『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

35 / 54
リューさん視点です。
今回からベル君の妻になることを自覚し始めたリューさんは正妻の貫禄を発揮し始めますよ!嫉妬とかちょっと器の小さいのはベル君の役目です。
そして正妻としてリューさんはベル君のために色々根回しを…


妖精と剣姫

「お邪魔いたします。」

 

「うん…どうぞ。」

 

私は部屋に通していただいたところでつい小さく息を吐いてしまう。

 

…先程から向けられる好奇心のこもった視線が少々辛かった。それらからようやく解放されて気が抜けたと言ったところだった。

 

そんな視線を向けられた理由。

 

…もちろん【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】という私の二つ名に原因があるのは承知の上ですが、それだけじゃない。

 

私が『黄昏の館』…つまり【ロキ・ファミリア】のど真ん中にいるからだった。

 

他派閥の者が本拠に入り込むのは本来許され難いのだが、アリーゼの団長時代にあった協力関係、そして私を案内してくださった方の助力のお陰で今回の訪問は成立していた。

 

 

その方は【剣姫】アイズ・ヴァレンタイン。

 

 

私は目的を持って彼女の元を訪ねていた。

 

「座って…?」

 

…相変わらず言葉の少ない方だ。そう思いながら言われた通り【剣姫】の向かいのソファーに腰を降ろさせてもらった。

 

「…それで私に話っていうのはなんですか?【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】さんの噂は色々聞いてますけど…」

 

「おっ…お待ちを…」

 

私が【剣姫】を止めると【剣姫】はキョトンとする。

 

【剣姫】のような方に【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】と呼ばれるのは…神ウラノスに真顔で言われるのとはまた違った羞恥心を私に起こさせる…

 

とりあえず二つ名で呼ぶのだけは阻止しなければ…

 

「…二つ名以外で呼んでいただきたいです。その…二つ名は…ちょっと…」

 

「なら私のこともアイズって呼んで欲しいな。リューさん。」

 

リュー…さん?

 

そうきますか…

 

いきなり名前…

 

親しみを込めてなのか…ただの天然なのか…

 

「ベルがいつもあなたのことをそう呼んでるから。私もいいかなって思ったんですけど…ダメかな?」

 

どうやら私の動作が止まったことで心配に思わせてしまったらしい。伺うように私を見てくる。

 

「いえ…!大丈夫です!ありがとうございます。…あっ…アイズさん…」

 

「うん。よかった。」

 

…アイズさんはニッコリと笑顔を浮かべる。…確かに可愛い…ですね。私よりも断然。…ベルが一目惚れした理由も…分からないでもない。

 

…それはともかくとしてもそろそろ本題に入らなければ。

 

「アイズさん。今日はご依頼があって訪問させていただいきました。」

 

「分かってるよ。私とベルの訓練のことだよね?」

 

「…え?」

 

ベルの話をしたかったという点では見透かされていた。…だが訓練?それは全く念頭に置いていなかったためアイズさんの言葉を待った。

 

「まずはリューさん。ベルとの結婚おめでとうございます。ベルから色々リューさんのお話聞いてます。それでリューさんに余計な心配はお掛けしたくないのでベルとの訓練は少し前から終わりにしてあります。だから心配しないでください。」

 

「いや…そういうことでは…」

 

「それにリューさんが頑張ってるのを私がロキに仲介したせいで台無しにしかけたってロキから聞いて…そのことは本当にごめんな…」

 

「お待ちを!…アイズさん。」

 

このままいくと頭を下げられかねないと思った私はついにアイズさんの言葉を遮った。

 

…私はそういうことを依頼しにきたのではないのだから。

 

「…まずはお祝い感謝いたします。そして今までベルの戦闘の指導をしてくださったこともとても感謝しています。アイズさんから教わったベルに私は何度救われたことか。その点は感謝してもしきれません。」

 

ベルも言っていた。【深層】で生き延びられたのは私とアイズさんの授けた技や知恵の数々のお陰だと。

 

だからアイズさんにしか頼めないことがあるのだ。

 

「だから今後もベルが望めばいつでも指導してあげていただきたいです。お願いできますか?」

 

アイズさんは私の言葉に驚きを隠せない様子になっている。…はて?私はそんなに変なことを言ったか?

