『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
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「シルゥ…」
隣で轟沈して廊下の窓ガラスにべったりと額をつけているのはリュー・リオン。
私の親友で一緒に『豊穣の女主人』で働く同僚。
今リューは重度の恋煩いを起こしている。
「ベルと今日背中合わせで戦って、ミノタウロスの群れを倒しました。ですがベルにばかり負担をかけてしまったような気がして…私またベルの足を引っ張ってしまいました…」
一括りに恋煩いと言ってもリューのは人とちょっと違う。
最初のうちはダンジョンに一緒に行こうって言われましたーとか一緒に手を繋ぎましたーとかだった。いかにも乙女らしい話だなーって私も楽しみながら聞けていた。
でもそれこそそんな甘い話リューがベルさんに夜にお忍びで逢いに行った時くらいで、ダンジョンにたまに朝一緒に行くようになってからは悍ましい話しか聞けてない。
例えば今みたいにモンスター相手に背中合わせで戦ったとか。(ボディータッチはボディータッチでももっと危険がなくできないの!?)
例えば二人でモンスターの腑から魔石を引きづり出したとか。(なんでそんな血生臭い共同作業しかしないの!?共同作業っていうのはモンスターをズタズタに切り刻むんじゃなくて、ケーキにそーっと入刀したりすることでしょ!?)
…シルお姉さんはもっと甘いお話が聞きたいですぅ…
でも実は私はリューがそんな甘ったるい物語をベルさんと育みたいわけじゃないってことは知ってるんだ。
リューはただ普通にベルさんと一緒にいたいんじゃない。
『冒険者』として、ベルさんを支える者としてベルさんのそばにいたいんだ。
ただその夢にリューの生真面目さが加わるとちょっと厄介なことになる、というよりなっている。
今ベルさんはもうLv.5。
一方のリューはステイタスの更新ができないから未だにLv.4。
段々実力の差が開き始めているみたいでそれをリューは気にしてるみたい。
相手は『
ちょっと相手が別格すぎて比較しちゃいけない気がするんだけど…
「…やはり稽古です。腕を磨かなくては…」
焦燥感でいっぱいになった表情で中庭に駆け出して行ってしまいそうになるリューをなんとか引き留めて着席させるも言葉が出てこない…そもそも私にはどうやって強くなるかとか考えても無理だよぅ…
「シル。止めないでください。私はベルに守られるだけの存在にはなってはならないのです。そんな存在に成り下がっては…私はベルに見向きもされなくなってしまいます…」
そこなの。
そこが他の女の子とリューの違うところ。
私みたいな女の子が求めるのは、お姫様の自分を強い力で救ってくれる王子様みたいな人。
私みたいな女の子には守られることに抵抗はない。もちろん私は私なりにできることを探すよ?でもそれは裏方での話。
だけどリューはまるで反対。
リューはベルさんと同じ場所で一緒に戦いたい。
遠くで眺めるだけの自分は嫌だって思ってる。
私には分かる。
リューの昔の経験が関係してるであろうってことくらい。
私にも分かる。
大切な人に先立たれてしまうことはとっても辛いことだって。
なら同じ場所で。
大切な人と生死を共にしたいって思う気持ちはすっごく分かる。
分かるからわたしは精一杯応援したい。
今のリューにとって恋煩いは初めての経験。
初めてだから不安でいっぱいなんだ。
そんな不安はリューが元気になればきっと吹っ飛ばせる!
リューがお花を咲かせたような笑顔をいつでも浮かべられるようになればベルさんは絶対に振り向いてくれる!
強くなる方法は知らないけど、私には元気付ける方法なら分かる。
だから私はリューを元気づけなきゃ!
