『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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今度はリューさん視点です。
…はい。タイトル通りです。オッタルはあの色ボケ女神の差し金です。
…【フレイヤ・ファミリア】の団員って色々振り回されて大変でしょうね…
まぁ魅了されてるんで気にならないのかもしれませんが。


美神の悪戯

「よく聞いて!みんな!今一大事が起きてるの!【猛者】オッタルが突然武器を持って現れたの!!」

 

シルの思いもよらぬ言葉に私の幸せで浮かれきった気分は一気に沈静化した。それは私を抱きしめる力を弱めたベルも同じようだ。

 

「ベル…」

 

「はい。分かってます。一大事ですから。」

 

私が一言言うだけでベルは私の言いたいことを察して私から離れてシルの方を向く。私もすぐさま立ち上がった。

 

「シル。状況は?まさか【猛者】は既にここを訪れている方々に危害を?」

 

「ううん。それはないみたい…今はアストレア様が足止めしてる…だから…」

 

「なっ!?アストレア様が!?…いけません。私も今すぐ向かいます。【猛者】はどこに?」

 

アストレア様の身を危険にさらすなど…絶対にあってはならない。

 

そう思った私は居ても立っても居られず部屋を飛び出そうとする。

 

だがシルに手首を掴まれて引きとめられてしまう。

 

「リュー…気持ちは分かるけど、アストレア様の命令はみんなでひとまず地下通路を通じて『竃火の館』に行って、【ヘスティア・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】から応援を呼んでくること。だからリューは行っちゃダメ。アストレア様の命令なの。」

 

…アストレア様。お気持ちは重々承知理解します。…ですが。

 

「シル。止めないでください。私はアストレア様を置いて逃げることは決してできない。…それに【猛者】さえも説き伏せられぬようであれば、私は確実にアリーゼの夢を成し遂げることはできません。」

 

振り返ってそうシルに言うとシルは小さくため息をついた。

 

「…はぁ。リューならそう言うと思ってた。分かったよ。行っていいよ。私からも後でアストレア様には謝るから。」

 

そう言ってシルは私の手首をそっと離す。

 

「ありがとう。シル。では…」

 

「ただし!私も一緒に行く。リュー一人を危険に晒すことなんて私には出来ない。」

 

「私もです!リューさん!私にもどうかお供を!」

 

「僕も当然行きます!リューさんの力になれるなら何でもします!」

 

私は再び飛び出そうとしたが、シルとアリゼルさんとベルの声でまたも引き止められる。

 

全く…如何なる相手が武器を持って現れたのか皆は理解しているのでしょうか…

 

【猛者】オッタル。

 

都市最強のlv.7の最強の冒険者。…恐らくオラリオ中の冒険者が束になっても勝てるか定かではない相手。危険が大きすぎる。だが…

 

私が何を言ったとしても結果が明白。…今度は私が小さくため息をついた。

 

「…私が止めてもきっと行くと皆さんは仰るのでしょう。今は時間が惜しい。分かりました。私達の成すべきことをなしましょう。」

 

そう諦め混じりに伝えると三人共苦笑いしながらも頷いた。

 

「ではシル。アリゼルさん。二人はここに残っている方々を安全な場所への避難指示を。」

 

「「了解(分かりました)!!」」

 

「ベルは…私のそばにいてください。それだけでも私には力になります。」

 

「了解です。僕は絶対リューさんから離れませんから。」

 

…せっかくです。時間がないのは分かっていますが…

 

私はすっと手を前に出す。三人は一瞬首を傾げたが、流石はシルですぐさま察してシルは私の手の上に自身の手を重ねてくれた。

 

それに倣ってベルもアリゼルさんも手を重ねてくれる。私達四人は自然と輪になっていた。

 

これは私のアリーゼ達との懐かしい記憶にあるいつも何かを成す前に行なっていたこと。

 

それを新しい仲間達と行う。

 

私はすっと息を吸った。

 

これはかつては団長であるアリーゼの役目だった。

 

でも今の団長は私だ。だから私が口ずさむ。

 

