『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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今回はベル視点。
そして初の戦闘シーン!
初の試みがどう出るか…
自分で生み出した魔法の扱いに自分で困りました。(笑)

最後にぜむりあさん感想ありがとうございます!!


妖精と白兎の迷宮録(1)

 まだ薄暗い朝。

 

 人通りのまだ少ない大通りを僕は一人進んでいた。

 

 緩みそうになる頰を引っ叩いて、気を引き締める。

 

 今日はリューさんと朝稽古代わりの迷宮探索。

 

 ちょっと小遣い稼ぎもできるし、少しは経験値も溜まるし、リューさんと会えるし、まさに一石三鳥!

 

 アイズさんのいる【ロキ・ファミリア】がタイミングよく遠征に行ってくれた上に、僕自身一ヶ月近くダンジョンに潜っていなかったからリハビリが必要だろうということで神様の許可の元の迷宮探索だ。

 

 ちなみにリューさんが深夜に逢いに来てくれた後、僕とリューさんは神様に見つかったけど、僕がリューさんを夜遅くに呼んだことにして事なきを得た。

 

 リューさんは僕のせいにしたことが不満そうだったけど僕的には来て欲しかったのは本当で本当は呼んででも逢いたかったんだって言ったら、そっぽ向かれた上に逃げられてしまった。後でリューさんには土下座までされて謝られたけど、シルさんにニッコリと『リューをあまり困らせないで?』と言われてしまったし…僕が悪かったのかなぁ…

 

 本当のところを言うとなんだか神様が僕が【竃火の館】にいる間ずっと来客を断ってたみたいだからどちらにせよリューさんに会うならこっそりじゃないといけなかったわけで結果オーライって感じかな?ただリューさんのおかげで【竃火の館】における警戒が厳重になったのは良し悪しだった。またリューさんとコッソリ会う機会がなくなっちゃったわけだし。

 

 でも二人であった時にダンジョンで一緒に探索ができてるから問題もない。

 

 リューさんと二人きりでダンジョン探索。デートかな?…違うね。

 

 だなんて考えていたらもう中央広場。

 

 噴水近くに佇む人の姿。

 

 緑色のフードのついたケープに茶色のロングブーツ。

 

 見間違うはずもなくリューさんだ!

 

 よし!今日もリューさんにカッコイイところ見せられるように頑張ろう!

 

「リューさーん!おはよーございまーす!」

 

 僕が手を振って呼びかけるとリューさんはこちらに振り向いて…

 

 小さく手を振ってる…だって…?

 

 リューさんの胸元で確かに茶色いロング・グローブを身につけた手が小さく動いている。

 

 

 うん。今日来てよかった。

 

 

 と思ってニヤケそうになる頰を引き締めてリューさんに近づく。

 

 そしてもう少しでリューさんと向き合えそうだと思ったところでリューさんはクルリと反転して、そのままバベルの入口へと歩き始めてしまう。

 

「あれ?リューさん!」

 

 なんで自分が置いてかれそうになっているのか分からない僕は慌てて呼びかける。僕の声に反応してくれたのかビクッと背中が揺れたかと思うとリューさんの歩くスピードは少しだけ遅くなってなんとかリューさんの背に触れられるぐらいまで追いつく。

 

「…おはようございます。ベル。少々事情があって少し先行させていただきます。」

 

「え?どういうことですか?」

 

「深くは聞かないでいただけると嬉しいです。とにかくいつもは私が後衛ですが、今日は私に前衛をやらせていただきます。」

 

 有無を言わさぬような口調と見えない表情のおかげでリューさんの考えをイマイチ読み取れないが、そんなに問題はないので快諾することにする。

 

「いいですよ。前衛お願いします。」

 

「ええ。任されました。」

 

 そう言ったリューさんは駆け出してしまい、慌てて後を追った。

 

 

 

 僕とリューさんは日の出前に待ち合わせをして、昼食前に帰ってくるというのがこのダンジョン探索の定番。

 

 すぐに帰ってくることを考えて、行くのは限界でも【中層】の16階層まで。17階層は階層主の周期の都合でそこまでしか行けないからだ。

 

 そしてミノタウロスやら【中層】のモンスター相手に実力を磨いている。適度に強くない相手を相手にするから如何にリューさんにかっこいいところを見せられるかもちょっと追求できたり…もちろん油断はしないけど。

 

 いつもは僕が前衛でリューさんが後衛。

 

 僕の取りこぼしをリューさんが倒すみたいな。

 

 最初のうちはリューさんは助言をたくさんくれたのだけど、途中から僕を後ろから見てるだけになっていた。何でだろう…?僕のやり方に危ないところがあるけど、自分で気付きなさいみたいな理由かな?

