『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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久しぶりのシルさん視点です。

ようやく突入した結婚式イベント!
ということで今回は下準備的回。当日の諸々の決定事項が出ます。


成婚のファミリア・ミイス
成婚まで時僅か


「ダッ…ダメです!?それだけは絶対に!」

 

「いいじゃないですか!リューさん!リューさんのケチ!」

 

リューとベルさんのいる部屋に入ろうとするなり、漏れて聞こえてくるのは…口論?

 

リューとベルさんがまさか喧嘩…?

 

公共の場でイチャイチャを常習的に繰り返して独身の皆さんに毒を撒き散らして最近オラリオで結婚ブームを起こしかけてるあの二人が?

 

まさかと思いながら私は勝手に入るとかなりまずい状況だと判断し、ノックをした。

 

「「どうぞ(!)」」

 

喧嘩してそうな雰囲気だったのにそういう時は息がピッタリ合うんだね…と半分呆れながらドアを開ける。

 

すると二人は向かい合って座っていた。リューは頰を赤く染めて。ベルさんは少し拗ねた様子で。

 

…あ。どうやら喧嘩というよりただの痴話喧嘩だったようだね。うん。

 

「シルさん!聞いてくださいよ!リューさんが結婚式の会場で誓いのキスをしないって言うんです!」

 

「シッ…シル!かっ…勘違いしないでください!決して私がベルと誓いのキスをしたくないと言う訳ではなく!もちろん…ファーストキスは結婚式の日がいいですが…ただ周囲に見せつける必要性はないと言っただけで…!」

 

「あっ。リュー。ベルさんとキスしたいは私も知ってるから大丈夫。」

 

状況を大体把握した私はリューの惚気込みの弁明を一刀両断した。

 

要は結婚式の会場で二人が誓いのキスをするかどうか。

 

私じゃなかったら絶対にキレてた。私は本当にいい人だと思う。私のことを小悪魔って言う人は私のこと良くわかってないんじゃないかな?

 

そして二人の想いを鑑みるに答えは一つ。

 

 

「やっぱりキスすべきじゃないかな?」

 

 

私の一言にベルさんは得意げになり、リューは頰を赤くしたまま唖然とした。

 

「…え。…シル?冗談…ですよね?私の聞き違い…ですよね?私とベルのイチャイチャを見せつけると周りの迷惑だと言ったのはシルで…」

 

「確かに私はそう言ったけど、結婚式の会場でする誓いのキスってすっごく思い出に残ると思うなーそれはもうベルさんが一生リューから離れられなくなるくらい!ベルさんきっとリューにさらに惚れちゃうと思うなー」

 

「なっ…!それは…いいですね…くっ…なら恥を忍んででもするしか…」

 

あっさりと納得するポンコツエルフの様子にベルさんは私にこっそりグッドサインを送ってきた。

 

言うまでもなくベルさんと私はリューを幸せにしたいという思いでは完全に利害が一致しているため、事前の打ち合わせがなくてもこういう時の意見の一致は容易だったりする。

 

「みんなの前でキスをすればリューさんをいやらしい目つきで見る男神様達も大人しくなると思いますか?シルさん?」

 

「…それは分からないですね。あの娯楽好き達に効果が大きいかどうかはちょっと…」

 

ファーストキスを妄想してデレデレし始めたリューを他所にベルさんはある懸念を述べたが、私は微妙な返事をするしかなかった。

 

ベルさんがリューを大好きすぎるのは言うまでもないけど、公共の場でまでイチャイチャしようとするのには理由がある。

 

それはラキアでの一件以来激増した自称リューのファンを名乗る男神様達を警戒してのことだった。

 

あの娯楽好きどもは隙あらばまとわりつき、さらには娯楽のために火種まで撒いてくるという害悪そのものの行為を平気で行ってくる言わばクズである。

 

私やフレイヤお母さんみたいにクズどもを誑かして利用するなら言うほどの問題はない。

 

だがリューのような純粋無垢のポンコツエルフの場合そうはいかない。騙されたり利用されたりしたら一大事。何かがあってからではもう遅い。

 

