『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
前々回リューさんがなぜあのような大胆な行動に出たか!?の裏話的な回です。
予約が1日ズレてました…あはは…
「リオンーリーオーン!」
なぜ…だろうか…
とても…懐かしい声が…聞こえる。
その声に導かれるように目を開いてみると…
「…アリーゼ?それに輝夜にライラ…それに…みんな…?」
私は自分の目を疑った。
私が今いるのは…『星屑の庭』の団長室…?
なぜ…私はこの部屋の床に座り込んでいる?
いや…その前に…
なぜもういないはずの仲間達が私の目の前にいる?
状況を把握できずに動揺しているとどうやら目を開けた私にアリーゼ達は気づいたようだった。
「やっとお目覚めねーリオン。まったく…まず言ってやりたいのは、私のことなんて気にせずこの部屋も使えばいいのにってことね。私のいた頃と全然変わってないじゃない。」
「最も団長もこの団長室はほとんど使ってなかったんだから変化も何もないんだがな。」
「そっ…それがなんだって言うのよ!?輝夜!団長室ってのはね!団長の威厳を示すために時と場合によっては使わなきゃいけないっていうことをリオンにね…」
「まっ!団長が団長室を使う時なんて精々お昼寝の時くらいしかなかったんじゃないか?」
「うっ…うるさいわね!ライラ!」
…あぁ。こんなたわいもない言い争いも懐かしい。あの頃は嫌という程騒がしくはあったが、それでも確かに私は楽しかったのだろう。
そうぼんやり考えているとアリーゼが私の顔を覗き込んでくる。
「なーに感傷に浸ってんのよ。リオン!もっと反応を見せなさい!」
その言葉にハッとして私は何か言おうと試みる。
ただ言いたいことは山積み。
感謝や現在の私に関する報告。それにもしかしたらもう一度改めて謝罪も…
「ああ!先に言うけど、暗い話はなしね!あんたはいっつも考えすぎるから、すーぐネガティブな方向にいっちゃうのよね!あの時のこととかは特に絶対厳禁!もっと面白い話をしなさい!」
「アリーゼ…」
アリーゼのせいで言いたかったことが色々吹き飛んだ気がする…
アリーゼに呆れ顔を向けるが、アリーゼはものともしない様子だ。
「そうね…そう!やっぱりリオンの彼氏の話のことでも聞こうかしら!」
「なっ…なぜベルのことを…」
「ふっふっふ!清く正しく聡明で完璧な私に分からないことはないのよ!まぁとにかく何でもいいから話しなさい!」
胸を張って微妙にいい加減な質問を投げかけてくるアリーゼに仲間にベルのことを聞かれる恥ずかしさを感じながら困惑していると輝夜が口を開いた。
「まずその前に幼稚な潔癖エルフさんにお聞きしたいのですが、リオンに彼氏ができるとはあまり考え難いのです。実はビジネスパートナーでしたーみたいなパターンではないのですか?」
輝夜はお決まりのおちょくる様な言い方で尋ねてくる。その質問は私のベルへの愛を疑っている様で私は思わず激昂してしまった。
「なっ…何を言うんですか!?輝夜!?ベルのことが…私は大大大好きなんですよ!?何なら証明してあげましょうか!?」
私の叫びに輝夜はギョッとする。
「そっ…そんなに怒らなくてもよいではないか…私はただリオンが恋愛に携わるとはとても思えなかったので…」
私は輝夜が私の叫びに動揺するのを見て一旦深呼吸して自身を落ち着かせる。そして輝夜が納得できる様に私が変わることができた経緯を話すことにした。
「…はい。輝夜の考えは最もです。私も正直変われるとは思ってもいませんでした。ですが…ベルに出会ったことで変わることができたのです。誰かに恋をするということを知りました。人を愛するとはどのような感覚なのかを知りました。今ではベル以外の方とも手を触れられる様になれました。全ては愛するベルのお陰です。」
そう静かに語ると…
「うっへーリオンが『恋』とか『愛』とか連呼してるよ…考えられねー」
「…その前にリオンの表情が緩み過ぎていて…見てられん…」
「いやー!リオンもすっごく可愛げがあるわね!これはこれで見てるのも面白いわね!」
…なぜだろうか。すごく居心地が悪い。みんなの視線が複雑そうなのが問題なのだろうか。
「とっ…とにかく!私は近いうちにベルと結婚します!なので私は今はもうリュー・リオンではなくリュー・クラネルです!これはベルも認めてくださったことです!これが私がベルがビジネスパートナーではないことの証拠です!あと私のことはリオンと呼ばずせめてクラネルと呼んでください!」
居心地の悪さを消そうとそう叫ぶとアリーゼ達は意地悪そうな笑みを浮かべる。