 

 とにかく僕を見てる。

 

 一回リューさんの反応が遅れてしまった時があって、リューさんに当たりそうになったアルミラージの手斧の投擲を間一髪で僕が弾き返した時は本当にヒヤッとした。これもリューさんがあえて与えてくれた試練だったり?自分より弱い人を守る可能性もあるんだからいつでも守る相手の動向を気にしなさい…みたいな?

 

 リューさんにはリューさんなりの考えがあってやってるんだろうから僕はリューさんの言う通りにしようと思ってる。

 

 そして今日はリューさんに言われた通り僕は後衛に回ってるんだけど…

 

 リューさんの動きに無駄がなさすぎで僕の出番がない…

 

 僕の方を振り返ることもなく、小太刀を両手に携えて、ゴブリンだろうとアルミラージだろうとヘルハウンドであろうと何体現れようと全て瞬時に捌き灰に変えてしまう。休憩もなしに突き進んでいってしまうので結構ついてくのが大変だ。と言っても僕のやることと言えば、後ろからついてって魔石を回収することくらい。…うん。完全に僕サポーターだね…

 

 僕が前衛の時は倒すスピードがそんなに早くないし、休憩も取るから一緒に魔石を取り出したりしてたんだけど、リューさんは言うほど魔石回収に執着がないみたいで取り分は僕の方が多めにしてもらっている。いつか貯めたお金でリューさんに何か買いたいって思ってるのは内緒。多めにもらってるからにはお返ししないとね?

 

 それにしてもやっぱりリューさんは強い。やはり前にリューさんが油断していたのもわざとなんじゃないかと納得する。僕に自分の身を呈して与えた試練だったのかもしれない。そういうやり方はできればやめて欲しいし止めたいけど、止める説得をするとせっかく身を呈してくれたリューさんの優しさを無碍にすることになりそうだし…

 

 それとリューさんの今日の様子は少しおかしい。

 

 いつもと違って前衛をやるって言ってみたり、いつもなら談笑しながら探索するのに今日はほとんど話せていない。リューさんの探索の勢いの速さのためになんだか話す機会が作れないのだ。

 

 うーん…僕何か気に触ることしちゃったかな…

 

「そろそろ15階層です。」

 

 そうこうしてるうちにもう15階層。ここからは特に連携が大事なことは言われるまでもなく知っている。

 

 リューさんは僕の方をようやく振り返ってくれた。ようやくお話しできるかな。

 

「はい!いつも通り二人で連携して!ですね!」

 

「…出来るだけ手出しなさらないでください。」

 

 と思いきやリューさんはそれだけ言うと僕を置いて階段を駆け下りていく。

 

「えっ!あっ!ちょっとリューさん!?」

 

 連携を常に説いてきて僕が前衛の時にはいつもサポートしてくれたリューさんには有るまじき行動に反応が遅れる。

 

 慌ててリューさんの背を追って階段を駆け下りるともう距離が離されていて、背が小さくなったリューさんはアルミラージの群れとの戦闘に突入していた。

 

 どうしたのかも分からないまま走り続けるが、壁のひび割れの音が聞こえてきて足を止める。

 

「くっ…タイミング悪く…」

 

 目の前に今にも壁から這い出てくるヘルハウンドを警戒しながら、横目にリューさんを見るとリューさんは苦戦している様子はないが、続々と増援も来ているようであんなにリューさんが倒しているのに数が減ってるような感じがしない。

 

 早く出てこいよと心で叫びながらまずは目の前のヘルハウンドを倒すことに集中する。

 

『ガルルル…』

 

 這い出てきたのは三体。僕は短期決戦を選択して持ち前の足の速さで撹乱した上で一気に距離を縮めた。

 

 一撃必殺。

 

 リューさんの教えだ。

 

 僕は僕の動きを追いきれないヘルハウンドの魔石目掛けてナイフを突き入れる。その動作をヒットアウェイを繰り返しながら三度行い、目の前の障害は灰と化した。

 

 障害を排除した僕はすぐさまリューさんの方を振り向くとさらに状況は悪化していて、もう完全にモンスターたちに包囲されていてリューさんの姿はその影に隠れてもう見えない。

 

 リューさんの不可解な行動の理解に苦しみながら、まずはリューさんを救出することに全力を傾けてその背を追った。

 

