とにかく、今の所ほむらとさやかは関わってから一日しかたっていないはずなのだが、それでもここまでさやかから友好的に近づこうとしてくるのはそうそうない。呼び方も、普段であればほむらと名前で呼ばず転校生としか呼ばない。自分たちとは別の枠でとらえるような意味を含ませるように、警戒心も込めて態々そんな風に言うのだが、初めから名前で呼ぶのは本当に珍しい。

 

 何故ここまでまどかとさやかに他の時間軸とは違う行動や影響が出ているのか。やはりマミの存在が大きいと考えられるだろう。他の時間軸でもいえることだが、まどかとさやかはマミのことを大好きな先輩だと慕っていることが多い。魔法少女としての正義といったものを貫き、その容姿に拍車をかけるように、魔女との戦いを優雅に魅せる余裕や、物腰も柔らかく料理もできる。服装もお洒落といえるし、中学生とは思えない雰囲気を出している。まどかとさやかがマミに対して憧れを抱いてしまうのは仕方がない。ほむら自身もそうだったから。

 今ではマミのことをまどかの契約を促す邪魔な存在と認識してしまうこともあるが、それだけ彼女はまどかとさやかに対して影響力が顕著に出てしまう。影響を受けやすいお年頃というのもあるが、それを踏まえてもマミとの相乗効果は大きいだろう。

 つまりは、ここまで彼女たちに変化が起きているというのは、マミとの会話の内容に今までの事以外の話をしているに違いないだろう。そうじゃなければ、ここまでの流れに説明がつかない。食べ終わったプロテインバーの袋を開き、その上にまどかたちから貰った唐揚げとハンバーグを見つめながら思っていた。

 

「んむむ…こういった食べ物ってもしかしたら初めて食べるかも」

 

「そうなの?私はおやつ替わりで食べた時があったからなんだか懐かしいなー」

 

「おやつで食べるものなのかな…?って、ほむらちゃん、ご飯食べないの?」

 

「え?…ああ、そうね。いただくとするわ…」

 

 まどかたちの方を見ていると、ほむらから貰ったプロテインバーを食べていた。口の中がパサつくのか、少し食べにくそうにしてはいるが、決していやそうな顔はしていない。

 ほむらの視線に気づいたまどかは、袋に乗っている唐揚げを食べるように促する。まどかに言われた通りに唐揚げを食べようとはするのだが、少しばかり戸惑ってしまう。プロテインバーは袋を持った状態で食せれるものだったが、唐揚げなどは箸やフォークで食べたりするので、どう食べようかと考えてしまう。マナーなどは気にする場所ではないので手で掴むのも良いかもしれないが、やはり少しばかり行儀が悪い。などと考えていると、まどかがそれに気づいたのか声をかけてくる。

 

「あ、ほむらちゃん箸が…もし良かったら、私の箸…使う?」

 

「……そうね、あなたが良ければそうさせてもらうわ」

 

 やはり、手で掴んで食べるのは遠慮したかったのか、まどかの提案に少し固まりながらも受け入れることにする。幸い自分は潔癖症と言われるものは持ち合わせていないので、人が口をつけた料理や飲み物は大丈夫な方だった。もちろん、知らない相手のものは受け入れることはできないが、まどかやさやかのことは自分から見れば長い付き合いなので、そんなことを気にするような関係だと思っていない。

 まどかに言われた通り、箸がこちらに渡されるのを待っていたのだが、いつまで経ってもこちらに箸を渡す様子はなかった。むしろ、まどかが箸を持ったまま唐揚げをつかみ、こちらの顔へ近づけていく。唐揚げの下には丁寧に手のひらを添えながら。

 

「……?」

 

「はい、あーん」

 

「……!?」

 

「おー、まどかも大胆だねえ」

 

