『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス 作:護人ベリアス
前の話?あれは夢ですよ。夢。今回こそ現実です。(大嘘)
カフェオレさん、チミチャンガさん、感想ありがとうございます!
追記:リテイクなのにタイトル間違えました(笑)
「んん…」
視界に入るのは木材でできた天井。
頭の下にはフカフカな…枕か。
そして僕の右手に感じる暖かい温もり。
「おはようございます。ベル。よく眠れましたか?」
目を覚ましてすぐに目に入るのはニッコリと微笑むリューさん。
リューさんは僕の右手を握りしめ続けていた。
朝すぐにおはようの挨拶…
新婚さんみたいですっごくいい!!
…とほんわかな幸せを感じるのはいいけど、違和感が少し。
…おかしいな。枕と小太刀がドアにまだ突き刺さってる。あれ夢じゃなかったの?
「あの…リューさん?あの枕と…」
「おはようございます。ベル。よく眠れましたか?」
…リューさんの無言の圧力。
怖いです。すごく怖いです。さっきとまったく同じフレーズなのに新婚さん的雰囲気から旦那さんを脅す鬼嫁的雰囲気に変わってる…
つまり夢か現実か分からない僕の記憶で二人して自爆した一件は夢だったと言うことにするんですね。よく分かりました。
「あっはい…お陰様で。」
「そうですか。それはよかった。あっ…!」
改めてホッとしたような表情するリューさんだったが、ハッとして僕の手を離してしまう。
「すいません。勝手にベルの手を握ってしまっていました…」
リューさんが申し訳なさそうに謝る。夢だということになった時間からずっと握ってるんだから何を今更って感じだし…と言うより握ってくれていて嬉しいし…
もしかしたら無意識に僕の手を握りしめてしまうくらい心配をかけてしまったのかもしれない。なら僕が悪いよね。
よし。ここは一つ覚悟を決めようかな。さっきのは夢で片付けられちゃったし…
僕は離れてしまったリューさんの手を取った。リューさんは僕の行動に目を見開いて驚く。
「謝らないでください。リューさん。僕リューさんに手を握ってもらえてとっても嬉しいですから。」
「なっ!?」
リューさんの顔がポッと赤くなる。僕もこんなこと言って恥ずかしいけど、それでも目を逸らさずに言葉を続けた。リューさんに僕がリューさんと触れ合える嬉しさを伝えたかった。
「エルフは他の方との肌の接触を嫌がると聞きます。そして接触を許すのは気を許している方だけ。僕のことをそれだけリューさんに信頼してもらえてるっていうのがすっごい嬉しいです。ありがとうございます。」
ニッコリ笑顔を浮かべて言うもリューさんは僕の想いに反して顔を背けてしまう。
「…私は許す許さないと言える立場のエルフではありません。そもそも私はベルにお礼を言われるような立場ではない。私はベルに迷惑をかけてばかりで…」
「何言ってるんですか?リューさん?僕はリューさんに数え切れないくらい助けてもらってますよ?」
「ベル。あなたは優し過ぎます。私は謝罪しても仕切れない立場にあります。」
そう言うとリューさんは僕の握る手を振り解こうとする。でも僕は許さない。僕はリューさんの手を握りしめたまま離さない。
「…離してください。ベル。」
「離しません。そもそも何するつもりですか?リューさん。それを聞くまで絶対に離しませんから。」
「土下座です。」
…え?謝罪ってあの土下座なの?
あの神様が伝授してくれたあの土下座?
あのタケミカヅチ様の必殺奥義の最終手段のあの土下座!?
