『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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今度はベル視点です。
ベルは鈍感です。
ベルは非常に鈍感です。

次回ようやくリューさん登場!でもベルと一緒ではありません!二人の逢瀬はもう少しお待ちを!



想い人は誰だ?(2)

「よかったな!ベル!」

 

「うん!ありがと!ヴェルフ!」

 

 僕は神様が唸ったまま何も言わなくなってしまったのでそっとしておいてあげようと思い、こっそり部屋を抜け出した。そして僕が【ランクアップ】したことをみんなに伝えようとスキップして行ったら真っ先に出会ったのがヴェルフだった。

 

「やっとヴェルフの【ランクアップ】に追いつけたよ。」

 

「はっは。俺とベルじゃ【ランクアップ】の差が大きすぎるぜ。」

 

「そんなことないよ。ヴェルフはついにヴェルフだけの魔剣を作ったんだから!僕よりもすっごいと思うよ。」

 

「はは。ベルにそう言ってもらえるとやっぱり嬉しいな。と言っても砕けない魔剣はあれ一本。あれ以来全く作れなくなっちまった。もっと研究しないとな。」

 

 そう言うヴェルフは決意を固くしたような表情になった。

 

 ヴェルフの作った砕けない魔剣はどうやら精神力(マインド)を消費する上にヴェルフ以外の魔力には反応しない、例えるならば僕の神様のナイフと同じような武器だった。

 

 つまり不完全。他のパーティーのメンバーは誰も使えないと言うことだ。それでは完全とは言えないということで最近ヴェルフは自分の工房に篭りっぱなし。

 

 ヴェルフも僕もいないので【ヘスティアファミリア】は開店休業状態でファミリアのみんなは思い思いに過ごしている。

 

 ちなみに僕が【深層】にいる間ヴェルフ達は【下層】の階層主を撃破したと聞いた。そのおかげか【ヘスティアファミリア】では【ランクアップ】ラッシュが起きていた。それを安静を申し付けられていた僕はみんなが【ランクアップ】に喜ぶ姿を横から泣く泣く見る憂き目に遭っていた。だから今日の【ランクアップ】は待ちに待ったものだったのだ。

 

「ねぇ。ヴェルフ?今時間あるかな?」

 

「ん?どうした?」

 

「【ランクアップ】したからちょっと確かめたいことがあってさ。」

 

「おいおい。まさか手合わせとは言わないよな?もう俺はリリスケに怒られるのはゴメンだぜ?」

 

 ヴェルフが勢いよく首を振る。僕の頼みをズバリ的中とは言わなくてもニアミスぐらいまで持ち込まれた僕は言葉を詰まらせた。

 

 手合わせではない。それはちょっと前にヴェルフに頼んでリハビリ代わりに手加減して相手してもらってたら、リリに見つかって説教を食らったからもうしない。だから別のこと。でも完全に違うわけじゃない。

 

「僕の魔法について一緒に見てもらいたいんだ。」

 

「魔法?まさかベル新しい魔法が?」

 

 ヴェルフが嬉しいそうに聞いてくるので僕も笑顔で返して答える。でも僕的にはそれだけじゃない。新しい魔法だけでなく、追加された文章にも興味がある。

 

「うん。それを試してみたいな。」

 

「おう。任せろ!まぁ念のためリリスケに見つからなそうなところでやろうぜ。」

 

「はは。そうだね。」

 

 そう二人で納得した僕達は他の人に報告するのも放置して、二人して新しい魔法にウキウキしながらリリに見つからないであろう裏庭に向かった。

 

 

 

「さてベル。新しい魔法を見せてくれ。もちろん。威力は抑えめでな。」

 

 ヴェルフが興味津々に僕を見つめながら言う。と言ってもすごく距離を取られてるが。

 

 僕は頷いてとりあえず適当にヴェルフのいない『竃火の館』を囲む壁の方向に手の平を向けて詠唱してみる。

 

「【助力神風(アグジュアリ・ウィンド)】!」

 

 そう唱えると手から風が巻き起こったかと思うと腕を緑色の光を発する風が包み込んだ。

 

「できた!」

 

「ベル…お前…」

 

 できたことを喜ぶ僕をよそにヴェルフはちょっと複雑そうな表情になる。

 

「ヴェルフ?どうしたの?っておわ!?」

 

 ヴェルフに気を散らしていて魔法に言うほどの注意を払っていなかった僕は魔力の制御に失敗して僕の腕に纏った風が暴走を始めてしまう。

 

「おい!ベル!」

 

「うわっ!」

 

 まずい…この風に宿る魔力がこのままでは制御を失って目の前の壁を吹き飛ばしかねない。リリにまた叱られる…

 

 そう瞬時に判断した僕は腕をなんとか空へと向けた。それからまもなく僕は見事に読み通り制御を失い、僕の腕を包んでいた風は空を緑の光で染め上げながら上空に放出され、しばらく進んだかと思うと大きな爆音と共に緑色の花を遥か上空で咲かせた。