「私達は【アストレア・ファミリア】。正義と秩序を司るアストレア様の眷族。正義と秩序を乱す者は如何なる者でも許さない!私達の手で必ずやこのオラリオに平和をもたらしましょう!正義の盾と翼に誓って!!」

 

「「「正義の盾と翼に誓って!!!」」」

 

私の言葉に続いてシルもアリゼルさんもベルも続いてくれる。

 

…久しぶりの感覚。久しぶりの高揚。

 

私はかつてこの誓いの元に戦っていたことが何よりも誇らしかった。

 

そして例え文言が変わり、誓い合う人が変わろうともその誇らしさは変わらない。

 

【猛者】が何用で現れたのかは知らない。だが武器を持って現れ、悲鳴をあげる人々がいる時点で【猛者】は平和を乱す悪に違いない。

 

だから私の言葉でその悪を正す。

 

そう固く誓い、私は輪を解いて部屋の外へ足を踏み出した。隣にはベルが歩き、その後ろにシルとアリゼルさんが続く。

 

「シル!【猛者】の場所は!?」

 

「正面玄関だよ!」

 

「ならばお二人には裏口と私の部屋の地下通路に二手に分かれて迅速に避難誘導をお願いします!お二人なら『星屑の庭』内で多くの方々が集まっていた場所はご存知のはずです!正面玄関には私達が!」

 

「「はい!!任せて!(お任せを!)」」

 

シルとアリゼルさんは威勢のいい返事と共に十字路で分かれていく。恐らく二人は団員選考の面接室と待合室に向かったのだろう。

 

残ったのは私とベル。ちょっとだけ先を急ぎながらも正面玄関へと向かう。

 

「リューさん…その…僕も宣誓に参加しちゃってよかったですかね?僕【アストレア・ファミリア】の団員じゃないですし…」

 

…それを気にしますかベル…流れでついしたくなったというか…そんな些細なことはこの一大事において重要性はない。

 

「そこは気にしないでください。ベルは私の未来の家族になるんですから私の家族である【アストレア・ファミリア】の皆さんとベルが家族なのは当然だと思います。」

 

「リュ…リューさん…ありがとうございます。」

 

ベルはこのまま感極まって抱きついてきてしまいそうな様子…

 

「ベル…なぜそんなに余裕な雰囲気なのですか…」

 

私はつい歩きながらそう愚痴を言ってしまう。

 

するとベルは私の手をさっと握ってくる。

 

「リューさんなら絶対に【猛者】であろうと説き伏せられるって信じていますから。それに今から僕がたくさんリューさんに勇気を分けるので絶対に大丈夫です!」

 

「ベッ…ベル…」

 

おっ…落ち着きなさい…リュー・クラネル…今はベルにデレて妄想にふけっている余裕はない。冷静さを保ち、ベルからただ勇気を分けてもらうことだけに集中するのです…

 

とベルと手を繋ぎ、自制しながらも進んでいくと正面玄関へと出る観音開きの戸の前に到着する。私はそこで名残惜しく思いながらもベルの手を離して、戸の二つの取っ手を両手で握る。

 

ここを出れば正面玄関を見下せる二手に分かれる螺旋階段の前に着く。

 

私は一度息を吸った後、戸を両手で押し開けた。

 

戸を開けて手すり越しに見下ろすと玄関では【猛者】とアストレア様が対峙している。そして螺旋階段にはその二人を見守るかのように人々が固唾を飲んで立っていた。…ここで対峙しているせいで避難できずにいるのか。

 

私は小声でベルに避難誘導を頼むと前に進み出て二人からも見えるであろう位置に立った。

 

「来た…か。」

 

「リュー!!なぜ来たのです!?」

 

二人とも私の姿に気づき、私を見上げる。アストレア様は少々驚いてる様子…

 

…申し訳ありません…アストレア様。命令に従わなかった謝罪は後ほどいたします。

 

「【猛者】オッタル!如何なる理由を以ってこの『星屑の庭』を訪れたのですか!それも武器を携えて連絡もなしに!団長であるにも関わらず礼儀も知らないのですか!」

 

そう声を張りながら非難の言葉を告げる。そして私はゆっくりと螺旋階段を降りていく。…陰でベルが残っている人々に避難するように求めているのに動こうとしていない…どういうことです?