「ダメです!リューさん!僕はリューさんにそんなことさせられません!」
「止めないでください!私がベルに謝罪するならその方法以外に考えられない!」
「ダメです!土下座はとにかくダメです!」
僕の手を振りほどいて土下座をしようとするリューさん。
絶対させまいと手を離さない僕。
引っ張り合いになったらラチがあかないから僕は一瞬力を抜いてリューさんを油断させた後、一気に力を込めて油断したリューさんを引き寄せた。
ここで役立つリューさんとアイズさんの教え。何事も駆け引きなんですね。
僕が引き寄せた勢いのままリューさんはぼすんと僕の胸板に頭を突っ込んだ。
「べっ…ベルぅ!?!?」
大慌てで離れようとするリューさんを逃さないために僕はリューさんの背中に手を回してギュッと抱きしめた。
「いいですか?リューさん?土下座っていうのは最終奥義ですが、これはやる人の名誉を大きく損なうものなんです。そんな簡単な気持ちでやってはいけないんですって前にも言いましたよね?ていうかリューさんはどこで土下座を知ったんですか?」
「…土下座は輝夜から罪深いことをした時に最大限の謝罪を行う時に行うものだと聞きました。私は名誉など些細なものになる程罪深いことをしました…だからとりあえず離して…」
輝夜さん…何教えてくれてるんですか…
「とにかく土下座はダメです。でも事情は聞きます。絶対リューさんの勘違いですけど。僕は絶対にリューさんに迷惑なんてかけられていませんから。」
リューさんが僕が離れようとするのを押しとどめながら、僕は断言する。リューさんに助けられはしても迷惑なんて一切かけられていないのだから。
「まず離してください…」
「いやです。事情を話してくれるまで離しません。離したらリューさんすぐ土下座するでしょ?」
うぅ…と漏らすリューさん。どうやら図星だったみたい。
リューさんはフゥと小さく息を吐くと抵抗をやめて僕の胸の中に収まって話し始めた。
「…まず私は私を守るために
「あーそういえば意識を失う前に痛みを感じたような…」
「申し訳ありません…」
「いや。多分リューさんのことだから事情があったんですよね?」
そう聞くとリューさんは聞こえないような小さな声で何かを言っている。
「え?何です?」
「だから私の胸にあなたの頭部が当たって…ってあぁ!?」
リューさんは真相を聞かせてくれたはいいけど、あまりに恥ずかしい内容に耳を真っ赤にしているのが見える。
「…忘れて下さい。あれも夢です。とにかく申し訳ありません。」
「あっ…はい。」
これも夢ということで処理完了。…『も』ってことはボールスさんが現れたのも夢じゃなかったんだね。うん。分かってた。
さてリューさんが謝ろうとした理由は分かった。でもそんな土下座をするような内容じゃないような気もする。
「リューさん。それくらいなら僕怒りませんよ?そもそもそれ悪いの僕じゃないですか。」
「…まだあります。今日。私は勝手に突出して結果的にベルが
「それはいいですよ。魔力の調節もせずに魔法を多用した僕のミスです。…でもなんで一人で突っ込んで行ったのか。それは聞きたいです。」
そう言うとリューさんは黙り込んでしまう。
リューさんは話したくない。そういうことかな。
「話せないことならいいです。僕も追求しません。」
「いっいえ!?」
さっきまで僕の胸板に顔を埋めていたリューさんは僕を見上げる。
…上目遣いみたいだぁ!?
そんなリューさんに目を背けそうになるがここで背けたらいけない気がして、なんとか踏みとどまってリューさんと目を合わせる。
「私はベルに…隠し事をしたくない。仲間のことも私の闇も知っているベルに隠し事はしたくない!」
「リューさん…」
「…あの時…17階層に降りる時です。私はベルの方を振り向きましたよね?」
「はっはい…」
それはちょうどリューさんが駆け出していってしまう直前のことだったはず。
「その時何と言うのか…こう…力が抜けると言うか…集中力が失われそうになったと言うか…心臓の鼓動が早くなって呼吸が乱れそうになったと言うか…とにかくそんな感覚がして、戦闘を継続できなくなりそうになると直感しました。」
え?僕を見て?
「それでまずいと思った私はその感覚から逃れようと駆け出しました。そして気づけばモンスターに囲まれていて…」
うーん…これ僕のせいかな?鼓動が早くなったって何かの病気?でもリューさんの症状がよく分からない。でももしかしたら重病だったりするのかも!?
