「それじゃ早くカタリナを追いかけましょう!」
「ああ、だがこの先に待ち受けるのは未知の空間。慎重に進軍していこう」
「へへ、くれぐれも足を引っ張るんじゃねーぞ」
「……それはこっちのセリフだ。鍛錬をサボって腕がナマってないか心配だ」
「見くびってもらっちゃ困るぜ。俺の強さは日々進化し続けているからな!」
「……逆に不安になるわね」
「あはは……」
「笑ってるけどよお前はどうなんだよライアン?」
「ライアンはあれから更に弓の腕を磨き、あのジョルジュ殿の弟子になってる。お前の進化よりももっと先を行ってると思うぞ」
「い、いや兄さんや師匠と比べてもまだまだの実力です……」
「謙遜しなくてもいいのよ。少なくともそこのヤツよりは数段あなたの方が強いだろうし」
「そこまで言うなら見せてやるよ"猪突猛進の従騎士"ルーク様の強さをな!」
「何だその何とも言えない二つ名は……」
そんなやり取りをしていると仮面の戦士 マルスが彼らの元にやって来て、あることを告げた。
「異界の英雄達よ、すまないが君達と同行することが出来なくなってしまった。ここから先は君達4人の力だけで進まなくてはならないがよいだろうか?」
「構わない。みんなも問題はないか?」
「答えるまでもないわ」
「俺達なら心配いらねぇよ」
「だから安心してマルスさんは自分のお仕事に専念してください」
「ありがとう。君達の健闘を祈ってる」
ルーク、ロディ、セシル、ライアンの4人はマルスと別れを告げて、戦渦の中へと進んでいった。
彼らを進軍を見届けたマルスは腰にかけたファルシオンをゆっくりと抜き、背後に向かって話しかけた。
「そこにいるのは分かっている、隠れないで出てきたらどうだ?」
マルスがそう言うと、それまで何もいなかった空間から突然一人の男が現れた。
その男は全身をコートで覆っており、顔はフードを深く被っているせいで口元以外はほとんど窺えない。
一見すると怪しさ満点な人物だがマルスは特に警戒した様子もなく男と自然に会話を始めた。
『やはり気づいていたか。さすが邪竜ギムレーから世界を救った英雄だ』
「その口ぶりだと僕の正体も知っているようだな」
『それはそちらも同じことだろ?』
「正体は知らないさ、セレナ達から聞いたのはあなたの存在と仕事の内容だけなんだ」
『なるほど、私に対して警戒の様子を見せなかったのもその為か』
「あぁ…あなたのお蔭で僕達の大切な場所を蘇らせてもらったからね。
世界は違えども僕はとても嬉しかったんだ。その話をしたら彼女達も喜んでいたよ」
『そうか。それなら良かった』
マルスの話を聞き、フードの男の口元が少しだけ緩んだ。
その様子を見てマルスも微笑むが、視線を戦渦へと向けて真剣な表情を見せる。
「話はここまでだ。あなたも僕と同じく戦渦に抗っているのだろう? それならば僕達と一緒に戦ってくれないか?」
『勿論そのつもりだ。だがもう私達が出る幕はないだろう』
「え?」
『君が第七小隊の英雄達に頼んだのと同じく、私もある者に依頼をしている』
「依頼? 一体誰に?」
『“影の英雄” かつて英雄王マルスと共に戦った腹心であり、友であった男だ』
☆
「____ッ!!」
「くっ…ファ、ファイアー!」
(見た目は私が知るクリスと全く同じ。でも何かが違う…!)
突如剣を構えて襲い掛かってきたクリスにカタリナは困惑しながらも応戦していた。
しかしここまで幾つもの異界で様々な敵達と戦い続けていた為、カタリナは疲弊しきっていた。
そしてそれは彼女に致命的な失敗を引き起こしてしまう。
「あっ……!」
剣撃を避けつつ、魔法で反撃するスタイルで立ち回っていたカタリナだったが、疲れによりか自分の足に引っかかり転倒してしまう。
慌てて体を起こそうとするが、その時にはクリスの剣先は既に彼女に向けていた。
「____」
「クリス、どうして……?」
きっと返事なんか返ってこない。そう思いながらも投げかけた言葉はクリスに意外な反応を見せた。
『……スマナイ。マタ、オレハオマエヲ__』
「えっ?」
驚きを顕にするカタリナ。それと同時にクリスの剣は彼女に向けて振り下ろされていた。
(どうしてクリスはこんなことを……分からない。でもそれが彼が決めたことならば私は……)
『はい。私がこうしていられるのはクリスのおかげですから…
そのお返しがしたいんです。私、クリスのためなら何でもします。』
かつて自分が口にした言葉を思い出したカタリナは小さく微笑み、ゆっくりと目を瞑った。
色々なことが一度に起きて困惑していたが、彼女はそれら全てを忘れて目の前で行われるクリスの行動をただ受け入れることにした。
そして____ガキン。という金属同士が激しくぶつかり合う音がカタリナの耳に響いた。
「え?」
不思議に思い、目を開けてみると何者かがクリスの剣を受け止めていた。
「くっ……フッ、ハアッ!!」
「____!!」
その者は力強くクリスを押し飛ばし、両手に構えた剣で勢いよく斬りつける。
斬撃を受けたクリスは苦しく悶えながら地面に伏した。
「ふぅ。カタリナ怪我はなかったか?」
「あ、あ……」
その者はカタリナに背を向けているせいで顔は見ることは出来ない。
だがその背中を見るだけで彼女はそれが一体誰のものなのか瞬時に理解していた。
そして優しく語りかけたその声で確信した。
「クリス!!!」
自分がずっと探し求めていた本物の彼が来てくれたことに。
次回、第9話 失われた世界