「大丈夫だよ?リュー。ベルさんは見捨てたりしないよ?ベルさんはすっごく優しいんだから。」
「…知っています。ベルはとても優しい。だから私はつい甘えてしまう…今日だって私は…」
「甘えられるってことはリューがそれだけベルさんのことを信頼してて大好きだっていう証拠だよ?ベルさんもリューのことを気にかけてるからこそ甘えさせてくれるんだと思う。私は甘えることはそんなに悪いことだとは思わないなぁ。」
「ですがベルに迷惑です…甘えは命取りになります。なのに私はモンスターよりもベルを目で追ってしまって油断ばかり…」
うっうーん…ここでデレてくるのね。リュー…
リューの表情は固いまま俯いている。自分がデレたことにも気づけないくらいかぁ…恋は盲目ってやつ?完全にそれだね…
「とっとりあえず…リューはダンジョンではモンスターを倒すのに集中しようね?」
「はい…善処します…」
リューの表情を見るからに…厳しそうだなぁ…恋に命賭けるのはいいけどそんな使い方はダメだよリュー…
「さてリュー。よく聞いて?シルお姉さんが大事なことを教えます。」
「しっシル…からかわないで下さい…」
リューがちょっと不機嫌になるも無視して続ける。
「今のリューは強い強くないは置いておいて完全にポンコツになっています。」
「なっ!ポンコツとは…」
「ダンジョンでモンスターの警戒ができてない時点でポンコツです!」
「はい…」
異論を唱えようとするリューを一刀両断して沈黙させてから、私は話を続ける。
「なのでベルさんがいても戦えるようにするのが第一です。ベルさんを見ずに戦ってみましょう。そうすればきっとまずベルさんに惚れる前と同じだけの実力を発揮できます。」
「はい…」
「そしてベルさんに追いつける追いつけないの話ですが、そこは気にしなくてもいいと思います。」
「…理由をお聞きしてもいいですか?」
「だってリューはベルさんのそばにいたい。つまりパートナーになりたいんでしょ?」
「…そうです。だから私にはさらなる力がないとベルを支えられないと…」
「リュー。パートナーっていうのはね。
「…本当にですか?」
「うん。リューとベルさんはお似合いのベストパートナーになれるよ。」
「そうですか…」
よしリューの表情も柔らかくなって元気に…
どころじゃなくなってる…頰が緩んで蕩けたような表情になって『私とベルはお似合い』とか呟いてはニヤついてるぅ…
うん。やっぱり飴と鞭は大事だね。ここでシルお姉さん鞭をいれておこうかな?
「でもリュー?私とっても重大なことに気づいたの。」
そう言うとリューは蕩けた感じが抜けきらないまま私を見て首をかしげる。
「リューまだ告白してないからパートナーになったわけじゃないよね?」
「えっ…あっ…それは…」
「リューまだキスもしたことないよね?」
「いや…それは結婚してからだと私は…」
「それどころか手を繋いだのもあれ以来ないよね?」
「…」
「もっとベルさんに積極的にアタックしなさーい!!」
「はっ…はいぃ!!」
リューがビクッとして身を縮こませる。うん。これくらいガツンと言わないとリューは一生告白できずにそれこそベルさんの『冒険のパートナー』で終わっちゃいそう。私はリューにベルさんの公私ともにパートナーになって欲しいのに…
「しっ…シル!皿洗いが残っていると思うので!片付けてきます!」
リューは『エルフとして破廉恥な真似は…』とか『いやそれでもそれくらいすればベルも喜んで…』とかブツブツ呟きいて悶絶しながら逃げるようにから階段を駆け下りて行った。
「…またリューの悩み作っちゃったかなぁ…」
だなんて今更の小さな後悔を持ったけどきっと大丈夫だよね!きっとリューは乗り越えてくれるよ!
「ったく…本当にアンタは過保護だねぇ…」
「だってリューのこと応援したいんですもん。」
走り去るリューを見送った私の背後から声をかけてきたのはミアお母さん。
…きっと全部聞いてたんだろうなぁ…
「すっかり乙女になっちまったねぇ。あのエルフも。」
「いいじゃないですか。あれだけ冷静沈着でもリューは21歳ですよ?まだ初恋をしてもいい年齢です。」
「はっは。おかげでポンコツエルフがさらにポンコツになってあたしゃ困ってるんだがねぇ。」
困ってるとは言いながらも優しく微笑むミアお母さんだってきっと嬉しいんだ。リューが初めて出会った時とは違ってすっかり元気になったことに。
「それで?過保護は相談に乗るだけじゃないんだろう?」
「あはは…」
誤魔化すように笑うとミアお母さんが仕方ないとばかりに溜息をつく。
「あのエルフに言っときな。居場所ができたらいつでもそこに行ってもいい。私は止めない。だけどいつ帰ってきてくれても構わないってね。」
「それミアお母さんから直接言ったらどうですか?」
「それは…」
「恥ずかしいんですかぁ?ミアお母さん?」
クスクス笑いながらミアお母さんの顔を覗き込むとミアお母さんの顔はカァーと赤くなって、
「とにかく頼んだからね!」
とだけ言い残してリューを追うように階段を降りていった。
全く…ミアお母さんも素直じゃないなぁ。
果たしてリューはベルが初恋なのか…すごく気になります。