『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
リューさんが引っ越してきてから早三日。
リューさんは旅に出るのを一週間後と決めた。
それまでしばらくはリューさんとずっと一緒に居られる…と思いきやである。
まずある程度の団員を擁していた元【アポロン・ファミリア】の本拠【竃火の館】は無駄に広い。そのせいでリューさんの部屋と少し遠くなってしまったこと。これは神様がイチャイチャ防止を名分に強行されてしまった。
それで神様相手に僕となぜか一緒に住むことになっていたシルさんが猛抗議していた。
だがこの結末の決定打になったのはリューさんの『ベルと同じ屋根の下で生活できるならそれだけでも幸せ。』という一言。
…そう言ってもらえるとすっごく嬉しいんだけど、近くの部屋か同じ部屋でずっと一緒にお話ししたいと思っていた僕的にはやや不満。僕に加勢したシルさんも『リューにもっと欲があれば…』と嘆いていた。
さらに超久々の遠征が【ヘスティア・ファミリア】で行われることになり、その準備に僕までも忙殺されてしまって、案外暇な時間がない。
そして
それはリューさんがほとんど【竃火の館】にいないということである。
それもシルさんと一緒に。早朝にはもう出かけていて、原則僕と昨日、一昨日と顔を合わせていない。正直寂しい…
一日目は『豊穣の女主人』で何かあるのだろうと思って聞くこともなかったが、二日もいないと流石に気になる。
ということで僕は今日一日玄関でリューさんが帰ってくるまで待ち伏せしようと思い立った。
それでずっと玄関の前で待っていれば、当然勘が鋭いリリじゃなくてもみんな気づいてしまうわけで、流れでリューさんが帰ってきたら問い詰めるという形になってしまった。
言うまでもなく首謀者は神様。それも浮気を疑うという僕的にはあり得ない案件。
リューさんと一緒に移られたアストレア様が神様相手にはかなり頼りになりそうだったが、アストレア様までなぜか不在。リューさんを擁護するみんなの言葉も神様は聞く耳を持たず、結局みんなで玄関に待機という奇妙な状況になっていた。
玄関のドアがギーッと開く。
そこから姿を現したのは、リューさん、シルさん、さらにアストレア様だった。
【ヘスティア・ファミリア】のみんなが玄関で待機しているのに三人は訝しむような表情を浮かべた。
「あら。皆さん。一体こんなところに集まってどうかなされたのですか?」
シルさんが最初に口を開く。…笑顔だけど…いや笑顔だからすっごく怖い…
「なーに。ちょっと二日も不在っていうのがちょーっと気になってねぇ。エルフ君。さては君が浮気でもしてるんじゃないかって不安になったんだよ。僕のベル君が騙されたんじゃないかって心配でねぇ。」
それに神様がおちょくるような口調で対応する。
「心外ですわ。ヘスティア様。私達はきちんと用事があって出かけているのです。オラリオに出る前にやらないといけないことがあるので。」
「ふーん。そうかい。じゃあその証拠はあるのかい?」
神様がないだろうと言わんばかりに尋ねる。
「そんなの…!」
「シル。」
シルさんが少し怒って反撃しようとした所をリューさんが静かに制止する。
そしてリューさんは僕の方を向いて尋ねてきた。
ただその表情には悲しみが浮かんでいるように見えた。
「…ベルは私を疑っているのですか?」
リューさんが今にも涙が出そうな表情で尋ねてくる。
そんなのじゃない。
元々は神様のせいで…
違う。人のせいにしちゃいけない。
最初に僕が何も言わなかったからリューさんにこんな表情をさせてしまったんだ。
僕は僕できっちりと僕の思っていることを伝えなきゃ。
「そんなことあり得ません。僕はリューさんのこと信じていますから。ただ二日間も会えなかったのは僕ちょっと寂しかったなぁ…って。」
そう僕が言うとリューさんは感極まったような表情に変わる。
「ベル!」
リューさんは僕の名前を読んだかと思うと周囲の目も気にせずに僕の胸に飛び込んできてしまった。
「こう言うと…私の身勝手ですが…私も寂しかった…」
リューさんがボソボソと言う。…周りの生暖かい視線?そんなの気にしてられないよ?
