『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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今回はベル君視点です。


妖精と白兎のデート(2)

「…なんか視線気になりません?」

 

「…気にならないと言えば嘘になります。」

 

『豊穣の女主人』で昼を食べてからというものの妙に視線が気になるようになっていた。

 

 なんかこう生暖かい視線を向けられているような…ただ市場を歩いているだけのはずなんだけどなぁ…

 

「あっ!君【白兎の脚(ラビット・フット)】さんだよね?どう?綺麗な彼女のエルフさんにこのネックレスでも!今ならちょっとだけ安くするわよ!」

 

「あら!『豊穣の女主人』の妖精さんじゃない!デートかい?なんならうちのジャガ丸君食べていきなよ!空腹じゃない?ちょっと小さめの作るから二人で一緒に分け合っこすればいいさ!」

 

 …さっきから主に市場のおばさん達になぜか引っ張りだこになっている。リューさんはもう完全に困惑気味。

 

「あの…これどうなっているんですか?」

 

 誘われて断れずに入った3軒目でリューさんは呟いた。

 

 僕らは今店のおばさんのオススメのジュースを飲んでいる。

 

 オススメを飲ませてやると言われて、ここでも断りきれずに入ったら、出てきたのはグラス一つ。

 

 グラスのジュースをお互いに遠慮し合っていたら、おばさんがニンマリしながらストロー二本をグラスに突き立てた。

 

 …あっはい。二人で飲めってことですね、と即納得させられて今は二人でチマチマと飲んでいる状態。

 

「…僕に聞かれてもですね…」

 

「あたし達の感謝の気持ちだって思いなさい。」

 

 どかっと巨大な果物の入ったバスケットを持って現れた店のおばさんがニカッと笑いながら言った。

 

「公表はされてないけど…あたし達はあなた達の努力に感謝してるから。」

 

 そう言われて二人して目を大きく見開く。

 

 アーニャさんの言ったことは嘘ではなかったのだ。

 

『オラリオのみんなは知っているニャ!【疾風】らしきエルフと【白兎の脚(ラビット・フット)】らしき白髪頭がラブラブしながら闇派閥(イヴィルス)をボコボコにしたってことをニャ!』

 

 ラブラブしながら闇派閥(イヴィルス)を倒したかはさておき、どうやら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まっオラリオの英雄のあなた達が食べたと言ったらたくさん売れそうだからね。あたし達の商売のためだと思ってたらふく食べなね。」

 

「「あっ…はい。」」

 

 僕らの名前を使って商売を…本当に売れるのかな?

 

「お幸せにね。もし結婚式を挙げるなら、果物はうちに頼みなさいね。安くするから。」

 

「えっ…あの…私達が結婚してないとなぜ…?」

 

 リューさんが戸惑いの声を上げる。

 

 仮に日刊紙に載っていた二人組の冒険者が僕達だとオラリオ中にバレているとすると、僕達は夫婦ということにならないといけない。

 

 だけどこの店のおばさんは僕達が結婚していないと知っていた。

 

 日刊紙からの情報とおばさんが知っていることに矛盾が発生していた。それにリューさんも気づいたようだ。

 

「あぁ!そこはシルちゃんが教えてくれたんだよ!手を繋いで仲睦まじく走り去っていくのを見た近所の人が夫婦だって勘違いしたそうな!」

 

 シルさぁーん!なんでここでシルさんの名前が出てくるんですか!ていうかその近所の人も短絡的すぎでしょ!

 

「あぁ。そうだ。あなた達。もしお昼食べたら次にどこに行くつもりだったんだい?」

 

 そう聞かれて、ふと考えてみる。

 

「…リューさんの…行きたいところ?リューさん行きたいところあります?」

 

 リューさんに聞いてみるとリューさんは慌てて首を振った。

 

「いっ…いえ!私はベルの行きたいところにいければそれでいいと思いました!」

 

「えっ…でも僕元々リューさんが行きたいところに行きたいなって思ってて…」

 

「私もベルが行きたいところに行こうかと…」

 

 ここに来て露見する計画性のなさ。

 

 僕もリューさんもどこに行くかとか『豊穣の女主人』でお昼を食べること以外全く決めずにいた。

 

 …リューさんとデートって言うだけで浮かれてて、何も考えてませんでした…

 