 

「その…いいの?ベルのそばに女の人がいるのって嫌じゃない?」

 

…なるほど。私への気遣い…ですか。

 

「嫌かどうかという問題ではありません。ベルが強くなるため。ベルが抱いた夢を叶えるため。ベルはアイズさんに師事するのがいいと判断した。ならば私はその判断を邪魔するわけにはいきません。何より…」

 

もう私は目の前の【剣姫】が怖くなかった。

 

【剣姫】は私が一度破れた相手だった。

 

そしてベルの憧れの人で最初の想い人。

 

…確かに私がベルへの想いに気づいた時、真っ先に敵対心を燃やしたものだった。

 

【剣姫】に勝ちたい。

 

そう思った時もあった。だから強くなるためにダンジョンに潜ったり、自己鍛錬をしたり、挙句にはオラリオの外に修行に行こうとまで思い立ってまで強くなろうとした。

 

だがその過程で私の【剣姫】への敵対心は消えていた。

 

それは私自身が新たな正義を見出し、力の強さを追い求めなくなった結果【剣姫】と張り合おうとする意味自体が失われたからだった。

 

だから【剣姫】がどれだけダンジョンで偉業を成そうとも私は気にならない。

 

私は私の正義を貫くだけであるし、そんな私をベルは愛してくれている。そしてベルは私の正義が正しくて自分も見習いたいと言ってくれている。

 

だから私は【剣姫】が怖くない。

 

ベルを【剣姫】に取られる心配もベルが再び【剣姫】と同じ力を尊ぶことを選び私を捨てる恐れも感じない。

 

だから私はベルの夢の手伝いのために。

 

隣で共闘できない代わりに出来る限りのことをベルのために準備したい。

 

そのために武器を握らないと誓った私に代わって【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに依頼すべきことがある。

 

「何より…アイズさんがベルの信じた方なら私もアイズさんを信じます。ベルのダンジョン攻略の力になっていただきたい。お願いできますか?」

 

そう言うとアイズさんは一瞬困った顔をする。だがすぐに真剣な表情に変わった。

 

「…分かりました。もしベルに頼まれれば訓練を引き受けさせていただきます。」

 

最低限の依頼は完了。これでベルはオラリオで最高峰の剣士の指導を受け続けることができる。

 

だが今のはあくまで最低限。これからは私のわがままを含んだ依頼を行わなければ。

 

「あともう一つご依頼してもよろしいでしょうか?」

 

「…何?」

 

 

「ダンジョンでベルの背中を守っていただけませんか?」

 

 

「…え?」

 

アイズさんが再びキョトンとする。…分かっている。自分が突拍子のないことを言っているということくらい。とりあえずは理由を説明しなければ。

 

「別にいつもというわけではありません。神ロキから御許可をいただけ、その上アイズさんの気が向いた時だけでいいのです。ベルがダンジョンに行く時に共に戦い、ベルの背中を守って欲しい…そう思いまして。身勝手なお願いなのは分かっています。本来は妻になる私が守るべきですし、そうしたい。…ですが今私は自身の誓いもあり、ダンジョンにベルと共に行けず、その背中を守ることができません。…なので…その…ベルのことが…心配なのです。今のベルは簡単に倒れぬほどの強さと運がある。それでも心配で…アイズさんのような方が側で戦っていただけるとそれほど心強いことはない…な…と。」

 

そこまで言い切ったところでやはり身勝手な依頼だったかと後悔する。それで取り消そうと口を開こうとした時にはアイズさんは口を動かしていた。

 

「いいよ。リューさん。」

 

「ほっ…本当ですか?」

 

思わぬほどの早さの即諾に思わず私は聞き返してしまう。

 

「うん。それだけリューさんは私を信頼してくれてるっていうことでしょ?なら私はリューさんの信頼に応える。ダンジョンのどれだけ深くに行ってもベルを絶対に生きてリューさんの元に送り届ける。約束するね。」

 

「アイズさん…感謝します…あなたはとても尊敬できるヒューマンだ…」

 

私は深々と頭を下げて感謝の意を伝える。ベルはとても尊敬できる師匠に恵まれていたようだ。

 

「ただ私も【ロキ・ファミリア】の遠征とかがあるからいつでもとはいかないし、まずロキの許可もあるか…「そーれなら心配いらないでー!アイズたん!!」…ロキ?」

 

アイズさんが話している途中にもかかわらず、さらに言うとノックもすることもなくドアを大きな音を立てて入ってきたのは神ロキだった。

 

「神ロキ…」

 

「よぉー!リューたん!又の名を【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】たん!元気にしとるかー!」

 

「えっ…ええ…」

 

…今その二つ名をサラリと呼ばれたせいで体温が急激に上がった気がする上に目眩までしましたが…

 

とにかく私の二つ名を叫ばないで…恥ずかしさでどうにかなりそうだ…

 

「おー男神達が騒ぐのもわかるっちゅうくらいにデレが可愛いなー!うちの知ってるリューたんはほぼツンだったから新鮮やわー!」

 

「ロキ…?何を言っているの?」

 

「それは…ツンかヅンか分かりませんが、とりあえず良からぬことを言われている…ような気がします。」

 

私とアイズさんは二人して神ロキの謎の言葉に首をかしげる。

 

そんな私達をよそに神ロキは話を続けた。

 

「まーうちはアイズたん一筋やからどこぞの色ボケ女神みたいに手ー出したりはしんからなー…最近のアストレアちょっと怖いしな…」

 

「え?」

 

…アストレア様が…怖い?何の話だろうか?