「…話します。ベルにやはり隠し事はできない…」
そう言って僕の顔を見上げるリューさんはとても可愛かった。
リューさんの大胆不敵な行動のおかげで瞬時に浮気容疑は吹き飛び、みんなの猛批判を食らった神様は逃げるように去って行き、残ったみんなでリューさんの話を部屋で聞くことになった。
「実はこれに関して調べているのです。」
そう言ってリューさんが持ってきた袋から取り出したのは一本の酒瓶。
するとリリが真っ先にその瓶に反応を示した。
「これって…ソーマ様の…?」
「はい。【ソーマ・ファミリア】のソーマの酒瓶です。これが安価に市場に出回り、深刻な中毒が広がろうとしています。」
「ですが…今ソーマ様は改心して…」
リリは信じられないような表情でリューさんを見つめる。前の主神のソーマ様とはそれなりに関係が改善したと聞くから、尚更信じたくないのだろう。
「その通りです。神ソーマはただでさえギルドによる罰を受け、さらに改心したのはアーデさんからお聞きしています。なので真犯人が神ソーマを隠れ蓑にしている可能性が高いと睨んでいます。」
リューさんがリリを安心させるように言うとリリは一瞬ホッとしたような表情になるが、すぐに表情が引き締まる。
「それでソーマ様の潔白の証拠は…?」
そう聞くとリューさんは首を振った。
「いえ…」
「私は『豊穣の女主人』で男神様達に聞いてみたんだけど、そのお酒が微妙にまずいってことととにかく安いってことくらいしか分からなくて…」
「私はガネーシャのところに行きましたが、【ガネーシャ・ファミリア】もこれと言った情報を掴めておらず…」
リューさんの言葉にシルさんとアストレア様が付け加える。どうやら三人で調べ回っていたみたいだ。これで三人がいなかった理由が分かった。
「なぁ一つ聞くが、なんで俺らを頼らなかったんだ?三人で調べようったって限度があるだろ?」
ここでヴェルフが僕も実は抱いていた疑問を口にしてくれた。するとシルさんとアストレア様の視線がリューさんの方に向く。
「…【ヘスティア・ファミリア】の皆さんは遠征が近いです。なので迷惑をかけたくありませんでした。きっとベルは伝えると遠征よりも優先してしまう気がしたので…」
「あーベル様ならあり得ますねー」
「ベル最近もうにぞっこんだからなー」
「ちょっとリリもヴェルフも何言ってんの!?僕はそんなこと…」
リリとヴェルフがリューさんの言葉をあっさり納得してしまうのに恥ずかしさもあって反発する。だが納得したのは二人だけでは止まらなかった。
「ベル殿…まさかご自分で気づいておられないのですか?手持ち無沙汰な時にだらしない表情でいらっしゃる時が今までになく増えていますよ?」
命さん…本当ですか?僕そんなに…
「まぁーリューも似たようなものだけど、ベルさんデレデレしてる時多いですもんねー今まではなかったのに。」
恨めしそーにシルさんが言う。…うん。からかってるなこれ。しかもリューさんが今巻き込まれて、リューさんまで顔を赤くしてるんだけど…
「ということでリュー様の御気遣いには感謝しますね。ただでさえ最近リュー様のことで頭がボーとしてるベル様がお陰様である程度仕事をこなしてくれましたから。」
…リリ。それまるで僕が団長としての仕事きちんと果たせてないと言わんばかりだよね?