「となるとシルちゃんは予測してて、あたし達に二人のデートのお膳立てを頼んできていたのさ!」

 

「しっ…シルが?」

 

 リューさんの目が点になる。僕なんて驚きで声が出ない。

 

「あなた達恋人同士ですること分かんないでしょ?」

 

 そう言われて言葉に詰まりながらも二人で頷く。

 

「今みたいに一緒に一つのジュースを飲んだり、一つの食べ物を半分こにして食べたり、アクセサリーを選んで買ってあげたり。こういうのが恋人同士でするもんなんだよ。」

 

「へっ…へーそうなんですか…」

 

 …あれ?みんなさっき店に連れ込まれてリューさんと二人でしたことばかり…つまりシルさんの手のひらで踊らされてたの…?僕達…

 

「え…?二人でモンスターの魔石を取り出したり…二人でモンスターを共闘で倒したりするのは…恋人同士ですることではないのですか…?」

 

 …あのーリューさん?魔石取り出すのが恋人同士ですることみたいなこと聞こえたんですけど…気のせいですよね?

 

「ということでシルちゃんからこれを渡して欲しいって言われててね。これを見て、あと行くとこ考えなさいね。じゃお二人さんごゆっくり。」

 

 店のおばさんは紙を一枚残して去っていった。

 

「…シルが…」

 

 とリューさんは呟きながら置いていかれた紙を手に取る。

 

 じっと見つめたかと思うとリューさんはクスクス笑い始めた。

 

「どうかしましたか?リューさん?」

 

「シルには感謝しても仕切れませんね。」

 

 リューさんはそう言いながら僕にその紙を手渡してきたので受け取って目を通して見る。

 

 そこに書かれていたのは自作されたオラリオの地図。地図上にはたくさんメモ書きがあって、ここの店は美味しいとかここにはいい景色の場所があるとか所狭しと書き込まれていた。

 

「ならリューさん。どこか行きたいところありますか?」

 

「いえ。私はベルの行きたいところならいいというか…ベルと一緒に居られるだけでも幸せというか…」

 

 尻窄みになっていくリューさんの言葉を聞き取ってしまって、僕はとっても嬉しくなる。

 

 リューさんが僕と一緒に居られることを幸せだって思ってくれていると伝えてくれるなら僕もリューさんと居られることがどんなに幸せか伝えないとね。

 

「僕もリューさんと一緒に居られてとっても幸せですよ。大好きな人に一緒に居られて幸せって言われる僕は幸せ者です。リューさん大好きです。」

 

「なぁ!?!?」

 

 リューさんが僕の言葉で顔を真っ赤にする。

 

 毎日言ってるはずなんだけど、リューさんは言うたびに顔を真っ赤にさせるから超可愛い。

 

 …最近カッコいいリューさんを見たことないな…

 

 …修行から帰ってきたら一緒にダンジョン探索行くの誘おうかな。

 

「べっ…ベル!ここは公共の場です…そういった言動は控えたほうがいいのでは…」

 

「え?そうで…」

 

 …んん?なんか殺気を帯びた視線が僕に向けられて…

 

 あっ…察しました。

 

「…すね。リューさん。まず次行くとこ決めましょ。やっぱりリューさんがオラリオを出るからにはリューさんの行きたいところに行ったほうがいいと思いますよ。」

 

 そう言いながら僕はシルさんお手製のマップをリューさんに手渡す。

 

「ではお言葉に甘えて…」

 

 リューさんはマップを受け取り、しばらく考え込む。

 

 しばらくしてからリューさんが指差したところはちょっとだけ予想外だった。

 

 

 

「…なぜそんなに驚いているのですか…?」

 

 リューさんが僕をジト目で睨む。

 

「いやーあははは…」

 

 僕は笑って誤魔化すもリューさんはジト目をやめてくれない。

 

 だって僕的にはリューさんって実用的なもの好みそうなイメージがある。

 

 だから武器屋とか道具屋に行くのかなって思っていた。

 

 ところが蓋を開けてみれば、リューさんが希望したのはアクセサリーを売る店。

 

 …すいません。リューさん。僕リューさんのことを案外女性的だって思ってないみたいです…

 

「ほらリューさん、さっきネックレス断ってましたから。」

 

「…それはあのような物は私には似合わないと…」

 

 そう言われて、僕は以前のことを思い出した。

 

 そういえばリューさん女性らしくないのを気にしてたんだった!

