『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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今回はリューさん視点。

チミチャンガさん、感想ありがとうございます!


遠恋前のファミリア・ミィス
妖精と白兎のデート(1)


「…さて。」

 

 私は深く息を吸って吐いた。

 

 今日はオラリオを出る前日。

 

 そしてベルとデートに行く日だ。

 

 ベルは私の部屋の前で待っていてくれている。

 

 …というより待たせている。

 

 本来なら少なくとも20分前には出ていたはずだった。私の準備も整っていた。

 

 なのにシルが待ったをかけたのだ。

 

 何でも私の選んだ服装が『勝負服』とやらではなかったそうだ。

 

 …ベルと何を勝負するというのですか…?私はつい最近戦闘を控えることを決めたはずなのに…

 

 シルは私の服装に強く不服を示し、私を自室にUターンさせた。私は着ていた服をみんな脱がされて、そのまま待機すること15分間。その間シルは私のクローゼットをひっちゃかめっちゃにした。だがそれでも気にいる服が見つからなかったらしく部屋を飛び出して行って、自分の服を持って帰ってきた挙句私にそれを着せたのだ。

 

「ふふん!これでベルさんも『ぎゃっぷもえ』で『いちころ』だよ!」

 

 シルは大層ご満悦の様子。…シルがいいならそれでいいのですが…私はシルが何を言ったのか意味が分かりません。…『ぎゃっぷもえ』って何ですか?

 

「…では行って参ります。」

 

「うん!行ってらっしゃい!楽しんできてね!」

 

 シルが笑顔で手を振って見送ってくれる。

 

「はい。ありがとう。シル。」

 

 私も小さく手をシルに振り返した後自室を出た。

 

 …直後に自室でベッドがギシギシいう音が鳴っているような…

 

 シル。私のベッドを勝手に使うのはやめてください…

 

 シルのことはさておき、部屋を出るとベルの姿が見えた。

 

 茶色のジャンバー等いつもの服装。

 

 …なぜ私はいつも通りではダメだったのでしょうか…

 

「ベル。お待たせしました。準備が整いました。」

 

「いえいえ。じゃあリューさん行きま…ってええ!?!?」

 

「…?」

 

 ベルが私の姿を見た瞬間飛び上がって驚く。驚き過ぎではと思うほどのの反応に私でもさすがにショックを受けた。

 

「…そんなに不恰好ですか…?私…?」

 

 俯いてそう言うとベルは勢いよく掴みかかってくるように近寄ってきた。

 

 私までも驚いてベルの顔を見る。

 

「…リューさん。」

 

 ベルは私の顔をじっと見つめてくる。それはそれは真剣な表情なので何を言われるのかと思うと少しだけ緊張した。

 

「すっごく似合ってます。もうみんなに自慢して回りたいくらい。」

 

 ベルが真剣に私を褒め称えるので私は恥ずかしくてたまらなくなった。

 

「えっ…あっ…べっ…ベル?」

 

「冒険者姿のリューさんもカッコよくて好きなんですけど、実はリューさんの私服姿も珍しいから見てみたいなって少なからず思ってて。ただでさえワンピースだって言うだけで可愛いんですけど、リューさん緑色の服ってすっごい似合って、さらにちょっと丈が適度に短いのがまた何ともいいと言うか…」

 

「ベル!?褒め過ぎです!?褒めても何も出てきませんよ!?」

 

 私はベルにベタ褒めされて耐えられなくなるあまり声を張り上げた。

 

 すると今度はベルが恥ずかしさを感じる番だった。

 

「えっ…あっ!僕ついリューさんを…!」

 

 ベルはあんなにベタ褒めして真顔でいたのにいざ私に指摘された途端に赤面してアタフタしている。

 

 …ふっ。ここは年上として貫禄を示した方が良さそうですね。

 

 緊張している人を見ると緊張がほぐれると言う。

 

 だから私はアタフタしているベルを見ることで平静さを取り戻していた。

 

 さて…ここでベルを落ち着かせ…

 

「だってリューさんのワンピース姿が可愛すぎるから…」

 

 私の思考はそこで途切れた。

 

 その後しばらく私の頭の中をベルの『リューさんのワンピース姿が可愛すぎるから』という言葉がグルグルと回っていた。

 

