『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
一人の
冷静な表情を浮かべているのは
事情を事前に知っていたベルでさえその状況。事情を知らない者達の動揺は
それも事情を知っていたのはリューの夫と
そのためシルやアストレアのような近しい人々も事情を一切知らず揃って言葉が出てこないほど顔を蒼ざめさせていた。
モンスターを地上に連れてくる。
その意味を分からない者がいるはずもないからだった。
十中八九この祝福の場は修羅場へと変貌するそんな考えに誰もが至って当然だった。
だが悲鳴も怒号も飛ぶことはなかった。
大聖堂に詰めるオラリオ中のファミリアの団長も外交使節の人々も唖然としたまま。ただただ大胆すぎる賭けに打って出たリューを見つめていた。
なぜ誰も身動きを取らなかったのか。
それはリューとベルの覚悟の強さをその場にいる誰もが身に染みて感じ入っていたからだった。
つい先程まで愛を誓い幸せそうな表情で式に臨んでいたリューとベル。
その幸せをこの行為が血に染めかねない危険なことだということくらい二人にも分かるはずと誰もが思った。
にも関わらず二人はその危険な行為を断行した。
それは二人に並々ならぬ覚悟があるからに他ならない。
そこまでの覚悟を以って何を成そうというのか?
そこまでの覚悟を無碍に踏みにじることが人として許されるのだろうか?
そう誰もが関心と遠慮を抱き、目の前にいるモンスターへの恐怖云々の前に動こうとしなかった。
そうして口を閉ざして二人の次の言動を見守った。
二人の纏っている純白の衣装は偶然か意図的かまるで白装束のようだと。
白装束とは極東において吉凶事で纏う神聖な衣装。
同時に死を厭わぬ覚悟を決めた者が纏う覚悟の証。
タケミカヅチは二人の覚悟を理解し、その覚悟の行き着く先に幸あることを願った。
これこそ
どこまでも愚直に。
どこまでも大胆に。
正義を司るアストレアは二人に正義の加護があることを祈った。
見せてみなさい、と。
二人の愛の強さを。
その愛が成す偉業を。
愛の力は何物よりも勝ると。
愛を司るフレイヤはこれより目の当たりにする二人の成すことに心が躍っていた。
そんな人々の抱く思いを知る由もないリューは
そしてついにリューは静寂を破り口を開いた。
「突然の提言で申し訳ありません。そしてまずはご安心ください。こちらにいる
「はっきりとここで宣言します。ダンジョンには知性を持つモンスターがいます。そのモンスター達と僕達は短いながらも交流を育んできました。みんな優しくていい人ばかりなんです。」
「そして彼らは私達人間との交流と平和を切望しています。それを伝えるためこちらの
「見覚えがある方もいるかもしれません。こちらの
リューとベルが交互に言葉を紡ぐ。確かに元々話すことは打ち合わせていた。
だが二人が息をぴったりに交互に言葉を紡いでいく姿は想像を越える絆を皆に認識させた。
リューとベルは今この時いつも以上に夫婦らしく心を通じさせていた。
そしてベルが過去を思い起こさせることを述べたことで幾人かは思い至ったのか驚きを隠せなくなったようだった。そこにリューがさらに言葉を付け加える。
「ご記憶にあるでしょうか?あの時ベルは汚名を背負ってでも何かをなそうとしていた…確かに周囲から見れば奇妙な行動だったでしょう。ですが友であるウィーネさん達を守るためだった…そう言えば理解はしていただけるのではないでしょうか?」
「怪物趣味だとか悪い風には決して受け取らないでください。ウィーネ達も知性がある以上僕達と何一つ変わりはありません。エルフ、ドワーフ、小人族、ヒューマン、アマゾネス。そんな種族の違いとしか変わらないのです。だから僕達人間とウィーネ達は必ず仲良く共に生きていけます。」
「そして何より彼女達も平和への願いを抱いている。その点において冒険者達が向き合ってきたモンスターとは全く別物だということをご理解いただきたいのです。私達人間と知性あるモンスターは必ず共存できる。」
「「私(僕)達は彼らとの友好的な関係を築いていきたいのです。」」
交互に紡いでいた二人の言葉が重なり合う。
二人の夢と思いを込めた言葉がその場にいる一人一人に届けられる。
どう反応されるか。
拒絶か。
友好か。
二人は緊張した表情で辺りを見渡す。
だが誰もが近くの人と顔を見合わせはするものの何も言おうとしない。
困惑。
それが彼らの今の状況を表すのにふさわしい言葉だった。
確かに悲鳴と怒号が飛ばずすぐさまこの場が血に染められる…そんなことが起きなかっただけでもリューとベルへの人々の信頼が厚いということの証にはなるかもしれない。
だがリューはそんな程度のことでは満足しない。リューはやり遂げる、夢を形にする第一歩を踏み出すために今日という幸福に満ち溢れた日を選んだのだ。
だからリューは問いかけた。