 

 

 

「ベル様。リリの言ったこと覚えてますか?あ・ん・せ・いに、と言っておきましたよね?」

 

「はい…」

 

 すごく怖い笑顔でリリが僕の顔をにらめ付けてくる。

 

 言うまでもなく爆音でリリにバレて今はヴェルフと一緒に正座で事情を全て大人しく白状した上でリリのお説教を受けている。

 

「ヴェルフ様もです!なんで懲りずにまたベル様に付き合っていたんですか!?」

 

「ほら…ベルの新しい魔法が気になってな…」

 

「え?ベル様に新しい魔法?ということはヘスティア様がステイタス更新を?」

 

 リリが尋ねてきたので頷き返すとリリはヘスティア様ぁ…と恨めしそうに唸りながら神様がいる方向を見つめる。

 

「…まぁこれはこんなタイミングで勝手にステイタス更新をしたヘスティア様にも責任がありますね。更新するならみんなに伝えた上でするべきですよ。」

 

 リリが頬を膨らませて僕を見つめてくるかと思うとリリの表情はコロリと変わった。

 

「では改めて。ベル様。【ランクアップ】おめでとうございます。」

 

「うん。ありがと。」

 

 そう言うといつの間にやら集まってきていた春姫さんや命さんもみんなが僕の【ランクアップ】を祝福してくれて僕は説教されていたはずだったのに嬉しい気持ちでいっぱいになっていた。

 

「さてベル様。さっきの魔法のことなんですがあの大きな音を出したのがその新しい魔法ですか?」

 

「私見ました。あの緑色の光がすごく綺麗で…えっと…まるで…」

 

「花火のようではありませんでしたか?春姫殿?」

 

「そう!それです!」

 

 極東出身の春姫さんと命さんが僕には分からない『はなび』というもので意気投合している。不思議そうな表情で見つめていると命さんが小さく咳払いをした。

 

「失礼いたしました。オラリオの方々は花火を知りませんよね。花火というのはですね。鉱物を調合して色々した後に火を付けて打ち上げるとベル殿の魔法のような綺麗な光が空に花のように咲かせることができるものです」

 

 よく極東でタケミカヅチ様が買ってくれた小さなものでやったと言って二人が頷き合う。

 

「その花火というもののように綺麗だったんですか。リリもベル様の魔法を見てみたかったです。」

 

「おい。リリスケ。さっき説教しておいてそれはないだろ。」

 

「うるさいですよ。ヴェルフ様!それとこれは話が別なのです!」

 

 いつの間にやら魔法を発現させた僕を放置してみんなで騒ぐようになってしまった。

 

「ねぇ…みんな…これってどういうことだと思う?」

 

 そうみんなに言いながら見せたのはさっき神様からもらったステイタスの更新用紙。みんな一斉にはなすのをやめて僕の差し出したステイタスの更新用紙を覗き込む。

 

「『想う相手を思い浮かべることで効果向上。』…?」

 

「『解呪式【私はウェスタ。炎は消える。されど想いは消えない。】』…なんでしょうか。ベル殿の魔法に解呪式は必要ないのでは?」

 

 見せた途端みんな分からないと首を傾げる中、リリが更新用紙から目を離した。

 

「これは確かめる必要がありそうですね。ベル様。ぜひ試しましょう。」

 

 その時のリリの表情はとても怖い表情になっていた。

 

 

 

「さぁベル様。本当は新しい魔法を使ってもらいたいところですけど使い慣れていないベル様ではとても危険なのでいつも使っていた【ファイアボルト】で試していただきます!もちろん抑えめで!」

 

 …気のせいじゃない。リリが禍々しい空気を帯びてる。怖い…

 

 リリが怖すぎて言われた通りにさっき魔法を暴発させた裏庭にいくつかの枝木の山を準備させられた。

 

「リリ…?これで何をするの?」

 

 恐る恐る尋ねるとリリは僕に勢いよくビシッと指先を突きつけて言った。

 

「【ファイアボルト】を誰かを思い浮かべながらその山に打ち込んでください!もちろん誰かはリリが設定します!」

 

 リリが高らかにそう宣言するとヴェルフは苦笑いをした。

 

「リリスケ…お前魔法より想い人のことが興味が…」

 

「黙っててください。ヴェルフ様。これはリリにとって大事なことなのです。」

 

 ヴェルフが話途中なのに強制的に打ち切ったリリの剣幕にお手上げと言わんばかりにヴェルフが両手を挙げて降参のポーズを取る。どうやら僕はリリの言う通りにしないといけないらしい。

 

「じゃあベル様。まずはヘスティア様のことを思い浮かべてください!」

 

 見たこともない笑顔、もはや怖いと言ってもいい笑顔でそう言われ言われるがままに僕は手の平を枝機の山に向けた。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 僕が唱えるとボッと音を立てて枝木に火がついた。

 

「…そんなですね。」

 