 

 

「はい。あんた達!じゃんじゃん食べな!」

 

「いえ…もっと上品な料理を…」

 

「文句つけんじゃないよ。第一上品な料理なんて出したら、大食漢だっていう坊主が物足りないかもしれないじゃないか!」

 

「あの…ミアさん?僕大食漢なんかじゃ…」

 

「さぁ食った食った!」

 

 …ここは『豊穣の女主人』

 

 私はベルにミア母さんへの恩返しも兼ねて昼食をここで食べることを提案してあった。

 

 ミア母さんの料理の腕は折り紙つき。さらに昼の『豊穣の女主人』は言うほど客がいないと私は経験上知っている。

 

 だからベルと静かに上品な料理でランチを…

 

 とはいかなかった。

 

 まずミア母さんは要は家庭料理的な料理が主流で上品な料理とは無縁なメニューしか作れなかったこと。…料理のことは全く分からない私としたことが迂闊でした…

 

 第二に客が来ず静かなのはいいものの、アーニャ達の生暖かい視線が気になる…

 

 …そこは我慢するとして、私達はミア母さんお手製のパエリアを食べ始めることにした。

 

「そういえばベル。先程大食漢とミア母さんに呼ばれていましたが本当なのですか?」

 

 そう聞くとベルは大慌てで首を振った。

 

「違いますよ!これは最初に僕がここに連れてこられたときにシルさんがミアさんに勝手にそう伝えたんですよ。僕そんなに食べれませんから!」

 

「かと言って…私もたくさんは食べれませんよ?」

 

「「…」」

 

 二人して背筋が凍る。

 

 ミア母さんの料理を食べきれなかったらどうなることやら…

 

 考えたくもない。

 

「私が手伝ってやろう。」

 

 突然振って湧いてきた声にベルと二人して振り返る。

 

 そこにいたのはシャクティだった。

 

「…なぜまたあなたがここに?暇ではないのでは?」

 

 暇でないと推測したのは、まだ【ガネーシャ・ファミリア】が違法酒の事件の後始末に追われているはずと思ったからだった。

 

「そうだな。お前達のせいでな。」

 

「「…」」

 

 …おっしゃる通り…

 

「まぁお前達の交際に水を差すつもりはない。そもそもお前達の甘すぎる会話を見せられては私の精神が持たん。」

 

「あぁ…シャクティ。」

 

 そういえばシャクティ…まだ独身でしたね…

 

「おい。リオン。同情の目で見るな。死にたいのか?」

 

「…すいません。」

 

「料理の一部は料金持ちで私が引き受けてやる。そして私はこれを渡しに来たのだ。さっき嫌という程目立っていた二人組を見かけたからせっかくだと思ってな。」

 

 シャクティ…それまさか私達のこと…?

 

「って!?私とベルはそんなに目立ってはいない!!」

 

「【白兎の脚(ラビット・フット)】はどう考える?目立っていたと思うのではないか?」

 

 シャクティに尋ねられたベルはキョトンとした表情をする。

 

「あー…えっと…手も繋いでなかったですし、抱き締め合ったりもしてなかったのでそこまでじゃないですか?」

 

 ベル!?

 

 なぜシャクティにそんなこと教えるのですか!?

 

 案の定シャクティは頰をピクピクさせてキレかけ…

 

 ベル…独身のシャクティにその話は辛い…

 

「お前達…普段から外でそう…仲睦まじくしているのか?」

 

「いえ…それ程でも…ないと思います。」

 

 私は最近のことを振り返りながら答える。

 

 最後に手を繋いだのはあの闇派閥(イヴィルス)のアジトの爆発から脱出する時で…最後に抱き締め合ったのは…調査していることを伝えた時だった。

 

 私達は目立つ程外で仲睦まじい姿を見せた記憶はない!

 

「…リオン。…【白兎の脚(ラビット・フット)】。よく考えてみろ。」

 

 シャクティが深刻そうな表情で告げるが、なんでそんな表情になるか分からない私達は首を傾げる。

 

「…ほぼ0距離で潔癖のあのエルフが異性と歩いてる時点で嫌でも目立つということが分からないのか?」

 

 …

 

 はっ!?