「あら?そんなに言うなら呼んであげるわ。クラネルちゃん!」
「…貴様からそのような反論が飛んでくるとは想定外だった…クラ…ネル?」
「やーい!何でそんなにこだわってんのかよく分かんないけど、クラネルちゃんがそこまで言うなら呼んでやるよ!クラネルちゃん!てかそんなにベルってのが好きなのか?」
明らかにからかわれている…輝夜はまだ複雑そうな表情だが…
「もぅ…からかわないでください!アリーゼ!それにみんなも!私は本当にリオンじゃなくてクラネルなんですから!」
そうクラネルと呼んでもらい、ベルの奥さんだと認知されることに少々の嬉しさを感じながらも照れ隠しに叫んだ。
「しっかしクラネルちゃんがここまで乙女になるとは思わなかったわ!すっかり一生独身の堅物のままかと思ったわ!ただね!あんたの今のアプローチの仕方じゃもしかしたらベル君にいつか飽きられちゃうかもしれないわよ!相変わらずちょっとお堅いところがある気がするからね!」
「確かになーお手手繋ぐぐらいお子ちゃまでもできるもんなぁ!そんだけじゃ男だといくらクラネルちゃんが美人でもちょっと厳しいかもな!」
「…逆に私が好敵手と認めた相手がそんな恋愛にうつつを抜かされたら私は複雑なのだが…」
アリーゼの言葉に私は凍りついた。ライラの言葉も輝夜の言葉も私の頭の中を右から左に通り過ぎていく。
…え…私が…ベルに…あっ…飽きられる…?つまり…
私はベルに捨てられる?
「おーい!クラネルちゃーん!おい!アリーゼ!余計なこと言うからクラネルちゃん死にそうな顔してるぜ!」
「…この程度の言葉で放心状態になる程ショックを受けるとは…一体真面目だった私の好敵手はどこへ…」
「あっ…ごめんなさい!クラネルちゃんがこんなにショックを受けるとは思わなかったわ!まさかこんなにクラネルちゃんが乙女してるともね!そうね…ならベル君に好きなままでいてもらえるようにする方法を考えましょ?ね?ね?ちょ…クラネルちゃん?リオン?リュー?ねぇ!あんたはどうしたいの!?」
アリーゼの慰めるような声を呆然と聞き流しているとアリーゼの大声に意識を引き戻される。
「はっ…私は…」
「ふぅ…ね?クラネルちゃん?あんたが完全恋する乙女なのはよく分かったわ。ならあんたはどうしたいの?今のままじゃちょっとまずいかもよ。」
そう心配そうに言うアリーゼに私は答えた。
「乙女?ふふ…そうですね…今の私は恋する乙女です。ベルに好きでいてもらえるように可愛くいたいです。だからアリーゼ。みんな。どうか私にベルに好きでいていただくための方法を教えてください。」
私はそう言って頭を下げた。
…確かにベルの周りには魅力的な女性は多い。それどころかベルを守るためという名目で多くの女性を自らベルに近づけてさえ私はいるのだ。何か行動をしなければまずいのは明らかかもしれない。
だからアリーゼ達の知恵を借りれたらそれほどよいことはないと思った。
「…なんか素直すぎて違和感半端ねぇ…」
「…あぁ…私の好敵手は一体どこへ…」
「さっ…さぁ!クラネルちゃんのためにいい方法を考えるわよ!」
私の様子になぜか動揺しているみんなを鼓舞するように空元気を出すアリーゼ。…なぜ先程からこうもみんなは動揺しているのでしょうか…
「んーまぁ男に離させたくないならやっぱ子供作って既成事実だろうなー」
ライラが私にベルとこっ…子供を作れと呟く。
ベルとの子供…それはもうベルみたいな赤い瞳を持つとても可愛い子が…
と妄想に浸りかけたところで私は忘れてはならないことを思い出してその妄想を打ち消した。
「それは…ダメです。私には果たすべき夢があります。子育てには多大な労力が必要です。とても夢の実現とは…両立できません。」
私はもう一つの幸せのあり方を打ち消すことに苦しさを感じながらもそう告げると、アリーゼは苦笑しながら言う。
「そんな厳格に考えなくてもいいんじゃない?子持ちの冒険者だって少しはいたわよ?」
「…もし子供を授かるなら私は一切の妥協なしにベルと共に愛情をいっぱい注いであげたいのです…ダンジョン探索に総力を挙げるベルも平和のために各地を飛び回る私もそこまでできる余力はありません…」
そう力なく告げると発案者のライラがため息をついた。
「まぁ…クラネルちゃんがそう言うなら仕方ないな。ごめんな。余計な希望を教えちゃって。」
「いえ…謝らないでください…」
私のせいでしんみりとしてしまう空気。それを打破しようといつものようにアリーゼが声を上げる。
「でっ…でも!子供は作らないにしてもセックスならいいんじゃないかしら?それをすればきっと男なら喜ぶに違いないわ!」
セ…セセセセセセ…セッ…!?