「…やっぱり穏便な方法じゃ無理ですかね…アポロン様みたいな変態がいないとも限りません。どうにかしてリューさんに害がないようにしないと…」

 

「そうです…やっぱり私達で何とかしないと…」

 

私もベルさんも大切なリューを私達が守るという使命感に燃える。

 

私もベルさんも懸念に繋がる経験や伝聞があるからこそここまで警戒しているのは言うまでもない。

 

特にベルさんの場合、ベルさん自身がアポロン様というどっちもありの変態につけ狙われ挙句ホームを吹き飛ばされ圧倒的に不利な戦争遊戯を宣戦されと散々な目に遭っているから尚のことだろう。

 

「今は変態しかいませんから、威圧する程度でことを済ませられます。けれどいつかはリューさんの夢を邪魔しようとする神様が現れないとも限りません。…その時はきっちりとお話をつけないといけないと思うんです。」

 

「…もちろんです。リューの平和への思いを邪魔する神には躊躇なく制裁を与えなければいけません。」

 

私とベルさんが思い起こすのはかつてリューを途方もなく苦しめる原因となった邪神と呼ばれる闇派閥(イヴィルス)の主神達。

 

リューの苦難の戦いのおかげで壊滅したはずだが、未だ娯楽好きの神は多い。その神々がいつ邪神に堕ちるかは分かったものではない。もしもその神々が暗躍を始めでもすればリューの夢に影が差す。それだけは如何なる手を以ってしてでも防がなければ…

 

「あの…ベル?シル?何やら物騒な会話が聞こえたのですが、気のせいでしょうか?」

 

そうポツリと呟いたのは妄想に浸っていたはずのリューだった。

 

「大丈夫ですよ。リューさん。これは僕とシルさんだけの中の話ですから気にしないでください。」

 

「そうそう!これは私達だけで片付けるからリューは気にしなくていいよ!」

 

私とベルさんは少々慌てて言葉を濁す。

 

このことは私達のみで片をつける。そう二人で話し合っていたからだった。

 

「え…ベルとシルだけ…何ですか?隠し事ですか?…私にも教えてください。…その…私だけ仲間外れは…辛いです…」

 

ぐはっ…!

 

リューの可愛く拗ねる姿に私は思わず鼻血が出ていないか確かめてしまった。私と同じようにベルさんもポーッとリューに見惚れている。

 

「ベル?シル?どうかしたのですか?…教えてくださらないのですか?」

 

「…リューさんはそのままでいいんです。汚いことを一切知らないままそのまま可愛いままでいてください。」

 

「えっ…!かっ…可愛い!?」

 

「そうだよ。リュー。リューは綺麗なままが一番だよ。リューはずっと綺麗で可愛くいてね。」

 

「シッ…シルまで!?綺麗で可愛いだなんて…かっ…からかわないでください!?」

 

『綺麗』の意味を取り違えたリューは頰を真っ赤にしてデレデレする。

 

…本当は綺麗というのは裏の世界を知らなくていいという意味。

 

リューの平和への思いを陰から支える。

 

そしてリューに暗いことをこれ以上経験させずに苦しませないようにする。

 

そう決めた私とベルさんが裏でリューのために成すことは知らなくていいという意味だった。

 

「さっ…さぁ!それよりシルさん!結婚式の詳細ってどうなりましたか?」

 

ベルさんはこれ以上リューにさっきのことを追求されないようにと話題を変えようと私に尋ねてくる。私も同じ考えだったのですぐに乗じることにした。

 

「はい。リリルカさんと色々すっごく頑張ったのでようやく日程が立ちました。」

 

『すっごく頑張ったので』を強調して言うとデレデレしていたリューも話題を変えた張本人であるベルさんも身を縮ませた。

 

その様子に散々苦労した私は満足すると日程を伝える。

 

「まず結婚式の日は『グランド・デイ』に決まりました。」

 

私の言葉にリューもベルさんも大きく目を見開いた。

 

『グランド・デイ』

 

それはかつて三大冒険者依頼の一つであった【陸の王者】の討伐が成功した日。

 

オラリオの一年で最も大きな祭典が行われる日だった。

 

