『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
ベル君突如現る!…あれ?遠征は…?
前回とは違いベル君のいる【アストレア・ファミリア】の日常回。…その違いは…
「ベッ…ベル…ここにはアリゼルさんが…」
…目の前でリオンさんが困惑と恥ずかしさの絶頂で身動きを取れなくなっている…
なぜか。
それはベルさんに正面から抱きつかれた上に頬をスリスリされているからである。
…
…ベルさんのリオンさんへの愛って本当にすごいですね…
「一週間ぶりのリューさんの温もり…あったかい…」
悶えるリオンさんをよそにベルさんはリオンさんの温もりを満喫している…ようだ。あのーベルさん?私のこと忘れてたりしません?あまりに見せつけ過ぎじゃないですか?
「…ベル?なぜこんなに早く遠征から帰還を…」
リオンさんはしばらく身動きが取れなくなっていたものの何とか私も気になっていた質問をベルさんに投げかけてくれた。リオンさんが質問するとベルさんはようやくリオンさんを解放して答えた。
「遠征なら目的階層まで到達しましたよ。ファミリアのみんなと一緒に生還できました。あと途中からは【ロキ・ファミリア】でも幹部しか行けないような深層までサポーターとして同行してきました。確か…65階層くらいだったと思います。」
うーん…私にはダンジョンの事情は一切分からないけど…どれくらい凄いんだろう…?
「ろっ…65階層…ですか?本当に言っているのですか?…私達のあの【深層】で生死を彷徨ったのでも37階層でしたのに…」
リオンさんの声が震えてる…さすがに私も相当凄いことなのだと察する。
「あの時はリューさんとたった二人。それも常に満身創痍でしたからね…良くも悪くも絶対に忘れられない出来事で…正直リューさんを失う恐怖に比べたらどんな強いモンスターも怖くないな…だなんてつい思っちゃいました。」
「ベル…」
「リューさん。今回は特に【深層】では僕もサポーターに専念していましたが、やっぱりリューさんには感謝してもしきれません。今回一回同行しただけでも色々ダンジョンや戦い方、モンスターのことが分かりました。そしてリューさんがファミリアのみんなと一緒に強くなるだけでなく、強い人達を側から見ることも必要だと言った意味がよく分かりました。全てリューさんのお陰です。ありがとうございます。」
「そうですか…よかったです。私の行いが少しでもお役に立てて。」
…わーい…私完全に蚊帳の外だぁ…
と自棄になりながら二人を眺めているとベルさんは私とリオンさんの近くに積み上げられた書類の山に目を向けた。
「この山は…今リューさんとアリゼルさんのお仕事に関するものですか?」
「あっ…はい。そうです。今は私はアリゼルさんのお手伝いをしていたところでしたので。」
「そうでしたか。すいません。邪魔しちゃって。じゃあ僕は横で終わるまで見てますので気にしないでくださいね。」
ベルさんはそう言って近くから椅子を引き寄せて座ってしまう。…本当に見ているつもりなんですね…
そう思いながらも顔を見合わせたリオンさんと私は目の前の山をなくそうと再び仕事を再開した。
書類に目を通して、必要なら書き込みをしたり、お返しの手紙を書いたり…
何らベルさんがいなかった時と同じ作業。
…だがリューさんはそうあっさりとした状況ではなかった。
途中から作業のスピードが急激に落ちてしまった上に頬も耳も赤くしてしまって作業が進んでいる様子がない。
…理由は言うまでもない。
ベルさんがリオンさんをじっと見つめているからである。
…ベルさん?リオンさんのお仕事の邪魔はお認めできませんよ?
ということで私は意を決して指摘することにした。
「…ベルさん?そうリオンさんを見つめ過ぎないほうがよろしいと思います…その…リオンさんが仕事に集中できないと言いますか…」
そう躊躇いがちにベルさんに指摘するとベルさんはハッと意識が戻ったかのような素振りを見せる。
「すいません…ついリューさんに見惚れてました…だって仕事中のリューさんかっこよすぎて…」
そうベルさんが言った途端にリオンさんはビクッと肩を跳ねあげてさらに頬を赤くする。
やめて!?これ以上リオンさんを褒めたら仕事できなくなっちゃう!?
