『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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ついにリューさんとベル君の逢瀬回!
ちなみにリューさん視点です。


妖精と白兎の逢瀬

 空を渡り、荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。

 

 なるほど。

 

 こういった時でも私の魔法は心構えとして役に立つようです。

 

 私は今ある場所に潜入しようとしています。

 

 何者にも気づかれることなく、壁を飛び越えて敷地への潜入を果たした私はある人物がいる場所へ向かっています。

 

 音もなく、素早く、風の如く。

 

 闇を生きたこともある私にはこれくらい容易い。

 

 月明かりを浴びながら颯爽と目的地のベランダの手すりに降り立った。

 

 暑いからか戸は開けたまま。不用心と言わざるを得ませんね。

 

 まず私は目的の人物を目視で確認。

 

 ヒューマン一人分には大きすぎるような気もするベッドに一人寝ている彼。

 

 周囲を一度見回し、誰もいないことを念のため確認した後、とりあえず彼をもう一度見る。

 

 …【深層】では周囲の警戒を優先していたため、彼の寝顔をじっくりと見ることはありませんでしたが、案外可愛らしい寝顔だ…私が【深層】で見た凛々しい横顔と違い、またこれも彼の魅力なのでしょう。神ヘスティアが箱入りにしようとするのも無理もない。

 

「誰です!?」

 

 彼の大きな声とともに枕が飛んでくる。

 

 言うまでもなく私は枕を普通にキャッチする。

 

「索敵能力と瞬間的な反応力の高さは認めるが、枕というのは残念ですね。もう少し殺傷能力がある物を投げるべきでした。」

 

「ってリューさん!?」

 

 彼が大きく驚く。驚く表情にちょっと嬉しさが混じっているような気がするのは私の願望がもたらした幻覚でしょうか。

 

「とっ…とりあえず入ってください。誰かに気づかれるとうるさくなりますから。」

 

「ええ。そうさせていただきます。」

 

 私は彼の言葉に従い彼の寝室に入らせてもらう。

 

 彼は気を使ってくれたのかに掛け布団から抜け出し、ベッドに腰掛けてくれた。

 

「お久しぶりです。ベル。最近はお会いしていなかったですね。今日までお見舞いに来れなくて申し訳ありませんでした。」

 

「いや!それは今来てくれたからいいっていうか!それよりなんでこんな時間に来てくれたのかっていうか!」

 

 テンパりにテンパる彼を他所に私は至って平静に答えた。

 

「あぁ。これが異性の方に会う時にいい方法だと聞きました。なんでも夜に月明かりを浴びながら颯爽と現れると相手に良い印象を与えられるとか。」

 

「誰ですか!?そんな方法教えたの!?確かにカッコよく見えましたけど!?」

 

「『豊穣の女主人』にいらしていた冒険者の方の会話を耳にしたもので。」

 

「何でそんな話信じたんですか!?」

 

 そう言われても困るというのが本音。私に恋愛の駆け引きの技能など無いに等しい。シルに聞こうと思ったが、『豊穣の女主人』で聞くと余計な介入を受けやすく機会を見出すことができませんでした。それで盗み聞きという即興の情報収集だけでここに来たのです。

 

 準備不足かと思いましたが、そんな心配よりベルに早く逢いたいという想いが勝った結果ここに私はいます。今までお見舞いに来てなかった私もいざ堰を切ってしまうと想いが止められなくなって居ても立っても居られなくなっていた。

 

 だが頭を抱えて悶える彼を見て私はやり方を間違えてしまったのかと少し心配を抱く。

 

「ダメだった…でしょうか?」

 

「だっ…ダメじゃないです!?そんなシュンとしないでください!」

 

「そう…ですか。」

 

 とりあえず彼は問題ないと言ってくれたのでひとまず安心する。

 

 

「こんな夜にベランダから現れたんですっかりアイシャさんかと。」

 

 

 アイシャ…さん?

 

 あの粗暴なアマゾネス…?

 

 私はあれと勘違いされた…?

 

「あっ…」

 

 ベルが驚いた理由に察しがついた。

 

 夜に誰にも知られることなく異性を訪ねる。

 

 

 まるで私は夜這いしに来たかのようではないか。

 

 

「…申し訳ありません。明日出直します。今日のことは…どうかお忘れください。」

 

 迂闊でした…好感度を上げるどころか、破廉恥なエルフという印象を彼に与える結果となってしまった。大失敗です…

 

 大失敗だったと自覚した私は逃げるようにリビングから出ようとする。

 

「待って!リューさん!」

 

 背中に暖かい感触を感じる。私に彼が抱きついてきていたんだと認識が完了する前に彼の口が動いた。

 