「不安、恐れ、怒り…様々な感情を誰しも抱いているのは当然理解しています。だから私達に迷わずぶつけてください。私達はその全てを打ち払ってみせましょう。」
そうリューが言うとだんだんと騒めきが起こり始める。
そうしてリューが最近顔を合わせた記憶のあるとある女性の団長が恐る恐る手をあげた。
「…あの…仮に知性のあるモンスターがいる…だとしてもどう友好関係を築くと?…あなた方の高潔な理想には敬意を持ちます…確かに目の前にいる
その女性は消え入りそうな声でそうリューに聞く。それにリューは笑みを浮かべて答えた。
「ええそうです。恨みは消えません。ですが人と人との関係で考えてみてください。手を取り合い言葉を交わし信じ合う…そうすれば私達人間は恨みにだろうと打ち勝てます。そんな事実を私達一人一人が知っているのではないですか?ならば人間とモンスターであろうと変わりません。」
リューは整然と答える。するとポツリポツリと手が上がり始め、戸惑いがちに一人また一人と尋ねていく。そんな問いにリューとベルはそれぞれ二人なりに答え続けた。
そしてとうとう質問が途絶えた。人々の表情には戸惑いが消えていない。だが真摯にそして本気で問いに応え続けるリューとベルを人々は信じようと思い始めていた。
リューは質問が途絶えたのを見て取ると人々からウィーネに視線を移した。
「ウィーネさん。どうかここでお言葉をいただけないでしょうか?」
そういきなりリューが尋ねるものだからウィーネは驚く。
「えっ…私!?でっ…でも私が言っても…」
ウィーネが目を伏せる一方ウィーネが喋ったことに人々は再び動揺すると共に二人の言葉が真実だと改めて確認する。
リューはそんな人々の様子を横目で見ながらウィーネに微笑みながら言った。
「あなたの言葉…私の求めに命懸けで応えこの場にいるウィーネさんだからこそですよ。あなたの平和と友好への思いのこもった言葉が今必要なのです。だからどうか…お願いします。」
リューの言葉にウィーネはコクリと頷くと人々の方を向き小さく息を吸った。
「わっ…私の名前は…ウィーネと言います。ベルに名前をつけてもらいました。ヘスティア様やみんなにあの時いっぱい助けてもらって…今でも感謝してます。…私のことがみんな怖いかもしれません。だって私は人を傷つけるものを持っているから…でも!私はみんなと仲良くなりたい!ベルと一緒に過ごしたい!もっとたくさん友達を作りたい!色んな人とお話ししたい!だから!リューとベルのお話を聞いて欲しいの!」
ウィーネは思いを吐き出すように叫ぶ。
その叫びは人々の心を揺さぶった。
そんな稚拙だが率直な思いを紡ぐウィーネをリューとベルは優しく見守るように見つめていた。
そして二人は顔を見合わせて頷き合うとウィーネの言葉の跡を継ぐようにまずベルが口を開いた。
「僕もウィーネと同じ気持ちです!僕はウィーネ達と一緒に生きたい!皆さんもウィーネ達とたくさん話してみれば、きっとウィーネ達の素晴らしい一面が分かると思います!だから共に手を取り合いましょう!僕達人間と知性のあるモンスターは共に生きることができます!」
そんなベルの言葉にリューも続いた
「ベルの言う通りなのです。私達と知性あるモンスターは共に生きることができる。なぜなら彼らも大切な人を失う悲しみを持っているのですから。なぜなら彼らも平和への願いを抱いているのですから。ならば共に生きることができない理由がありません。そして私達と彼らが共に平和への道を歩むことで平和はより確実に実現するものだと確信します。共に手を取り合い同じ夢へと前進するのです。なので…」
「「私(僕達)の提言を受け入れてください!」」
二人が再び言葉を重ねる。
ただ先程とは人々の様子が違った。
一瞬の沈黙の後一人の手を叩く音を皮切りに拍手の輪が一気に広がっていく。
それだけでなくある人が立ち上がって拍手を贈ったのを見習って人々は次々に立ち上がりこの日一番の割れんばかりの拍手を贈る。
所謂スタンディングオベーションと呼ばれる状況だった。
人々はついにリューの提言を受け入れたのだった。
ことを見事に成し遂げたことを確信したリューとベルは顔を合わせて満面の笑みを浮かべ合う。
同時に二人にウィーネが感動のあまり涙目になりながら抱きついていた。そんなウィーネを二人は抱きしめ返した。
抱きしめ合う三人はまさにその友好の象徴と言えるものだった。
その三人の様子はまるで愛し合う親子のようだった。
そしてある意味親子という表現は正しいかもしれない。
今この瞬間名実共に産声を上げた人間と
それは他ならないリューとベルによって生み出されたものである。
まさにリューとベルの子供に等しい存在。
二人は友好という名の二人が産んだ子供を大切に守り育てなければならない。
今日あったのは世界から見れば小さな聖堂で起きた些細な提言と受容。
けれど今後世界に多大な影響を与えることは間違えないのである。
今日、妖精と白兎の夫婦は確かに歴史を少しだけ動かしたのである。