『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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再びリューさん視点です。
今回はアンケートにあったヘスティア様回です。
ヘスティア様はまだ出番ある予定です。


妖精の結婚の挨拶

「いやー凄い人混みだったねー」

 

「その点は申し訳ありません。何分【アストレア・ファミリア】は活動再開して間もないもので色々すべきことがありまして…」

 

何とか客間にご案内したところで私は息をついて少々驚きを見せたままのある方に謝罪する。

 

今日お招きしたのは神ヘスティア。

 

私とベルのことなどで色々相談したいことがあったので私が頼んで来てもらったのだ。

 

「まー分かるよ。僕もファミリアを結成した時は色々大変だったからねー」

 

そうお気楽げに言うが、神ヘスティアの雰囲気は気楽さを一切感じられない。…少々厳しげな雰囲気だ。

 

「あっ…あの…私からお話ししてもよろしいでしょうか…?」

 

「…ん?どうぞ。」

 

戸惑いがちに神ヘスティアに尋ねると神ヘスティアは表情を変えないまま適当な返事を返される。

 

…正直この雰囲気は想定していなかった訳ではないがやりにくい…

 

 

「今日はお越しいただき感謝いたします。お呼びしたのは今後に関してご相談したいことがあったからです。ベルとは話はしているのですが、諸々をファミリアの部外者である私が決定に過度に介入するのはよろしくないと思いまして。」

 

「…そう言う君はそろそろ結婚してベル君の家族になるんだぜ?僕達になんか気にせずベル君と何事も決めてしまえばいいじゃないか。それにベル君だって今の勢いじゃ【アストレア・ファミリア】に改宗するって言いかねない勢いだよ…」

 

…え?【アストレア・ファミリア】に改宗?そんな話私は全くベルから聞かされていないが…

 

「どういうことです?ベルが【アストレア・ファミリア】に改宗とは一体…?」

 

「とぼけても無駄だぜ。リュー君。ここの人だかりもそのせいだろ?ベル君が改宗するっていうのはオラリオではもう噂になってるぜ?お陰で【アストレア・ファミリア】に人が集まっている…と言ったところだろ?」

 

…そんな噂私は知らない。そもそもこの【アストレア・ファミリア】に人が集まってきているのは完全な別件。…と言うか私が知らないところでどうやら大変な噂が流れていたらしい。

 

「おっ…お待ちを。神ヘスティア。そのような事実はありません。ベルからは一切そのような話は聞いていませんし、アストレア様や私にも【アストレア・ファミリア】にベルをお招きしようなどという話はありません。その噂は事実無根です。」

 

「でも根拠がないじゃないか!ずっとベル君は君の部屋に入り浸っているし…最近はリュー君との夢を叶えるんだってずっと息巻いてるし…」

 

神ヘスティアがゴニョゴニョと小声で言う。

 

確かにそれらは事実。ベルは私の部屋に入り浸っていると言うのは強ち過言でもないし、私と夢を共有していると言うのもまた事実。

 

「確かにベルは私の部屋に毎日のように来てくださいます。しかしそれはただ遊びにきているのではなく、ファミリアに関する相談だとかそう言ったことで…」

 

「それだよ!そのファミリアの相談が僕の心配してることを話してるんじゃないかって…」

 

神ヘスティアはビシッと私の方に指をさしながら苛立ちを隠し切れていない様子で言う。

 

…やはりダメなのだろうか。私では。

 

「神ヘスティア…私ではベルの妻としてふさわしくないのでしょうか?信じていただけないでしょうか?」

 

ベルに関する相談。ベルと懸念していた事項。

 

それは神ヘスティアが本当に私たちの結婚を許してもらえるのか、ということだった。

 

交際開始直後もベルに押し切られて渋々といった様子が明らかだった上に最近もあまり好印象を抱いていなさそうだとベルが苦しげに知らせてきていた。

 

それでベルは意思表示も兼ねて毎日私の元を訪れているわけだが、それだけでは根本的解決ができないのは言うまでもない。

 

ここで肝要なのは私が神ヘスティアに認められること。

 

それ以外に何もなかった。

 

