1話
私はただみていることしかできなかった。
自分のファミリアの眷属たちが喰われるのをみていることしかできなかった。
震える。
吐き気がする。
情けない。
神をこのモンスターが喰えば、神の力を持ち、モンスターの力を持つ、最悪の化け物が生まれてしまう。そんな最悪が起きてしまったのだ。それはダメだ。しかし、私に抵抗することなんてできなかった。もう喰われ、アンタレスの中で眷属を殺すところを見ていることしか出来なかった。なら私にできるのはこの残った神の力で槍を作り出すことぐらいだろう。この力があればアンタレスを倒せる。もうモンスターとしての核を私にしてしまったアンタレスは私が殺されれば崩壊する。残滓が残れば、今の私とは違う少しぐらい柔らかくなった私がオリオンを導く。
あぁ、オリオンよ…どうか世界を救いたまえ…
「まったく、気づいたら森の中にいたってだけであれなのに、この強そうな化け物はなんだよ?」
少年…?!ダメだ!今の私は、アンタレスはたった1人で倒せるような相手ではない!それに口ぶりから察するに迷い込んだだけのようだ。ならまだ逃げられる。ここは私の眷属の力で封印された場所だ。私と今の眷属たちが入ったときにもしもの時を考え開けたままにいていたから入れたのだろう。早く!!早く逃げて!!
「あの馬鹿でかい宝石みたいなのが核なのか?………?!女の人が…………全裸?!服着ろよ!」
……そういうことを言わないでいただきたい。これでも私は処女神だ。こんな状況でなければ罵倒していた。まあ、残滓は私と別の性格になるだろうからきっともう誰かを罵倒するなんてこともないのだろうが。
そういえば子供たちに言われてしまったな。恋は素晴らしいと…
一度ぐらいしてみたいものだったな…
「見た感じ囚われてるって感じだし、どうにか助けられないものか…」
無理だ、神の力を使用しているアンタレスは確かに現状で私を殺してないと言える。しかしこのモンスターの核はすでに私なのだ。私を殺さなければこのモンスターは倒せない。
「この蜘蛛みたいな化け物だけを殺せば…やってみるか」
意味がわからなかったがアンタレスは気にしない。
少年めがけて攻撃を仕掛ける。
「早っ」
それもそうだ。最悪の化け物なのだから。あぁ、私は無関係の子供が死ぬのも見ていなければならないのか。
そう思いながらも人を殺すのだから目を背けてはいけない。その罪を受け入れなければいけないのだ。
私は少年の死を目に焼き付けよう。
そう思ったはずの私は呆気に取られた。少年を攻撃したはずのアンタレスの足2本はバラバラになっていたのだ。
「早いって言ってもこの手の攻撃が1番楽だな。飛んできた死をなぞるだけでいいんだから。」
気づけば少年は眼鏡を外していた。
灰色に見えた瞳は蒼くなっている。
アンタレスは切られた箇所を再生しようとする。しかし異変に気付いた。再生しないのだ。私にも訳が分からない。なぜ?彼のスキル?
アンタレスは疑問を持つのをやめ、魔力による砲撃を喰らわせようとする。
あれを真正面から受けた人間が無事な分けがない。今度こそ本当に危ない
そう思った矢先いつの間に現れたのか黒猫が彼の前に出る
「頼むよ、レン」
「……………………」
レンと言われた黒猫は突如形を変え、人の形となる。その人は暗い水色の髪で赤い目黒い服。服は身なりがよく、お金持ちを連想させる。そんな少女がアンタレスの攻撃を難なく防ぐ。
「ありがとレン。ここにケーキがあるかわからないけど、あったら買ってやるからな」
彼はお礼を言って私に、アンタレスに向かい合う。
「じゃあ、その女の人のためだ。
—————教えてやる。これが、モノを殺すっていうことだ」
走り出した彼は私は目で捉えることなどできなかった。気づけば彼はアンタレスの足を伝い胴体にまできていた。まるでそこに何かがあるように、じっと一点を見ている。ひと刺し。
またも気づいたのは少し後、アンタレスの体がバラバラになって私のいる核が地面に落ちる寸前だった。
私は後からアンタレスが死んだことを理解する。アンタレスのみが死んだことにより喰われたはずの私が生き繋いだことを理解する。
彼と猫だった女の子は私に近づいてくる。
彼は見たこともない服(後から聞いたら学ランというらしい)
の上着を脱いで私に渡す。
「…………?」
訳も分からずそれを受け取る。
まだお礼を言えていない。まだ疑問がたくさんあるが、とにかくお礼を…
「ありが————」
「とにかく服きなよ。いろいろ見えてるからな」
「———え………は、恥を知れっ!!」
私を救ってくれた人とのファーストコンタクトはぶん殴るというので始まった。
人気だったら続けようかなと