『正義』の妖精と『偽善』の白兎のファミリア・ミィス   作:護人ベリアス

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リューさん視点!

前回から一部だけ続きです。

カフェオレさん、チミチャンガさん、感想ありがとうございます!


妖精の告白

「…じゃあリューさんは僕のこと嫌いじゃないんですね?」

 

 ベルが心配そうな表情で問いかけてくるので私は慌てて答えた。

 

「もっ!もちろんです!むしろ私は…!」

 

 と言いかけたところで私は盛大に口を滑らせかけたのに気づき、口を閉じる。

 

 だがハッと気づく。

 

 ベルの心配そうな表情。

 

 ついさっき隠し事をしないと言ったのに本当に私のベルへの想いを隠していいのだろうか…?

 

 私のベルへの好意を隠していていいのだろうか?

 

 先程の発言が見事に私の退路を絶っている。

 

 今更私の先程の発言を後悔する。

 

 隠し事はしたくない。

 

 けれど…

 

 恥ずかしい。

 

 怖い。

 

 そんな感情が一気に押し寄せてくる。

 

 だけどアリーゼは言った。

 

 逃げてはいけない、と。

 

 だけどシルは言った。

 

 私を応援する、と。

 

 だから私は…

 

 誇り高き一人のエルフとして。

 

 彼女たちの助けをこの身に受けた一人の女として。

 

 恋という戦に挑む一人の『冒険者』として。

 

 

 私は引くわけにはいかない!

 

 

「ベル。…私から大事なお話があります。聞いていただけますか?」

 

 

 

 大事な話と言ったことでベルはパッと私から手を離してしまった。

 

 ベルに抱き締められていた私にとってとても幸せな時間が終わってしまったのは、非常に名残惜しかったが必要な犠牲だ…仕方ない…もうちょっと抱き締めていて欲しかったとか…いっそ頭を撫でて欲しかったとか…そんな欲は決してない。

 

 これからすることに今までにない緊張を感じる私。

 

『大事』という言葉に度を超えて影響を受けたかに見えるベル。

 

 二人してどうすればいいか分からなくなってオドオドした結果、ベルの寝ていたベッドの上で二人で正座で向き合うという謎の状況が完成した。

 

「べっ…ベル!」

 

「はっ…はい!」

 

 二人で作り上げた極度の緊張を生む空間に私はさらに緊張を高めながら、私は言葉を紡いだ。

 

「…一回深呼吸します。」

 

 …一回落ち着きましょう。

 

 出鼻で盛大に転倒した気もするが、きっとこれは気のせいだ。

 

 とりあえず深呼吸で落ち着きましょう。

 

 …無理です。

 

 心臓の鼓動がさらに早くなりました…

 

「ベル!【深層】でのことを覚えていますか!?」

 

 これが私のベルのことを本当に好きになったきっかけ。

 

 同じ思い出を共有できてたら嬉しいな…と思い…

 

「もちろん…つい二ヶ月前のことですから…」

 

 …ですよね。あの悪夢と吉夢の並立したような時間をたったの二ヶ月で忘れられる方がいたらすごいと思います。

 

 また私はミスをした…?

 

 …気を取り直しましょう。

 

「リューさん!一回落ち着きましょう!慌て過ぎて可愛いすぎるのはいいんで…あぁ!また僕は!?」

 

「可愛い…!?私が可愛い…!?」

 

 ベルが私に落ち着くよう呼びかけるもベルが『可愛い』と言ったことで再び二人して混乱に陥る。

 

 私は一度落ち着くために頬を両手で張って、ようやく正気を取り戻す。

 

「ふぅ…さてどこまで話しましたか?」

 

「…【深層】でのことを覚えていますかってとこまでです。」

 

 何とか落ち着いた様子のベルに聞いて現状確認。…全く話が進んでないじゃないですか…

 

「…そうでした。私は【深層】でベルと生死を共にして…私はあの四日間。ずっといつ死んでもいいと思っていました。」

 

「…」

 

 ベルは俯いて何も言わなかった。私を叱りつけたいと思っているかもしれないが、今は黙って私を見つめている。

 

「最初はアリーゼ達の元に早く行きたかった、ベルを何としてでも地上に返したかった、それだけです。それ以外の『正義(希望)』はありませんでした。ですが…私は闘技場(コロシアム)で再び救われた後…私の思いは変わっていました。」

 