「これまた…すごい日に決まりましたね。まさか…オラリオ中から結婚式に参列しちゃう感じですか?」

 

「それどころか世界中です。ラキア王国からも魔法大国アルテナからも使節が来ます。そして言うまでもなくオラリオ中のファミリアの団長、主神様もです。」

 

いつもならリューとの愛をアピールできる絶好の機会と喜ぶであろうベルさんもさすがに慄いたようだった。そんなベルさんの質問に私はベルさんの想像のさらに斜め上を行くであろう解答を返した。

 

苦労が絶えなかったのはこのあまりに多すぎる参列者の数のせいである。二人の親しい関係者を除けば代表者に絞らなければ会場に入りきらないほどの参列希望者にリリルカさんも私も頭が痛くなりそうだった。

 

そしてそこまでの参列者を集めたのはリューにそれだけの関心が集まっているからに他ならない。

 

一つはリューが軍事大国だったラキア王国をたった一人の言葉でアレス様を失脚させた上に平和な農業国に転身させてしまったこと。

 

もう一つはリューが世界随一の軍事力を誇る迷宮都市オラリオで武器なき平和を唱えて、支持を集めつつあること。

 

この二つの事実がリューの名声と関心を高め、これほどまでの参列者に繋がったのは言うまでもなかった。

 

おかげで日程調節が困難を極めに極め、結果外国の使節もオラリオに集まり、オラリオの冒険者達もダンジョンに潜らない日、『グランド・デイ』が選定されたわけである。

 

ベルさんがあまりの規模の大きさに驚きを隠せずにいる中リューは意外にも平静そうだった。

 

「…リュー?どうかしたの?」

 

私はいつもならあまりの人の多さに恥ずかしがるはずのリューが平静でいること。それどころか鋭いめをしていることに違和感しか感じず、つい尋ねていた。

 

「それだけの参列者…上等です。それだけ多くの方々が私とベルの結婚に関心を抱いた…と言うことはそれだけ私の目指す平和を認めてくださる方が多いということであり、私がその場において平和への願いを宣言することは大きな意味を…」

 

「「ストップ。リュー(さん)。」」

 

淡々と闘志を燃やして語り続けるリューに私もベルさんも思わずストップをかけてしまった。

 

…よく分かった。

 

リューにとって結婚式というのはベルさんとの結びつきを強めることができるベルさん大好きリューにとって大事であるのは言うまでもない。ただ同時に世界中から人が集うと言うことは平和を願う夢に向かって猛進するリューにとってもその願いを世界に伝えるチャンスであって…

 

ちょっとリュー?せっかくの結婚式にそんなお堅い話を持ち込むのはあまりよろしくないのではないかな?

 

「…リューさん。リューさんが夢を大事にしてるのは分かります。でも結婚式くらいもうちょっと肩の力を抜きませんか?」

 

「そうだよ。リュー。結婚式は一度きりなんだから堅いことは忘れてたくさんベルさんとイチャイチャした方がいいんじゃない?」

 

私とベルさんがそう説得するとリューは顔をしかめた。

 

「しかし…これほどの方々が集まる機会はありません。ならば利用する以外…」

 

「リューさん。リューさんの言いたいことは良く分かります。リューさんが夢を大事にしていることも。…でも僕はリューさんに結婚式で一杯幸せになって欲しくて、難しいことに気を取られてリューさんが幸せを感じにくくなるのはちょっとなぁ…って思うんですけど…」

 

そう恐る恐る口にするベルさん。そんなベルさんにリューは反論を続けるか折れるかのどちらかだろうと思いきや表情を緩め、私の予想と違う行動を取った。

 

「ベル?私はベルと結婚式を挙げられるだけでもとても幸せなのです。さらに多くの方々に祝福していただける。私にとってこれ以上の幸せはありません。みんなこんな私を愛してくださるベルのおかげです。ありがとうございます。私はベルという素晴らしい旦那さんを持ててよかった。」

 

朗らかにそう語るリューに今回はベルさんが頰を赤らめた。

 