 

そう不信感を抱きながらも私は螺旋階段を降りきり、アストレア様の盾となるようにアストレア様の前に立った。するとアストレア様は【猛者】に聞こえないくらいの声量で尋ねてくる。

 

「リュー…シルから聞いているんですよね?」

 

「…はい。お叱りは後ほどしっかりお受けさせてください。今はアストレア様は避難を。」

 

「断ります。リューを置いて逃げることなどあり得ません。後方で見守ります。…【猛者】の目的はリューとの会談…できれば来て欲しくなかったです。」

 

アストレア様はそう言って、言った通り後ろに下がった。…私はアストレア様に気苦労ばかりかけて…親不孝な眷族だと心で自嘲する。

 

【猛者】の目的は私との会談…どう考えても私の唱えた正義の…ことでしょうね。

 

アストレア様が【猛者】が背中に背負ったニ双の大剣の間合いから離れてくれたのを横目に確認し終えた後。

 

私と【猛者】はようやく目を合わせた。

 

「…待っていたぞ。【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】…」

 

あなたも私をそう呼ぶのですね…とツッコミを入れたくなりはしたが、この緊迫感…そんな余裕はあり得ない。

 

腕を組んで私を見下ろす巨身…威圧感が凄い…私は身長差もあって見上げることしかできない。

 

…正直ラキアで兵達に囲まれ槍先を突きつけられた時よりも威圧感は強いのではと錯覚するほどだ。…それもまだ大剣を抜いてもいないにも関わらず、だ。

 

だがそんな威圧感に気圧される私ではない。

 

私の正義と夢はそんな簡単に負けはしないのだから。

 

「用件をお聞きしましょう。このような無作法をなさったならば相応の用件があるということなのでしょう?」

 

「…そうだ。貴様の語りし正義…夢…武器なき平和…そのようなものは必要ない。」

 

…やはり…か。【猛者】は生粋の武人と聞く。それを考えると戦いなき世は不都合ということだろう。

 

だが否定などさせない。

 

「いいえ。これからのオラリオに必要なのは武器なき平和です。平和は多くの人々が望んでいます。」

 

「…そうは思えない。オラリオは冒険者の武力を以って周辺国からの侵略を防いできた…武器を捨てればオラリオは滅ぶ…一時の安寧のために武器を捨てるなど許されぬ…」

 

「ならばその周辺国へも平和を広げるまでです。私はそれをラキアで証明してきたつもりです。誰しもが必ず平和への願いは抱いている。容易いとは思いませんが、平和を世界に広げることは可能だと信じます。」

 

「…それだけではない。オラリオはダンジョンからの収益で繁栄を極めてきた…武器を捨てることは繁栄が失われることと同義…さらにはダンジョンからモンスターが這い出てくることになるぞ…それはどうする?」

 

「それは今すぐに解決できる問題ではありません。私の婚約者、ベル・クラネルは現在ダンジョン探索を通じてモンスターとの共存共栄への道を模索しています。時はかかりましょう。ですがいつかは必ずその道は拓ける。そしてその時のためにダンジョンからの収益に頼らなずに済むように新たな収入源を模索するのです。その道筋を【デメテル・ファミリア】や【ニョロズ・ファミリア】が既に示してくれていると思います。オラリオ全体が協力し、新たな平和なオラリオに生まれ変わるのです。」

 

「…そもそも人が争いをやめられると思っているのか?貴様も冒険者だったはずだ。争いがなくなる…本当にそう信じているのか?」

 

「信じます。そうでなければ私はこのような正義を抱きません。」

 

「…愚かな。そのようなことが可能だと…本当に思っているのか?誰しもがそう思っていると思うのか?貴様の正義は…間違っている。」

 

「くっ…それでも…」

 

…【猛者】とここまで即時の回答ができていたが、ここに来て詰まってしまう。

 

…それは…分からない。現に目の前の【猛者】はそうは思っていない。多くの冒険者達もそうは思っていないに違いない。

 

…しかし…それでも…ここで押し負けるわけには…

 

 

「僕は可能だと思います!」

 

 

突然響く聞き慣れた声。…ベル?

