『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
今回で結婚式に突入!
となりましたが、ここである最近出ていない方にスポットライトを当てながら、結婚式へ向けた思いをリューさんに打ち明けてもらう回になります。
リューさんの母と言えばあの人(?)!
あの人も実はリューさんと同じ志を持っていたのでは…と。
「まったく…あたしにこんな着付けを頼むなんてどうかしてるんじゃないのかい?」
「…ははは…それもそうかもしれませんね。」
ちょっと不機嫌目に愚痴をこぼしながら私の髪をといてくださる彼女に私は苦笑した。
私が結婚式当日の着付けを依頼したのはなんとミア母さんだった。
「今日はありがとうございます。最近はミア母さんにあまりお会いできてなかったので今日お話しする機会があってよかった。」
「そうだねぇ。リューは最近そこら中のファミリアやらに引っ張りだこだってオラリオでも有名だからねぇ。それとあの坊主とのイチャつきも聞いてて呆れるくらい耳に入るよ。」
「うぐっ…そっ…それはベルが…」
「デレデレしては問題を起こしてるのはリューだってあたしは聞いてるんだけど、気のせいかい?」
「くっ…」
「まったく…あんたを従業員として雇ってたあたしとしてはうちの売り上げが上がるのはいいんだけど、そんな従業員を雇ってたとなると恥ずかしくて仕方ないよ。あの坊主のことが大好きなのはよーく分かるけど、もうちょっと節度ってものは守れないのかねぇ?」
「…」
要は私がベルのことが大好きすぎる…そう図星な指摘をミア母さんにされてしまい私は押し黙るしかなくなる。
…自分でもなぜ敢えて粗暴と言っても過言ではないミア母さんに依頼したのか分からない。
ただ今日という特別な日に話したい。そう思ったからだった。
…ただやはり着付けを頼んだのだけはミスだったかもしれない。先程は怪力でベルの選んでくれた大切なドレスを引き裂かれそうになったり…
「…リュー。あんた今失礼なこと考えてなかったかい?」
「ちっ…違います!あの…髪が乱れるのでやめてください…あと痛いです…」
「まぁいいさ。今日くらい甘やかしてもバチは当たらないだろうからね。」
そう言って一度乱した私の髪をとき直し始めるミア母さん。
…あなたが果たして私を甘やかしたことが今までにあったのだろうか?
そんな疑問をつい抱いてしまうが、その疑問は間違っているとすぐに思い至る。
なぜなら過去に生きる意味を失ったと思っていた自分が今も生きていて、しかも今まさに幸せを手にしようとしている。
これは他でもないミア母さんとシルが私を『豊穣の女主人』に居場所をくれたお陰だった。
「…ありがとうございます。ミア母さん。あの時あなたとシルに出会えなかったら今の幸せな私はいなかった。」
「何。あたしはただわがまま娘が拾ってきた頑固でポンコツなエルフにリゾットを振る舞って仕事を強制しただけさ。あたしは何も大したことはしちゃいないよ。」
「…そうかもしれません。私はあなたのお陰で散々痛い目を見ましたから。それでもあなたのその行動が私を救ってくれた。そしてあなたの言葉に宿った思いが私の中で確かに生きている。」
「…何が言いたいんだい?」
私の曖昧な言葉にミア母さんは手を止めた。そして私はミア母さんの方に向き直り、続きを話し始めた。
「ミア母さんのよく言う『生き甲斐なんて美味い飯を食べるだけで十分』という言葉。私が今まさに武器なき平和を目指している身だからこそこの言葉はより身に沁みました。この言葉こそ心を平穏にし、平和へと至る礎になり得るのでは…と。」
「…あたしがそこまで考えて言っているとでもいうのかい?」
そう尋ねてくるミア母さん。まるで私の知るミア母さんはそこまで深いことを考えるとは思えないだろうと言わんばかりに。だが私は頷いた。
「『豊穣の女主人』のあり方とは『どんなにクソッタレな時代だろうと、ここは笑って飯を食べてもらう場所』。そのあり方には悪しき時代であろうと『豊穣の女主人』だけは光であるべしという思いが込められていると思いました。その光は私達従業員は元より飲食をする冒険者に行き届いていた。確かに皆が笑顔になれていた。それは平和の証。ミア母さんは食を以って平和をもたらしたい…そう願っているのではないですか?」
私の見解を黙って聞いていたミア母さんは静かに口を開いた。
「これはうちの色ボケ女神とオッタルにしか言ってなかったんだけどねぇ…見抜かれるなんて考えもしなかったよ。それもよりによってこのポンコツエルフにね。」
「…だから痛いです。」
見抜かれた腹いせと言わんばかりに額を中指で弾かれ、私はまた愚痴をこぼす。一方のミア母さんはそれに満足したのかは分からないが笑顔を浮かべた。
「そうだよ。あたしは飯を通じて誰もが笑顔になれるように、そして訳ありの娘達が新しい生き方を見つけるまでの居場所…そんな場所になるように『豊穣の女主人』を作った。そしてシルには訳あり娘をあたしのところに連れてくる役目をしてもらってた。」
「…そうして私も救われた…そういうことだったのですね?」
そう確認を取るとミア母さんはコクリと頷いた。
「あたしはどうこう生き方を指図した覚えはないけど、まさかあのリューが同じ思いを抱くだなんて…拾った当初は思いもしなかったねぇ…」
「それは…私の場合大切な仲間を失い、その後大切な人ができたから…でしょうか。」
「結局またあの坊主のお陰かい。本当に唐突に惚気てくれるねぇ…」
「なっ…」
ミア母さんのツッコミに私は頰を赤らめる羽目になる。一方のミア母さんは不満げな表情を浮かべる。
「リューがあの坊主のお陰で変わったってのはそう変なことじゃない。女は恋で変わるともよく言うからねぇ。」
「…ミア母さんがそれを語りますか?」
「殴られたいのかい?」
「…すみません。」
「…それはともかくだね。リューが変わったおかげで他のバカ娘達にも影響が出るってのがねぇ。確かにあたしは自分のお陰で人を変えただなんて自慢するつもりは毛頭ないけど、ちょっと不満があるといえばあるねぇ。」
「…どういうことですか?私が…誰の何を変えたのですか?」
ミア母さんのぼやきに私は首をかしげる。私が誰になんの影響を与えたというのだろうか?