「まぁヘスティア様は違うと思ったぜ…」

 

「ヴェルフ殿。そのようなこと言ってもよろしいのでしょうか…?」

 

 口々に目の前の焚き火に感想を述べていく。…ん?怒ってる神様の声が聞こえるような気がする。…うん。気のせいだね。気のせい気のせい。

 

 ただじっとその焚き火をみんなで見つめているうちに枝木が燃え尽きてみんなの視線が次の枝気に移ろうとするとヴェルフだけが視線を燃え尽きようとする枝木に釘付けになっていた。

 

「おい…この火消えないぞ…」

 

「「「「え?」」」」

 

 その言葉で視線を引き戻されると僕の点けた火は消えるどころか燃えるはずもない枝木の下にあった石畳を焦がし続けている。

 

「消えない火ですか…ベル殿。解呪式を。」

 

「あっはい。」

 

 命さんに促されるままとりあえず更新用紙を確認した上で解呪式を唱えた。

 

「【私はウェスタ。炎は消える。されど想いは消えない。】」

 

 そう僕が唱えると石畳の上でも消えることのなかった火は音を立てることもなく消えた。

 

「これはベル様の魔法が強くなったってことじゃないですか?火が点いた物にはベル様が解呪式を唱えない限り決して消えることはない。違いますかね?」

 

 そうリリは言うものの誰も確実にそうだとは返事をすることはできない。何せ僕らの中には魔導士も魔法剣士もいないからだ。

 

 身近にいる人ならあの人ぐらいかな…?

 

「…魔法がイマイチ分からないリリ達がそこを考えても意味はありませんね!それでは次ジャンジャン行ってみましょう!」

 

「まだやるの!?」

 

「もちろんです!」

 

 怖い笑顔を浮かべ続けるリリに僕は悲鳴を上げたがリリは聞く耳を持ってくれずそのまま続行されることになりそうになるが、ここでヴェルフがすっと手を挙げた。

 

「なんですか?ヴェルフ様?またベル様を助けるおつもりですか?」

 

 ギロリと睨むリリを前にしても今度はヴェルフは引くつもりはないらしい。

 

「あのベルの新しい魔法さ。緑色の光を発してて風を伴ってただろ?あれってどっかで見たことないか?」

 

 そうヴェルフが言うものの僕も含めてみんなが首を傾げる。するとヴェルフは小さくため息をついた。

 

「おい。みんな。よく考えてみろよ。ベルの想う人なんて決まってんだろ?【剣姫】に決まってるじゃねーか。」

 

「えっちょっとヴェルフ!?何言ってるの!?」

 

 照れ隠しも兼ねて大声を出してヴェルフの言葉を潰そうとするもそんなの当然無駄でヴェルフの言葉を聞いたみんなはあーとかやっぱり【剣姫】様ですか…とか納得したように呟き出してしまい、見事に僕の目論見は崩れる。

 

「だってそうだろ?ベルの新しい魔法。明らかに【剣姫】の魔法と似てねーか?」

 

 そう言われてハッとなる。

 

 心のどこかで僕の憧憬(アイズさん)の『目覚めよ(テンペスト)』と言う声が聞こえてきたような気までした。

 

「あーベル様ですもんね。ベル様。【剣姫】様を思い浮かべながらもう一回唱えてみてください。」

 

 さっきまでの勢いは何処へやら。リリは興を削がれたと言わんばかりに投槍な言い方で僕に告げる。僕は言われるがままにアイズさんを思い浮かべながら手の平を次の枝木の山に向けた。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 さっきと同じようにボッと音を立てて火が点く。でも火の勢いはさっきと特に変わらない。

 

「あれ?変わらないですね?…さてはヘスティア様…ステイタスを書き間違えたのでしょうか?」

 

 特に変化のない火の勢いにリリが神様を疑い始める。

 

「やっぱり…専門の方に聞いた方がよろしいのでは…?ヘスティア様がまさか間違えるだなんて…」

 

 

 春姫さんがリリを宥めるように言うのを僕は聞きながす。

 

 

 僕はあの人を思い浮かべていた。

 

 大空を風と共に舞う妖精。

 

 魔法を手足の如く扱うエルフの一流の魔法剣士。

 

 それでいて本当の彼女は弱いところもあるのに表には出そうとはしない強がりな少女。

 

 あの過酷な四日間を二人で一緒に生き延びた戦友。

 

 あの人なら分かるかもしれない。

 

 あの人ならこの魔法のことが分かって十二分に活かせるように導いてくれるかもしれない。

 

 

 リュー・リオン

 

 

 僕の師匠で僕の戦友で僕の大切な人。

 

 リューさんに僕は今すぐ会いたい。

 

 

 僕がカッコよくてたまに可愛いエルフの少女に想いを馳せている間に僕の点けた焚き火が火花を散らして燃え盛っていたことでリリ達がアイズさんのせいだと思って落胆していることに僕はすぐに気づくことはなかった。

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