 何をしているのか理解が追い付かずに思考が止まっていた。自分が何をされているのか分からなくなっていた。そもそも予想をはるかに超えている出来事であり、自分に非があるとは思えない。いや、だれが悪いとか悪くないとかそう言った話ではないのだが、とにかく、まどかは何をしているのだろうか。さやかは茶々を入れるように話しかけてくるが、ほむらにとってはそれどころではなかった。ここは本当に現実なのだろうか。夢ではないのだろうか。いや、自分が深く考えているだけであってまどかはそこまでの考えはないだろう。ただ、自分に食べ物を渡しているだけに過ぎない。分かってはいるけれども、それでも目の前で起きている現象が頭の中で否定していた。否定したくはない出来事ではあるが、現実離れしているといっていいのだろうか。一番現実離れをしている魔法少女が現実離れなんて口にするものではないかもしれないが、そこまで友好関係を深めていないはずのまどかから、むしろ、突き放すような、冷たくしている態度を取っていたはずなのに、ここまで気をかけてくれることが何か変にも思えてしまって困惑を隠せない。

 

 ほむらとは対照的に、まどかは不思議そうにこちらを見つめていた。それもそのはず。まどか自身からすれば食べ物を食べさしているに過ぎなかった。確かに少し恥ずかしいかもしれない。茶々を入れて来たさやかの声で自分が何をやっているか、どんなことをしているか分かった。ただ、無意識にしてしまった行動だった。

 まどかには小さい弟がいるのだが、食べ物を食べさせてあげることには慣れていたので、自然とそんな行動を起こしてしまったに過ぎない。深い意味があったわけではないのだが、同年代の女の子にするような行為ではなかっただろうか。

 目の前のほむらはほんの少し頬を赤くして慌てていた。いつもの無表情はどこに行ったのかと聞きたいほどに慌ててしまっているのが目に見えて分かった。さやかもそんなほむらの様子を見てくすくすと声を抑えながら笑っている。ほむらはクールな見た目や雰囲気ではあるが、やはり年相応の女の子だった。予想外のことをされて表情がはがれたその姿を見て、まどかたちはほむらに親しみを覚える。

 

「どう、美味しい?」

 

「……ええ、とっても美味しいわ。あなたのお父さんはとても素敵な料理を作るのね」

 

「うん!…って、凄いねほむらちゃん。お父さんが私のお弁当作ったって分かるなんて」

 

「あー、確かによく気が付いたね」

 

「……ハンバーグもいただいていいかしら?」

 

「あ、うん!」

 

 迂闊だった。普通ならば母親がお弁当を作ったと思うはずなのに、ほむらはそのお弁当が誰が作っているのかを知っているが故に言い間違いをしてしまった。彼女たちの優しさに、まるで、昔のように戻ったみたいに感じてしまい気が緩んでしまった。

 言ってしまったことは仕方ないと思い、話を進めるためにさやかから貰ったハンバーグをまどかにお願いする。切り替えの早さが功を奏したのか、まどかたちはそれ以上の事を触れはしなかった。

 

「誰か来るわね…」

 

「あらー…話はまた今度かね」

 

「うぇひひ、仕方ないよさやかちゃん。私たちだけが使うわけじゃないもんね」

 

 まどかたちとお弁当の中身を交換し終えてから間もなく、入口のほうから誰かが歩いてくるような音がする。ほかの生徒が屋上にやってきた音だろう。本来であれば魔法少女の話をしたいと思い屋上に集まったのだが、関係のない人がこの話を聞いてしまえば変な顔をされてしまうだろうし、興味本位で信じてしまわれても困ってしまう。仕方がないので、今回の件についてはお流れになると思ったのだが…。

 

「あら、来るのが少し遅かったみたいね」

 

「「マミさん!」」

 

「巴マミ……」

 

「お昼ご飯…ご一緒してもいいかしら?」

 

 まどかたちの変わりようを見て来て、今一番警戒している人物が来てしまった。そしてそれはマミも同様のことを思っているだろう。どうやら、話せないと思っていた魔法少女の話はマミも加わり、より一層不安が立ち込める会話になるのかもしれない。

 ほむらは、マミの悪気の無い笑顔の表情をみて、複雑な思いを含み彼女の名前を小さく呟いた。

 

 

 

 

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