『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
夢への手掛かり
「風が気持ちいいね!リュー!」
シルが腕を気持ちよさそうに伸ばしながら、陽気な声で言った。
オラリオ出て早二日。アストレア様、シル、私の三人旅は順調に森の中を進んでいる。
最初の目的地はオラリオの西方にある『リュミルアの森』。
私の故郷であり、かつ【深層】で失った私の木刀『アルヴス・ルミナ』の素材を入手した場所でもある。
やはり私としてはあの木刀ほど手になじんだ代物はない。当然私の小太刀である『双葉』も使いやすいのは言うまでもないが、木刀なら人を殺めることはできないという利点がある。だから私の夢とも不可分というわけだ。…最も
そして私の故郷ということはエルフの里でもあるということ。
…もちろん確執のある故郷に戻るのはあまり望まないが、優秀な魔導士を雇うにはエルフ以上の種族はないというのが三人の間で出た結論だった。
行けば私のようにエルフの慣習に不満を持ち、外に出ることを渇望したエルフの若者がいる…はずである。そんな若者を見つけられたらと私は考えている。
「シル。何度も言いますが…これはただの旅行ではないのですよ…?」
「わかってるよ~リュー!警戒しながら進め、でしょ?」
ニコニコしながら言うシルに私はため息が出そうになる。本当にわかっているのだか…
さっきからシルは花を見つければ寄っていき、小さな虫を見つければそれと戯れ…と何だか子供がピクニックに来たかのようなはしゃぎっぷりである。…オラリオの外の事物がそんなに物珍しいのでしょうか…
「そう力まなくても大丈夫ですよ。リュー。彼女は彼女なりにわかっていますから。」
そう私に声をかけてきたのはアストレア様だった。
「本当にそうなのでしょうか…シルはおそらくオラリオから一度も出たことがないはずです。」
「ええ。きっとそうでしょうね。」
「そもそもシルは平凡な町娘です。こんな旅に同行させてしまってよかったのかと未だに不安です。」
「…平凡?リューは彼女が平凡だと思っているのですか…?」
そう言うアストレア様の表情を見ると信じられないと言わんばかりの表情。
そんな表情は予想外だったので一瞬言葉に詰まる。
「…それは…確かに私の同僚の意見ではシルは魔女であると申している者もいましたが…」
そう言いながらガタガタと震えていたキャットピープルの姿が脳裏に浮かぶ。
「魔女…間違ってはいないかもしれませんね。」
なぜか納得した様子のアストレア様。…いつのまにアストレア様とシルは交流を深めていたのでしょうか…
「ただ世間知らずは世間知らずです。以前には【アストレア・ファミリア】に入団したいとまで言われたのですよ?」
私があきれ半分に言うとアストレア様は大きく目を見開いた。
「彼女がそう言ったのですか?」
「…はい。」
なぜか真剣な表情のアストレア様。…そんなに本気にならなくてもよい気が…
「…一度私の口から聞いてみます。そう望んでいるなら私が止める必要もないでしょう。」
「アストレア様!?正気ですか!?」
思いもよらないアストレア様の言葉に私は大きく驚かされた。
「…別に問題はないですから。」
「そういう問題ですか!?」
…アストレア様はどうかされてしまったのでしょうか。このようなことを言われるとは予想外です…
「もし彼女がそう望むなら夜に
「…シルに
アストレア様が妙にシルにファルナを与えるのに乗り気なのが不思議で仕方ない。
ただそんな不思議さも私がステイタス更新できると聞いたことで吹き飛んでいた。
今の私はLv.4。長らく更新していなかったのでおそらくLv.5に上がることができるはずだ。
そうすればベルと並ぶことができる。ベルの隣に立つことができる。
それに実力があればあるほど、敵を殺さずに制圧するだけの一定の余裕が生まれるはず。(Lv.6のミア母さんが好例である。Lv.4揃いの『豊穣の女主人』においてサボる気満々の店員たちを統制できているのはその実力のおかげとしか言いようがない。)
利点ばかりが思い浮かび、私の心は少しだけ高揚した。
「ねー!リュー!来て!来て!」
ふと気づくとシルは私とアストレア様から離れた位置で手を振りながら私を呼んでいる。
たく…警戒しながら歩いているはずなのになぜそんなに進むスピードが速いのですか…
私は呼ばれるがままアストレア様に断りを入れてから小走りでシルに駆け寄った。
「ほらほら!」
シルに近づくとシルは何かに手を伸ばしているようだった。だが木々が邪魔で何に手を伸ばしているかは見えない。
もう少し近づいて目に入ったのは…
「クマさんだよ!」
茶色の毛皮の巨体。
鋭い爪。
違う…
全くもって違う…
これはバクベアーです!?!?
