『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
名無しのエルフさんの名がついに明かされる!
最近ベル君不足だと思いますけど、この章が終わるころには出てきますのでお待ちください!
「何だ。私はもうお役御免か?」
私が長老から聞いた同胞のいるテントに出向くと不貞腐れて同胞は私に向かって呟いた。
「まさか。協力を申し出に来ました。」
肩をすくめながら私は笑みも交えて返した。
…まずは彼女と良い関係を築かなければ。
「それと謝罪も。申し訳ありませんでした。先程は頭に血が上っていました。村の事情も知らずに勝手なことを言いました。申し訳ありません。」
敬語を用いて一度頭まで下げてそう言うと、同胞は一瞬顔をしかめたが、どうやら私の意図を理解してくれたのか表情を緩めてくれた。
「…こちらこそ申し訳なかった。私もあなたの主神に無礼な態度を取ったことには謝罪しましょう。」
同胞も頭を下げた。…これで一応先ほどのわだかまりは解消できた…か?同胞も敬語で返してきたのだからお互いに一定の敬意を持って話ができるはず。
その同胞。改めて見てみると案外身長が低い。
近くにはその身長に見合わぬほど長く装飾が煌びやかな杖が置かれている。
化粧が濃いせいか歳は若くは見えないが…まさか年増しに見せようとしていたりするのか?
「申し遅れました。リュー・リオンと申します。以後お見知りおきを。」
「リュー・リオン…」
同胞は考え込む素振りをとったかと思うとかっと目を見開いた。
「まさか【疾風のリオン】さんですか!?」
「はい…そうですが…」
あまりの大声に少し戸惑いながらも返事をする。
「すいません…お顔までは知らなかったもので…あっ。…私の名は…アレゼル…です。」
急に私がだれか分かった途端に恐縮したようになりながらも戸惑いがちに同胞は名乗る。…なぜこんなに驚いたり恐縮したりコロコロ表情が変わるのかは置いておくとして、今の様子を見るとまるで名乗ることを嫌がっているかのようだ。…何かを隠している?
「アレゼルさん。長老から大方の話は聞きました。まずお聞きしたいのはラキアの徴収人が来た時どう対応していたかです。」
「魔法で威嚇射撃をして追い返していました。そうすれば武装をしていない徴収人や護衛にいるのが小隊程度なら難なく追い返すことができました。」
「つまり誰も殺してはいないのですね?」
「あっ…はい…」
少々安堵した。
村人達のラキアへの不満の強さからラキアの人間を血祭りにあげている可能性があると踏んでいたからだ。
一度刃を向けてしまっていた場合交渉による打破は不可能に近い。ラキア軍と即開戦という事態はなんとか回避できるかもしれない。
「もしよろしければアレゼルさんの魔法を見せていただきたい。なんでもアリゼルさんはオラリオでも有名な魔道士だとか。どのような魔法でラキアを撃退していたのか関心がありますし、協力のための参考にさせていただきたい。」
もちろんにただそれだけではない。
彼女の隠し事を見破るためだ。
「いや…それは…」
アリゼルさんは躊躇する。読み通りと言えば読み通り。ここで私は畳み掛けた。
「是非見せていただきたいのです。ダメでしょうか?」
「…いいでしょう。村の外に拓けた場所があります。そこでお見せしましょう。」
「ありがとうございます。アリゼルさん。」
こうして私はアリゼルさんに付いて村の外の拓けた場所に出た。
そこは周りに木々が生い茂っているのにポツリと草一つ生えていない拓けた場所。
そこでアリゼルさんは杖を突いて立ち止まる。
「あまり魔力を消費したくないので一度限りです。いいですね?」
「もちろんです。お願いします。」
わざわざ提案した回数制限。私は疑いを強める。
アリゼルさんはスッと息を吸うと詠唱を始めた。
「【森に舞い降りし雷。穢れし森を焼き尽くせ。】」
詠唱が始まり、アリゼルさんの周りに魔力が集まり始める。
だが上級冒険者の魔道士にしては集まる魔力が少なすぎる。
「【導け炎よ。我が森に神聖なる再生を。我が名はアールヴ】!」
「【プラ・フランマ】!」
アリゼルさんの掛け声と同時に目の前に炎が広がる。
と言っても焼き尽くすというほどではない。目の前に一線状に障害となりそうな程度の炎が広がっただけ。
手を抜いたかに思ったが、アリゼルさんはもう息絶え絶えだ。これが恐らく全力。
…なるほど大体察しました。
「お見事です。魔法を碌に知らないラキア人を撃退できたのには頷けます。」
私は言葉を続けた。
「だがあなたは多くの嘘をついている。」
アリゼルさんはビクッと肩を跳ねさせた。
「…やっぱりバレますよね…相手は【疾風のリオン】…本物の上級冒険者じゃなぁ…」
どうやら私の名を知り、バレるのをある程度予想した上で私に魔法を見せたようだ。
アリゼルさんは私の方に振り返った。
「約束していただけますか?村のみんなに言わないと。」
「もちろんです。お誓いしましょう。むしろ私は精一杯自分の魔法でこの村を守ってきたあなたに敬意を評したいくらいです。」
私が笑みを浮かべて伝えるとアリゼルさんは力なく笑った。