そのため今日ベルに頼んで神ヘスティアにお越しいただき、お話できる場を設けてもらったのだ。

 

「ギルドの後援の話を二人で勝手に決めたことはお詫びします。神ヘスティアのご意見も伺わずに決めたのは軽率でした。」

 

…実際話を進めたのは結婚に想いを馳せていて意識を飛ばしていた私ではなく、ベルだったのですが…それでも神ヘスティアが私が結婚を無理に既成事実にしようとしたのではと疑いを抱いている可能性を踏み、あえて先手を打つように謝罪した。

 

すると神ヘスティアは腕を組んで唸り始める。…まさか私はミスを犯してしまったか?

 

「うーん…神にそんな嘘をついてベル君を庇おうとしても無駄だぜ…全部ベル君から聞いてるんだ…その話はベル君が勝手に君がデレデレしている間に決めてしまったんだろ?」

 

「デッ…デレデレとは…ぁ…否定は…できません…」

 

…中途半端に嘘をつくのが無駄だったと言うかそもそも神ヘスティアにベルが全て話してあったのか…なら完全に無駄だったと言うわけか…

 

そしてデレデレと表現されたのが…周囲からはベルと一緒にいる私はそういう風に見られているのか…というかそれはもはや今更なのかもしれない…

 

ともかく直接そう言われると恥ずかしくなってくる…

 

「…君の照れっぷりを見てればベル君への愛はよーく分かるさ。ベル君を見ててもリュー君への愛は格別だと分かる。だけどね…リュー君の行動はどうもしっくりこないところが多いんだ。」

 

「…私の行動に…ですか?」

 

私は首を傾げて尋ねる。…私にそんな神ヘスティアに不審に思われるような不可解な行動…記憶にないのだが…

 

はっ…まさかラキアからマリウスさんを連れてきたことか…!?

 

「第一に、だ。ベル君から聞いたよ。君はヴァレン何某君にベル君との訓練と護衛を頼んだんだって聞いたぜ?その上【ロキ・ファミリア】との派閥連合まで…一体どういうつもりなんだい?」

 

「どう…とは…ベルからお聞きしてるならご存知でしょうが、ベルは以前よりアイズさんより早朝に訓練を受けていました。それをベルが私に配慮してやめてしまっていたと聞いたので、ベルのために再開できるようにアイズさんにお頼みしただけです。護衛に関してもアイズさんの都合次第ですし、ベルの承諾を事後ですが受けています。派閥連合に関しては私の一存では決められませんから、ベルに話をしてファミリア内で決めていただくよう頼んであります。何か問題があったでしょうか?」

 

…私から話を聞かされたベルは最初はとてつもなくびっくりしていたが、私が意図を話したところベルはしばらくの間ずっとハグして離さず何度も感謝の言葉を伝えてくれたのは記憶に新しい。

 

「派閥連合に関してはサポーター君とかみんなが決めることだから僕に不満とかはないぜ。でも気になるのはなぜリュー君がヴァレン何某君に頼んだのかってことだ。…ベル君も流石に動揺していたよ。他の女性に未来の旦那を預けるなんてどういうつもりなんだろう、って。ベル君は浮気をしないって言う信頼してもらえてる証だって喜んでリュー君への愛を深めてたみたいだけど、僕はそう簡単に飲み込めない。もう一度聞くよ?一体どういうつもりなんだい?」

 

「それは…言うまでもありません。私はベルに生きて帰ってきてほしい…それだけです。」

 

「だからってヴァレン何某君に頼む必要はないんじゃないのかい?リュー君が一緒にダンジョンに行くとかいくらでも方法ならあるじゃないか。」

 

「それは…私の正義に反してしまいます。私はもう武器を取らないと誓いました。だから私はもうベルを守ることができません。ですが…ただ何もせずに見送ることだけは…私にはできませんでした。何かベルに生きて帰ってきてもらえるようにできる限りの事はしたい。その思いで私はアイズさんに頼みました。」

 

すると神ヘスティアは大きく目を見開く。そしてなぜか厳しい表情を解いてくれた。

 

「そうか…そういうことか…サポーター君もリュー君にダンジョンでの知恵とかが記された君の直筆の書物を渡された上にベル君を頼むだなんて言われて恐ろしく動揺してたけど…全てベル君のためにやっていたのか。」

 

「そうですが…?」

 

…私はそんなに多くの人を動揺させるような行為を行っていたのだろうか?