「…逢いたかったです。リューさん。よかったら僕はまだリューさんにここにいて欲しいです。もっとお話ししたいです。」

 

 …これは私に気があるということでしょうか…?でもシルも同じような声かけを受けていたような…判断がつきません…

 

「ベル…」

 

「リューさんも色々考えて来てくれたんですよね。変なこと言ってすいません。」

 

「いえ…お言葉に甘えてもよろしいですか?」

 

「もちろんです!飲み物持ってくるのでそこのソファーで待っていてください。」

 

 そう言ってベルが私の背から離れてしまう。温もりを感じれなくなることを残念に思いながらベルに清水を所望して言われた通りソファーで待たせてもらうことにした。

 

 

 

「そうですか。ベル。【ランクアップ】したのですね。おめでとうございます。」

 

 ベルが両手に清水を入れたグラスを持って来てくれた。(二つのグラスに清水を入れてきた理由を尋ねた時に『リューさんと同じ飲み物を飲みたかったから。』と言われて嬉しさやら何やらで心臓の高鳴りが抑えられなくなったのは私の中だけの秘密だ。最も私がポーカーフェイスを貫けたかどうかは分からないが。)

 

 それからベルと私は逢っていなかった時間を埋めるように話が弾みに弾んだ。

 

 やはり私は私でなくなっている。

 

 いつもの私なら話は長続きすることはない。

 

 いつもの私ならこんなに頰が緩んだ状態で会話したりしない。

 

 そんな変わりつつある私自身に戸惑いを感じながらも確実に私は幸せを感じていた。

 

 そして話題はベルの【ランクアップ】についてに及んだ。

 

「ありがとうございます。それでいくつか頼みたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

「私にできる範囲なら構いません。」

 

「実は今まで使っていた魔法に新しく文章が加わってたんですけど、こんなことってあるんですか?」

 

「ふむ…ないと断言はできませんが、あってもおかしくないと思います。ベルの魔法は速攻魔法な分攻撃力が低い。だから【ランクアップ】と同時に魔法が強化されて、その代償が記されたと考えればいいのでは?」

 

 ベルは納得したような表情になる。

 

「強化…確かにそうでした。更新用紙には解呪式も書かれていて、今までの魔法の火がその解呪式を唱えないと消えなくなったんです。」

 

「消えない火…まるでベルのようですね。」

 

 ベルの魔法。確か【ファイアボルト】と言ったか。この魔法には【深層】でとてもお世話になった記憶が生々しく、火というのが少し大人しめな性格のベルには少々似合わないのではと思っていた。

 

 だが『消えない火』というならしっくりくる。それどころかベルを体現してるように思った。

 

 決して『正義(希望)』を捨てずに何物にも立ち向かう『消えない火』。

 

 その『消えない火』が私を温めてくれた。私の『正義(希望)』になってくれた。だから私はこうしてベルと話すことができる。

 

「私はベルの生き方を反映してそのような魔法に変化したのではと考えます。ベルの努力の賜物です。」

 

「僕の努力だけのお陰じゃなくて、リューさんやみんなが助けてくれたおかげですよ。」

 

「ふふふ。」

 

「え?」

 

 つい笑みが溢れた。

 

「すいません。やっぱりベルは変わらないなと思うとなんだか。やはりベルの謙虚さは美徳です。多くの人を魅せてしまうのも納得です。」

 

 ベルのこういった性格だからこそ性別や種族を問わず多くの人を魅せてしまうのだろう。ただ魅せてしまうのが神であったり異性であったりするのが少なからず問題を引き起こしているような気がしなくもないが。

 

「リューさんの方が僕より謙虚ですよ。あんなに強くて正しいことをして。でも決して名誉を求めたりしない。そんなリューさんは僕はすごいと思います。」

 

 すごいと言われて心臓がドクンと揺れる。…ベルに褒められただけでこんなに嬉しくなってしまうなんて…

 

「いっいえ!私よりベルの方がすごくてカッコよくてたまに見惚れてしまったというか…てああ!!私は何を口走っているんだぁ…!!」

 

 見事に自分の昂ぶる想いを口にしてしまい、恥ずかしさで穴があるなら入りたいくらいだ…

 

 そんな私を他所にベルはクスクスと笑っている。

 

「そうやって自爆するリューさんはすっごく可愛いですよ。」

 

「なぁ!?」

 

 可愛い…可愛い…ベルに可愛いって言われた…

 

「ベル…私をからかうのも大概にしてください…」

 

「僕は本気ですよ。」

 

 本気!?

 

 峰打ちを食らわすかのような甘い言葉にクラッとくる。ベル…あなたは対異常のアビリティを超える技を使ってくるとは…もう完全に私は魅了(チャーム)されている…?

