『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
本当はある人物とリューさんの話を書くつもりだったんですが、その人物のキャラと展開を定めきらなかったのでカットすることにしました。
その人物は後ほど出てきます。
その代わりにベル君登場、と言ったところです。
リューさんが旅に出てからしばらくしてからのこと。
オラリオに激震が走った。
ラキアにオラリオ侵攻の兆しあり。
オラリオの西方に位置するラキア王国が七度目になるオラリオ侵攻の準備をしているというのだ。
…ただ本当は激震なんてひどい誇張。
実際はいざとなったら一部のファミリアにラキアとの戦闘のための召集がかかると通達が行ったり、商業ファミリアが儲け時だと大喜びしたりと特に慌てるそぶりを誰一人見せることはない。
オラリオは今日も平穏そのもの。
僕一人を除いては。
ラキアというとオラリオの西方に位置する国。
そしてリューさんが旅に向かったのは西方のリューさんの故郷という場所。
リューさんは一ヶ月以内にオラリオに帰還すると聞いている。
その途上ではきっとラキアの領土を通る可能性が高い。
…つまりラキアの軍とリューさんが鉢合わせする可能性がある?
その可能性が頭に思い浮かんだ瞬間僕は背筋が凍るような感覚を覚えた。
リューさんなら戦争が起こると分かれば、例えオラリオの被害が軽微だとしても阻止しようと動くのは間違えない。
いつものリューさんなら大丈夫だとあっさり流せただろう。
だけど今回の旅に出たリューさんは自分の夢を叶えるために覚悟を決めたリューさん。
リューさんは覚悟を決めるとかなり無茶してしまうのは経験上僕は分かっている。
僕は『何か』があった時に後悔したくなかった。
僕はすぐさまアイズさんとシャクティさんにいざとなった時のリューさん救出のために協力して欲しいと頼んだ。
シャクティさんには都市の警備の優先を理由に断られたもののアイズさんには協力を取り付けることができた。それも場合によってはラキアとの交戦経験もある【ロキ・ファミリア】全体が救出に協力してくれるというお墨付きまで。これで万が一リューさんが危機に晒されていた時には救出することができる。
そして僕はギルドの都市外出禁止令という予想外の障害に遭いながらもここではシャクティさんの協力の元オラリオを出ることができた。
それで僕は一人で大慌てでラキアへと向かっていた。
「…大丈夫かな…リューさん…」
僕は走りながら定期的に呟いていた。
心配で心配で仕方なかった。
リューさんの力が強いのは当然知っている。
でもリューさんが交渉とかで力を発揮したことを僕はまだ見たことがない…
確かにシルさんもアストレア様もいるから心配はそんなにしなくてもいいかもだけど…
でもとにかく心配だった。
…でもあとちょっとだけ早くリューさんに会いたいなーとか。
って僕何呑気なこと考えてるの!?とにかく早くリューさん達を見つけなきゃ!?
…ってどうやって見つけるの?僕闇雲にオラリオから出てきちゃったけど、そこを一切考えてなかった…
…まずい…かな?
今更気づいたまずい状況に顔が青ざめかけていると道先が少々騒がしくなってきた。
…たくさん人がいるみたい…まさかラキア軍?
そう警戒した僕はその場に急停止して、ナイフに手を当てた。
するとその一団が見えてきて、先頭にいたのは二人の女性…って!?
「シルさん!?」
「あっ!ベルさん!」
シルさんと認識できた僕は急いでシルさんの元に駆け寄ろうとした。
だがそれを遮るようにシルさんの隣にいた女性が僕の前に立ち塞がった。
「あなたがベルさんですか!?」
…誰?
「え…?あっ…はい…」
…誰かは分からないがとりあえず返事は返しておく。
…耳の形から考えて…エルフの方?あと杖を持っているから冒険者かな?