「はは…リオンさんにはみんなお見通しか…一応私の事情。話しますね。」
アリゼルさんはそう言って近くの切り株を指差した。長話になる、ということか。私達は隣り合ってその切り株に腰かけた。
「どこから話せばいいんですかね。私は詠唱文聞いただけでも同胞は分かると思いますけど、ハイエルフです。」
「杖の装飾からも大体察していました。ならばリヴェリア様の親族なのですか?」
「遠縁ですけど。…リヴェリア様と一緒です。エルフの社会が息苦しくて…遠縁なのに何かとハイエルフがやれなんだと言われるのが鬱陶しくて里を出ました。でも加入したファミリアが加入直後に…私以外全滅しました。だから私は本当はLv.1なんです。」
重い過去に言葉が詰まる。
何の因果か私とあまり変わらぬ経歴。共感がしないわけがなかった。
だが最後の言葉が聞き捨てならなかった。
「…なぜLv.を偽ったのですか?」
「ここら辺はLv.が全ての実力社会ですから。すごい実力者揃いの噂のオラリオと違ってここら辺ではLv.3と言っただけでもすごく優遇されます。だからオラリオにならたくさんいるLv.3なら嘘を言っても大丈夫かなって思ったんです。」
「…言い分は分かりました。嘘は許されません。ですが表向きのLv.と実力が見合わない現状を考えるとあまりいい考えとは思えませんが…」
「それは…実力者って分かるだけで敵を簡単に撃退できるからです。私実は…人を殺せないんです。」
「え?」
私は思わず声に出していた。なぜなら『常識』的にはそんな冒険者無能と言われても仕方ないからだ。
「目の前でファミリアが全滅するのを目の当たりにして以来…人の死って言うのがすっごく怖くなって…だから装飾の多い杖を使っていかにも資金力のあるように装ったり、Lv.を偽ったりして戦わずに済むようにしようって思いました。」
そこでアリゼルさんは言葉を一瞬止めた。
「…でも必要とされるのはモンスターや敵の冒険者を倒すための力ばかりで…避けに避けた末にここに来ました。ここの人達はすっごく優しくて…力を求めることなく、ただ融通の効かない私を暖かく受け入れてくれました。でもラキアが重税を課すようになってからここの人も力ばかり追い求めるようになって…」
その点は私自身感じ取っていたから分かる。村人達はラキアを武力を以って撃退することしか考えていないようだった。要は頭に血が上っている。そう表現してもいいかもしれない。
「私はラキアの徴収人を撃退するのを頼まれました。…私は本当はこの魔法を使ってちょっとだけ村人達の生活の助けになればなって思っていたんですけど、結局は戦うために使う羽目になってしまいました。それでも私は人を殺すことができなくて…」
「それで魔法を用いて徴収人を脅して追い返すという方法を用いたのですね?」
「はい…村の人達には私の戦闘が危険だから絶対に村から出ないようにと厳しく言ってあったので私の実力も実際何をしていたかも多分知りません。だから村から遠いところで徴収人を追い返しただけなのを魔法で焼き殺したと嘘をつきました。…そうじゃないと納得してくれそうにない雰囲気でしたので。」
それでアリゼルさんの力と私達の力があれば、ラキアを容易に撃退できると思ったのか。
…彼女が力を偽ったのも村人達が増長する原因の一つということか。
「…はは。私って臆病ですよね。村の人達を守りたいならきちんと徴収人を殺さないといけないのに…私はトラウマのせいで人を殺せない。人の死が怖いだなんて冒険者としてあり得ないですよね。いつでも死と隣り合わせなのが冒険者なんですから。」
アリゼルさんがそう自嘲する。
確かに『常識』的にはおかしい。
死が迫っているのに敵を殺すのに躊躇するだなんて愚の骨頂だ。
だがアリゼルさんの行為によって救われた命がある。
今まさに救えそうな命がある。
なら彼女の行為は決して愚かとは言えない。
むしろ私にはその常識を覆す必要がある。
「そう自分を責めないでください。あなたのおかげで救われようとしている命があります。」
「…どういうことですか?」
アリゼルさんが首をかしげる。
「あなたがもしラキアの徴収人を殺してしまっていた場合、ラキアはこの村に強い怒りを抱くでしょう。憎しみの連鎖です。もうそうなればどちらが悪いとかは問題ではなくなります。ひたすら報復が繰り返される…恥ずかしい話ですが、これは私自身の経験です。そうなるのをアリゼルさんは未然に防いだのです。」
「…でも事態は解決していませんよ?またラキアは徴収人を送り込んでくるはずです。」
「仰る通りです。ですが恐らく事態は最悪とは言えません。武力衝突がなんとかまだ起きていないため、まだ交渉の余地があると思われます。」
「…交渉?誰が交渉に行くのですか?村の人達はみんな無駄だと言って聞く耳を持ってくれませんでしたよ?」
なるほど。もうアリゼルさんが試し済みか。
「交渉の場には私が立ちましょう。それなら村人達も納得するはずです。【アストレア・ファミリア】の名声を利用すれば、交渉のテーブルを用意するのも難しくないはずです。」
そう伝えるとアリゼルさんは呆然としていた。…そんなに変なことを言っただろうか?