 

「…リュー君の気持ちは僕にも分かる。…見送る側になるとすっごく怖くなるんだ。そしてできる限り何か見送られる人のためにしてあげたくなる。それを君の場合はそこまでやってしまうのかい…その…心配じゃないのかい?ヴァレン何某君はベル君の言わば初恋の人ってやつだ。最近はもちろん君にベタ惚れで絶賛ステイタスも君のお陰で爆上げ中だけど…君だって盗られないかとか心配にはなるだろう?」

 

…私のお陰でステイタスが急上昇…?一体どういう意味だろうか…?

 

それはともかくベルをアイズさんに盗られないか心配か、それにはきちんと答えなければならないだろう。

 

「その点は心配していません。アイズさんは必ずベルをダンジョンから私の元に生きて返してくれると約束してくださいました。私はその言葉を信じています。それにベルも絶対に私から離れないと約束してくれています。だからそんな心配はありません。…あったとしても…私にとってはベルが生きて帰ってきてくれることが何よりも大事です。だからそんな私の小さな醜い独占欲など気にするに値しません。」

 

私はありのままに思いを伝える。アイズさんと神ロキにはアイズさんとベルへの信頼のみを語ったが、実際はベルの死という最悪の恐怖を逃れるために手段を選ばない。そんな意図から来る行動だった。

 

「…君は凄いね。そこまでベル君のことを想っているとは…ベル君は君に愛してもらえて幸せ者だよ。…それこそ僕みたいな独占欲をふんだんに発揮する僕なんかよりよっぽど器が大きい。」

 

神ヘスティアは自嘲するように言う。

 

…神ヘスティアにとってベルは最初の眷属。ベルを過保護と周囲から言われるほど世話を焼くのは分からなくもない。

 

だからベルを奪った形になった私のことが恨めしいのも痛いほど分かる。私が神ヘスティアの立場だったら嫉妬に狂うかもしれない。

 

だが私には私と神ヘスティア…私達のベルへの役割は違うのではと思うのだ。

 

「神ヘスティア。独占欲がなければいいというものでもないと思っています。神ヘスティアは神アポロンを始め悪意を持った者からベルをずっと守り抜いてこられました。それが独占欲によるものだったとしてもベルを守り助けることに繋がりました。なのでこれまでベルを守ってきていただいたこと。感謝に絶えません。」

 

「君ってやつは…結婚に関していい顔をしない僕にお礼を言うなんて…」

 

「神ヘスティアはベルの恩人、そして親に当たります。親として子に近づく者に悪意があるのではと疑うのは当然です。そして神ヘスティアがベルの親ということは私の親にもなるということです。ですので…」

 

私は息を大きく吸って吐く。

 

そして神ヘスティアの目をじっと見た。

 

目は決して逸らさない。

 

流れは問題ないはず。今こそ本題に入らなければ。

 

 

「私は必ずベルの夢を叶える手助けをし、ベルを必ず幸せにします。なのでどうか私にベルとの結婚を許していただけませんか?」

 

 

神ヘスティアは私の目をじっと見つめ返してくる。まるで私の言葉の真偽を確かめるかのように。

 

「そうか…君は僕の疑いを解いて僕から許可をもらうためにここに呼んだということか。」

 

「はい…そういうことです。」

 

そう言うとしばらく沈黙が続く。

 

許していただけるかいただけないかの心配で仕方ない緊張状態がしばらく続いた。それも神ヘスティアと見つめ合った状態で。

 

正直心臓に悪い…

 

すると神ヘスティアは小さく息を吐いた。

 

「分かった。君の目には偽りを一切感じない。君は本当にベル君のことを心配して行動してくれているんだね。リュー君とベル君の結婚。認めるよ。僕も祝福する。おめでとう。リュー君。」