想定外のパワーワードに今度は私が思いっきり動揺してしまう。
「ダダダダ…ダメです!?そっ…それは結婚してからでして!?」
「あれれ?クラネルちゃんはそのベル君と結婚してるんじゃなかったのかな?」
ニヤつくライラに見事に矛盾を突かれる。だっ…だが!?わっ…私は!?
「とっ…とにかくダメです!?もっと真っ当で節度ある方法がいいです!」
断固拒否して見せるとアリーゼがムスッとする。
「何よ!せっかく男を魅了する方法を教えてあげたのに!ベル君だってきっと誘惑して襲ってセ…」
「無理です!?それだけはなしです!?」
またあの強烈なパワーワードを吐こうとするアリーゼの言葉を私が即遮ることまですると、アリーゼは溜息をつく。
「もう!面倒ね!仕方ないわ!別の方法を考えましょ!」
どうやらアリーゼを抑え込めたよう。すると代わって輝夜が何か閃いた様子だった。
「なら二人で鍛錬をして絆を深めるというのは…」
「却下。それ夫婦でやることじゃないわ。恋人未満でもできるじゃない。」
「ありえねーまっ男一人作ったことない奥の手元お姫様では仕方ねーか。」
「何だと!?」
輝夜の私的にも真っ当だと思われた呟きはアリーゼとライラによって瞬殺される。そして私も残念ながら賛同することはできなかった。
「あの…私は実はもう二度と武器を取らないという誓いを立てていて、ベルとは共に鍛錬はできないのです…」
「またこの堅物エルフは妙な誓いを立てて…」
「はいはーい!次いきましょ!」
私の言葉に輝夜の呆れながら呟くが、すぐさまアリーゼによって潰された。輝夜はイラっとした様子だったが、そのまま黙り込む。
「そうねーうぶで幼稚なクラネルちゃんにでもできることね…」
かなりバカにされているような気がしたが知恵を借りる身であることを鑑み沈黙を貫くとアリーゼはニヤリと笑った。…嫌な予感しかしないのは私だけだろうか?
「やっぱりキスかしらね?」
キキキキ…キス!?
確かに旅に向かう前にベルにキスをしたいなって思ったことはあったが、結局せずじまいで…
「いいんじゃねーか?それくらいなら夫婦なら普通にするんじゃね?」
ライラがニヤつきながらアリーゼの案に賛同する。
ライラが夫婦なら普通にすると言うならそろそろしてもいいのだろうか?とふと思うが…
「やはりキスは結婚式の時がファーストキスだといいと思うのでまだ…」
そうボソッと呟くとアリーゼはまた私の反応に不満を持ったようだった。
「またそのこだわり!結婚式をやけに理想視する女性は多いのは知ってるけど、やっぱりあんたは面倒ね!キスの一回や二回しても別にいいじゃない!」
「そういう団長だってキスなんてしたこそないのではなかったですか?」
「うっ…うるさいわね!?輝夜!?」
アリーゼの適当発言にここぞとばかりに輝夜がツッコミを入れたおかげでまたもギャーギャーと口論が始まる。そんな二人をよそにライラはニヤついて私の方を向いた。
「なぁ?私がせっかくだからイイこと教えてやるよ。」
…私は今までどれだけライラが私が無知であることをいいことに余計な知識を吹き込んできたことか…その『イイこと』に疑いを持たずにいられないのは当然で私は訝しむ視線をライラに向ける。
「どうせライラのことです…また私に変な知識を…」
「何?これは世間知らずのエルフちゃんだから知らないだけで常識だぜ?キスってのは唇と唇でするもの。そう思ってないか?」
「…ええ。そうではないのですか?」
そう普通に返すとライラの口から思わぬ事実が飛び出してきた。
「キスってのは唇だけじゃなくて、頰とか額とか耳とかにしてもいいんだぜ?」
私はその事実に最近で一番の衝撃を受けた。
つまり唇のファーストキスを結婚式まで残しておいた上でキスができる!?
ということはそれだけベルにたくさん愛していることを伝えることができて、それだけベルに喜んでもらうことができる!?
ベルの頰にそっと触れる私の唇。
その私の突然の悪戯に顔を赤くして動揺するベル。
そんなベルを見て幸せに浸る私。
いつもはベルに翻弄されてばかりの私がベルを翻弄できる!?