 

 僕のバカ!何で僕が女性らしくないとか思ってんだ!確かに僕のイメージだと未だにカッコ良くて強いイメージが強いけど、リューさんの可愛らしいところを一番よく知ってるのは僕だろ!

 

「そんなことないです!よし!一緒にいいの見つけましょう!」

 

「え!ベル!手を引っ張らないでください!いやっ…でも離さないで欲しいというか…」

 

 後ろでリューさんがアタフタしているのも構わずに僕はリューさんの手を引きながら、店内に入った。

 

 そこには多いとは言えない程度の品しかなかった。だが確かに一つ一つが輝いて見えて、きっとどれも職人さんが手間暇かけて作ったのだろうということぐらい容易に想像できた。

 

「リューさん。どれにします?」

 

 尋ねながらリューさんの方を振り向いてみるとリューさんの視線は一点に集中したまま動かない。

 

 その視線の先を見てみるとそこに置いてあったのは赤い透明な鉱石があった。

 

「…ベルの瞳みたいです。赤く…とても綺麗です。」

 

 リューさんはすっかり見惚れてしまって動かない。ここはあの鉱石を使ったアクセサリーを買うことを提案してみようかなって思うと、奥から獣人の店主らしき人が出てきた。

 

「いらっしゃい。そんなところで立ち止まってどうかしたのか?」

 

「あっ…実はあの赤い鉱石が気になりまして。」

 

 僕が指を指しながら答えると店主はその石に目を向けた。

 

「あぁ。これか。…はっはっは!」

 

 その鉱石を見た途端に店主は笑いだす。

 

「この石か!さてはあんたらデキてるな!」

 

「「なぜそれを!?」」

 

 二人揃って驚くと店主は僕とリューさんの顔を交互に見た。

 

「ん…まぁ。まず手を繋いでるってとこから。」

 

 そう言われて二人してパッと手を離す。…うん。手を繋いでたら分かっちゃうかな。

 

「で?どっちだ?この石に興味を持ったのは?」

 

「私ですが…」

 

 突然笑われて不機嫌になってしまったリューさんが目を細めながら答える。…リューさんちょっと怖い…

 

「この鉱石は実は愛と炎を象徴してるんだ。」

 

「炎…まさしくベルですね。あの炎の魔法に私は何度救われたことでしょうか…ただ店に入った瞬間に見つけて気になってしまうとは…これが深層心理というものですか…」

 

 リューさんはそう呻いて顔を赤らめながら俯く。これはリューさんが僕のことを心の底から好きだってこと?

 

「ふむ…この鉱石が気に入ったってんならアクセサリーを作ってやってもいいが、どうだ?」

 

「あの!これはオーダーメイドということですか!?」

 

 リューさんが顔を上げて店主の言葉に反応する。ちょっと声が大きかったからか店主はビクッとする。

 

「おっ…おう。しばらく待ってもらえれば作るぜ。」

 

 そう聞いたリューさんはグッと小さくガッツポーズ。ちょっとリューさん何でそんなに喜んでるの?するとリューさんは僕の方を見た。

 

「ベル。私の要望で作ってもらってもいいですか?」

 

 リューさんはちょっとだけ上目遣いで尋ねてくる。…これまさか無意識にやってたりしないよね?これでお願い聞かないなんてあるわけなくない?

 

「もちろんです。何ですか?」

 

 笑顔でそう返すとリューさんはちょっとだけホッとしたように息をつき、店主の方を向いた。

 

「店主。ブレスレットを二つ作っていただきたいです。使用するのは私の選んだ赤い鉱石と彼が選んだ鉱石を交互になるように作ってください。」

 

「おう。了解。じゃあヒューマンのにいちゃん。彼女さんのご要望通り鉱石を選びな。」

 

 リューさんの頼みとあらばと思い、アクセサリーの見本とともに並べられた鉱石を見渡してみる。

 

 僕の目に止まったのは緑色の同じく透明な鉱石。

 

 リューさんは緑色のイメージがすっごく強い。あの緑色のロングコートの背中に何度助けられたことか。

 

 リューさんが僕のイメージが赤い炎というなら、僕のリューさんのイメージは緑色の風。

 

