『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
前話はリュー×ベルのイチャイチャを全面に押し出した回でしたが、今話は異端児と共存に焦点を当てます。それとある因縁を断ち切る回です。
いいですか?ヒロインはリューさんです。もう一度言いましょう。ヒロインはリューさんです。
その美声を背景に僕達は思う存分今の楽しいひと時を過ごしていた。
まだ実際の結婚までは少し時間があるけど、僕とリューさんの幸せを祝福してもらえるとなれば何度してもらっても嬉しいもの。
そして何よりリューさんがすんなりとこの空間に慣れてくれたのが今が楽しいひと時になっている大きな要因。…僕の勝手な憶測だとリューさんは警戒しちゃってそう簡単には馴染めないと思ってたけど…それどころかリドやウィーネとは普通に会話して笑顔まで浮かべている。
他人との関わりをあまりしたがらなかったリューさんとしてはよい変化かと思うけど、こうも異性であろうと話ができるようになってしまうのは心配やらでほんの少しだけ不満。…まぁ文句は絶対に言ってはいけないけど。
そんなリューさんに僕はひと時も離れず周囲にリューさんとのラブラブっぷりを見せつけながら顔を真っ赤にするリューさんを愛でていた。
そしてパーティが始まってしばらくしてリドがふと思い出したように言った。
「そういえばなんだけどよ。ベルっち。リューっち。大剣をすっごくでかくて強い大剣を背負った冒険者を知らないか?」
僕とリューさんはなぜ質問されたか分からず首を傾げる。ただ僕にも恐らくリューさんにもその冒険者に心当たりがないかと言えば嘘だった。
「その冒険者…それはまさか【猛者】という二つ名の猪人ですか?強面で威圧感が凄い…」
巨体でとても強い猪人…つまり【フレイヤ・ファミリア】団長のオッタルさんのことだった。とりあえずリューさんはがオッタルさんを強面で威圧感が凄いと評したということは決していい印象を抱いているわけではないらしく僕は密かに安心する。いくら僕のリューさんを奪おうとする虫だったとしてもLv.7相手ではさすがに倒せそうにないからね…リューさんが一切関心を抱いてないようで何より。
そんな僕の考えを知らないリューさんはまさかといった表情でリドに尋ねる。僕もリューさんと同じ予想を立てていたため、共にリドの方を見てリドの答えを待つ。
「そうそう!めちゃ怖かったぜ!全くフェルズも尾行しろとか無茶言って…」
「え?フェルズさんが?」
ここで出てきた名前に疑問を抱き思わず尋ねる僕。フェルズさんがオッタルさんを尾行させるって…どういうことだ?
「それがオレっち達もすっごく驚いたんだぜ!フェルズに言われて急いでその怖いのがいるところに行ったらアステリオスとその怖いのがボロボロになりながらも激しく打ち合っててよ!」
「「なっ…」」
僕もリューさんも思わず声を揃えて驚く。
何せ僕もリューさんもアステリオス…僕があの時敗れたミノタウルスと戦った経験があり、その上二人揃ってボコボコにされた経験があったからだった。そのアステリオスはあのオッタルさんと互角で渡り合っていた…何というか凄いとしか言いようがない。
そしてなぜというかよりによって偶然にもオッタルさんとアステリオスが剣を交えるような事態になったのか疑問が尽きなかった。同時にその闘いの結果がどうなったのかに少々の関心を抱いた。
「で、遠目にオレっち達は観察してたんだけど、ある時ピタッと戦うのをやめたかと思ったら握手をいきなりしてそのままさらに深い階層に行っちまったんだよ…正直聞くけどよ…どうなってんの?オレっちも報告を聞いたフェルズもポカンとしちまって…二人なら何か事情を知ってるのかなって思ったんだけど…」
…うん。僕にも全く分からない。握手をしてそのまま深い階層へ?どういうこと?まさかその二人はその後共闘でもしたとでも?まさかあの武人みたいなオッタルさんが?と僕は全く理解できずにいる。
すると隣でリューさんはハッと何かに気づいたかのように目を見開いた。
「なるほど…【猛者】は…」
リューさんの何かに気づいたらしき様子に僕を含めた周囲の視線が集まる。
「ベル?覚えていませんか?【猛者】が数日前に『星屑の庭』を訪れた時に仰っていた言葉を。」
そうリューさんに尋ねられてその日のことを思い出してみる。
その日は…リューさんが夢を語り、リューさんの夢を愚かにも批判したオッタルさんを論破するというかっこいい姿を見せてくれた日だ。僕の言葉で顔を真っ赤にするリューさんも大好きだけど、夢を追いかける冷静沈着で麗しくてかっこいいリューさんも大好きだなぁと再確認した日。
そしてオッタルさんがいきなり『星屑の庭』に現れたかと思ったらリューさんに刃を向けた挙句握手までしようとするという危険行為を行い、リューさんに近づく悪い虫は全て排除しなければならないと改めて実感させられた日でもある。
…オッタルさんが言った言葉?…全く覚えていない…
「『…モンスターとの共存…か。また途方も無い夢を語る…だが夢を見るのも悪くない。』。そう【猛者】は仰りました。その言葉から察するに【猛者】が
「…交流のために剣を交えるってどういうことなんだ?リューっち?」
「【猛者】は武人です。正直私にも理解できるとは言い難いですが、武の高みを追求する方々は剣を交えるだけでお互いが分かるという話を輝夜…私のかつての仲間から聞いた記憶があります。」
「あーアステリオスも強さとか求めてるからなー可能性あるかも…」
リューさんの見解に驚かされると同時に納得させられてもいた。リューさんがそう思うならそうだろう、と。
ふむふむと適当に納得して、鋭い洞察力を発揮したカッコいいリューさんに見惚れているとリューさんが僕の方を伺うように見てくる。どうかしたのかな?
