※物語の『転』の部分に差し掛かる重要な場面でしたので、ちょっと構成を考えるのに時間をかけさせて頂きました(´・ω・`)
数ヶ月前……
「じゃあ、行ってくる」
「はい……」
「心配するな、すぐに戻ってくるよ」
「でも何だか私、胸騒ぎがして……」
「カタリナ…必ず戻るって約束する。お前やマルス様のいるこのアリティアに」
「……約束ですよ、クリス」
こうして彼は旅立ちました。そしてそれからすぐ後に……私もアリティアを。
もし私のいた世界がアスクで過ごしていた時と同じ時間で進んでいたら、きっと今頃彼も戻っているはず。
しかしそんな私の淡い期待は予想を遥かに越えた形で裏切られることになりました。
☆
「えっ…! ロディさん、今なんて……」
「だから一体誰のことを話しているんだい? 私はクリスなんて人物は知らないが」
「セ、セシルさんも…ですか?」
「そうよ。私もその人のことは知らないわね」
「どうしてですか!?騎士団に入った時からずっと一緒だったのに…どうして……」
「すまない。でもこれは本当のことなんだ」
「ごめん、カタリナ…でも私はあなたが嘘をついてるとは思ってないわ。もし何か思い出したらすぐに話に行くから」
「ありがとうございます。ロディさん、セシルさん。戻って来て早々お騒がせしました……」
「どうでしたか? カタリナさん?」
「ダメでした。どうしてか二人ともクリスについて何も覚えていないみたいです」
「他にクリスさんと関係が深い人は誰かいますか?」
「ライアンは今ゴードンさんと一緒にアカネイアに行ってるみたいで、ルークも騎士団を止めたっきりで行方はよく分かっていないようです」
「うーん、困りましたね。ここでなら何か情報を得られると思ったんですが」
「行方を知らないならともかく、存在そのものってのは妙な話だ」
「そうですね」
「エクラさんの方はどうでしたか?」
「一般兵だけでなく、上官だったカインとかにも聞いてみたけどサッパリ。今アルフォンス達が英雄王マルスの元に行ってるけども、あまり期待は……」
「でもどうしてこの世界の人達は、クリスさんのことを覚えていなんでしょうか? 一緒に戦ってきた大切な仲間のはずなのに」
「何か関係があるのかもしれない。彼の英雄としての軌跡がどの文書にも記されていないことと」
「それってどういう……」
「シャロン、簡単な話さ。もしもクリスがこの世界にいる全ての人から忘れ去られて最初から存在しないことになってしまった場合、その後どうなる?」
「ええっと…ど、どうなるんですか?」
「誰の記憶にも残らない、つまり彼のことが後世に伝承されることはなくなるんだ」
「そんな! じゃあこのままクリスさんの手掛かりをつかめなかったら……」
「やめてくださいッ!!!」
「カタリナ……」
「カタリナさん……」
「クリスは存在します…だって私にはその記憶がある。彼と過ごしたかけがえのない思い出が__」
『だったら、これから罪を償えばいい。
それは楽なことじゃない。お前の組織からも、アリティアからも白い目で見られるだろう……
でも、これだけは約束する。たとえ何があっても……俺は、お前の味方だ』
『戻ってこい、カタリナ』
「……例え話とはいえ、そんなのツラすぎるもんね。
ごめんカタリナ、君の気持ちを考えるべきだった…」
「カタリナさん。よかったこれ使ってください」
シャロンさんからハンカチを手渡される。
どうやらいつの間にか私は泣いていたみたいです。それにあんなに大きな声を出して…何だか少し恥ずかしいです……
「エクラ、今カタリナの声が聞こえたけども何があったんだい?」
「悪いねアルフォンス、ちょっと色々あって」
「あれっ、お兄様の隣にいる人って」
「ああ、彼は"伝承の英雄王"のマルス王だ」
「初めまして。それと久しぶりだねカタリナ、さっき凄く大きな声を出していたけども大丈夫かい?」
「マルス様っ! お久しぶりです! それと…長い間お城から離れてしまっていて申し訳ありませんでした!!」
「謝らなくても問題ないよ。事情はアルフォンス王子から聞いているから、大変だったね」
「ありがとうございます……それでマルス様、一つ尋ねたいことがあるのですが」
「何だい?」
「マルス様は、クリスという騎士をご存じでしょうか……?」
「____ッ!! カタリナ、覚えていたのかい?」
「えっ?」
「"覚えていた"?」
「マルス王、その言葉はどういう意味ですか」
「……場所を移そう。彼の為にもあまり他の者に聞かれたくないからね」
マルス様の意味深な言葉に身震いをさせながら、私とエクラさん達は後をついて行きました。
それから私達は玉座のある大広間まで歩き、そこで話をすることになりました。
「ここなら問題ないかな」
「なら教えてほしい。他の人達がみんなクリスのことを忘れている中で何故あなただけが彼のことを覚えているのか」
「それは彼がそうなることを望んでいたからなんだ」
「何だって…?」
「クリスが…?!」
「うん。あの日、クリスは僕に大事な用があると言われてこの場で話したんだ」
『アリティアから離れる? 随分と急な話だね。何かあったのかい?』
『……すみません。今回の件はマルス様にも話せないんです』
『そうか、どのくらいの間ここを離れるつもりなんだい』
『分からないです』
『えっ? 分からないって、それはどういう……』
『詳しくは言えませんがこれはマルス様や他の皆、この大陸全体にも関わる任務なんです』
『そんな大変なことを君一人で解決するつもりなのかい?』
『マルス様、暗黒竜メディウスを倒した時に俺が言ったことを覚えていますか?』