 

 言われてみて気づかされる。

 

 エルフは慣習で人と触れ合うのは好まない。肌が少しでも触れただけでも激怒するような種族だ。

 

 それなのに私はベルのできるだけ近くにいようと接近していた。身体が触れ合った回数など数える気にもならない。

 

 つまりその事実だけで私のベルへの信頼、ないしは親愛具合が分かってしまうということ!

 

 となれば【竃火の館】から『豊穣の女主人』までにすれ違った全ての人に私がベルのことがどれだけ好きかバレてしまった!?

 

 そう考えるだけでも恥ずかしさで頭がクラクラしてくる。

 

「シャクティ…わっ…私は…」

 

「そこまでデレデレされると周りの迷惑になる!オラリオの治安維持のためだ!羞恥を覚えて今後は自重することだな!」

 

「…それだいぶ違くありません?」

 

「うっ…うるさいぞ!じゃあ私は別のテーブルで食べてるから、これでも二人で仲睦まじく読んで、仲良く羞恥を覚えるといい!」

 

 シャクティの捨て台詞を右から左に聞き流しながらテーブルに置かれた紙に目が止まる。

 

 シャクティの置いていったのは街で売られている日刊紙だった。それもギルド発行のものではなく、民間で発行した要はゴシップを扱うような日刊紙。真面目なシャクティでもこんなものを読むのだなと素直に思う。

 

「これ一面があの事件のじゃないですか。」

 

 ベルが表紙を見て呟く。

 

「そうですね。何ですか?シャクティは自分の苦労をアピールでもしたいのでしょうか?」

 

「じゃあ読んでみましょうか。」

 

 二人でその一面を覗き込んでみる。

 

 

 

 正義の使者再び!?

 

 昨夜未明、オラリオの治安を乱していた密造酒の製造・販売を行っていたファミリアが【ガネーシャ・ファミリア】によって検挙された。首謀者は元闇派閥(イヴィルス)の構成員であり、密造酒によって引き起こされた中毒症状も【ディアンケヒト・ファミリア】の尽力により治療されることだろう。

 

 だが公式発表から抜け落ちた英雄の存在を我々は忘れてはならない。

 

 周辺住民の証言によると【ガネーシャ・ファミリア】が現場に到着したのは地下の密造酒の蒸留施設が謎の爆発により崩壊した後であり、実際に正義を執行した者は別にいる可能性が高いということだ。

 

 周辺住民Aの証言

『爆発の直前、巨大な魔力を感じました。恐らく上級冒険者の魔道士様か魔法剣士様が私達のために闇派閥(イヴィルス)の残党を成敗してくれたのだと思います。』

 

 さらに周辺住民が爆発直後に走り去る二つの影を目撃したという証言もある。

 

 周辺住民Bの証言

『私見てしまったんです。耳が長いエルフと思われる緑色のロングコートを纏った覆面の冒険者様が白髪の小柄な冒険者様に手を引かれて走り去って行くお姿を。それもその冒険者様達は恋人繋ぎで手を繋いでいたのです!きっとそのお二人は夫婦でオラリオのために戦ってくれた素晴らしい方々なのだと思います。もし夫婦なら、オラリオ中の夫婦の鑑と言っても過言ではありません。』

 

 その周辺住民の証言から考えるとその謎に包まれた夫婦がオラリオを守ったということになる。

 

 確かに【ガネーシャ・ファミリア】はオラリオの治安維持に多大な貢献をしてくれている。

 

 だが我々は名誉を求めない影からオラリオを守る名も無き英雄達の存在も忘れてはならないのである。

 

 我々はこの紙面で正義を執行した名も無き夫婦の冒険者達に心からの敬意と賞賛を送りたい。

 

 

 

「「…」」

 

 正直色々と言葉が出なかった。

 

 まず私達のことをこの日刊紙は『英雄』と呼んだこと。

 

 周辺地域に被害をもたらした私達は悪感情を抱かれると思っていたが、少なくともそういったものはこの紙面からは感じられない。

 

 そして私達の行動は正義であると書かれていたのは何物にも代え難く嬉しかったのは事実。私達の行動が認められたような気がした。

 

 だがこれはあくまで次善の正義だと私は捉えるべきだろう。

 

 

 なぜなら私は新しい正義(希望)を見出しつつあるから。

 

 