「最近来ただろ?【デメテル・ファミリア】とか【ニョロズ・ファミリア】から支援の申し出が。」
「確かに…冒険者の引退後の受け入れや孤児の世話を検討してもいいといきなり連絡が来ていましたが…それがどうしたのですか?」
ミア母さんの唐突な確認に私は最近のことを思い起こしながら答える。
一瞬その繋がりが見えなかったが、私はすぐに察しがついた。
「…まさかルノアとクロエですか?」
「そうさ。あのバカ娘達が主神を説得したそうだよ。あと【フレイヤ・ファミリア】に出戻りしたアーニャもあの色ボケ女神に一言言ってやったそうだよ。動機は何でもリューがあんなに活躍してるのに私達がこんなチンケな酒場でウダウダやってるのは納得できないって。…もちろん一発全員にお見舞いしてやったけど、リューの時のように自由にさせたさ。お陰で今店が人手不足だよ。」
そう肩をすくめて言うミア母さんに驚きを隠せなかった。
…私の思いにかつての同僚達も応えようとしてくれている。そのきっかけは私自身の行動にもあるが、ミア母さんの陰からの支えのお陰であるというのも何ら間違えはない。
私はミア母さんの存在に改めて感謝した。
「ミア母さん。本当にありがとうございます…私はあなたにどれだけ助けられてきたことか…」
「何だい。急に辛気臭くなっちまって。あたしはただ母としてバカ娘達の面倒を見ているだけのことさ。ルノアもクロエもアーニャもみんな自分の意志で決断したんだ。リューを助けて自分もまた思うように生きるってね。」
そう言って笑うミア母さんはもしかしたら私にとってアストレア様の次に大切な第三の母なのかもしれない。そんなことまで思ってしまった。
「子は親を越えて行くって言うけど、本当にあるとは思わなかったよ。まさかあの武一辺倒のオッタルの心を変えちまったんだからね。それは長年一緒のファミリアだったあたしでもできなかったことだ。あたしの場合拳を突き合わせての決闘だったからいけなかったのかねぇ。」
「…それでは平和への思いは伝わらない気がします…」
ミア母さんがケラケラと笑うのに私は苦笑するしかなかった。
いくら平和への思いがあったとしても本質的に暴力的なミア母さんでは周囲にその思いを伝えるのも難しすぎたのでは…と密かに思う私。最も私も触れられるたびに人を吹き飛ばしていたわけだが変われたのはまさにベルのお陰。今更言うまでもないが、ベルがいなかったら私はどうなっていたのだ?と少し恐怖まで覚える。
「あたしは堅物すぎて死んだような顔してたリューが他のやつらに良い影響まで与えるようにまで成長したのがとっても嬉しいよ。バカ娘が成長するのを見るのは母として結構嬉しいものだからねぇ。」
そう笑うミア母さんの表情はアストレア様の表情と似ていて…これが母親の表情というものかと思い至る。
「…と今日という日に話すことじゃなかったかもしれないね。今日はリューの一生に一度の晴れ舞台ってやつじゃないか。どうだい?気分は?結婚するってのはどんな心地なんだい?色ボケポンコツエルフ直々にあたしに教えてくれよ?」
「ミッ…ミア母さん…!からかわないでください…」
ミア母さんの突然の話題変更、それも私の今の心境ときたため私はつい動揺してしまう。
「またデレデレしちゃって…そんなに嬉しいかい?あの坊主と結婚できて?」
「…はい。」
私はボソリと答えた。
「そんなんじゃどうして嬉しいのかとかさっぱり分からないねぇ。もうちょっと具体的にあたしに教えてみな。」
意地悪そうな表情を浮かべるミア母さんにシルの癖が移ったのでは?なんて発想が浮かんでしまう。…それはともかく私はご要望に応えて具体的に話すことにした。
「…私はベルとお付き合いするまで結婚だなんて寸分も考えませんでした。正義のために生きる…それ以外考えたこともありませんでした。なのにこうして私は笑みを浮かべて結婚をここまで大切に思い、その瞬間を心待ちにしている…それが過去の私を鑑みるととても不思議です。」
「それはそうさ。堅物エルフがここまで色ボケになるなんて誰が予想できたか。あたしだけじゃなくてリューの知る人みんなが驚いてるさ。」
そう肩をすくめて言うミア母さんに私は素直に同調した。