 

そんな疑問を抱いていると神ロキは一転して真剣そうな表情になる。

 

「まーとにかく。話は大体聞かせてもらったで。うちのアイズたんをどチビんとこの子の護衛に借りたいってことやな?」

 

「はい。神ロキ。無礼は承知の上ですが、お頼みできますでしょうか?」

 

そんな神ロキの態度に私も姿勢を正して畏まって尋ねる。

 

「知ってるかは知らんけど、うちはどチビとなかよーない。正直どチビんとこの子って言うならどうぞとは言いにくいんや。派閥間の交流もそうホイホイできへんしなーでもアストレアにもリューたんにも昔のよしみがある。でや。うちからの条件はこれだけや。うちになぜアイズたんが必要なのかゆーてみ。うちの目でじっくり真偽を見抜いたる。」

 

神ロキは鋭い視線を私に向ける。

 

…私の真意を測りたい…と言うことか。神相手に出まかせなど役に立たないと釘を刺した上で聞き出そうと言うことか。

 

ならば先ほどアイズさんに伝えたように私の真意をお話ししよう。

 

「先程アイズさんにお話しした通りです。ダンジョンにおいてアイズさんにベルの背中を守っていただきたい。それはベルがアイズさんを尊敬していることを受けてのことが大きいです。ベルにとってアイズさんと共に戦えることがどれだけ力になるか。それは影からベルを見守っていた者として分かります。アイズさんは、ベルの背中を何の心配もなく預けることができ、ベルとの共闘も容易にできる方として私も信頼できると思っています。…ただの自己満足に周囲を巻き込むのは不遜かもしれないのは承知の上です。ですがそれでも私はベルが必ず生きて帰ってきて…そしてベルの夢を叶える一助になりたい…そんな思いでアイズさんに依頼しに来たのです。」

 

私は一通り話し終えると神ロキは私をじっと見たまま何も言わない。

 

沈黙は数秒間続いた。

 

「ふむ…ただアイズたんを利用しようってわけやないのは分かる。アイズたんをどチビの子にとってダンジョンで一番支えになると心から思って頼んだっちゅうーのもな。確かに自己満足やけど、人の力を借りるゆーのは案外難しいからなー特に自分にとって大事な人に関することはなーつい見栄はりたくなるもんや。そこがリューたんとどチビんとこの子の二人のすごいとこや。」

 

「私と…ベルの?」

 

…褒められるような要素がどこかにあっただろうかと思い、私は聞き返す。

 

「そーや。どチビんとこの子もアイズたんに頭下げてうちらにリューたんを助けるのを手伝ってくれってゆーてきた。リューたんと一緒でな。見栄よりも確実性を重視した…これも立派な才能やとうちは思うで。」

 

そーゆうとこはうちのお姫様ダメダメやからなーと付け加えて、アイズさんの頰をグニグニやりながら言う神ロキ。…すぐにその手は打ち払われていたが。

 

「まーリューたんの思いは分かったで。どチビんとこの子の助けになることなら何でもしてあげたいってあっつい愛が伝わってきた。」

 

「あっ…熱い愛…」

 

…そう表現されると…間違ってはいないような…くっ…頰が熱く…

 

「だとしても、や。本当にええんか?うちの天然アイズたんは結構危険だでー天然発動で男をギョーさんイチコロにしてまう。そんなアイズたんを自分の未来の旦那のそばに置いてまってええんか?」

 

神ロキは心配そうな体で聞いてくるが、どう見ても口角がヒクついていて、娯楽好きの神らしく興味関心で聞いてきている様子。

 

…ここは地雷を踏まないように冷静に返さなければ。

 

「私はアイズさんのダンジョンに行ってもベルを生きて必ず返してくれるという言葉を信じています。それにベルは絶対に私から離れないと約束してくれているので。」

 

事実を淡々と述べる。…これで問題ないは…

 

「いやー流石はリューたんの旦那になる男やな!やっぱり言うことが違うで!どチビの子供には似合わんイケメンやないかい!」

 

…あっ…あれ?神ロキの表情がもはやニヤニヤと言っても過言でないものに…おかしい…事実しか言っていないのに…

 

「自分の嫁に絶対に離れないゆー超恥ずかしいこと普通言えんで!ついでに真顔でサラッとゆうたリューたんも流石やわー!そんな超恥ずかしいこと言い慣れてるってことなのかいな?」

 

え…?恥ずかしい…?