目の前に現れたモンスターに反射で瞬時に双葉を引き抜く。
だがバクベアーは襲ってくる様子はない。
…というかシルに鼻を撫でられてご満悦なご様子なのですが…
「リュー?なんで刀を抜いたの?リューも一緒に撫でようよ!」
「いえ…シル。これはバクベアーというモンスターで…」
「だから刀を抜いたの?モンスターだから?でも私たちと一緒で生きてるんだよ?殺してもいいっていう理由はないよね?」
何を言っていると私は言いかけた。
だがふと気づかされる。
人々が武器を握ることになり、冒険者が生まれたのはダンジョンからモンスターが進出してきたからではないか。
モンスターとの戦いは冒険者にとって必然。だからモンスターを倒すのは『当たり前』だった。
だがその常識を取り払えば、もし戦わずに済むなら武器を握る必要もなく、冒険者が死ぬこともなくなる。
つまりモンスターとの共存こそ私の夢のあるべき姿の一つではないか。
「ふふふ。リュー?何か閃いちゃった?」
シルがしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべている。…まさか今回も私はシルに誘導されていたとでも?まさかそんなはずは…
「リューも撫でてみてよ!ほらほら戸惑わない!」
シルは私に有無も言わせずに私の手を取り、バクベアーの鼻を撫でさせた。
普通だった。
そういうべきか。
普通にたまに触れ合う小動物と一緒だとすぐに思った。別にモンスターだからと何かが極端に違うわけではない。普通に生きている動物。
このバクベアーからは普段戦うモンスターのような殺気は感じられない。もしかしたら私たち冒険者が殺気を出しているからモンスターも殺気を出しているのか?
すぐに何かが分かるわけではない。だがこれは確かな手がかりではないか。
「シル…ありがとうございます。シルの言った通り大事なことが…分かった気がします。」
「ふふん。どういたしまして!」
そう言うとシルはちょっとだけ胸を張って答えた。
「あら。何とも微笑ましい光景ですね。…触れ合っている相手はさておき、ですが。」
アストレア様がシルと私がバクベアーを撫でる様子を見て、本当に微笑んでいた。
ただ私としては…
「…私はシルの言うクマさんとバクベアーを同一視するのは難しいです…」
「えー!何言ってるの!リュー!この子の表情すっごく可愛いよ!」
「…ですがその愛嬌も赤い瞳のせいで台無しになっている気が…」
と言いかけたところでふと気づく。
赤い瞳ということはベルの瞳の色と同じ!?
「…訂正します。赤い瞳であるところが逆に愛嬌が増して見えます。」
間違いない。…ただモンスターとベルを比較するのは如何なものかと頭の片隅で思う。
「あれー?リューさては…ベルさんのこと思い出してたなぁー!」
シルがこれでもかというほどニヤついて、私の方を小突きながらからかってくる。
しかも見事に図星。
「シッ…シル!そんなことはない!私はただこのモンスターのどこに愛嬌があるかと考えていただけで…」
それから私とシルはしばらくの間バクベアーを目の前にワーワーとバクベアーの可愛さについて話すことになった。
…後になってふと思った。
なぜバクベアーは大人しくそのまま私達の前にいたのか、と。
そして…
バクベアーはどんな気持ちで私達を見ていたのだろうか、と。
ダンメモ的にはバクベアーの目は赤いです。光ってますけど。