と思っているとそのエルフの方は突然目をキラキラさせて僕の手を取った。
「初めまして!私アリゼル・リヨス・アールブと申します!リオンさんからお話をお聞きしました!是非お会いしたかったです!」
…え?え?リューさんから僕の話を?
「あの…リューさんは僕の何を…?」
…リューさん?また何か叫んじゃったとかそういうパターンじゃないですよね…?ダメですよ…?僕とリューさんが全世界で色ボケカップルって言われるように…
「リオンさんがベルさんに会えなくて恋しいと仰っていました!それもとっても寂しそうな表情で!ベルさんはリオンさんの恋人なんですか!?恋人なんですよね!?ほわー!リオンさんはこのような守ってあげたい系の殿方がお好みなのですね!あっ!でもリオンさんのパートナーとなられるお方!さぞかしお強いのかもしれない!あぁ!ベルさんのことを私はもっと知りたいです!」
……
うん。
このテンションにはとてもついていけないね…
リューさん僕のことを恋しく思ってくれるのは嬉しいんですけど、むやみに他の人に言わないでくださいね?とかリューさんに関して心の中で突っ込みたかったけど、それ以上に目の前のアリゼルさん(?)が凄まじかった…
なんかすっごく僕に会えて嬉しがってくれて興奮してるっていうのは分かるんだけど、ちょっとテンション合わせられないかなぁ…
…って後ろにいるシルさんの表情がちょっと怖いんですけど!?
「…ベルさん?リューのことは私がお伝えします。だからアリゼルさんの行く手を遮らないでくださいね?」
「いや…近づいたのは僕じゃなくて…」
「い・い・で・す・ね?アリゼルさんもオラリオまでそろそろです。私のことはいいので先を急いでください。ベルさんに話をしたら追いつきますから。」
「「はっ…はい…」」
何で僕まで怒られるの…?と突っ込みたかったが、あとは恐ろしいのでやめておく。
「全く…ベルさんがアリゼルさんまで無自覚に口説き落としたらリューに合わせる顔がないよ…」
「え?シルさんなにか言いました?」
「何も言ってませんから早くベルさんは道を開けてください!」
またシルさんに怒られた…何を言ってたのかな?声がイマイチ小さくて聞き取れなかったなぁ。
それはともかくアリゼルさんは後ろについてきていた人達に声をかけてその人たちを引き連れて僕とシルさんの横を通り過ぎていく。…何でこんなに人が付いてきてるんだろう?色々荷物も多そうだし…
列が通り過ぎるのを見ながら僕はその中にリューさんの姿がないか探す。
でも最後尾になってもリューさんの姿を見つけることはできなかった。
「シルさん?リューさんはどこにいるのでしょうか…?」
シルさんと二人きりになったところで僕はすぐさまシルさんに尋ねた。
「リューは今…ラキアの首都にいます。」
「え?」
ラキアの首都…?
「ベルさんがここにいるってことはラキアが侵攻を計画しているという情報がベルさんの耳にも入ったんですね?なら話が早いです。リューは現在交渉に赴いています。」
「交渉って…侵攻をやめるようにってことですか?」
「それだけじゃないんです。先ほど通り過ぎていった方々がいますよね?彼らはラキアの村の方々でラキアによって戦争のために課せられた重税に苦しんでいた方々だったのです。それでリューはあの方々だけでなくラキア全体の村々を救うため、重税をなくすように交渉しようとラキアに向かいました。」
リューさんはオラリオだけでなくラキアの人達のことまで考えて行動している。その視野の広さに僕は驚かされた。
だが一つ懸念が僕には浮かんだ。
「でも…ラキアの税の事情にリューさんが口を出しても大丈夫なんですか?」
ラキアの住民ならまだしもリューさんは完全に部外者。そう簡単にはいそうですか、と済むのだろうか…?
「一応リューは村の代表として赴いてるので大丈夫です。ただこれはラキアへの内政干渉になってしまって…さらに交渉相手が戦争好きで有名なアレス様でしょうし…」
アレス様…ってちょっと前に神様を誘拐したんじゃなかったっけ!?そんな神様との交渉なんて大丈夫なの!?