『えっと……名声はいらない。俺の名が語られないことが望みだ__だったかな』
『そうです。今回挑む任務は、俺のような影の者にしかこなせないものなのです』
『…………』
『それともう一つ、マルス様に伝えておかなけれないけないことが』
『何だい…?』
『俺がここから離れている間、きっとマルス様以外全員の人達から俺についての記憶が無くなります』
『__ッ!? 何だって!?」
『本当はマルス様も含めて皆が忘れるはずだったんですけども、俺がどうしてもって頼んだんです』
『クリス……分かった。何をするのかは良く分からないが僕や皆の分も頑張ってきてくれ。でもこれだけは必ず約束してほしい』
『何でしょうか?』
『必ず無事に帰ってきてくれ。僕がこの大陸の人々を守るためにも君の力は絶対に必要なんだ』
『はいッ! マルス様との約束、必ず果たしてみせます!!』
「そんなことがあったんですね。じゃあ今もクリスさんは……」
「きっと"任務"の為に何処かで頑張っていると思う」
マルス様の話を聞いて、私は一つの確信に至った。
あの時、最後にクリスと話した時、彼は既に決めていたんだ。大事な"任務"を終えるまでここに戻らないって……
そう気づいた瞬間、私の体から全ての力が抜けていった。
「そんな……ああっ……」
「カ、カタリナさん。しっかりしてください!!」
「奥の部屋で休ませてあげよう。シャロン王女、手を貸してもらえるかい?」
「はい!」
「いえ、大丈夫です。私一人でも歩けますか、ら……」
シャロンさんとマルス様の介抱を断って、ゆらゆらと奥の部屋へと歩いていく。
「カタリナさん大丈夫でしょうか……」
「大切な人が事情を何も言わずにいなくなっちゃったんだ。ああなっちまうのも無理もないよ」
後ろの方でエクラさん達が何か話している気がしましたが、耳をすまして内容を聞くだけの気力は今の私にはありませんでした。
★
「それにしても……不思議だな」
「アルフォンス?」
「マルス王の話によればクリスがこの場所から離れる時、彼についての記憶はマルス王以外の者から消えてなくなってしまうんだよね」
「うん、そう言ってたね」
「ならばどうしてカタリナだけは彼のことを忘れていなかったんだろう?」
「!!」
「言われてみれば…そうですね!」
「それに記憶を消す。なんて言っていたけども、そんなこと本当に出来るとは思えない」
「でも現にカタリナとマルス以外の記憶からはサッパリ消えちまってるじゃない」
「うん……ひょっとしたらクリスはとんでもないことに巻き込まれているのかもしれないね」
「それって__」
シャロンが話そうとした瞬間、大広間の扉が勢いよく開かれた。
一同がその方向を向くと血相を変えたアンナが彼らの方に走ってきていた。
「はあ……はあ……こ、ここにいたのね」
「アンナ隊長、どうかしたんですか? そんなに息を切らして」
「呑気なこと言ってる場合じゃないわよ、アルフォンス」
「呑気って…一体何があったんです?」
「敵襲よ! エンブラ帝国がこの城に攻めてきたの!!」
アンナのその一言で場の空気がガラリと変わる。
「何だって!?」
「隊長……外はどんな感じになってるんですか?」
「この城全体をぐるりと囲んでいるわ。今騎士団の人達が彼らと交戦している最中よ」
「アルフォンスどうする?」
「……このまま見過ごすわけにもいかない。彼らを助けよう!」
「了解ッ! 行こう。シャロン、アンナ隊長」
「ええっ!」
「行きましょう!」
「マルス王、微力ながら加勢させていただくけども問題ないでしょうか」
「とんでもない、とても心強いよ。本当にありがとう」
「じゃあ行きましょう。この世界を守る為にッ!!」
★
『クリス。短くて素敵なお名前です。じゃあ一緒ですね私たち。
私はカタリナと申します。私もマルス様にお仕えしたくてここへやって参りました』
『良かった…クリスの勝ちです。私、信じてました』
『私たち二人で力を合わせて、一緒にマルス様をお助けする…
そんな未来を想像すると幸せな気持ちになります。
……あの、クリスはどうですか? クリスも私と……』
『ああ、もちろんだ』
どうして…どうしてですか。どうして私には何も言わないで行ってしまったんですか。
これまで抑えていた気持ちが胸の奥底から溢れ出る。それはとても痛くて、苦しくて、切なくて……
そうしてしばらくの間、私はベッドの上で悶々としていました。
でも時間が経つにつれて少しではあるけども、落ち着きを取り戻すことは出来ました。
募る不安を紛らわそうと、何か他のことに目を向けようとした時、何やら外の方から大きな音が聞こえてきました。
「……何だか騒がしいですね。何かあったのでしょうか?」
「ふふ、何か困ってるみたいねぇ」
気になって窓を開けようとした瞬間、背後から誰かが私に話しかけてきました。
「だ、誰ですか!?」
「あらん。そういえばあなたと会うのは初めてかもしれないわねぇ」
まさか敵襲?! 武器を構えて迎撃しようとしましたが、その人は動揺する素振りすら見せずにただ笑ってこちらを見ていた。
「自己紹介をさせてもらうわ。私はロキ、ヴェロニカ皇女と同じくエンブラの者って覚えてもらえばいいかしら? 今はね」
「ロキ……確か以前にエクラさん達から聞いたことがあります」
「私のこと知っていたのね、嬉しいわぁ」
「そんなあなたが私に何の用ですか……」
「ふふっ、そんなに構えないで。今日はあなたにとって、とぉーっても良い話をしにきたのよ。カタリナさんっ」
次回は、とあるキャラがお話に登場します!
"第6話 一途な願い"をどうかお楽しみに~(*'ω'*)