「あとアリゼルさん。一つお願いしたいんですけど、リューさんのことリオンさんって呼ぶのはそろそろ変えた方がいいと思いますよ?」
ベルさんのよく分からない指摘にわたしは首をかしげる。
「え?何故ですか?」
そう尋ねると、するとベルさんはさらりと言った。
「だってリューさんはもうじきリュー・リオンさんからリュー・クラネルさんに変わるんですから。リオンさんだとまずくないですか?」
突如投下されるベルさんの爆弾発言。
それに次の瞬間にはリオンさんは勢いよく机に頭をぶつけてしまっていた。
「「えっ…リオン(リュー)さん大丈夫ですか!?」」
あまりの痛そうな激突音にベルさんと私はすぐに心配になって声をかける。
だがその心配はどうやら無用だったとすぐに気づかされる。
「リュー・クラネル…リュー・クラネル…ふふ…いい響きです。ふふふ…」
…下からリオンさんの表情を確認してみるとそれはもう幸せに満ちた表情でうっとりとして色々ブツブツ呟やきながら幸せを噛み締めていらっしゃいました…
これでリオンさんは照れ死にしたも同然…はぁ…これでリオンさんはもう仕事ができそうにない…まぁ幸せそうだからいいのかな?
完全にどこかに意識を飛ばしてしまったリオンさんをよそに私はベルさんとの会話に戻った。
「それで…つまり結婚なさるため旧姓となるリオンさんと呼ぶのは後々不都合が出る…と言うことですか?」
「そういうことです。僕はきっとリューさんも名前で呼んでもらいたいんじゃないかなって思ったり。」
ベルさんはそう笑顔で言う。…だが私としては『リオンさん』とお呼びしているのには一応理由があって…
「その…リオンさんをお名前で呼ぶのはちょっと躊躇するというか…尊敬しているリオンさんを名前でお呼びしていいのかなと思うと言うか…」
とにかくリオンさんをお名前で呼ぶのは勇気がいるのだ。するとベルさんは一瞬考えた様子を見せたかと思うと何か閃いたかのような表情になる。
「となるとリューさんのことをクラネルさんって呼ぶことになりますね。」
リオンさんを見下ろしてみる。
リオンさんは肩をビクッと震わせたかと思うとまた何か呟いている。
「分かりました。今からリューさんとお呼びさせていただきます。」
はい。即答。
あっさり消える私の躊躇。
…これは仕方ない。だってクラネルさんとお呼びするたびにこう放心状態になられてはたまったものではない。…それにしてもどうやらあんなに恥ずかしがっていた二つ名よりもクラネルさん呼びの方が破壊力があるとは…正直そんな事実知りたくなかった…
「あっ。そうです。団員選考はどうなってますか?」
ベルさんは思い出したかのように尋ねてくる。…ちょっと待ってベルさん?せっかくリオッ…リューさんがマリウスさんの話を忘れてくれているのにあえて自分から話を近づけますか?いや、そんな事情知らないでしょうけど。でもリューさんに知られたら少々まずいことくらい分かりません?
まっ…私はその点は無関係だから普通に答えておこう。
「今アストレア様とフローヴァさんが選考中です。何せ本当に色々な方々がいらしているので…」
元サポーターの方や戦う力がなくて生きる術にも困っていた方が。
ただ【アストレア・ファミリア】の正義を同じように信じたから人が集まっているは決して言い難い。中には【アストレア・ファミリア】がダンジョンに潜る必要も特殊なアビリティも必要ないと分かって集まってきている人もいるに違いない。
実のところはきっとリューさんが選考から外されているのはこのためなのだと思う。リューさんはきっと困っていると分かれば誰でもファミリアに入れようとしてしまうかもしれない。流石に明らかな悪人は入れないだろうが…とにかくリューさんだと線引きができない可能性が高いと言うのも理由の一つなのだと思う。
ただベルさんが尋ねてきたのは確実にそんな理由じゃない。
「とにかくシルさんにもお願いしておきましたが、くれぐれも男性の団員が入らないようにお願いします。とにかく僕がダンジョンに行っている間に悪い虫がリューさんを襲わないか心配で心配で…」
おーい…そこの超過保護な旦那さーん。リューさんならきっとベルさん以外の男なんて確実に見向きもしませんよー何せこんなにベルさんにベタ惚れなんですから…
「ただでさえラキアで王子様か知らないですけど、リューさんに近づこうとして…何とかシルさんと相談して取りやめにしてもらったのはいいんですけど…」
「はい?」
聞こえてきたこの一言にベルさんは凍りついた。
なぜならその声を発したのはリューさん。…しかも凄く声が低い。…怒っちゃった…かもね。私は知らない。私は本当に無関係なんだから。
リューさんはどこかに意識を飛ばしていたかと思っていたのにゆっくりと顔を上げて、ベルさんの方を見る。…そのリューさんを見たベルさんの顔が引きつっている。…これは相当怒らせたみたい…