「それって交渉の成功が簡単じゃないってことじゃ…」
「まぁそうです。」
さらっと言ってのけるシルさん。
でも僕は気が気でなかった。
交渉が失敗するかもしれないってことはリューさんの命に危険が及ぶということとほぼ同義だと思ったからだった。
「じゃあ何でシルさんはここにいるんですか?何でリューさんは一人でラキアに行ったんです?アストレア様が付いて行ってるんですか?」
僕はちょっと怒気を込めて言った。
シルさんがリューさん一人にすべての責任を押し付けているようで、さらにシルさんにリューさんの身を心配する様子もないのがかなり不快だったから。
「アストレア様は別の役割があってリューと一緒にはいません。なぜリューが一人で行ったのか?それは私もアストレア様もリューが一人で行くと強く言ったのでリューの意志を尊重したからです。」
そのリューさんの判断は当然予測できる。
リューさんは大切な人を危険に巻き込むような真似をするくらいなら自分一人で危険に飛び込んでしまうような人だ。例え自分の命が危険に晒されるとしても。
リューさんの意志は確かに尊重すべき。だけどリューさんの人柄を分かっているなら無理を言ってでも同行すべきだったはず。リューさんの無理を抑えないといけないから。だから二人がなぜあっさりリューさんの意志を尊重したのか理解し難かった。
「それでもリューさんに付いて行くべきだったはずです。リューさんを一人にしたシルさんとアストレア様の考えは理解できないです。」
僕はシルさんをにらめつけながら言うもシルさんは表情を変えない。
「ならベルさんはどうすべきだと言うんですか?いえ。それよりも今からどうするんですか?是非聞きたいです。」
シルさんにそう尋ねられて僕はすぐさま言い返した。
「今から?それはもちろんリューさんを助けるために今すぐ…」
【ロキ・ファミリア】に助けを求めてラキアに乗り込む。
そう言いかけたところで僕は言葉を止めた。
シルさんの冷たい視線を感じたからだった。
僕は何かを気付かずにいてそんな僕に失望した。そう言っているような視線だった。
だから僕は言葉を止めて考えた。
何を見落としたのかを。
そしてふと気づく。
なぜ僕はリューさんが失敗することを前提にしているのか、と。
確かに僕はリューさんが交渉を成功させたのを見たことはない。
きっとシルさんもアストレア様も見たことはないだろう。
だけどシルさんもアストレア様もリューさんに無理にでも付いていくことはなかった。
二人ともリューさんのことを心配だっただろうけど、それでもリューさんを信じて送り出したに違いない。
なのに僕はどうだ?
リューさんを疑って失敗すると思っていた。
僕が一番リューさんを信じなければいけないのに。
さらにそもそもの話だ。
僕はリューさんから聞かされていたはず。
今回の旅が武器を使わずに平和を維持する方法を探るためだと。
ならリューさんが交渉で解決しようとするのはその方法として正しい。
逆に僕の行動に問題があると気付かされる。
僕はアイズさんを介して頼んだ【ロキ・ファミリア】の武力を以って解決しようとしていた。
これだとリューさんの考えを真っ向から否定する方法ではないか。
そんな考えを無意識に持っていた僕自身に絶句する。
「その表情。気づいたんですね?ベルさん。何をベルさんが間違っていたのか、と。」
…シルさんはどうやら僕の表情から感じ取ったらしい。
僕は正直に自分の間違いを吐露した。
「…僕はリューさんをきちんと信じることができてませんでした…さらにリューさんの夢を汚すような行動までしていたと気づきました…リューさんに合わせる顔がありません…」
「【剣姫】様に援軍を頼んでいたことですね?」
「…え?シルさんなぜそれを…」
「シャクティさんから連絡がありましたよ。ベル・クラネルは何を考えている、という呆れの言葉と一緒に。」
…だからシャクティさんは僕の頼みを断ったんだ…
