『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
リューさんに害(男)迫る!
果たして…も何もベル君は害を排除するんですけどね。
元はマリウスとの絡みを書くつもりだったんですけど、長期化しても無駄なのと前述した通りマリウスのリューさんに絡むのをどうもイメージしきれないのでカットしてアイデアだけが残ってこうなりました。彼はいますけど、影薄いどころかほぼ出てこないですね。今後も名前だけの登場かな。今更の当て馬どうでもいいですけど、ベル君が少しは嫉妬するのを書きたかったんです。それ以上もそれ以下もないです。(笑)
部屋に響くのは本を時折めくる音だけ。
交渉を済ませた私はオラリオから使者が来るまでラキアに残らなければならなかったのでその空白の時間を利用して本を読んでいた。
ラキアは古くからある国。そのため大規模な書庫があり、それもあって蔵書も多い。
その中から私はあえて昔の御伽噺などが書かれた本を読んでいた。
なぜかと言うと…それは…ベルが英雄譚が好きだと聞いたから。
ベルと話を合わせられたら嬉しい。そんな思いで私は本をめくっていた。
蔵書を借りるのに一苦労するかと思ったが、思わぬ協力者のおかげで難なく済んだ。
その協力者はラキアの王子マリウスさんだった。
彼は妙に私に構ってくる。
正直扱いに困っている…
彼はいくら私の身を案じていただいたとはいえ、危うくクーデター未遂を起こし、私の理想としていた交渉を破綻寸前に追い込まれていた。それだけを鑑みると好印象は抱き難い。
それでもここに来るまでの間に話した限りでは彼とは正義を共有できる気もした。それに近いうちに【アストレア・ファミリア】に入団してもらうことになっている。だから彼ともきちんと交流を深めなければと思うわけだが…
エルフの潔癖がここに来てふんだんに発揮されているおかげでそれが難しくなっている…
ついさっきも本棚の上の方にあった本を取れずに手を伸ばして立ち往生していた所彼が取ってくれようとした。だがその時一瞬彼の手が私の手に触れてしまい、反射で私は彼の手を打ち払ってしまった結果彼は後方の本棚に激突、現在気絶したまま近くのソファに横たわっており、未だ意識が戻っていない。
くっ…私はまたやりすぎてしまった…やはり私には人と関わるのが難しいということなのでしょうか…
またそんなジレンマに陥っているとふと鐘の音が聞こえた気がした。
はて…?まだ正午までは時間があるはずですが…
そして同時に大きな足音も聞こえてくる。…書庫の近くで大きな音とは…感心しませんね…
するとギーと音を立てて重い扉が勢いよく開いた。
「リューさん!!大丈夫ですか!?」
「ベッ…!?ベル!?!?」
会いたかった人の姿が思わぬ場所で目に入ったことで歓喜のあまり私は叫んでしまう。
ベルがなぜここに?
そしてベルはどうしてそんなに焦っている?
というかベルの右手が光を纏っている!?!?
なぜ彼は魔法を発動しかけているのですか!?!?
等々疑問が湧いてきて混乱しかけた末に、私は真っ先に思い浮かんだ言葉を発した。
「ここは書庫だ!静かにしなさい!」
「…つまり…ベルがオラリオからの使者として来て、慌てて私を探していたのはマリウスさんが私のそばにいるのが心配で…ということですか?」
「…はい。そうです。」
事情を全て話してくれたベルがシュンとしながらうなづく。
私は今にも騒ぎ出しそうなベルをひとまず書庫から連れ出して、少し離れた場所で話を聞いた。もちろん注意や諸々をした上で。…特に魔法を使いかけていたのは厳重注意しておいた。どれだけマリウスさんのことを警戒してるのですか…確かに直前までは事実上的だったと解釈できるので警戒するのは分かりますが…
「今ベルがここにいられるということは陛下との会談も無事終了して、交渉は成立したということですね?」
「そうです。リューさん。おめでとうございます。やっぱりリューさんは一度言ったらやり遂げる、そんな凄さがあります。僕なんかじゃ隣に立てないんじゃないかって思うくらい凄いです。」
ベルに褒められてちょっと嬉しくなる。だがベルの表情が浮かないことと自虐的な言葉から何かあったのかと疑い、私は尋ねることにした。
「どうかしましたか?ベル?少し表情が浮かないようですが…」
「すいません!」
ベルが突然頭を深々と下げる。あまりに唐突だったので私は反応に困った。
「あの…ベル?別に先ほどのことはそれほど怒っていませんよ?」
「違うんです…僕は危うくリューさんの夢を踏みにじりそうになりました…だから僕はどうしても謝りたくて…」
何のことかは分からない。だが私はベルもこの様子だと全て話さなければ気が済まないだろうし、謝りたいことを黙っているのも辛いに違いないと思い、ベルの話を黙って聞くことにした。