 

「いっぱい話し合って…わかり合うことができれば…絶対にできると思います!すれ違いや諍いも起きて途中で躓くかもしれない…それでもリューさんは…諦めなかった!みんながリューさんのように争いをなくすことを諦めなければ絶対に可能です!皆さんもそう思いませんか!?」

 

ベルの掛け声で静まり返っていた周囲の人々に一気にざわめきが広がる。

 

「そうだ…【アストレア・ファミリア】に任せるだけじゃない…俺達一人が諦めないことで平和は生み出せるんだ!」

 

「リオン様の正義は間違ってなんかない!我々はリオン様の正義に共感したからこそ今ここにいるんだ!みんな争いなんかしたいわけじゃない!」

 

「もう私達は傷つくのも傷つけられるのも嫌なのです!みんなが笑顔で暮らせる平和を私は願います!」

 

「暴力では何ら解決はしません!リオン様のように言葉による解決を!クラネル様の言う諦めない心が平和をもたらすのです!」

 

「頑張ってください!リオン様!私達も諦めません!みんなで…オラリオに平和を!」

 

「「平和を!!」」

 

「「オラリオに正義を!!」」

 

ざわめきは段々とまとまりを帯び、一つのエールとなる。

 

…ベル…皆さん…感謝します。

 

私には正義を曲げられない理由がある。

 

なぜなら私には大切な人がいるのだから。守りたい人達がいるのだから。

 

だから私は退かない。

 

 

正義を…平和を諦めたりはしない!

 

 

私はスッと手を挙げて、私の背を押してくれるエールをやめていただく。次の瞬間にはさーっと静まり返った。

 

私は一度小さく息を吸って言葉を紡ぎ始めた。

 

「聞こえましたか?人々の思いを…人々の平和への願いを…確かに争いと人は切り離し難い。…それでも私達は諦めずに争いをなくすための努力をすることができます。武器を用いずに争いを解決する力と思いがあります。」

 

「ぐぅ…」

 

今度は【猛者】が気圧される番だった。ここで私は一気に畳み掛ける。

 

「確かに武人であるあなたには争いを止める理由など分からないでしょう。しかし争いが何を引き起こすかぐらいは知っているはずです。」

 

なぜかつて復讐に身を堕とし仇を皆殺しにしたこの私が正反対の武器なき平和を目指したのか。

 

それは痛みを知ったから。アリーゼ達を喪って…私はどれだけその痛みが苦しいか知った。

 

そしてその痛みを…他の人には味合わせてはならないと思ったから。

 

「あなたにだって分からないとは言わせません。大切な仲間…友人をなくす苦しみを…あなただって神フレイヤの身に万が一があれば想像を絶する苦しみを味わうことになるのではありませんか?」

 

「…当然だ。…だが俺がいる限り万が一はあり得ない。」

 

「かもしれません。あなたはオラリオでも最強。あなたならそう言えるでしょう。ですがあなたがその万が一を排除することで再び神フレイヤを狙う輩が生まれるかもしれません。復讐の連鎖…それは終わることはない。しかし…私はそもそもその復讐の連鎖自体を起こさないことを目指します。神フレイヤの身に危険が及ばない…それが何よりのことではありませんか?」

 

「…」

 

【猛者】は何も言わない。それでも言葉を続ける。

 

「大切な人を守るため…人々の笑顔を守るため…武器なき平和はなくてはならない。私はそれを信じて疑いません。もし私の持論を聞いても納得していただけないならば…私を斬ればよろしい。」

 

「…そうか。」

 

私の言葉に【猛者】は大剣を引き抜く。…やはり理解していただけなかったか…私の力不足…ですか…

 

一双の大剣が私の首筋に当てられる。それで周囲からは悲鳴が上がる。

 

私は動揺を見せることが正義の揺らぎと同義と思い、じっと目を逸らさず【猛者】を見つめ続けた。

 