「その通りです。私がここまで変わるとは誰も予想できなかった。つまりは誰もが私のように愛を育むことで幸せになれるという証拠だと私は思っています。…私の命は多くの大切な方々の支えから成り立っています。もう幸せになれない方だってその中にはいます。その方々の分も私は精一杯幸せに生きたい。そして今幸せだと感じられない方々には私の幸せな姿を見て、自分も幸せになれると知って欲しいのです。」
「…まさかそれで街中でイチャイチャしてるのかい?」
「…それは…ベルが私を幸せにするようなことを言うからで…」
「要はさっきのは後付けってことかい?」
「…仰る通りです。ただみんなが幸せになれればいい…そんな思いで平和を願っているのは事実です。」
周囲に物事を説くなら率先して自分が模範を示すべき… そんな考えは以前からあった。だから率先して正義のために行動し、その行動が周囲に正義の素晴らしさを伝えれればとも思っていた。
そしてそれは今も同じ。
平和は誰もが幸せに生きることができる世界だ。
どう平和にするか?どうやって幸せになるか?
それは私自身が示し、多くの人を平和で幸せな世界に導いていくしかないだろう。
それは困難で苦難もあるだろう。なぜなら争いも悲しみも絶えることはないのだから。
それでも私は立とうと思う。
「…今私はとても幸せで…心が暖かい。こんな気持ちを多くの人に感じてもらいたい。悲しみも苦しみも忘れて笑顔になって欲しい。私はそう願わずにはいられない。だから私は命を賭してその願いのために行動します。…ですがベルにもシルにもよく言われるのです。私は周囲の幸せに自分を犠牲にしすぎると。」
「そうだねぇ…リューはそういう生き方になりやすいと言えるねぇ。性格が生真面目すぎるってとこだけどね。」
そう言うとミア母さんは目を細めた。言うまでもなくミア母さんもベルとシルの意見に賛同のようだった。
…正直自覚はあるから仕方ない。
「それで?リューはそれを認めるのかい?」
「…当然です。私のことは私自身もよく分かっています。だから私はもう決めました。私はみんなが幸せに暮らせる武器なき平和な世界を築きます。そして同時に私自身が幸せになりみんなの模範となって幸せな世界へ導くと。」
私の答えにミア母さんの目は点になった。…何かおかしなことを言っただろうか?
「…だからリューは自分の幸せと周囲の幸せを両立できないって言われたのを分かってないのかい?」
「なっ…なので私の幸せが模範となり、幸せな世界へ導くと言うのはつまり二つの目標が結びつき、一つになると言うことで!」
「…それが不器用なリューにはできないって思われてるから心配されてるんじゃないのかねぇ…」
「やり遂げます!ぜっ…絶対に!私は自分もみんなも幸せにしてみせますから!見ていてください!」
ミア母さんの呆れ顔に私は少々やけになりながらも返す。そんな私にミア母さんはしばらく呆れ顔だったが、ニカッと笑みを浮かべた。
「まぁ…リューの頑固っぷりはあたしもよーく知ってるからねぇ。そういうとこは成長してないからいつまでもあたしのバカ娘なんだよ。まったく可愛いねぇ。」
「だから…髪が乱れると…あともうからかわないでください…」
笑いながらガシガシと髪を乱しながら私の頭を撫でるミア母さんに照れ隠しもあって私はまた愚痴をこぼした。
「いいじゃないか。そんなに言うなら見せてみな。リュー自身が幸せになった上で成り立つ平和で幸せに満ちた世界ってやつをね。あたしは楽しみに待ってるよ。」
「はい。約束します。」
「よく言った。いい目してるよ。さっ…話し過ぎちまったね。坊主がそろそろ待ってるかもしれないから、早く坊主のとこに行きな。リューの晴れ姿楽しみにしてるよ。…おめでとう。リュー。」
「…はい!ありがとうございます。」
ミア母さんの祝福に私は礼を言ってから、準備を行っていた部屋を出てベルが待つであろう式場の前に向かって歩き始めた。
幸せになる。そんな決意を抱きながら。
幸せは伝播する…そんな気がします。
誰かが幸せそうな表情をしていると自分も幸せになりたい!って思ってそれが広がっていく…的な?
嫉妬や羨望もバラまきかねないですが、そこは触れちゃダメです。
今のリューさんは黒い感情を色々忘れた純粋っ子なんです。