 赤い鉱石と緑色の鉱石のブレスレット…きっと組み合わせもいいに違いない。決めた。

 

「僕はあの鉱石にします。あれが一番リューさんのイメージに合ってるなって思うので。」

 

 そう言ってまた指差すと店主は再びニタニタし始める。

 

「ほう。了解だ。ご要望通り作ってやろう。しばらく待ってな。ちなみにこの鉱石は愛と献身の象徴!この二つの鉱石の組み合わせは仲睦まじい恋人達にぴったりの組み合わせだな!」

 

 そう言い残すと店の奥に店主は行ってしまった。きっとブレスレットを二つ作ってくれるんだろうけど…

 

 とりあえずなんで鉱石にそんな意味が込められてんの!?とか色々思うところがある。…うん。まぁ悪い意味じゃないからいいけど…

 

 

 

 しばらくしてから店主はとても綺麗なブレスレットを二つ作って持ってきてくれた。誰が代金を出すかでちょっと揉めたけど、二人で代金をそれぞれ出してお互いに贈り合うという形にした。

 

 帰り際リューさんのブレスレットをつけて帰らないかという提案通り僕達はブレスレットを片手につけて、『豊穣の女主人』で話題に出た恋人繋ぎをして、【竃火の館】に向かって歩いている。

 

「ありがとうございます。私の要望を聞いてくださって。」

 

「いえいえ!僕もこういうの嬉しいです。所謂ペアルックってやつですよね?」

 

 そう聞くとリューさんはもじもじしながら答えた。

 

「はい…憧れてたのでいつか欲しいな、と。赤の鉱石がベルで緑の鉱石が私でしょうか?まるでベルと私が一つになったかのようですね。」

 

「そうですね。赤い鉱石も緑の鉱石もとても輝いてます。ただこの鉱石に込められた意味には驚かされましたけどね。」

 

 そう僕が苦笑いすると、リューさんはクスリと笑った。

 

「どちらも愛を象徴した鉱石。ならこのブレスレットはさしずめ私達の愛の象徴、といったところでしょうか?」

 

「リューさんもそういうこと言うんですね。驚きました。」

 

 わざとらしく驚いたふりをするとリューさんは顔を背けた。

 

「…ベルが愛の言葉をよく囁くからその影響です。…私はかなり恥ずかしい…」

 

「リューさんに大好きだっていっぱい伝えるって前言ったじゃないですか。リューさんは僕のこと好きじゃないんですか?」

 

 ちょっとだけ煽ってみる。きっとリューさんは食いついてくるに違いない。これもリューさんの可愛い姿を見るための駆け引き。

 

 するとリューさんは僕の手を離し、僕の進路を遮るように立った。

 

「まさか!私だってベルのことを愛している!!」

 

 見事に食いついてきたリューさん。これで我に帰ったリューさんの可愛い姿が…

 

 …ってリューさん声大きすぎ!?

 

 生暖かい視線がすごく集まってきてる!

 

「あの…リューさん…?」

 

「私はベルのことが大好きで大好きで仕方ない!本当は旅にだって出たくないくらいベルと一緒にいたい!」

 

「ちょっ…リューさん…!?」

 

 リューさんが大声で僕への愛を叫び続ける。

 

 生暖かい視線が増えていくのがはっきりと分かり、段々僕の方が恥ずかしくなってくる。一方のリューさんは周りも見えていないのかそのまま叫び続ける。

 

「私はベルに負けないくらいにベルのことが好きです!!」

 

「リューさぁーん!!」

 

 僕がリューさんの耳にも届くように大声で叫ぶとリューさんはようやく我に帰ったようだった。

 

「わっ…私は…公共の場で何を叫んで…」

 

 あまりに自分のやらかしてしまったことが大きいことにようやく気がついたリューさんは力が抜けたのかへなりと地面に尻餅をついた。

 

「だから嫌なのです…私はいつもやりすぎてしまうから…」

 

 こうして市場のど真ん中で公開告白をやってのけたいつもやりすぎてしまう妖精はオラリオ有数の有名人になってしまった…

 




デート編これにて終了。
リューさんはもう個人でオラリオ有数の有名人になりました。(笑)
新しい二つ名が楽しみですね♪

ちなみに赤い鉱石がルビーで緑の鉱石がエメラルドです。なぜ両方愛を象徴しているのやら…
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