「…これでも…貴様は武器を使わぬと言うのか?」

 

そう言いながらもう一双の大剣を床に突き立てた。

 

「…取れ。貴様も冒険者なら何もせずに討たれるのは望まないだろう?貴様とは一度戦ってみたいとは思っていた。英雄と呼ばれる【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】…俺とどちらが英雄の高みにあるのか知る必要がある。さぁ早く取れ。」

 

「取りません。私は二度と武器を取らぬと誓いを立てています。その誓いを破るのは自身の正義を否定することと同義。自分の身が危うくなろうとも否定などできない。」

 

「…俺が冗談を言うと思っているのか?俺は斬ると言ったら斬るぞ?」

 

【猛者】なら斬ると言えば斬るだろう。…だがそれでも…!

 

「斬るなら斬ればよろしい。争いが何をもたらすのかを示し、結果的に平和の礎となれるならば…この命喜んで捧げましょう。大切な人を目の前で失うのを止められるならそれでも構いません。私は英雄と呼ばれる名誉などよりも小さくても大切なものを守ります。大切な人の未来や人々の笑顔。ありふれているようで守り抜くのが難しいものを。だから…私は正義を曲げはしない!さぁ!斬るなら斬りなさい!」

 

【猛者】に向かって正面から叫ぶ。

 

…自分で煽っていくあたり私は愚かなのだろう。だがこれくらいの覚悟を示さなければ【猛者】も私の正義と夢への思いの強さを理解しまい。

 

…ベル…結婚目前にも関わらず命を捨てるような無礼は謝っても謝りきれない…

 

ベルへの申し訳なさを深く感じながら、【猛者】の動きを待つ。

 

私を斬るのか?

 

それとも私の正義を信じてくれるのか?

 

その結論を待つ。

 

だが【猛者】の額にさーっと汗が流れたかと思うとそのまま微動だにしない。

 

何だか困惑しているような…

 

 

「もういいわ。オッタル。」

 

 

その声と共に玄関から姿を現したのは神フレイヤ。

 

…やはりあなたの指示でしたか。

 

神フレイヤの一声に【猛者】はニ双の大剣を背に戻すと神フレイヤの後方に下がる。と言っても【猛者】を説得できたのかは定かではないため、警戒を解かずに神フレイヤに視線を向ける。

 

「流石ね。【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】。あなたの魂の輝きを見せてもらったわ。とても美しかった。あなたの思いには一切の偽りがない。ふふふ。あなたみたいな一切の汚れのない真っ白な魂を持った子は珍しい。…あの子とは違った美しさを持っている。」

 

「…はっ…はぁ…?」

 

「 流石はあの子ととても美しい愛を見せてくれたあなた、と言ったところかしら。ふふふ。愛を司る女神としてちょっと嫉妬しちゃうわ。しかもその愛が今まさにオラリオを変えようとしている…この私の想像を上回るような愛の力…惚れ惚れしちゃうわ。」

 

…魂?輝き?…何を言っているのかよく分からないが、私の正義を認めて…頂けた?…あと私とベルの愛の深さを褒められている?…それは正直嬉しいです。何せ相手は言われた通り愛を司る神フレイヤなのだから。

 

「あなたにならこれまでの英雄達も見せてくれなかった美しい輝きを見せてもらえるかもしれない。だから私は完全に決めたわ。」

 

「え?」

 

…何を…ですか?

 

 

「【フレイヤ・ファミリア】は今後は【アストレア・ファミリア】に協力して、オラリオに平和をもたらすために力を貸すわ。」

 

 

私はその言葉で動きが止まってしまった。

 

「あら?私の言葉を信じられないのかしら?」

 

神フレイヤはクスリと笑いながら言う。

 

…神の言葉になら嘘はあるまい。そして【ロキ・ファミリア】と並ぶ大派閥である【フレイヤ・ファミリア】の支持を得られれば血の気の多い冒険者にも私の正義を広めることができるのではないのか?