「その…ベル?以前アステリオスさんと地上で激闘を繰り広げましたよね?実は私としてはその時まではベルは冒険を幾度も乗り越えていたとはいえまだまだ未熟だと思っていました。ですがあの闘いのベルは…大敵に怯まず立ち向かい冒険に挑む英雄に見えました。正直に言うと…私はあの時のベルに見惚れていました。」
リューさんは恥ずかしげにそう言う。
よくやったあの時の僕。リューさんを見惚れさせられえるほどのカッコ良さを見せれたなんて僕頑張りすぎ!
と思っているとリューさんは一転して心配げな表情になる。
「ただベルはアステリオスさんに敗れた…だからベルは今も再戦を望んでいるのでは…と思います。ベルだって【猛者】と同じ冒険者。共存への思いとは別に勝ちたいという思いはあるでしょう。ただ…本音を言うとアステリオスさんの強さを私自身知っている以上あまり戦って欲しくないのです…ベルの思いを遮るようなことは言うべきではないでしょうが、やはり私は冒険の恐ろしさも知っている以上心配で…」
リューさんの声がだんだん小さくなっていってしまう中、僕はリューさんの手を両手で包み込むように握った。
「リューさん。大丈夫です。僕はアステリオスとの再戦には今は興味はありません。確かに僕はアステリオスにもう一度戦って勝ちたい。強くなりたいって思いました。でも今の僕は冒険者である前にリューさんの旦那さんです。絶対にリューさんに心配をかけちゃいけなくて絶対に生きて帰って来なきゃいけない立場なんです。だから僕はそんな冒険は絶対にしません。冒険をするならそんなちっぽけな思いのためじゃなくてリューさんのためにします。」
「ベル…申し訳ありません…私のわがままのために…」
リューさんは少し目を潤ませてしまうので僕は安心してもらうためにも今度はリューさんを優しく抱きしめることにした。
「そんなに気に病まないでください。僕にとっては何よりも誰よりもリューさんが大事です。リューさんには笑顔でいて欲しい。だからリューさんの笑顔の邪魔になるものは何であれ排除しますから。」
「その…そのお言葉は嬉しいといえば嬉しいのですが、少し危険な雰囲気がするのですが…」
リューさんがボソリと呟いた気がしたが、気にせず僕はリューさんの背中をさすり続ける。リューさんは承諾してくれるかは分からないけどリューさんの笑顔の邪魔物は必ず排除しなきゃいけないもんね?それはシルさんも全面的に賛成してくれているから寸分も問題ないに違いない。
「ベルっちさ…リューっちへの愛強すぎない…?」
「ベルと妖精さんはラブラブすぎなだけ…かな?」
リドとウィーネがこちらを見ながら呆れ気味に言った言葉を僕は聞かなかったことにした。
「ソレデ、ダ。話ハ終ワル前ニイチャコラ二突入スルナ。ベル。リュー。コレハ私カラ尋ネタイコトガアッテ、リドニ聞イテモラッタンダ。」
そう冷たい視線を向けながら言う
「リューノ予測ガ正シイトシテ、ダ。ベル。リュー。オ前達ハ本当ニ
グロスさんの言葉を僕もリューさんも黙って聞いた。今のグロスさんには以前のような敵意は全く感じない。ただ強い迷いと恐れがあるように感じた。
「オマエタチノコトハ私モ流石二信頼シテイル。ダガアノ時オ前達が私達ヲ守ッテクレタト同時ニ刃ヲ向ケテキタ者達モイタ。…教エテクレナイカ?ドウシタラ
周囲の視線が改めて僕とリューさんに集まる。僕が答えるかリューさんが答えるのか迷っているとリューさんは僕に目配せをした。僕はそのリューさんの目配せを僕の言葉で伝えた方がいいと暗に言われたように思った。
「…僕は頭がよくないから方法とかは分からない。だけど
そう告げるとリューさんはコクリと頷くと僕の言葉を引き継ぐように口を開いた。
「私もベルと同感です。私達が皆さんを救ったと言うなら私達もまた【深層】において皆さんに救われました。そのため私達と
「ダトシテモ…方法ガナケレバ意味ガナイダロウ…」
グロスさんの弱々しく紡がれた言葉に僕は言葉を詰まらせる。だがリューさんはさらに言葉を続けた。
「方法は明確にはありませんが、不可能では一切ないと私は考えます。まず地上では