「【助力神風(アグジュアリ・ウィンド)】!」

 

 ここで僕は新たに発現した魔法を発動する。

 

 この魔法はヴェルフが言っていたようにアイズさんの魔法と似通った部分も多い。

 

 例えば魔法によって発動した緑色の光を発する風を纏う事で敏捷が上がる事。

 

 これでいつも以上に加速して一気に距離を縮める。

 

 この風はナイフにも纏わせられるのも確かにアイズさんの魔法と同じ。

 

 でも別の魔法との共通点に僕は気づいていた。

 

 僕はナイフを片手持ちに変えて、空いた手に一気に魔力を集中させた。そうすると手の上には緑色の光弾が出来上がって、それを目の前のリューさんとの合流を阻むモンスターに向けて放出した。

 

 その光弾は緑色の風を纏い途上にいたモンスターを風で吹き飛ばして壁にめり込ませながら落着し、爆発を起こしながらさらにモンスターを吹き飛ばした。

 

 要はこの魔法は【ファイアボルト】と同じ速攻魔法としても使えるというわけだ。

 

 そして光弾を撃っても集中が途切れない限り魔法の効力は続く。

 

 加速した速度を落とすことなく光弾のおかげで開かれた道を突き進む。

 

 光弾で傷だらけになりながらもなんとか踏みとどまるオークをナイフの投擲で一発で魔石を貫いて灰に変える。

 

「リューさん!?」

 

 ようやく見えた。

 

 リューさんの背。

 

 リューさんは二刀流のまま防戦を続けていた。僕が背後から攻撃したおかげで注意が分散したモンスターを各個撃破でいたのかもうリューさんを両面から攻撃していたモンスターは既に灰になっており、もう残るは前方のミノタウロスのみ。

 

 だが五体が包囲しようと試みてくるのを防ぐだけで手一杯のようで攻撃に踏み出せていない。

 

「リューさん!どいてください!」

 

 僕が叫ぶもリューさんは動いてくれない。仕方なく僕は風の力を借りて飛び上がると共に魔力を再び手に集中させる。

 

 僕はリューさんを絶対に守りきる。

 

 僕は絶対に後悔したくない。

 

 僕はリューさんを守るための力を手に入れるって決めたんだ。

 

 でも一人だけじゃ戦えないってことくらいもう分かってる。

 

 

 思い浮かべる憧憬は『ラ・イル』。

 

 国を救うために敵と戦った英雄。

 

 同じ志を持った神の啓示を受けた乙女を支え、共に戦った戦友。

 

 僕は彼と同じように支えたい人と共に戦える英雄になりたい。

 

 

 空中にいる僅かな時間で出来るだけチャージを済ました後、僕はリューさんの盾となるように降り立ち、叫んだ。

 

「【ファイアボルト】!!!!」

 

英雄願望(アルゴノゥト)』の効果のおかげで威力が強化された【ファイアボルト】に緑色の光を帯びた風が後を押すように力強く吹き荒れ、目の前のミノタウロスはおろか今まででは考えられないほどの距離を焼き尽くした。

 

「すっ…すごい…」

 

 僕の魔法を目の当たりにしたリューさんが感嘆の声を漏らす。

 

 僕の炎は視界に入っていた全てのモンスターを焼き尽くし、未だに炎は燃えるはずもない地面で燃え続けている。

 

「【私はウェスタ。炎は消える。されど想いは消えない。】」

 

 解呪式を唱えるまではよかったものの、火を消火したしたところで僕の視界はぐにゃりと歪み、力が抜けていく感じがした。

 

 …何か柔らかい物に当たった気がする…

 

 …あれ?今度は後頭部に激痛が走った気が…

 

 でも声を出す力も出ないし、痛みもイマイチわからない…

 

 今日はあまり聞くことのできなかった大切な人の声が段々遠ざかっていくのを感じながら、僕は意識を手放した。




ラ・イルはジャンヌ・ダルクの戦友だそうです。
英雄願望を使うには英雄を思い浮かべないといけないですが、原作者の方はどうやって何人もの英雄を調べてきているのやら…すごいです。

あと作者の名前の『護人ベリアス』は14巻でベル君がリューさんを救う時に思い浮かべた英雄ですが、誰かわかりません。
一応自分で調べたところアーサー王の部下のペレアスの逸話と似ていたんですが、微妙に話の展開が14巻に書かれたものと違いました。
何か知っている方に情報提供していただけると嬉しいです。
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