 そう言うとベルは大きく目を見開いた。

 

「なぜか私は幸せだと感じていたのです。あの死と隣り合わせのあの時間を。アリーゼ達に遺された後の私の生きた意味が全てこの瞬間のためにあったんじゃないかと思うほど。」

 

 ベルに少しだけ寝ると言った時。

 

 最期だと思って、ベルに抱き締めてくれるように頼んで応えてもらった時。

 

 私は確かにベルと一緒に居られることに幸せを感じていた。

 

「そして夢の中でアリーゼ達に励まされて、生きる力を取り戻して地上に生還してから…私は明らかに今までの私ではなくなりました。」

 

 そう。

 

【深層】から帰ってきて初めてベルと二人で外を出歩いた時に気づいた感情。

 

 この感情が芽生えたことで私の感覚は大いに狂った。

 

「ベルの顔を見れなくなったり、心臓の鼓動が早くなって呼吸が乱れたり、ベルを見つめたまま動けなくなったり。私は今までこのような経験をしたことがありませんでした。」

 

 本当に初体験のことばかり。

 

【疾風】の名が聞いて呆れるほどの大失態の数々。

 

 …それは『豊穣の女主人』に居候し始めて以来ずっとですか。

 

 とにかく私にとっての初体験で戸惑いも未だに少なくない。

 

「この私に芽生えた正体が断定できないこの感情。シルに聞いたのです。こういった感情は『恋』。そう呼ぶそうです。」

 

 ベルがカーッと顔を赤くして、口をパクパクさせ始める。

 

 それでも私は言うべき言葉をきちんと告げた。

 

 

「ベル。私はあなたのことが好きです。」

 

 

 告げた。

 

 告げてしまった。

 

 ベルに私はついに告白を…

 

 それを考えるだけで私の顔に全ての熱が集中してしまっているような錯覚がする。

 

 恥ずかしい。

 

 恥ずかしすぎる。

 

 ベル…返事を…

 

「あっ…えーっと…」

 

 ベルがボソッと言う。

 

 もう一生分くらい緊張した気がする。

 

 どれだけの時間が経ったかわからない。

 

 一秒か一分か一時間か。

 

 それくらい私の感覚は狂っていた。

 

 一方のベルは顔を背けて、頭を抱えて困った表情をしている。

 

 ダメだ。

 

 耐えられない。

 

 振られる。

 

 私はベルを困らせた最低のエルフ。

 

 そんな最悪な場合の想定が頭の中をグルグルと回って、私の頭はパンクしかけ。

 

「実は僕もリューさんのことが大…」

 

 嫌いって言われる。

 

 振られる。

 

 ベルに振られる。

 

 断られたくない。

 

 ダメ。

 

 最悪の展開に取り憑かれた私は強迫観念に囚われて、自衛を無意識に選択していた。

 

「す…」

 

「ベル!!私がしばらく修行に出た後に返事をいただければ結構です!!だから今返事をしないで!!」

 

「…きで…え?」

 

 自分でも何を言っているのか分からないような早口でまくし立てたと同時に何かベルが言った気がする。

 

 大…す…き…で…

 

 

『大好きです』!?!?

 

 

「今…ベル何て…?」

 

 

「…リューさん。大好きです。」

 

 

「あぁ!?!?」

 

「リューさん!?」

 

 悶絶して、絶望のあまりベッドに頭を叩きつけて髪をめちゃくちゃに掻き乱す。

 

 望んでいた答えを得られたことで喜びが一気に押し寄せる。

 

 だが同時に自分が半ば錯乱状態で言ってしまったことを思い出して、さーっと喜びが消えていく。

 

 あぁ…

 

 脳裏にアリーゼとシルの姿が浮かぶ。

 

 炎の付加魔法(エンチャント)を纏ったアリーゼが恐ろしい笑顔で私を見つめる。

 

 魔女と呼ぶにふさわしい、いつか見てしまった恐ろしい笑顔を浮かべるシルが私の前に立っている。

 

 アリーゼ。シル。申し訳ありません…

 

 私リュー・リオンはここぞという大一番で見事に大失態を犯しました。

 

 もう私はあなた達に殺されてもなんの文句も言えない…

 

 しばらく悶えた後、茫然自失のまま私はどうにか顔を上げた。

 

「リューっ…リューさん?これは…」

 

「…夢です。」

 

「え?」

 

「これも夢です。今のは忘れてください。」

 

