『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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今回はリューさん視点。

作者は思った。リューさんが正義のために戦う姿が描きたいな、と。
だが現実は甘くなかった。
潜入調査とか書くの超難しい…
かと言って書き始めた以上途中で途絶するわけにもいかない…
…とっとと終わらせてリュー×ベルのイチャイチャに戻ります。
あと二話でなんとかこのイベント終わらせます。


妖精と白兎の探偵業(2)〈隠密偵察編〉

「…本当にいいのですか…?ベル?」

 

 私は心配を込めてベルに伝える。

 

「大丈夫ですよ。どうせみんな【竃火の館】出払っちゃってましたし。」

 

 ベルは少々不機嫌。

 

 なぜかと言うと昨日私とベルが待機とされたのが不満なようだった。

 

 …私だって不満はあるが、無理に関わっても結局()()()()()()()()ので自分の得意分野で活動するのがいいと割り切っているつもりだ。

 

「みんな僕とリューさんにできないって決めつけて…僕らは戦闘だけじゃないですよねぇ?リューさん!」

 

「…えぇ…まぁ…」

 

 …私の勘はよく外れるが、嫌な予感しかしない…また結局()()()()()()()()気が…

 

「さぁ着きましたよ。」

 

 私達が着いたのは私が調べ出した販売地区にある一番怪しい酒場。

 

 私はベルに流されるままアストレア様の言いつけを結果的に破り、いつも捜査の時に用いる変装までして潜入に来てしまっていた。

 

「…入りましょう。くれぐれも捜査のために来ていると悟られないように。」

 

 私は一応そう注意すると二人でその酒場に入った。

 

 入ってすぐに目に入ったのは泥酔してしまっていたり、空の酒瓶を大量に並べそれでもまだ次を注文して飲み続けている、酒に完全に呑まれたと言っても過言ではない人々だった。

 

 あまり見たくない光景ではあるが、とりあえずカウンターに二人で彼らを見ないように座る。するとバーテンダーらしくない図体がデカいドアーフがこちらを向く。

 

「いらっしゃい。…珍しいね。エルフのお嬢ちゃんと若造がこんなところに来るだなんて。」

 

 嫌な感じの笑みを浮かべるドワーフに嫌悪感を覚えるが、我慢する。

 

「…私と彼に水を。」

 

 当然情報を得るためだけなので酒を頼むつもりなど毛頭ない。今ここの人々が飲んでいるものが例の酒かを確かめられればそれでいい。入手元を割り出せればなお良し。

 

「はいよ。水だ。」

 

 とドワーフがグラス二つを出してきた。

 

「すみません。彼らが飲んでいるのは何でしょうか?」

 

「あぁ。あれか。うちの目玉商品のソーマの酒だ。」

 

 やはり例の酒か。噂によるとただの酒とは思えないほど中毒性が高いらしい。その証拠にその酒を飲む者は何瓶飲み干してもなお追加注文している有様だ。

 

 ソーマもそういった中毒症状を引き起こすらしいが、そちらは【ソーマ・ファミリア】の人間でさえもほとんど飲めないような代物な上に今は作っていないとアーデさんは言っていた。

 

「ソーマですか?あの高級品をよく格安で提供できますね。どこで手に入るのですか?」

 

「…一杯どうだい?別嬪さんには無料で弾むぜ?」

 

「結構です。エルフは酒を嗜まない。」

 

 このドワーフ話をそらしたな。入手ルートに触れた途端に、だ。黒の可能性が高い。って話を途切れさせてどうするんだ!もっと情報が必要なのに!

 

「…美味しいんですか?あのお酒。」

 

「若造は気になんのか?ほれ。お前にも一杯弾んでやるよ。」

 

 私が話を打ち切ってしまったのでベルが情報を引き出すために再び話題を引き戻す。

 

 ベルが興味を示してからすぐさまベルの元に酒瓶が置かれる。

 

 やけに羽振りがいい。これは最初に例の酒の魅力に引き込むための投資といったところか。要は一度引き込んでしまえば、例の酒の中毒症状を引き起こし、あとは後方の人々のようにひたすら例の酒を求めてオーダーし続けるようになって金を毟り取れる、と言うことか?まるで麻薬のようだ。

 

 まずいのは恐らく安物の酒を使っているからで、ソーマなら多幸感のようなものを得られると聞くが、後方の人々の表情からそれは感じられない。ここの者からは分からないが、恐らくしばらく飲まないと禁断症状でも出るのかもしれない。

 

「若造。酒ってのはいいもんだ。全てを忘れられるぜ?さぁ飲んでみな。」

 

 ドワーフはベルにそう囁く。ベルがそんな言葉に従うわけがない。そう思っていた。

 

 だがベルは酒瓶を手に取るとそのままそれに口をつけようとする。

 

 予想だにしないベルの行動に私は慌てて止める。

 

「何をしているのです!?あなたはまだ酒を飲んでもいい年齢ではない!」

 

「えぇ…?」

 

 私が厳しく止める。そして気づいた。

 

 ベルの視点が定まっていない。

 

 明らかにおかしい。

 

 まるで後ろの連中のように酒を飲んだかの…

 

 と思いかけて先ほど出された水にベルが口をつけてしまっていたことに気づいた。

 

「くっくっく…」

 

 目の前のドワーフが笑い出す。

 

「薬だよ。水に薬を盛っておいたんだ。【疾風】さんよぉ。」

 

「何!?」

 

 私の正体がバレている!?