 

そうすぐさま判断した私は機嫌を損ねないように返事をしようと思った。

 

「いえ…そのようなことは。信じることができないわけが…」

 

「「私は信じません!」」

 

なぜか私の言葉は途中で遮られてしまい、私は振り返って声の主を見る。その声はアストレア様とシルのものだった。…いつの間にシルは来ていたのですか…

 

二人は進み出て私の前に立ち、神フレイヤと向き合った。

 

「フレイヤ。リューを自分の眷族を利用して試した上に剣まで向けるとは。心やさしきリューは許してもこの私はそう簡単には許せません。此度の戯れ。じっくり説明していただきます。」

 

「私もです!私はこんなことするなんて聞いてない!リューの覚悟を聞きたいなら私がきちんとした場を設けたのに勝手に大事を起こしたのは許せない!しかもオッタルさんすごく困ってる!全く自分の眷族にも迷惑ばかりかけるなんて…今日という今日はお説教を聞いてもらいます!」

 

「アストレア…シル…おっ…落ち着きなさい。私はただこの子の覚悟を試して周囲に知らしめようと…」

 

「「問答無用(です)!!」」

 

二人の声が重なり、アストレア様とシルがそれぞれ神フレイヤの手首を掴むとそのまま手を引いて連れ去ってしまった…

 

その場に残されたのは私と【猛者】…

 

螺旋階段にも多くの人がいたはずだが、今の神フレイヤが強制連行されると言う衝撃的な出来事におそらく呆気に取られてしまっているようだ。

 

ただふと気になったのは【猛者】がそれを阻止しなかったこと。…なぜでしょうか…?

 

「リューさん!」

 

【猛者】のことを不思議に思っているとベルが勢いよく私に飛びついてくる。

 

「…全くリューさん…また無茶なこと言って…リューさんもあとでお説教ですからね!」

 

ベルが頬を膨らめせながらそう言う。…可愛くて怖さを一切感じないです。ただ心配させるようなことをしたのは自覚している。

 

「申し訳ありません…【猛者】にどうしても私の正義への思いの強さを理解していただきたかったもので…」

 

私がそう言ったところで私とベルは動きを見せない【猛者】に視線を向ける。

 

すると【猛者】は少しだけ近づいてきたため、ベルが私を守るように私の前に立った。

 

「…警戒するなと言って納得してもらえるか分からないが…剣を向けたこと…先程はすまなかった…【妖精の護人(フェアリー・ガーディアン)】と【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】…これは全て俺に責任がある…」

 

【猛者】はそう言って頭を深々と下げる。…だが先程の様子…アストレア様の目を信じると悪かったのは明らかに神フレイヤ。【猛者】は命令に従っただけで責任があるとは思い難かった。

 

「頭をお上げください。事情は大体お察ししています。だからお気になさらず。」

 

そう短く返す。…結局神フレイヤに引っ掻き回されて、【猛者】を説き伏せられたかは分からない。下手に先ほどの内容に触れて、機嫌を損ねて問題を起こすのも下策だと判断した。…【猛者】を説き伏せられなかったのは私の力不足が原因…まだまだ精進が必要なようだ…

 

そう落胆しながら【猛者】が頭をあげるのを待つ。

 

「…剣を向けておいてこう言うのも異常かと思うが…【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】の言う武器なき平和…俺も悪くないと思った…」

 

「…え?」

 

「…俺は武で高みを目指すためだけに生きてきた男と言ってもいい…だがそんな俺にも大切な人くらいいる…【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】の言う通りフレイヤ様だ。…フレイヤ様の御身に危険が及ばぬ世…派閥抗争で都市外に追われることもない…なら俺もそんな世を見てみたい。」

 

…そうか。もしかしたら【猛者】が高みを目指し続け、都市一の冒険者になったのは神ゼウスや神ヘラのように神フレイヤが都市を追われるのを防ぐためだったのかもしれない。

 

「ならば共に戦いましょう。私達の手で大切な人達に安全と笑顔をもたらすのです。私は同じ大切な人を持つ者として【猛者】とも協力していきたいと思います。」

 

【猛者】は私の言葉に顔を上げたかと思うと大きく目を見開いていた。

 