 もうダメだ。

 

 せっかくベルから望んでいた返事をもらえたのにあんなことを言ってしまうなんて…

 

「無理ですよ!?これって両想いだってことですよね!?忘れろってそんなことできませんよ!?」

 

 ベルが大慌ててで言う。

 

「先ほど私は言ってしまいました…返事は修行に出た後でいいと。」

 

「え!?ていうか修行って何のことです!?」

 

「私は今のままではダンジョンでベルと共に戦うことはできません。だから一度オラリオを出て修行に行こうかと。」

 

「聞いてませんよ!?そんなこと!?」

 

「だってベルが意識を失っている間に決意しましたから。」

 

 ベルがいると戦闘に集中できない上にベルの足手まといになる。

 

 私的にはベルのいないところで修行するしかない。

 

 当然の結論だった。

 

「ダメです!僕とリューさんが両想いって分かったんだから僕はずっとリューさんと一緒に居たいんです!」

 

 くっ…ベルがこれでもかと歓喜しそうな甘い言葉を囁いてくれる。

 

 なのに私は…さっきの言葉を取り消すことができない…

 

「…エルフに二言はありません。」

 

「それ本気で言ってるんですか!?」

 

「…本気です。」

 

 嘘。

 

 言うほど本気ではない。

 

 本当ならベルの胸板に飛び込んで恋人になって、ずっと抱き着いていたいとまで思っている。

 

 それでも今後の『冒険者』としての私がこのままベルといると『冒険者』としての勘が完全に死に絶えると警告している。

 

 私がベルを如何なる場所でも支えたいと思う以上そんなことはあってはならない。

 

「…じゃあ僕もリューさんと一緒にオラリオを出ます。それなら僕も何とか納得します。」

 

 ベルの言葉に舞い上がりそうになるもこれはこれで大きな問題が発生している。

 

「…ベルは【ヘスティア・ファミリア】の団長だ。ファミリアを放置してそのような行動は神ヘスティアが許すはずもない…」

 

「ぐはっ…団長辞めてリューさんと駆け落ちしたい…」

 

「それはダメです…団長としての責任は放棄してはいけない…」

 

 自分で頭の固いエルフらしく責任について語った挙句ベルといられないと自分で言ってブーメランの如く私の心をその言葉がズタズタに引き裂く。

 

 …今ほどエルフのような頑固者でなければと思う時はない…

 

 自分で自分の首を絞めまくる自分自身が恨めしい…

 

「…分かりました。リューさんも『冒険者』です。さっき僕といるとダンジョンに集中できないと聞いてしまった以上僕と一緒にはダンジョンに鍛錬には来れませんもんね…」

 

 ベルがシュンとした表情になってしまい、私は慌てて弁明する。

 

「あっ!でも私はベルと一緒にダンジョンで戦いたいと思うから修行に行くのです!決してベルと一緒にいたくないわけでは…」

 

「大丈夫です。リューさんが僕のことを気にしてくれているっていうのは分かってますから。誤解を招くようなことを言ってすいません。」

 

 ベルは私を慰めるように笑顔でそう言ってくれる。だがベルはすぐにかしこまった表情に変わる。

 

「それでリューさん。僕的にはリューさんがオラリオを出るのには大分不服があるんですが、我慢します。僕的にはここからが大事なんです。僕達はあの…恋人ってことですよね?」

 

 恋人。

 

 その甘い響きに私の心は薔薇のお花畑に包まれたかのよう…

 

 そして薔薇だから当然ある棘が私の心にグサグサと突き刺さる。

 

 その棘とは言うまでもなくさっきの私の言葉。

 

「…返事は修行に行った後と言ってしまいました…」

 

「え!?じゃあ今の無効何ですか!?」

 

 もう私は完全に涙目になりながらコクリと頷く。

 

 あんなこと言わなければ…

 

「…リューさん。さっきの撤回できません?」

 

「…エルフに二言はありません。だから夢ということにしようと…」

 

「ダメです。リューさん。今のを夢ということにしたら、関係が進展しない気がします。」

 

 くっ…図星な気がしてならない。

 

 今回は勢いに乗ったから言えただけで私はきっと『万全の状態で告白する』というのを大義名分にずっと先延ばしにし続けるに違いない。

 

「分かりました。じゃあこうしましょう。」

 

 もう完全にダメだ。

 

 そろそろ愛想尽かされる頃合い。

 

 こんな訳の分からないことを言う頑固なエルフにもそろそろ幻滅したはず。

 

 覚悟を決めましょうか…

 

「僕は修行からリューさんが帰ってきた後まで待てません。だから毎日返事をしていいですか?」

 

「…え?」

 

 

「リューさん。大好きです。」

 

 

 !?!?