ベルの話を簡単に言うとラキアで危機に陥っているであろう私を助けるために【ロキ・ファミリア】に助けを求めたが、シルに暗に自身の過ちを言われてようやく気付いた、ということらしい。
正直ベルの言うように私の夢を踏みにじる行為と言わざるを得ない。なぜならベルは私の夢を理解しきれず【ロキ・ファミリア】の武力を以って解決しようとした。
それも【剣姫】を頼って。
交渉に行った私のことも信頼してもらえていなかった。
私の交渉力よりも【剣姫】の武力を信頼した。
確かにそのショックは大きかった。
だが私にとって今のベルの話にはそれ以上に意味を成すことがあった。
「顔を上げてください。ベル。」
後悔の滲んだ声で話し終えたベルに優しく声を私はかけた。
だがベルは顔を上げてくれない。仕方なく私はしゃがんでベルと視線を合わせようとした。しかしベルは目をきつく閉じてしまっている。私の叱責を覚悟しているのかもしれない。
「ベル。確かにあなたの行動は私にとってショックです。」
嘘はつくべきじゃない。思うことをそのまま伝える。
だが私にとってはそれを上回る喜びも確かにあったと伝えよう。
「しかしベル。あなたはいくらシルの助言があったとは言え、最後は私を信じてくれた。私の夢を思って行動してくれた。私はそれだけで嬉しいです。」
「リューさん…でも…」
ベルが何かを言いかける。きっとまた自虐的な言葉に違いない。こう言う大切な人に過ちを犯した時は一番自分自身が許せないもの。だからその罪悪感を打ち払うために私はベルの言葉を遮って続けた。
「それにですね。ベル。私だってこの夢の全容を把握し切れているわけではありません。今回の旅の中で私も無意識に武器に手を伸ばしてしまう時もあった。しかしそんな私をアストレア様とシルは支え導いてくれました。ベル一人が過ちを犯したのではありません。私だって犯しかけている。しかし最終的にベルも私も過ちを正すことができた。」
私はそう言い終えるとすっと立ち上がり、ベルに背を向けるとそばにあった窓をゆっくりと開けた。
そして私はベルの方に振り返り告げる。
ベルは私の言葉でゆっくりと顔を上げた。
そのベルに私は微笑みながら言葉を続けた。
「私がラキアの部隊を武力で撃退していてもベルが【ロキ・ファミリア】を連れてきてもこの交渉は成立させることはできませんでした。だからこれが…私達が過ちを正した成果です。」
私はベルの手を取り、窓のそばへと引き寄せた。
そして二人並んで外を眺めた。
さっきから窓から入ってくるのは涼しいそよ風と人々の喧騒。
「見てください。ベル。人々が無邪気に笑い、喜んでいる。」
私は交渉前のここの様子をこの目で見ている。
戦争直前で重税のせいで貧困に喘ぐ街。
笑顔など到底なく物音も人数も少なく、静かすぎて不気味というほどだった。
しかし今は違う。
「ラキアが…変わろうとしています。戦争ばかりだった国家から平和を愛する国家へと。この変化は私達の努力が一端となっています。ベル…あなたの決断に感謝を。あなたの決断がなければ、今の彼らの笑顔はなかった。」
私は笑顔でベルに伝えた。
ベルは確かに間違えかけた。だが過ちを正したことで救われた人が数多くいるということを。
「みんな…すごいいい笑顔ですね…これが…リューさんの夢が実現した時の世界…」
ベルがポツリと呟いた。
「ええ。そうです。これが私達の
これが今の私の決意。
今回で戦争がないということがどれだけ多くの人に笑顔をもたらすかが分かった。さらに武器がなくとも言葉で平和をもたらせるということも分かった。
私は今の正義が誇れるものだと確信していた。
「僕も…努力します…僕がリューさんの夢の実現を手伝ったんだって胸を張って言えるように…二度と間違えないように…僕は…正真正銘リューさんの隣に立てる男になりたいです。」
ベルの言葉には決意で満ち溢れているように感じた。さっきまでの憂いも吹き飛ばせたようだ。そしてその決意が私の夢を支えてくれるというものだというのが何よりも私にとって嬉しかった。
「なれますよ。絶対に。私の愛するベルならもうたとえ間違えたとしても必ず正すことができます。だからベル。自分に自信を持ってください。」
「ありがとうございます。リューさん。僕頑張ります!」
グッと拳を作って笑顔でベルは言ってくれる。
こうやって間違えてもすぐに立ち直って前に進んでいこうとできるところ。これもきっとベルの美徳だと思う。私もベルを見習わなければ。
「みんなで協力していきましょう。ベル。私達は二人だけではありません。【ヘスティア・ファミリア】の方々や【アストレア・ファミリア】のみんな。私達には仲間がいるのですから。」
そう言った瞬間ベルの笑顔が硬直する。…私は何かいけないことを言ったのだろうか…?