「…ベル?どういうことですか?確かに気になってはいました。いつになってもマリウスさんはオラリオに到着したとの連絡はない上に先程まで確認していた書類の中にラキアからの内政の報告がありました。ラキアが武装解除を進め、農業や商業を中心とした国家に生まれ変わりつつある。これは大変素晴らしいことです。ただその中にもマリウスさんがこちらに来るという記述がない。その上そもそもラキアから内政の報告が来ること自体奇妙です。ベル?事情を…説明していただきましょうか?」
「はっ…はい!全部お話しします!」
蛇に睨まれた兎のように恐怖で縮み上がったベルさんはそのまま全て洗いざらい話すことになった。
これはベルさんとフローヴァさんがリューさんの許可を得ずに勝手にマリウスさんの【アストレア・ファミリア】入団と引き換えに定期的に内政に助言を送るとしたのが悪いと流石に私は思う。
「はぁ…全くベルは…私にマリウスさんが良からぬことをしないか心配でこのようなことを行なった…ということですか…?」
「…はい。その通りです…」
全ての話を聞き終えたリューさんは大きくため息をついた。
「…私としてはマリウスさんは私と同じ正義を担えると言ってくださりました。だから承諾したのに…」
…そして今日初めてリューさんがベルさんにでも怒ることを知りました。やっぱりリューさんの正義への思いはそれだけ強いということ。怒ったのはベルさんの独断にというよりも同じ正義を担えると思った人を拒否する形になってしまったことが理由なのではと思えた。
だからそうやって正義を第一に考えられるリューさんはやはりすごいのだと思う。
「…リューさんはカッコ可愛いから近くに男性がいるとメロメロにされて、襲う危険があるんです…だから僕は…」
「カッコ可愛い…私が…ふふ…」
そして定期的にリューさんはベルさんに誉め殺しにされてウットリしている…ベルさんそれ絶対わざとやってません?リューさんの集中を途切れさせて、お説教を終わらせるために。さっきから何度話が中断したことか…
「…とっ…とにかく!事情は分かりました。今回は不問とします。今後はきちんと私に伝えていただきたいものです。あとシルにも後々じっくりお話をすることにします。もうラキアとそう条件交換をしてしまったならもう翻すことはできません。それこそ不義です。なので私達からは全身全霊をもって助言させていただき、ラキアの平和への道を支えさせていただくとしましょう。」
あっ…マリウス王子はあっさり切り捨てられた…ちょっと可哀想な気が…
「それと団員に関しては…ベルとシルの意向が大いに反映されて男性が入団することはあり得ないのでしょう。まぁ…元々アリーゼのいた頃から女性の団員しかいなかったので気にはならないので私は別に気にしません。私としては同じ平和への思いと正義を共有できれば誰でも【アストレア・ファミリア】に歓迎したいと思っていますので。ベルとシルの独断も私の身を思ってのことだと私にも分かります。だからこれ以上は何も言いません。」
リューさんはそうお説教を締めくくる。…微妙にベルさんには甘い気がするのは気のせいだろうか…
「リューさん…ありがとうございます!大好きです!」
ベルさんはそう言ってそのままリューさんをハグ。…さっきまで怒られてたの忘れてませんかね?ベルさん?…まぁ当のリューさんは大好きと言われてまた耳を真っ赤にしてるんですけど。
…うん。幸せそうでいいね。何だかんだ丸く大きな喧嘩に発展しなくてよかったんじゃないかなって思う。
…あとはフローヴァさんがどれだけリューさんに怒られることになるかだけど…
「リュー!!」
…って思い浮かべたら勢いよく部屋に飛び込んでくるフローヴァさん。
今度は何事…?
息絶え絶えに飛び込んできたフローヴァさんにリューさんはベルさんにハグされたまま尋ねようとする。
「あっ…シル。先程ベルから聞きました。あの…」
「ベルさんとのイチャイチャ話もラブラブトークも後でじっくり一杯聞いてあげるから今はとりあえず私の話を聞いて!!」
だがそれはフローヴァさんの焦りの満ちた大声に掻き消された。
…イチャイチャ話とラブラブトークを聞かされたら途中でリューさんが回想に想いを馳せたまま話が進まなくなって終わりがない気が…だなんて冗談を言ってもいい様子にはフローヴァさんはとても見えなかった。…何かあったのか?
するとフローヴァさんによって開けられたドアから微かに聞こえてくるのは…まさか悲鳴?
「よく聞いて!みんな!今一大事が起きてるの!【猛者】オッタルが突然武器を持って現れたの!!」
フローヴァさんが真っ青になって叫ぶ。
…【猛者】オッタル。
流石の私も噂で聞いたことがあるオッタル最強の冒険者…
その人がここに武器を持って…?
フローヴァさんの異様な焦り具合と微妙に浅い知識。それだけでも不穏さを肌で感じることができる。
さらにリューさんにニコニコしながらハグしていたベルさんの表情が急速に真剣になったのを見て、私は相当深刻な問題が起きていることを確信させられる羽目になった。
【アストレア・ファミリア】再興…そしてリューさんが新たな正義を掲げて早々…
それを試すかのような試練がリューさんの目前に迫ってきていた。
突然のオッタル登場。
唐突すぎですね。はい。(笑)
まぁオッタルが出るってことはもちろんあの方も…