 

「お前ら!お前らの武器でこの白髪の若造とクソエルフを殺せ!」

 

 ドワーフがそう叫ぶと酒を飲んでいたはずの連中が自分の得物を手に私に襲いかかってくる。私は瞬時に小太刀を引き抜き、私自身の身体をベルの盾にしながら応戦する。

 

「この薬はモンスター共の使う魅了(チャーム)と同じ効果があるんだ!だから俺らが酒を飲めと囁けば何度でも酒をオーダーし続ける!俺が店にまた来て酒を頼めと言えば、何度でも店に来る!いいカモだよ!さらにいざとなったらこんな感じに酒漬けになった連中を駒としても使える!」

 

「貴様ぁ!?」

 

 振り下ろされる剣を弾きながら、下劣なドワーフに向かって叫ぶ。

 

「昨日だったか。たまたまお前が酔っ払いからこの酒の話を吐かせるのを見かけてな。【ガネーシャ・ファミリア】が調べに来たのかと思ったが、よく見たら俺の知ってる【疾風】の特徴とピッタリでな。驚いたぜ!そして歓喜した!ようやく【疾風】に復讐できるってな!」

 

 復讐!?まさか…

 

「貴様…まさか闇派閥(イヴィルス)か!?」

 

「ご名答!だから酒に魅了(チャーム)された連中に武器を持って店に来るように指示して念のため警戒しておいた!するとどうだ!【疾風】が本当に現れやがった!せっかくぼろ儲けできそうだってのに正義か知らんが、【アストレア・ファミリア】の亡霊なんかに邪魔されてたまるかよ!亡霊はとっととこの世から消え失せろ!」

 

 罠に嵌められた。

 

 そう言わざるを得ない。

 

 しかも相変わらずの闇派閥(イヴィルス)らしい無関係の人々をもまきこむ汚い手に嵌められた。

 

 ドワーフは叫ぶだけ叫ぶとそそくさと逃げ出す。

 

 追いたかったが、ベルが動けないため私は追うことができない。ベルに水を飲むのを止めておけばこうはならなかったのに…

 

 店にいた客は二十人以上。魅了(チャーム)されているということもあって技も駆け引きもあったものではない。だが人数の多さ、ベルが戦闘不能であること、あくまで戦っている相手が魅了(チャーム)されているだけのこともあって殺すこともできないこと、と悪条件が多すぎて形勢は不利だ。

 

 唯一良かったのはどうやら背後を突いてくる可能性があった闇派閥(イヴィルス)のドワーフは戦えないらしく、指示を出すとそそくさと逃げ出してくれたことだけだった。

 

 どうするか。

 

 動かず椅子に座ったままのベルを気にかけながら、獣人達が振り下ろしてきた剣五本を二本の小太刀で受け止め、自分の頭脳を働かせる。

 

 殺せないなら全員気絶されるしかない。だがベルが動けない以上私もその場から動けずいつもの速さを生かした戦闘を展開できない。だから防戦一方になる。

 

 逃げるなら経路は三つ。

 

 まずは入ってきた時に用いた酒場の出入り口。順当な選択だが、ベルを連れて私達を囲む二十人以上の武装した客達を果たして突破できるだろうか。

 

 次の選択肢はドワーフが逃げて行った出入り口。ドワーフを捕らえたいならその選択を取りたいが、どんな罠があるか分からない。

 

 最後の選択肢はカウンターからそう遠くない入ってきた出入り口の反対側にある出入り口。裏の出入り口だろう。そこに向かうまでにはいうほどの客はいない。それが幸いだった。

 

 私は最後の選択肢を選んだ。

 

 私はベルの手を取り、無理矢理でも構わず勢いよく引っ張って行く。立ち塞がった形になったヒューマンに小太刀の柄頭を食らわせ気絶に追い込み、道を開く。後ろから剣が突き出され、私の頰を掠ったが構わず走る。

 

 なぜか魅了(チャーム)されて動けないかに見えたベルがすんなりと私について来てくれたのが助かった。さらにベルはするりするりとたまたまか突き出される剣先を避けていく。

 

 私達はドアをこじ開け、なんとか出入り口に飛び込む。

 

 だが目の前にあったのは壁。

 

 勢いのまま壁に激突するのは明白。

 

 

 後ろから迫ってくる剣を避けられずに殺される。

 

 

 そう悟った。

 

 しかし私達は壁にぶつかる痛みと同時に壁が私達の勢いを吸収することはなかった。

 

 気づくと私達は剣が刺さる痛みの代わりに転倒の痛みを感じていた。

 

「くっ…」

 

 壁にぶつかったはずなのに転倒しているというよく分からない状況だったが、冷静に振り返ってみると壁が私達の勢いでクルリと回転していたと思い出す。

 

 私達は隠し扉に飛び込んでしまっていたらしい。

 

 壁の向こうで魅了(チャーム)された客達が剣を壁に叩きつけて金属音を立てているようだが私達のようにこの空間に入ってくる様子はない。

 

 一先ずは難を逃れたようだが、問題は山積みだ。

 

 隣でベルは薬で魅了(チャーム)されて伸びたまま。

 

 さらに隠し扉ということはあのドワーフの秘密の空間に私達は立ち入ってしまったということ。

 

 転倒した痛みを嘆く間も無かった。

 

 次の瞬間には二人の闇派閥(イヴィルス)の衣装を纏った男達が視界に入る。

 

 …酒場は表の顔で本当は闇派閥(イヴィルス)の根拠地だったようだ。

 

 私の姿を認めた奴らはすぐさま剣を引き抜きこちらに向かってくる。

 

 私はすぐに態勢を立て直し、小太刀を両手に構える。

 

 何としても身動きの取れないベルだけは守らなくてはと固く決意し、奴らに向かおうとすると小さな声が聞こえた。

 

「いたたた…リューさん…大丈夫ですか?」

 

 …なぜ魅了(チャーム)されているはずのベルのいつも通りの声が聞こえるのですか?


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