 

 改めてベルに言われてカーッと顔がまたまた熱くなる。

 

「毎日言って、僕がリューさんのことが大好きで、すっごく信頼してて、ずっと一緒に居たいって伝えたいんです。許してくれますか?」

 

 許すも何もない。

 

 こんな頑固で自分の言葉も撤回できない私にそこまで気を使ってくれるなんて…

 

「でっでも…私…身勝手なことばかりを…」

 

「僕そういう風にちょっと手がかかって放って置けないリューさんも大好きです。僕はそんなリューさんを支えたいなって思います。」

 

「なぁ!?!?」

 

 私が歓喜してしまうような言葉をたくさん並び立ててくれたおかげで私はもう頭がクラクラし始めている。

 

「許してくれますか?」

 

 ベルが優しくもう一度問いかけてくれる。

 

 もう答えは決まってる。

 

 想いを込めて伝えよう。

 

「はい。こちらこそお願いします。いえ…私からも伝えさせてください。…私もベルのことが大好きです。ベルのそばでこれからずっと生きていきたいです。」

 

 ベルは私の言葉を聞いて、笑顔になってくれた。

 

「僕大好きなリューさんを抱き締めたいんです。させてくれますか?」

 

 私の望んでいたことまで私が言う前に提案してくれるだなんて…

 

 ベルのことをさらに好きになってしまいます…

 

「ええ。喜んで。」

 

 私は出来うる限り、私が今感じている幸せを体現しようと微笑んだ。

 

 そんな私に応えて、ベルは大きく手を広げて私が来るのを待つ態勢になってくれる。

 

 私はさっきとは違って自分の意志でベルの胸板に飛び込んだ。

 

 暖かいベル。

 

 ちょっと早くなっているかのように感じるベルの心臓の鼓動の音を耳で聞く。

 

 ベルは生きている。

 

 私も生きている。

 

 当たり前だけど、あの【深層】での出来事を鑑みれば、当たり前じゃない。

 

 そんなことをベルの鼓動を聞きながら想った。

 

 私は生を諦めなくて良かったと今なら思える。

 

 私の『正義(希望)』が消えなかったことに心から感謝する。

 

 すると私の中で糸がプツリと切れたような感覚がした。

 

 気づくと私は嗚咽を漏らしていた。

 

 泣いてるんだと気づくのにしばらくかかった。

 

 そのことに気づいたのは私自身よりベルの方が早かったようでベルはあやすように私の頭を撫でてくれた。

 

「リューさん。頑張りましたね。男の僕から告白すべきかもしれないのにリューさんに告白を先にしてもらって…少し辛い思いをさせてしまったかもしれません。」

 

 違う。

 

 たしかに断られるかもと思うと辛かった。

 

 でも想いを伝えられるってことがこんなに幸せなことだとは思わなかった。

 

 辛さより幸せさの方が勝っている。

 

 だから泣いているのは辛かったからというより、緊張が途切れて嬉し泣きを我慢できなかったという方が正しい気がした。

 

 

「でも僕は今後リューさんにそんな思いをさせないように努力します。約束します。僕がリューさんのこと絶対に幸せにします。」

 

 

 そんなベルの幸せへと導いてくれる言葉を聞きながら。

 

 何でも私の願いを叶えてしまうベルに頭を撫でられながら。

 

 ベルの胸元でベルの心臓の鼓動を聞きながら。

 

 これから私の経験したことないような幸せな時間が始まることを心で再確認しつつ私はこの身をベルに委ねた。

 

 




何とか恋人(仮)にまで持ち込んだベル君でした。
リューさんもここまで頑なに自分の言葉を守ろうとするかなって書いてて思ったんですが、これは作者のシナリオ展開における諸事情のせいということで。

三話に渡った寝室シーン。
…まっポンコツ妖精さんとウブな白兎さんの物語ですので何も起きませんね。
ていうかまだ正式には付き合ってないですし!(ここ大事)

さて二人が付き合った(仮)のでそろそろあらすじに関わる内容に話の中心を移していきます。
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