「 呼吸が乱れたって…何かの病気ですか!?なら治療してもらわないと!?」
僕は最悪の事態を予測して、顔が青ざめる。リヴィラじゃ大掛かりな治療はできないだろうし、ここはバベルに行って…
「違います!」
慌てる僕にリューさんがカッと顔を赤くして叫ぶ。
「そんな症状で治療を受けに行ったら…私は死んでしまいます!」
「治療を受けたら死んじゃうんですか!?本当に大丈夫ですか!?」
「大丈夫です!とにかく大丈夫ですから!」
僕の動揺が移ったのかリューさんまで動揺し始めてしまって二人で身を寄せ合いながらワタワタする。
「…話を戻しますよ!それで私はベルの足手まといになりました!自分は今までも後衛としての役割を碌に果たせていません!ほとんどモンスターを倒すのもベルに任せっきりでした!だから私は今日は自分の力でベルの役に立てることを証明するためにモンスターに対処しようと思いました!なのに私はまた足手まといになりました!だから私は…ベルの隣にいる資格がありません!それでも今もベルは弱い私の気をずっと使ってくれて!今日も助けてくれて!私はベルに顔向けできない!」
リューさんが思いを吐き出すように叫ぶ。
リューさんの悩みは理解した。やっぱりと言うか僕にも責任があった。
僕のカッコつけようっていう身勝手な考えがリューさんに心配をもたらした結果今日のような事態に発展してしまったんだ。
「それは…僕が悪いです。僕が一人でモンスターを全部倒そうとしたから…」
「違う!これは私の力不足で…!」
リューさんは僕の言葉を遮ってまでして、自分の非を主張する。こうなるとリューさんは簡単には納得してくれない。僕は言い聞かせるようにリューさんに語りかけた。
「力不足は僕もリューさんと一緒です。僕もリューさんの隣に立てるような強い冒険者になろうと思って。リューさんの前でカッコつけようと思って。一人でモンスターと戦ってました。協力するからこそパーティは強いのにそれをしなかった。リューさんを頼ることさえしなかった僕はパーティ失格です。僕こそ謝らないと。ごめんなさい。リューさん。」
僕が謝るとリューさんは再び僕の胸板に顔を埋めた。
「…なぜベルが謝るんですか?悪いのは私なのに…」
「確かに今日のリューさんの行動はちょっとダメかなって思います。でも僕も似たようなことをしてしまってますから。今まではリューさんのサポートのおかげで大事には至りませんでしたけど、今日は僕がサポートが側だったから大事に至りかけた。これは僕の力不足がいけないんです。」
「何を言うんですか。ベルは強い。私が追いつけないと思うほどとても強くなっている。私のサポートが必要ないほどに。」
「そんなわけないじゃないですか。リューさんが後ろにいるって思うと…リューさんと話すとすっごく力が湧いてくるんです。それはリューさんのおかげです。リューさんと一緒にいるから僕は力を最大限に発揮できるんだと思います。」
僕の魔法に加わった一文。
『想い人を思い浮かべることで効果向上。』
この『想い人』っていうのは言うまでもなくリューさんのこと。
【ファイアボルト】を試して効果が大きくなっているか確かめるまでもない。あの【深層】での四日間以来僕にリューさんを意識しない時はないと言っても過言ではないかもしれない。
僕はリューさんのことが好きだ。
リューさんは僕の想い人。
つまりリューさんと一緒にいて、リューさんのことを考えながら戦うと僕は強くなるってこと。
…僕の愛って結構重いんだね。
「…私はその逆です。」
リューさんは静かに言う。
一瞬時間が止まった気がした。
…え?
それって…あっえーつまりえっと…リューさんは僕がいると力が発揮できなくて…つまりえっリューさんは僕のことえっ…嫌いってこと…?
「私は…最近ベルの顔を見ると頭がぼーっとしてしまって…ベルと話すとベルとの話以外に気が回らなくなって…すぐに動けない時が増えてしまいました。私は明らかに弱くなっている。」
あまりのショックで思考停止に陥りかけるもなんとかリューさんの言葉だけは聞き取る。
「それでもベルといることは私の心をとても暖めてくれて…こんな経験初めてです。弱くなったのも最悪なことではないかもしれないと錯覚してしまうほどに。私はベルと会えて良かったと思います。私にこんな経験をさせてくれて。本当にありがとうございます。」
リューさんは僕の胸板から顔を離して僕の顔を見つめながら言った。
リューさんはとても綺麗に微笑んでいた。
「…じゃあリューさんは僕のこと嫌いじゃないんですね?」
何聞いてるんだ僕!?ついさっきまで思考停止に陥りかけていたからってそんなこと聞くなんて!?リューさんにそんなこと聞いたら僕がリューさんのこと好きだって…!
「もっ!もちろんです!むしろ私は…!」
と言いかけたところでリューさんはアッと口を閉じる。
そしてリューさんは小さく息を吐くとじっと僕の顔を見つめ、さらに顔を赤くさせながらこう言った。
「ベル。…私から大事なお話があります。聞いていただけますか?」
リューさんの病気:恋煩い
ついに…ついに!!