「え…リュ…リューさんがそれでいいなら…僕はいいんです。…そっか。リューさんは僕と結婚できて幸せなんだ…嬉しい。」

 

腰をクネクネさせていつものリューのようにデレるベルさん…

 

まさかの説得する側のベルさんがデレて役立たずになるという想定外の事態に私は驚く。リュー恐るべし…

 

ということで今度は私が説得する番だった。

 

「リュー。そう言うけど結婚式で平和とかについて語っちゃったらベルさんとの愛の誓いとかそういうのの印象が薄れちゃわないかなー私そこが心配だなぁ…」

 

「うっ…」

 

そうボヤくとリューは言葉を詰まらせる。

 

何せリューと言えば超不器用なポンコツエルフ。二つの目標を器用に両方完璧にこなせるような性格じゃない。きっとどちらか一方に偏るか両方中途半端に終わってしまうに違いない。

 

だが今度のリューは一味も二味も違った。

 

「なっ…なら!私の平和への願いもベルへの愛も世界に強烈に伝えるまでです!どちらかが不完全になるくらいなら総力を挙げて両方完璧にやり遂げてみせます!誰もが私とベルの望む平和が尊いと思えるように言葉を尽くしてみせます!そして誰もが私とベルの愛を羨む程の幸せ具合を見せつけてやります!これでいいでしょう!?シル!」

 

逆ギレするように勢いよくそう叫ぶリュー。

 

すごい熱意…

 

リューにとって平和への願いもベルさんへの愛もどちらも同じくらい大切だということを改めて再確認させられた。…ただ敢えて言うと平和への願いもベルさん関連と考えると要はベルさんが大好きでベルさんとの夢だから叶えたいってことになるのかな?

 

そう納得しているとリューは愛と連呼したことに我に返ったらしく顔を隠して後悔の時間に突入していた。

 

…ここまで言われたら反対する理由もない…かな。

 

「…分かったよ。リュー。リューが馬鹿真面目なのは今更だもんね。リューのやりたいように任せるよ。」

 

「…シル。ありがとうございます。その…なんと言えばいいか…」

 

私の言葉にリューは赤くなった顔を隠してながら申し訳なさそうに礼を言う。…礼を言うなら照れるのやめるとかしたほうがいい気がするけど気のせいかな?

 

そんなリューに私はちょっとしたことをしようと思い立った。

 

「大丈夫。大丈夫。お返ししてくれればそうでいいよ?」

 

「…お返し?」

 

私の返事に違和感を抱いたらしいリュー。そんなリューを他所に私はリューに近寄りヒョイと立ち上がらせる。

 

「…え?シル?どうしたのですか?」

 

「どうって今からリューのウェディングドレスお披露目会をするんだよ?」

 

「はい!?きっ…聞いてないです!?」

 

「だって言ってないもーん。あといつもデレデレのリューがせっかくの結婚式なのにお堅いままなのがちょっと嫌だなーって思って。」

 

「なっ…りっ…理不尽ではありませんか!?それにドッ…ドレス姿はベッ…ベル好みのドレスしかなく…」

 

ちゃっかりベル好みにドレスを着ると自白するリュー。…最近リューちょっと感覚が麻痺してるときあるよね?

 

そしてこう言う時のリューを説得する一番の方法は…

 

「ベールさーん。リューのドレスお披露目会…」

 

「やります。むしろもっとドレスを買い足したいくらいです。」

 

「ちょ…ベル!?」

 

即答したベルさんにリューだけでなく私までちょっと引いたけど、すぐに私は気を取り直した。

 

「よーし!じゃあまずお買い物へレッツゴー!」

 

「待って…シル…私は…」

 

「…リューさんの可愛い姿いっぱい僕見たいなー」

 

「…行きましょう。」

 

こうして私はベルさんの要望に一瞬で陥落したリューを連れてウェディングドレス探しに出かけた。

 

この後リューをめちゃくちゃ着せ替え人形にしてめちゃくちゃ可愛いと褒めてデレデレにしたのは言うまでもない。

 

結婚式まであと数日。

 

準備は整った。

 

リュー。

 

リューのことはベルさんと私が幸せにするからね。

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