殺人貴はダンジョンに行く   作:あるにき

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こんばんは
少しぶりです。ほんとは昨日更新しようと思ってたのですが、寝落ちしてしまい……
前回のベル・クラネルの逃走劇の後です。
なので、前編、後編をサブタイトル付け加えました。



ではどうぞ


ベル・クラネルの逃走劇 後編

大跳躍。

高さ八M(メドル)にも及び人家の壁を、【ランクアップ】を経て大幅に上昇した身体能力を持って、飛び越える。

ヘスティアの絶叫が轟き渡る中、放物線を描いた跳躍はギリギリのところで高壁を越え、屋根の上に着地した。豪快な着地音を決めるベルの胸の中で、幼女の女神が盛大に息を切らす。

閉鎖感の強い狭い路地裏から解放され、空と青空に包まれる。見晴らしのいい人家の天辺から辺りを見渡し、ベルは、北側の方角に視認できる大神殿を見据えた。

 

(こうなったら、ギルドに逃げ込むしか………!)

 

絶対中立である都市の管理機関にはさしもの敵も攻め込めない。レンのことが不安で仕方がないが、もう間に合わないだろうという気持ちもある。流石に殺すなんてことはないだろうが誘拐されてしまえば、それを盾にしてシキが【アポロン・ファミリア】に入ることになるかもしれない。

とにかく今は荘厳な万神殿(パンテオン)、ギルド本部に避難しようと、ベルは逃げる算段をつける。

 

「諦めた方がいいよ」

 

「!」

 

背後から投げかけられた声に、振り返った。

同じ人家の屋根に立っていたのは、数名の団員を率いたダフネだ。小隊の中にはロングスカート型の戦闘服(バトル・クロス)に身を包んだカサンドラの姿もある。何故だかすごく顔の色が悪いし、前にあった時の不景気な顔の軽く三倍は表情が暗い。

横から吹く風に短髪(ショートヘアー)をなびかせるダフネは、その吊り目を哀れむように向けてきた。

 

「アポロン様は気に入った子供を地の果てまで追いかける。手に入れるまでね。たとえシキ・トオノ(Level.6)だとしても」

 

「………!」

 

やはり本命はシキか。と考えながらも、何故自分を狙うのかとも考える。

 

「ウチやカサンドラも、見初められてずっと追われ続けたんだから。都市から都市、国から国……観念するまで、ずっとね。逃げても早いか遅いかの違いだけだって」

 

忠告すると同時に、自分もベルと似た境遇だったと告白する。

ダフネが同情の眼差しを送ってくる中、ヘスティアが表情を歪めた。

 

「アポロンめ……!狙いはシキ君だけじゃなかったってことか……!!」

 

ダフネの話を聞き、手段を選ばずベルやシキを強奪しようとするアポロンの神意に気づいた彼女は、後悔すると同時に男神への嫌悪と戦慄をあらわにする。

 

———執念深い(, , , , )

 

ヘルメスが『宴』の際に発した言葉が、ベルの脳裏にも過ぎった。

 

「投降しない?仲間になっちゃう子に、できれば手荒なことはしたくないんだけど」

 

「…………できません」

 

腰の鞘に収まった剣の柄をぽんぽんと叩くダフネに、ベルは顔を振る。

勧告を聞き入れずじりじりと後退していくベルとヘスティアに、彼女は溜息をついた。

 

「そうなるよね、早くしないとシキ・トオノも来ちゃうし。じゃあ——かかれ!」

 

ダフネが抜剣し、切っ先をこちらに向ける。彼女の号令に従い小隊員達が一斉に跳躍した。

ベルも背を向けて、ギルド本部の方角へ走り出す。

 

「相手は足が速い、リッソスの隊を読んで回り込んで!」

 

指示を飛ばすのと並行し、ダフネは短刃(ダガー)を投擲。

察知したベルは振り返り、驚愕しながら、寸分狂わず投じられた白刃を肩鎧で防御する。

甲高い音とともに凄まじい衝撃が走り、その体はバランスを崩した。

よろめいたベルに、団員達が殺到する。

 

「……! 神様、戦います!」

 

「わ、わかった!」

 

止むなく応戦するベル。横抱きにしていたヘスティアの腰に左腕を回し、脇に抱える格好を取る。あまりのわ姿勢にヘスティアの頰が羞恥に染まった。

自由になった右手で《ヘスティア・ナイフ》を引き抜き、接敵する。

 

「うっ!?」

 

正面から迫った剣撃をナイフで切り払う。すかさず迫る槍も弾き、続く攻撃はぎりぎりのところで回避した。

間際なく攻めかかってくる相手の冒険者達も手練れだ、パーティとしての連携能力も高い。

斬撃をしのいでは移動を続けるものの、ベル達は確実にギルド本部から遠ざけられていた。

 

(駄目だ…………!)