いきなりリューさんに振られてビックリするが、僕は慌ててリューさんの言葉の続きを紡いだ。
「はい!リューさん!みんな一緒に戦ってくれると言ってくれました。さっきの話のオッタルさんもそうなんだと思います。みんなが
そうリューさんは僕の言葉に満足げに頷く。
「これが曖昧ながらもベルの行う努力の答えです。そして私は別の努力を行うつもりです。私達【アストレア・ファミリア】は武器なき平和を掲げています。よってゆくゆくはダンジョンにおける収入に頼らぬオラリオを築き上げることを志しています。さらに平和のためあらゆる争いを消し去ることも志しています。そしてそう遠くないうちにあなた方
僕はその驚くべきリューさんの言葉に大きく目を見開く。グロスさん達が驚くのは言うまでもないだろう。何せ僕でさえも驚いているのだから。
「ホッ…本気ナノカ?」
グロスさんは驚きのあまりそんな短い言葉しか出てこなかったようだ。だがリューさんは至って真面目な様子。
「当然です。
リューさんの加えた言葉にグロスさんは目を白黒させる。
それはリューさんのすべてを賭けようとする覚悟に対してか。
それともリューさんの有り余る自信に対してか。
そこまでは分からないが、ここまで言い切ってしまうリューさんはカッコいいです。リューさんには間違いなく英雄の器があるのでは?と思うくらいに。
「ナゼソコマデ…」
「なぜと言われましても…ねぇ?ベル?」
グロスさんのポツリと言った言葉にリューさんは僕の方を向いたかと思うとふわりと微笑んだ。
そうだよね。リューさん。
僕もリューさんもなぜそこまで言い切り、なぜ全てを賭けようとすることができるのか。
答えは言うまでもない。
「「それが僕(ベル)とリューさん(私)の夢だから(です)。」」
奇しくも僕はリューさんと同じように微笑み、そして見事にハモった。流石僕とリューさん、心が通いあってるんだね!と心で喜ぶ。
「愛するベルが友人と呼び、私のことを友人と呼んでくださった
「僕も似た感じだよ。大好きなリューさんが目指す武器なき平和。それは
僕とリューさんの言葉にグロスさんだけでなく
「ソウカ…ソンナ共存ノ可能性ヲ全ク疑ワナイオ前達ノ言葉ダカラコソソノ【猛者】トイウ冒険者モオ前達ノ言葉ヲ信ジテ、アステリオスト交流シヨウト思ッタノカモシレナイナ…」
「ベル!妖精さん!ありがと!大好きだよ!それに私もベルや妖精さんだけじゃなくて色んな人と仲良くしたい!」
「…俺ッチ達と仲良くするためにそこまで言ってくれるなんて泣いて喜んじまいそうだけど…微妙に惚気が入ったせいで涙が止まっちまったのは俺ッチだけか?」
グロスさんが納得したように頷き、ウィーネはニコニコしながら僕達の夢に賛同してくれる。…リドは別件で呆れ半分だけど。
「んーまぁとにかく、だ!ベルっちとリューっちがそこまで言ってくれるなら俺っち達も何をしないわけにはいかないよな!みんな!」
そうリドが声をかけると
「と言うことだ。二人にはこれからも迷惑をかけちまうかもしれない。だけど俺っち達も二人と同じように命を賭けてベルっちとリューっちに協力する。だからいつでも俺っち達を頼ってくれ!」
「ええ。共に手を携え、栄えある平和な未来を築きましょう。」
そうリューさんが言うとリドが近くにあった杯を手に取る。
「じゃあ諸々のお祝いにみんなで乾杯しようぜ!音頭は俺っちとリューっちでいいかな?」
「ええ。もちろんです。」
その言葉と同時にリューさんも杯を手に取る。それに続いて僕を含めたみんなもそれぞれの杯を手に取った。
「俺っち達
「私達人間と
この乾杯、そして今日という日を僕はきっと忘れることはないだろう。
これは未来への誓い。
僕もまた誓おう。
僕とリューさんの願う
その誓いへの思いをこの乾杯に込めた。
「「乾杯!!」」
みんなの唱えた掛け声と共に僕達は未来への一歩を踏み出した。
ベル君曰く、アステリオスとの再戦=ちっぽけな思い。
今作のベル君はリューさんLOVE一筋で段々色々なものをどこかに忘れてきてしまっているような感じがします。(笑)
あとグロスさんのカタカナ打つのが中々面倒でした。(笑)