 

そんなに恥ずかしいことを私達はいつも言って…?

 

ベルとは互いに毎朝昼晩愛しているって言い合うくらいですし…暇があればいつでも二人でほぼ距離を作ることなく一緒にいるくらいなので…一生離れないと互いに言い合うくらい別に普通と言いますか…

 

…そもそも私はそんなに神ロキのテンションが上がるようなことを言いましたか?

 

「いやーリューたん…それはめっちゃラブラブちゅーことがよーわかったわ。…アストレアがぶちぎれるのも分かるで…」

 

「…え?」

 

気付くと神ロキは先ほど以上にニヤつき、アイズさんは顔を赤くしている。

 

まさか…

 

「…私何か口走りましたか…?」

 

私は恐る恐る尋ねる。…口走るとすれば先ほど考えていたこと…もし口にしていたら…

 

「いやーめっちゃ甘酸っぱいこと言ってたで!」

 

神ロキは満面の笑みで言う。

 

…まっ…まさか…そんなはず…

 

私は一縷の望みをかけてアイズさんの方を見た。

 

…私は何も言っていない。…ですよね?アイズさん?

 

 

「…ベルといつも愛してるって言い合うって…すごいね…」

 

 

 

 

もうダメだ…

 

私は恥ずかし過ぎてもはや絶望まで感じそうだった…

 

百歩譲って神ロキはいいとしても…よりによってベルの護衛を依頼したばかりのアイズさんの前で口走ってしまうなんて…ベルまで恥をかきかねない…

 

「…わっ…忘れてください…やり過ぎるとまたベルに叱られます…だからどうか忘れて…」

 

私は全身が熱くなるのを感じながら、何とか言葉をひねり出して今の発言を忘れてもらうよう懇願した。だがその懇願も恥ずかしさのお陰で二人の目を見て言えないという不完全な形でしかできなかった。

 

「いやー男神どもが熱上げる理由もうち分かって…って痛い!痛いで!アイズたん!どうしたんや!」

 

「…リューさんをいじめちゃダメ…」

 

「ちょ…ちょ!うちやない!痛っ!トドメ刺したのうちやなくて!アイズたんや!痛い!ちょ…やめい!」

 

神ロキがなぜか騒がしくなる。だが恥ずかしさのせいで碌に頭も働かず何が起きているのか把握することもままならない。

 

「どうか忘れて…」

 

私は自身のやり過ぎを何とか忘れてもらえるように呟き続けることしかできなかった。

 

…この後しばらく私は放心状態になってしまった。気付けば神ロキはいなくなっており、アイズさんが用意してくれた水のお陰で何とか冷静さを取り戻すことができた。

 

私が放心状態になっている間にアイズさんは神ロキを説き伏せてくれていたらしい。だがアイズさんどころか【ロキ・ファミリア】との合同遠征を提案されるという大き過ぎる話に発展してしまっていて、今度は私が引き受けていいか考え込むことになった。それでとりあえず保留にして【ヘスティア・ファミリア】の方々に確認を取る時間を頂くことにしてこの日の訪問は終わった。

 

…帰り際に『リューさんがすっごい幸せなんだなってことがよく分かったよ。』とアイズさんに言われてしまい、少し前の記憶を一気にフラッシュバックさせてしまった。

 

…恥ずかしさで私は再び放心状態になり、ベルが迎えに呼ばれるという事態にまで発展してしまったのはアイズさんが悪いとここは責任転嫁をしておきたい。




アイズさんに普通にベル君の護衛を頼めてしまう…
これが余裕のある正妻の貫禄というやつです。うちのリューさんは一味違うのだよ!
これで初期から描いていたリューさんの【剣姫】コンプレックスは無事克服です!たまーにふらっと影を出し続けてましたからね。

この克服もまた実はこの小説のテーマの一つでした。
オッタルを除くともはや最強のベル君憧れのアイズさんにリューさんがどう勝つか。それを武力でアイズさんに勝つのではなく、別の力を手にすることでリューさんは克服したのです。

そしていつも通り口を滑らして自爆するのもお約束です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。