「そうです!リューさん!」
突然また大声を上げるベル。…まるで書庫に突入してきた時と同じような様子だ。…そういえばマリウスさんの話を放置していましたね…
「どういうことですか!?リューさん!?【アストレア・ファミリア】に王子様を入れるって!」
「それは…陛下との約束で…」
「ダメです!リューさん!絶対にダメです!」
あまりの剣幕に私は動揺する。ベルがここまで拒絶するのは初めてでは…
「どうしてですか…?理由を聞きたいです。」
「それは…リューさんの近くに男の人がいるのは嫌だなーって…」
「え?」
思わず聞き返す。
「だっ…だから!リューさんのそばに男の人がいるとリューさんが可愛カッコ良すぎて惚れちゃうに違いないんです!だからリューさんのそばには男の人がいちゃダメなんです!」
「それは…ないかと…私を見てくれる方はベルしかいませんから…」
いかなる男性も女性らしいシルや【剣姫】の方が魅力的なはず。
私のことを愛してくれる方はベルぐらいしかいない。そう考えるとこんな私を愛してくれるベルには感謝が絶えない。
「そうです!僕だけでいいんです!あっ…でも今の単にリューさんが自分の魅力に気づいていないだけ…?うーん…それはそれで無自覚にやりすぎちゃうってことだもんなぁ…それはそれで問題…」
勢いよく同意してきたかと思うと小声でブツブツと悩みながら呟くベル。
表情がコロコロ変わって可愛らしい…
「とっ…とにかく!王子様をファミリアに入れるのは反対です!」
それでも断固反対し続けるベルに私は困り果てる。
「彼は…私と正義を共有できる方です。きっと私の夢の実現に少なからず貢献してくれると思います。だから…私の夢のために…ダメ…ですか…?」
そう恐る恐る尋ねる。
「なっ…その男そんなことまで!?くっ…やはり危険だ…ぐぅ…でもリューさんに上目遣いで頼まれたら断れない…分かりました…リューさんの夢に役に立つなら受け入れます…」
「そうですか…よかった…」
ベルがなんとか承諾してくれたことにホッとする。
「おっ…王子様だからって僕絶対負けませんから!僕の方がリューさんの隣に立つにふさわしいんです!あと!リューさん?一つ約束してください!王子様とは絶対に半径5メートル以内に近づかないでください!」
ベルが妙にムキになっている。なぜでしょう…?
それはともかく半径5メートル以内に近づくなというのは無理があるような…と思ったところでふと問題があったことを思い出した。
「あの…一つ問題がありまして、マリウスさんに触れられるとつい反射的に打ち払ってしまうんですけど…どうやったら治せるでしょうか?先程なんて彼を気絶させてしまって…ベルなら…大丈夫なのに…」
そう問題を告げるとベルはなぜか目をキラキラさせ始めた。
「リューさん…!大好きです!」
「え?」
質問とは全く関係のない愛の言葉が飛んできて赤面しているとベルが抱きついてきた。
「ベッ…ベル!?」
「リューさん!もうそのままでいいです!どんどん気絶させちゃってください!」
「いや…それは仲間になるのにさすがにまずいのでは…」
ベルの恐ろしい言葉に戸惑いがちに返すが、ベルが私をすごく嬉しそうに抱きしめてくれるのでもうどうでもいいのではと思考が停止しかける。
「リューさんはありのままが一番ですよ!僕はありのままのリューさんが大好きです!」
「そう…ですか。ふふ…ベルはありのままの私のことが好き…ふふ…私もベルのこと大好きですよ。」
久しぶりに抱きしめられてさらに大好きと言われた私は幸福感に包まれる。
一ヶ月ぶりのベルの温もり。
また感じることができることがとても嬉しかった。
それも成功を収めた上でだから嬉しさもひとしお。
だが短い時間では満足できない気がした私はベルに手を回し、抱きしめ返してベルの温もりを心置きなく堪能することを選んだ。
…何か忘れてしまったような気がしますが、きっと気のせいでしょう…