 私は武器を用いずに正義を貫く方法を見出さなければならない。そんなことも改めて思い返された。

 

 

 そして最後にして最も目に付いた文面があった。

 

 きっとそれがシャクティが私達に羞恥を覚えろと言った理由なのは明白だった。

 

「緑色のロングコートを纏った覆面のエルフの冒険者と白髪の小柄の冒険者って……どう考えても僕らじゃないですか…」

 

「明らかに正体が…」

 

「バレてるのニャー!」

 

「「アーニャ(さん)!?」」

 

 紙面に目を奪われていて、ニマニマしたアーニャが目の前に迫ってきていたことに私達は気づかなかった。

 

「オラリオのみんなは知っているニャ!【疾風】らしきエルフと【白兎の脚(ラビット・フット)】らしき白髪頭がラブラブしながら闇派閥(イヴィルス)をボコボコにしたってことをニャ!」

 

「…本当ですか?」

 

「んー多分だニャ!ミャーが他人のこと分かるわけないニャ!」

 

「じゃあなぜアーニャさんは僕達がやったって…」

 

「ンニャ?こんな特徴の持った夫婦なんてリューと白髪頭しかいないニャ!あとラブラブしてたっていうのはシルから聞いたのニャ!」

 

「「シル(さん)…」」

 

 シルの悪戯っ子のような笑みが目に浮かぶ。

 

 と同時にある疑問が浮かんだ。

 

「…それにしてもこの記事を書いてある周辺住民Bの方はなぜエルフの方が女性だと分かったのでしょうか?」

 

「ホニャ?それはリューと白髪頭が恋人繋ぎで走ってったからじゃニャいのかニャ?」

 

「いえ…私達は恋人繋ぎはまだ経験有りませんよ?ね?ベル?」

 

「あっ!確かにそうですね!今度してみますか?」

 

「ええ。是非。」

 

 ベルの嬉しい提案に私は笑顔で快諾する。

 

 ベルと恋人繋ぎ…うふふ…早くしたいものです。

 

「ホニャー!ミャーを無視してイチャイチャするニャー!」

 

 アーニャにイチャイチャしていると指摘されて、私とベルは揃って頰を赤らめた。

 

「…とっ…とにかく!この証言には間違いがある!だから夫婦…夫婦?」

 

 夫婦…

 

 私とベルが結婚していると見られた!?

 

 私とベルはそんなに仲睦まじく見えたということ?

 

 ふふふ…

 

「ニャー白髪頭!リューのこの蕩けた顔をどうにかするニャ!」

 

「いいじゃないですか。リューさんが幸せそうで。」

 

「ミャーの精神衛生上良くないニャ!」

 

 アーニャがギャーギャー言っているが安定の右から左。

 

 …そうですか。私とベルが夫婦に見えた。ええ。周辺住民Bの方は素晴らしい目を持って…

 

 あれ?

 

「…恋人繋ぎをしていなかった。ただ手を繋いでいただけ。なのに恋人繋ぎだと証言を偽って、夫婦だと勝手に断定し、その夫婦をオラリオ中の夫婦の鑑と称した。」

 

 ポツリと私が呟くと、アーニャとベルが首をかしげる。

 

「ということになりますね。それがどうかしたんですか?リューさん?」

 

()()()()()()()()誰かが()()()に私達が有名な夫婦になるように情報を流した、という風には受け取れませんか?」

 

「「「…」」」

 

 一瞬時間が止まった。

 

「まっ…まさか…そんなことないですよ。」

 

 ベルの顔がひきつる。

 

「ですがアーニャが言ったようにここまで容姿が特定されては私達のことを知る者は皆私達だと特定できます…そして証言した者も恐らく私達を知っている。何せ私達はその場を去る際誰ともすれ違っていないのですから。私達があの場にいたと知っていた者が証言したに違いありません。さらに特定しているのに実名を出さなかったのは【ガネーシャ・ファミリア】が検挙したと発表したギルドへの配慮。」

 

 そんなことをする人物は一人しかいない。

 

 私とベルの視線が一斉にある人物の元に集まる。

 

「「シャクティ(さん)!?!?」」

 

「私じゃなぁい!!ポンコツ夫婦!!」

 

 酒場に夫婦(仮)と独身の叫びが響いた。

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