「…俺などにそのような声をかけてくれるのか?武一辺倒のこの俺にも…」

 

少々不安と驚きが混ざったような表情を見せる【猛者】。かつての私と同じように武のみで生きてきたため、本当に武器を手放せるか不安なのだろう。

 

「当然です。人を大切に思う思いさえあれば、誰であろうと武器なき平和を志すことができます。何も私のように性急に武器を置くのは難しいでしょう。ゆっくりと武器を持たずとも得られる幸せを手に入れる方法を模索していけばいいと思います。…ただその幸せが見つかるまではベルに協力していただけたら嬉しいです。モンスターとの共存が未だ程遠い今、あなたの武は共存の方法を探るための大きな力となりましょう。」

 

「…モンスターとの共存…か。また途方も無い夢を語る…だが夢を見るのも悪くない。…やはりこれからの世に必要な高みに至っていたのは…俺ではなくお前だったのだな。」

 

お前…先程までは私を二つ名か貴様と呼んでいたため私以外の誰かのことか?とふと思い至っていると【猛者】はすっと私の前に手を差し出した。

 

「【白兎の麗人(ラビット・ハニー)】。俺はただフレイヤ様の命令だと言う理由だけでなく、俺自身の希望として協力をさせて欲しい。俺も武器なき平和の夢…それを共に叶えたい。これから…どうかよろしく頼む。」

 

【猛者】が私に向けて手を差し出したことで周囲に騒めきが一気に広がる。

 

これは【猛者】が私の正義、武器なき平和を認めた証に他ならない。

 

そして都市一の冒険者【猛者】が認めたと言う事実は他の冒険者に計り知れない影響を与えるに違いない。

 

…私の言葉が届いた。

 

私の平和への思いを【猛者】に伝え、さらに共有することまでできた。

 

この事実は私にとって何よりも嬉しいことで自信となることだった。

 

そのため私は心の中で密かに舞い上がる。

 

嬉しさのあまり、エルフの慣習はひとまず忘れてその証を周囲に示すため、私も手を差し出す。…今度ばかりは振り払いはしないと固く心で思いながら。

 

私と【猛者】の手が触れるか触れないかとなり、周囲からは拍手が鳴り始める。

 

だがその拍手はそれ以上大きくなるどころかピタリと止まってしまった。

 

 

「オッタルさん!これからよろしくお願いしますね!ぼ・く・のお嫁さんのリューさんを一緒に支えていきましょう!」

 

 

…ベル。

 

私と【猛者】の握手を妨げたのはベルだった。

 

ベルは笑顔で私に代わって【猛者】と握手を交わしていた。ただし『僕の』を妙に強調した時点で不自然さは明らか。…ベル?まさか今回も私と男性の接触を防ぎたかったとか…そんなことではありませんよね…?

 

一方の【猛者】との握手を妨げられた私の手はベルによって固く握り締められている。…それも恋人繋ぎで。だから公共の場でそういった行為は恥ずかしいと…

 

そんなベルと私に【猛者】は完全に困惑してしまっている。当然ですよね…少々申し訳ない気持ちになってきた…

 

「おっ…おう。よろしく頼む。…【妖精の護人(フェアリー・ガーディアン)】…」

 

「はい!」

 

二人のそんな掛け合いに止まってしまっていた拍手も再び始まる。が、困惑混じりでまばらなものに…

 

せっかくのよい雰囲気が台無しではないですか…

 

…これは私への説教の前に私がベルを説教する必要がありそうですね。

 

こうして【猛者】の『星屑の庭』襲撃騒動は【猛者】自身の私達への協力宣言とベルの暴走で幕を閉じた。最も協力内容はアストレア様とシルが神フレイヤとの綿密かつ徹底した交渉によって決まるのだが。

 

そして後にシルによって聞かされた噂によると私に男性が下手に近づくとベルによって秘密裏に消されるという話がオラリオ中で実しやかに囁かれるようになったという。




リューさんとオッタルの舌戦という謎展開…二人とも本当は結構無口なんだけどなぁ…まぁワガママな色ボケ女神のせいですので仕方ない(笑)
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