 

神ヘスティアは笑顔でそう言ってくれる。だがそれは寂しさを含んだもの。

 

…実はこれがベルの懸念していたこと。

 

ベルは神ヘスティアが優しいから結婚を押し切れば絶対にできると踏んでいた。だが代わりに関係が遠ざかるかもしれないとも予想していた。

 

「神ヘスティア。その…私が言うのはおこがましいかもしれません。…ですが今後もベルを…そして私も暖かく見守っていただけり、できることなら今まで通りベルを神として愛していただけると嬉しいです。なぜなら…その…神ヘスティアは…私の養母さんになる方なのですから。ベルと神ヘスティアが親密でいていただくのも私の望みで…」

 

「おっ…養母さん!?」

 

私は話途中だったが、神ヘスティアが突然大声を出すものだから私はつい言葉を止めてしまいビクッと身を引かせてしまう。だが神ヘスティアは御構い無しだった。

 

「リュー君…もう一回言ってくれないかい?」

 

「なっ…何をですか…?」

 

少し息を荒くしながら言う神ヘスティアへの反応に困るのは無理はない…そう主張したい。

 

一方の私は反応に困っている私に不満全開だ。

 

「だーかーらー!もう一回養母さんって言って欲しいんだ!これは僕がベル君の名実共にお母さんになれる裏付けになる!これで僕はどれだけベル君を過保護にしても問題なくなるんだ!もっ…もちろんリュー君のことも親として一杯可愛がっちゃうぞ!…うん。リュー君にデレデレするベル君を見たり、二人で幸せそうに生活するのを見るのも僕には悪くないかもしれない…」

 

…神ヘスティアがこうもテンションが上がっている理由は理解し難いが…ひとまず私が『養母さん』と言えば何とかなると言うことだけは理解できた。

 

「おっ…養母さん…」

 

「リュー君!!」

 

だがなんとかなることはなかった。

 

神ヘスティアは私の胸に飛び込んでくる上に私の頭を撫でてきまでする。

 

…ひとまず突き飛ばすのを何とか押しとどまった私自身を褒めて欲しいと思った。

 

「いやーよく見ると君も可愛いねー!サポーター君みたいに生意気でもないしーうん!きっといいお嫁さんになってくれるに違いない!よし!今日から僕の娘としてよろしく頼むよ!リュー君!」

 

「はっ…はい…」

 

…とりあえず何とは言わないが豊満な何かが顔に押し付けられて息が苦しい…誰か助けてください…

 

「リューさーん!神様ー!アストレア様に許可もらえましたよー!って何やってるんですか…?」

 

ここでベルの声が聞こえてくる。そう言えば私が神ヘスティアに許可を取ると同時にベルもアストレア様に形式上でも許可を取りたいと言ってアストレア様と話をしていたのでした。…が、神ヘスティアのおかげで見えない。

 

「おーベル君!すまないねー!最近ずっと心配かけちゃって!もう大丈夫!僕はリュー君との結婚を認めるぜ!今はリュー君と親睦を深めているところなんだ!」

 

「はっ…はひ…しょんなはんひへふ(はい…そんな感じです。)」

 

…碌に私は話すこともままならない…神ヘスティア…あなたは何と言う凶器を…

 

「それは良かったです!…けど…リューさんがちょっと苦しそうです…」

 

そのベルの言葉のおかげでなんとか私は解放してもらうことができた。

 

これで神ヘスティアには許可をいただくことができたし、さらにそれからはベルの話をして盛り上がれたので関係を少しでも深めることができたのではと思う。その話はベルのこれまでのカッコいい名言に関するものだったので…その場にいたベルは少々居心地が悪そうだったが…そこを気にしたら負けだろう。

 

ともかく私は三人で話しながら神ヘスティアと良い関係を今後も築いていけたらいいと心から願った。




神ヘスティアはベル君一人を愛でる趣向から息子夫婦を愛でる趣向に転換しました。
これにて姑問題は事前に解決されたとさ。めでたしめでたし。

…まぁヘスティア様はベル君を完全に取られずに済んで喜んでいるだけとも言いますが。

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