「…なぜリオンさんはまだ訪れて間もない村のためにそこまで尽くすのですか?ラキアのことはご存知なのでしょう?」
「はい。脳筋と噂の神アレスが主神の軍事国家ですね。多くの眷族を有する巨大ファミリア。さらに戦争をするためには手段を選ばぬ節があるとか。」
「…ご存知ならお分かりだと思いますが…交渉が成立するとはとても…」
アリゼルさんが顔を伏せる。恐らく村人達も同じ心境なのだろう。
ラキアが税を廃止してくれるはずがない、と。
だから武力を頼った。
…絶望もまた武力へと走らせる元凶となり得る、か。確かにそれは私の過去を鑑みても言えることではある。
だが私の正義のため。
私は武力による解決を阻止し、無謀とも思える交渉による解決に挑む必要がある。
「かもしれません。ですが不可能とは決して言うことはできません。私に税を廃止させるための策があります。」
…嘘です。こう言えば私が出向くことに承諾してくれると思って言っただけのことです。
策…どうすればよいのやら…全く思い浮かばないといっても過言ではないのですが…
「…策があるとしても命懸けですよ?…命を懸ける義理はない気がします。…噂通りリオンさんは『正義の眷族』なのですね。本物の上級冒険者はやはりすごいのですね。私の上級冒険者であるという嘘は大変失礼なものだったようです。」
アリゼルさんはそう自嘲した。
…人を殺せない無力な冒険者。
確かに他のファミリアからすれば用無しの人材かもしれない。そう面と向かって言われたこともあるのかもしれない。その事情が今見せている自信のなさと村に来た時に見た虚勢の元凶に違いない。
だが私の今の正義にはその事情は何ら支障はない。むしろ私のような血の気の多く気の短い者よりも適任ともいえるかもしれない。
アリゼルさんは私の正義の一助を為せる人物かもしれない。
私はこの同胞に少なからぬ期待を抱いた。
「そう言うアリゼルさんだって私の思う正義を実行してきたと思います。むしろ私よりも上手な方法を用いることができている。」
「まさか!私なんかがあの
アリゼルさんは首を勢い良く振って否定した。
「私は
「…本当にそう思ってくださるんですか?」
アリゼルさんが私を見つめてくる。それに私は笑顔とともにこう返した。
「はい。アリゼルさんが同胞で私は誇らしく思いますよ。」
「そう…ですか…えへへ…リオンさんに…」
…私の言葉を受けてか急にアリゼルさんの表情がだらしなくなる。こう見ると子供っぽいですね…そういえば歳をまだ聞いてませんでしたね…
「ただそろそろラキアも本格的に動き始めるころ合いだと思います。なのでここからは私達【アストレア・ファミリア】と協力しましょう。アリゼルさんの守ってきたこの村を必ず私達の手で守り抜くのです。協力していただけますか?」
私は自分の決意が伝わるように力強く言った。それにアリゼルさんは顔を引き締めて答えてくれた。
「断る理由もないですし…リオンさんならもしかしたら戦わなくて済むかも…リオンさん。…本当に戦わなくて済むのでしょうか?」
「…私にも保証はしかねます。ラキアの人間がどれだけ血の気が多いかまでは分かりませんから。ですが最後まで戦わずに済むように努力すると誓いましょう。」
私がそう答えるとアリゼルさんは何か重大なことを言おうとしているかのように大きく息を吸った。
「分かりました。…こちらこそぜひ協力させていただきたいです!あと…その…」
「あの…どうかしましたか?まだ心配事でも?」
急に口ごもってしまうので私が戸惑う羽目になる。するとアリゼルさんは勢いよく立ち上がったかと思うと私の前に座り込んだ。
「実は私リオンさんのファンだったんです!ずっと尊敬していました!」
「…えっ?」
…ファンとは何のことです?あとなぜこんなに目を輝かしているんですか?