シャクティさんはリューさんの夢を理解し、武力を以って助けるのを避けた。
シルさんもアストレア様もリューさんの夢を理解して、リューさんの意志を尊重した。
…僕が一番リューさんの夢のことを考えてあげられていなかったなんて…
僕は最低だ…
そう思うと僕はシルさんの顔を見ることができなかった。
きっとシルさんからは叱責を受ける。僕はそれを覚悟した。
「でも大丈夫です。神ロキにはアストレア様から依頼をなかったことにするように頼んでもらっていますから。ベルさんのミスはもうなかったことになっています。」
「え?」
想定外の言葉に僕が思わず顔を上げるとシルさんは呆れ混じりにも少し微笑んでいた。
「私はベルさんが自分の間違えに気づいてくれるって信じてました。そしてベルさんは自力で気づいてくれました。だから私はこれ以上責めません。最初シャクティさんから聞いた時はショックでしたけど、それでも自力で気づいてくれたので及第点です。それに免じて許します。もし気付かなかったらリューとベルさんの結婚を認めないところでしたよ!全くしっかりしてくださいよね!ベルさん!」
最後の方は頬を膨らませながら言い終えるシルさん。
今かなり危ない橋を僕渡ってたんだな…という遅い感慨と共に僕は途轍もなく反省した。
僕はリューさんの隣に立ちたい。そう願っている。
ならばリューさんの夢を誰よりも近くで支え、リューさんの考えを理解しないといけない。
僕はそれを十分できてると思ってたけど、まだまだ不十分だったと今回で分かった。
リューさんのことをもっと知りたい。
リューさんの力にもっとなりたい。
そのために僕はさらに努力しないといけない。そう実感した。
「ごめんなさい…シルさん。僕は危うくリューさんを傷つけてしまうところでした…」
「それに気づいてくれたならそれで良しです。では改めて聞きますね?ベルさん。今からベルさんはどうしますか?」
さっきと同じ質問。
再び考える。
今度こそ僕はリューさんの夢に沿った行動をしないといけない。
しばらく考え込んだ末に僕は答えを出した。
「…まずギルドに連絡して正式なラキアへの使者に任命してもらいます。そしてラキアに向かってオラリオの代表としてリューさんに力添えをする…でどうでしょうか?」
緊張交じりに僕はシルさんに答えを告げる。
これでいいのか心配で仕方なかったから。
するとシルさんは笑顔を見せてくれた。
「実はリューは【アストレア・ファミリア】の名声のみで交渉のテーブルにつこうとしていました。つまりリューは公的権力がない。それにベルさんがオラリオ代表という公的権力を持ち込むことでリューの発言力を強めるということですね?ふふ。即興にしてはいい案ですよ。ベルさん。多分リューを助けるには一番いい方法かもしれません。」
「あっ!本当ですか!」
「ええ。今すぐにでも動きましょう。ベルさんは先にラキアに向かってください。私が絶対にリューとベルさんをオラリオの代表とできるように説き伏せておきます。なので心置きなく交渉に臨んでください。」
「分かりました。あとこれを預かってください。」
僕は二本のナイフを腰から取ってシルさんに渡した。
「交渉に向かう僕には必要のない代物ですから。」
そう言うとシルさんはくすくすと笑い始めた。
「ふふ。実はリューからも私小太刀を預かってるんです。二人して私に預けるなんて…分かりました。責任を持ってお預かりします。」
「ありがとうございます。では行ってきます。」
「はい。ベルさん。リューと二人で交渉を成功させてお帰りになるのを心待ちにしています。頑張ってきてください。」
「はい!」
僕はシルさんに過ちを気付かせてくれた感謝も込めて威勢良く返事をして、ラキアの首都へ向かうために走り始めた。
ラキアまではまだ少々遠い。
リューさんが自分の夢に向かって進むための一助となるため、僕は先を急いだ。