「でも、です。」
リリが強調するように言葉を切る。
「リュー様がベル様の未来の家族ならば、ファミリアの私達にとっても家族みたいなものなんじゃないかなって思います。そもそも【アストレア・ファミリア】とも派閥連合を組むって話はもう成立してますしね。」
「その通りです。なので私たちを頼っていただけると嬉しく思います。」
「まっベルを遠征できちんと戦力にする手助けをすると思ってな。頼ってくれよ。」
リリ、命さん、ヴェルフがリューさんに頼って欲しいと伝える。僕の言いたいこともうみんな言われちゃったことない?…ただヴェルフのは余計かな。
みんなの言葉を聞いたリューさんは意を決してくれたようだ。
「分かりました。ではお言葉に甘えて頼らせていただきます。よろしくお願いします。」
リューさんはそう言って頭を下げた。
「それで?俺らは何すればいいんだ?【アストレア・ファミリア】にずっといたあんたが一番分かるんじゃないか?」
「そうですね。リュー様。ご指示を。」
ヴェルフとリリがリューさんに何をしたらいいか尋ねる。だがリューさんは俯いてしまって答えてくれない。すると代わりにアストレア様が答えてくださった。
「…実は以前リューは【アストレア・ファミリア】きっての武闘派で…」
アストレア様の言葉にみんなの頭の中に等しくハテナマークが生まれたんじゃないかと思う。だってリューさんが強いのは周知の事実だから。だけどアストレア様の言葉には続きがあった。
「潜入などにはちょっと向いていないと言うか…とにかく余程の事情がない限りリューが潜入捜査などに携わることはなく、リューはアジトへの捜査を強行するなど武力が必要になる時のみ参加していました…」
一気に沈黙が広がる。
…あれ?確かカジノに潜入してたことあったような…でもよく考えたら僕が入った時にゲームをしていたのはシルさん。そして騒ぎを起こしたのは間違えなくリューさん。
…まさかリューさん実は結構短気だったりする?
「…私は同僚から駆け引き等を教えられていましたが、どうもなぜかいつも戦闘に発展してしまって…」
リューさんが首を傾げながらアストレア様の言葉に補足する。
…うん。確かに。私はいつもやり過ぎてしまう、だなんて言葉じゃ済まないくらい大暴れすること多いよね。リューさん。
「今回もリューにはそのお酒を飲んだと思われる酔っ払いを『起こしてあげて』、その上でどこで手に入れたのか『聞いたんだよね』。」
…シルさんの言葉が僕の頭では『酔っ払いを『ボコボコにして』、その上でどこで手に入れたのか『吐かせたんだよね』。』って聞こえるけど…気のせいじゃ…ない?
「…はい。そのおかげで中心的に販売されている地区は特定できました。」
リューさんが気まずそうに言う。…きっと僕の予想通りなのかもな…
「今後はその販売地区の調査に動くつもりでした。【ガネーシャ・ファミリア】に後を託さないといけないかと思っていましたが…【ヘスティア・ファミリア】の方々の協力があるならなんとかなるかもしれません。それでは私から今後の動きをお伝えしてもよろしいですか?」
どうやら指揮を取っているのはアストレア様のようだ。みんなで頷くとアストレア様は言葉を続けた。
「まずリリルカさんは元【ソーマ・ファミリア】所属だそうですね?念のため【ソーマ・ファミリア】の潔白を証明できるように調べてください。」
「分かりました。やってみます。」
「シルさんは引き続き『豊穣の女主人』で聞き込みを。」
「はい。任せてください。」
「私を含めたリュー以外の後の方々は販売地区で聞き込みを。そしてリューは武力行使が必要になるまで待機で。」
「「「「はい。」」」」
アストレア様が次々に指示を飛ばしていく。やはりオラリアの治安維持を担った【アストレア・ファミリア】の主神だったこともあって手慣れているようだ。
…僕ら【ヘスティア・ファミリア】の面々としてはつい比較してしまって…いやもう何も考えないでおこう。
「アストレア様。ベル様もリュー様と一緒に待機にしてはいかがでしょう?その方が二人とも一番力を発揮できると思います!」
ここでリリが思わぬ提案を出す。え…?僕は聞き込みしなくていいってこと…何で?
「…でも僕は聞き込みした方が良くない?」
そう言うがみんなの反応が芳しくない。
「いやぁ…ベルお前誰かがその酒のことでそこで困ってたら助けちまうだろ?」
「それは…そうだけど?」
「で戦闘になったら、情報収集のための潜入捜査とはとても言えないぞ?」
「ヴェルフ様の言う通りです。きっとベル様はすぐに首を突っ込んで捜査どころではなくなるに違いありません!」
ヴェルフとリリにダメ出しされて僕は押し黙る。
「では先ほど申し上げた通りベルさんとリューはここで待機ということでいきましょう。」
アストレア様が結論を出す。どうやら僕とリューさんの待機は確定のようだ。
「捜査は慎重さが第一です。くれぐれも無理だけはなさらないように。それでは明日それぞれの役割の元、努力しましょう。」
こうしてアストレア様の言葉を皮切りにして、初めての【ヘスティア・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】合同で執り行う正義の戦いが始まった。