 

主神(ヘスティア)を抱えたままでは、逃げ切ることもかなわない。

ベルは躊躇を捨てるしかなかった。

一瞬ヘスティアと目線を交わし合い、ナイフをパス。彼女がしっかりと《ヘスティア・ナイフ》の柄をキャッチする中、ベルは空いた右手を突き出した。

頭上より飛びかかってくる三名の冒険者に向かって叫ぶ。

 

「【ファイアボルト】!」

 

爆炎が咲く。

無詠唱で放たれた『速攻魔法』が三連射、敵冒険者達を吹き飛ばした。

悲鳴が散り、黒焦げとなって屋根の一角に倒れ込む小隊員達。

目を見開くダフネは、しかし動かなかった。

 

「カサンドラ!」

 

「はい!」

 

すかさず飛んだ彼女の指示に、1人後衛として残っていたカサンドラが杖を構える。

素早く詠唱を奏で、次には治療魔法が発動した。

 

「!?」

 

焼け焦げて(うずくま)っていた冒険者達が青い光に包まれ、キズが癒えていく。復活した彼等は殺気を漲らせ立ち上がった。

カサンドラ——治療師(ヒーラー)の存在にベルは汗を流し、そして同時に見せつけられる。

組織としての、パーティとしての地力。本来あるべき【ファミリア】の姿。

敵の連携の方が一枚も二枚も上手であると、痛感させられる。

 

「くっ——!?」

 

ダフネ達の小隊に加え四方から集まってくる敵の陰に、ベルはたまらず下方へ。

放たれる何発もの矢をナイフで撃墜し、再び路地裏に飛び降りた。

 

 

 

「逃げ足速いなぁ……無駄なんだから諦めればいいのに」

 

高い家屋の上、足を止めたダフネは、目下で逃げ惑うベルへ呟いた。彼女が浮かべる表情と眼差しは同情的でありながら達観している。

ダフネはその強引に入団させられた経緯により、主神に心酔する団長(ヒュアキントス)達とは異なって、アポロンをそこまで慕っていない。しかし眷族になって育てられた以上、命令には従うし、つくしてやる義理(おん)もあると思っている。一応、男神(かれ)男神(かれ)で求愛を受け入れた者には紳士なのだ——というより男神(かれ)少年青年(おとこ)の方が好きなのだ——。

そんなアポロンが今度はシキを欲しがっている。そしてベルも。………少年に憐憫を抱くことはあっても、神意に背く気持ちはこれっぽっちもなかった。

 

「あの、ダフネちゃん、やめた方が……いいような気がする」

 

そんな彼女の背後から、場に1人残っていたカサンドラがおずおずと声をかける。

自身と似たような境遇で、かつ付き合いの長い少女は腰まで届く長髪を両手で弄り、その垂れ目を伏せがちに言う。普段のそれより顔色が悪い気がする。

 

「何が?」

 

「あの子を、いえ………『兎』は『アレ』に比べたらそれほどじゃない……でも、『アレ』が来たらダメっ………!」

 

弱腰に警戒してくる彼女に、ダフネは溜息をついた。

 

「また夢?」

 

呆れながら問いただすと、カサンドラは普段より強く必死に頷いた。

この少女(カサンドラ)は『予知夢』を見ることができる。と言ってもはばからない。そして誰にも全く相手にされない。無論、ダフネにも。

アポロンに見初められる前はいいところの育ちだったようだが、彼女の妄言はその育ちの障害だとダフネは思っている。

カサンドラの予知夢(それ)は、箱入り娘にありがちなな、一笑に付してしまうような『呪力(まりょく)』があるのだ。

 

「馬鹿なこと言ってないでおいかけるわよ」

 

「ど、どうして信じてくれないのぉ〜〜〜っ」

 

取り合う気のなかったダフネは面倒くさそうに、半べそのカサンドラへ目を向ける。

 

「じゃあ、どんな夢を見たのよ?」

 

「ぅんと……1人の男の子が太陽をバラバラにしちゃう夢(, , , , , , , , , , , , , )………」

 

ダフネは鼻で笑うことすらしなかった。

 

「そうよね、夢はそれくらい——」

 

言いかけてダフネは言葉を止める。いや遮られた。

 

「おい」

 

「ふぇ?」

 

カサンドラは間の抜けた声を出し、ダフネは言葉を遮られたことにより反射的に後ろを振り返る。

そこにいたのは本来ここにはいない者。この短時間でここまでオラリオ(まち)の端から移動できるはずがない。まして彼は【ロキ・ファミリア】のホームに行ったはずだ。そして最も問題なのが、団長(ヒュアキントス)が誘拐したはずのシキ・トオノの家族であるらしいとある少女(レン)を傍らに侍らせているのだ。団長が失敗した?なぜ?どうやって?

ダフネはこの突発的すぎる状況に困惑しながら目の前の男と対峙する。

カサンドラはまるで幽霊でも見たかのように体を震わせている。

少年、いや青年はゆっくりと口を開く。

 

「俺の友人に手を出したんだ。そのツケは払ってもらうぞ」

 

瞬間青年が発した研ぎ澄まされた『殺気』に当てられ、2人は自分の体がバラバラ(, , , , )になるイメージを押し付けられ、そのイメージに心の底から恐怖した。そのとき自身の首もとから強い衝撃を受け、ダフネは朦朧とする意識の中で自分にイメージを植え付けた青年に目を向ける。以前会った時とは違う『蒼い眼』に、心底底知れないものを感じながら、『コイツはダメだ』と生物の本能で理解した。




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