あっ…いいです…とっても幸せで…楽しそうで…ふふふ…
「ねぇ…ライラ?クラネルちゃんがすっごく蕩けた表情で幸せそうな様子なとこ悪いけど、キスの場所によって色々意味があるってこと伝えなくていいの?ベル君が意味知ってたら案外大変なことになるんじゃない?」
「面白いからいいだろーポンコツエルフのことだから絶対やらかすに違いねー」
妄想に浸る中そんな会話がぼんやりと聞こえてきたが、私は普通に聞き流した。
「さぁ!クラネルちゃん!ついにベル君を誘惑する方法に納得がいったかしら?」
「誘惑という表現には納得できませんが…はい。今度ベルにキスをしてみることにします。ありがとうございます。みんな。相談にのっていただいて。」
「いいのよ!清く正しく聡明で完璧な私にできないことはないんだから!」
「…お前がそれで幸せならもう私は何も言わん…」
「ククク…お前が何やらかすか楽しみにしてるよ!」
私の礼にアリーゼはいつも通り胸を張って、輝夜は複雑そうに、ライラは不気味な笑みを浮かべて答えてくれる。他のみんなも一概によい反応には見えない。
…みんなの対応が妙なのは気のせいでしょうか?
少しだけ訝しむようにみんなを見ているとなぜかアリーゼが真剣な表情になる。
「さぁ。そろそろお別れよ。きっとあんたの旦那がキスしてもらいたくてうずうずしてるわ。何か…私たちに言いたいことはある?」
アリーゼがまた変なことを言った気がしたが、聞かなかったことにした。
そうか…もうお別れか…
長いようで短く、そして色々と振り回されたお陰でとても濃密に感じた時間だった。
それが私の最初の【アストレア・ファミリア】の仲間達と過ごした大切な時間でもあったのだと思う。間違えなく私は彼女達のことを一生忘れはしない。
だから伝えよう。
かつて私を救ってくれた感謝を。
これから私がみんなの正義を引き継ぐという覚悟を。
これから私は必ず幸せになるという決意を。
「アリーゼ。輝夜。ライラ。みんな。あの時私を守ってくれたことは感謝してもしきれません。私は亡くなってしまったみんなに何もできません。けれど代わりに誓えることがあります。一つはみんなと共に守ってきた正義のこと。私は必ずや正義の名の下に人々に笑顔と平和をもたらすことを誓いましょう。そしてもう一つは私自身のこと。私はベルと共に必ずや幸せを手にします。かつてのように死に場所を求めることなど決してせず、みんなから頂いたこの命を精一杯生き抜きます。だからどうかみんなは私のこれからを見守っていてください。」
そう感謝と覚悟と決意を込めて告げるとみんなは満足そうな表情をしてくれた。
「そうよ!あんたはネガティヴだけど、決めたら前を向けるのがいいところよね!いい目をしてるわ!あんたの正義を貫いてみせなさい!そして…リオン。幸せになるのよ。」
アリーゼが微笑みながらそう言ってくれる。『クラネル』ではなく『リオン』と呼んだのはおふざけではなく真面目に言っていると伝えようとしているのかのようだった。
「貴様は貴様らしく生き抜け。貴様の力量を思うがままに発揮しろ。強くあれ。そしてどうか私の好敵手に幸あらんことを。」
輝夜は笑みは浮かべないものの、私のことを思ってくれているということはその言葉からよく分かった。私を好敵手と認めてくれていた輝夜らしい言葉かもしれないと思った。
「お前はポンコツだけど、人一倍決意が固くて努力できるのを私は知ってる。ドジってもいいからお前の信じる道を進め。そして好いた男とイチャコラを楽しめ。あたしはお前がお前らしく生きることを願ってるよ。」
ライラは言葉にはおふざけ込みながらもその瞳は真剣そのものだった。いつでも少しおふざけを混ぜるのはライラらしいと思った。
「リオン!幸せになりなさいよ!」
「私達の正義を頼むわ!」
みんなの別れの声が聞こえる。
さようなら。みんな。そしてありがとう。
私はみんなに別れを告げた。
この後目を覚ましたらベルと一緒のベッド寝ていて、恥ずかしさで自暴自棄になり勢いで額にキスをした挙句後になって額へのキスに『友情』という意味があると知り愕然としたところをベルに慰められることになったのは別の話である。
リューさんはベルの奥さんという事実を実感するためにクラネルと呼ばれるのが潜在的にお好き…という謎設定。(笑)
今回で結婚前イベントは終わりです。
次回からはついに結婚式へ!
と言っても前置き少々挟みますが。