「だからどうか私を【アストレア・ファミリア】に入団させてください!リオンさんの活躍をそばでずっと見ていたいんです!」
…はて?私は確かにアリゼルさんに同じ正義を掲げる仲間になれるのではと期待を抱いたのは事実です。ただまさか私が提案する前にアリゼルさんのほうから申し出られてしまうとは…
って!?
「ちょ…顔が近いです!?」
「あっ!失礼しました!」
あまりのアリゼルさんの勢いに私は思わず引いてしまう。…同胞なのになんて距離が近いのでしょう…今考えてみればさっきまでもやけに距離が近かった気がする。最近はベルとずっと肩を寄せ合ったり…
ベル…
もうそろそろ会えなくなってから一か月が経とうとしている…
…早く会いたいです…
「あぁ!?リオンさん!?大変厚かましいことを言いました!申し訳ございません!」
気づくと極度に狼狽してしまっているアリゼルさん。この慌てよう…まさかベルと会えない寂しさが表情に出ていた?
とっ…とにかくアリゼルさん誤解を解かなくては!
「違います!もちろん大歓迎です!アストレア様にはあとで頼んでおきます!私はアリゼルさんと仲間になれるならうれしく思います!」
「しかし今リオンさん嫌そうな表情を…」
「これは違います!今のは別の問題を思い出していただけで…」
言えるわけがない。
私を尊敬しているというアリゼルさんの前でベルが恋しくてそんな表情になっただなんて言えるわけが…
「…ベル?」
「え?」
「へ?」
「…まさか私声に出していましたか…?」
「あっ…はい。ベルが恋しくてそんな表情になったと…ベルって何です?」
もろに言ってるではないですか!?!?
これでせっかくアリゼルさんが抱いてくれていた良いイメージは消えた…
…所詮私のイメージなどよくなるわけないということですね…
「ちょ!?すいません!今聞いたこと忘れますから!だからリオンさん落ち込まないでください!」
「…いいのです。私はもう【
「リオンさぁん!」
「あの…冒険者様方?よろしいでしょうか…?」
私がちょっとしたショックに襲われていたが、突然湧いてきた別の声のおかげですーっと頭が冷えた。
…誰か知りませんがありがとうございます。
私はしばらく間をとってきちんと気を静めてから声のしたほうを向いた。
その声の主は先ほどのこの村の長老だった。
それも息絶え絶えとしている。
…何かがあった。
私はすぐにそう判断した。
「どうかしましたか?まさかラキアが…」
「そのラキアが大部隊を発したそうです!」
くっ…ラキアはしびれを切らしてしまったか…
戦うしかないという心に生じた考えをすぐさま封じ込め、私は立ち上がった。
「分かりました。アリゼルさんとも話がつきましたので、私の策を長老にお伝えしましょう。まずアストレア様と仲間をどこか機密性の高い場所に集めてください。私とアリゼルさんも後で追います。」
「ありがとうございます!では儂の家にお越しください!お二人もお呼びしてきます!」
長老はすぐさま背中を翻して走っていった。
…今の私の醜態を忘れてくれるといいのですが…無理でしょうね。
「アリゼルさん。入団はどうやら後回しになってしまいそうです。私の策は長老の家で伝えます。」
「…はい。大丈夫でしょうか…」
アリゼルさんが心配げに言う。
「…どうにかするしかないです。でなければこの村の人々が苦しむことになります。行きましょう。それほど余裕はないはずです。」
そういうことだ。
仮に戦うことになれば、村にも必ず被害が及ぶ。かと言って何もしなければ、無理やりにでもラキアは税として村人たちの命綱を略奪していくだろう。
交渉にかけるしかないのだ。
戦闘以外でほとんど役に立たない私の脳を精一杯働かせながら、私とアリゼルさんは長老の家へと走り始めた。
新しい魔法の詠唱文が短いって…?無理です…そんなパパッといいのなんて思い浮かびませんよ…
原作者さんはどうやってあの超長文の詠唱文を考えてるんだ…?
アリゼルってなんかアリーゼみたいですよね。でもこれ『高貴なエルフ』って言う意味らしいんです。エルフ名前って調べたらエルフの名前の辞典(他作品のものだが)が出てきたのでそこから引用しました。
そして突然デれるリューさん。(笑)
きっと正義を掲げて生きるリューさんのこと尊敬してる人実は多いんじゃないかなって思うんですけど、こうやってみんながポンコツだと認識していく…