 

「なんかリューさんを見てると力が漲ってくるって言うか…なんかどんなことでも出来そうな気がするんですよね。」

 

 追い討ちをかけるようにベルの口から飛び出る言葉にもう私の心臓は弾けてしまいそうになる。もうあなたは『マーメイド』か何かですか…

 

 しかしこれは…

 

 今ベルを何かに誘えば了承してもらえる?

 

 でも何に誘えば…

 

「あっ…あの…べっベル!」

 

「どうかしましたか?リューさん?」

 

 くっ…言葉が出てこない…何に誘えば…

 

 グルグルとまとまらぬ思考の渦に嵌っているとふと目に飛び込んできたのはベルの漆黒のナイフ。

 

 そうです。私とベルにはその手がありました!

 

「もっ…もしよろしければ…あっ!朝稽古を…さっ…再開しませんか…?」

 

 なんで最後に声が萎んでいくんです!リュー・リオン!

 

 まさかこの私にとって闇派閥(イヴィルス)よりも破壊主(ジャガノート)よりも目の前の少年に断られる方が怖いというのですか…

 

 ただあながち間違っていないやもしれません…

 

 …ベル…頼みますから…

 

 って…ベル?なぜそんな気まずそうな表情をしているんですか…?

 

「あーリューさん…?実は僕…アイズさんと稽古の約束をしてて…」

 

 

【剣姫】

 

 

 やはりあなたが障害になりますか。

 

 私が一度もう既に敗れた相手。

 

 ベルの憧れの相手。

 

【剣姫】に私は実力でも及ばないでしょう。

 

【剣姫】に私は彼との思い出の数でも及ばないでしょう。

 

【剣姫】にカッコいいとカテゴライズされる私は女性としての魅力でもきっと及ばないでしょう。

 

「やはり…私より【剣姫】の方が頼りになりますか?」

 

 か細い声でようやく言葉を発するとベルは一段と慌て始める。

 

「そうじゃないんです!リューさんもすっごく頼りになります!【深層】でもいっぱい助けてくれたじゃないですか!」

 

「ベルが言うほどでもないです。私はまだ未熟で弱い。まだ目標まではあまりに遠い。ですが…」

 

 あらゆる面で勝算は薄いでしょう。

 

 それでも。

 

 私は逃げないと決心した。

 

 だから私はもう逃げない。

 

 私はベルの隣に立って支えられるエルフとなる。

 

「朝稽古に限ってではありません。私は私なりに【剣姫】にはできないやり方でベルを助けたいと思っています。だから…私を頼って欲しいんです。」

 

 私の想いが届くように。

 

 私はベルの顔から目を逸らさずに想いを込めて告げた。

 

 するとベルはふわりと微笑んでこう言ってくれた。

 

「分かりました。こちらこそリューさんのこと頼らせてください。よろしくお願いします!」

 

「いっいえ!私こそ我儘を申し上げたのに聞き入れていただきありがとうございます!」

 

 ベルがペコリと頭を下げるので私も慌てて頭を下げる。

 

「朝稽古の代わりに…なんですけど…朝にダンジョン一緒に潜りませんか?」

 

「え?」

 

 ベルの突然の申し入れに瞬時に反応し損ねる。

 

「僕とリューさんの予定があったらでいいんです。…実はあの四日間を過ごしてから考えたんですけど…リューさんには絶対短刀を向けたくないって思って。」

 

「それは朝稽古でも…と言うことですか?」

 

 そう聞くとベルはコクリと頷いた。

 

「はい。リューさんを少しでも傷つけることを自分でしたくないんです。あと今の僕はリューさんの顔を見続けられないって言うかなんて言うか…」

 

 ごにょごにょと濁すベル。

 

 とりあえずベルの言いたいことは理解できた。

 

「だから一緒にダンジョンに行くなら稽古代わりにちょうどいいということですね?」

 

「どう…ですか?」

 

 伺うように聞いてくるベル。

 

 心配しなくても私の答えは最初から決まっていますよ。

 

「是非お願いします。」

 

「そうですか!じゃあ早速今からどうですか!?」

 

「えっ…今からですか…?」

 

「せっかくです!行きましょう!」

 

「ちょっとベル!待ってください!」

 

 おもちゃを与えられた子供のようにはしゃぐベルに流された私はベルに手を取られ、部屋から飛び出す。

 

 装備をどうするかとかこんな時間からダンジョンに行って大丈夫なのかとかそういうことは今はどうでもよかった。

 

 

 私の手は今ベルに握られている。

 

 

 それがただ嬉しくて何も考えずに私はベルに続いた。

 

 …その後はしゃぎすぎたベルと私が神ヘスティアに見つかって叱られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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