殺人貴はダンジョンに行く   作:あるにき

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すこしぶりです。
あまり時間が取れていなくて……すみません汗


ではどうぞ


遠野志貴の救出劇 後編

「………とは言ったものの、一体どこにいるんだか」

 

地下室を出て半壊なんてどころじゃない教会——廃墟に上がってくる。

さっきまで教会付近にいたはずだが、今では完全に姿を消していた。

いや、その言い方では語弊を生む。

もう見えないところまで逃げて行ってしまったのだ。

ベル君はヘスティアを抱えながらだからまずロクな戦闘は無理だろう。

仮に一度ヘスティアを下ろしたとしても、それは『防衛戦』であるわけで。

兎なんて言われているぐらいだからやっぱり遠くまで行ってるんだろうな、と志貴は一瞬考えたが、すぐにその考えを捨てた。

この世界でのLevelという概念は絶対らしい。

ベル君が兎と言われ敏捷(足の速さ)を取り柄にしていると言っても、それはLevel.2(今の強さ)での話。

その先、つまりより高いLevelの人間にその速さが通じるかと言ったらそれは………

とはいえ、これはあくまで志貴のただでさえ無いこの世界での知識での考えだ。

あっているのかどうかなどわからない。

 

「………………………………」

 

レンが俺の制服の裾の部分を引っ張って、ある場所を指差した。

 

そこは方角的には北西。

バベルのような圧倒的な高さではないにしろ、いい感じに辺りを見渡せそうな高い建物。位置は……メインストリートの近くか?

 

「なるほどな………あそこから見渡そうってことね」

 

「…………………………………………………」

 

「急がないとまずいし……よしっ、とりあえず行ってみるか」

 

志貴とレンはそこに走って向かった。

と言っても一瞬だ。

距離は、ざっと50メートル………M(メドル)程度。

周りの建物を利用して加速し、あっという間にその建物の真下に来てはレンに頼んで魔術で階段らしきものを作って登っていく。

別に志貴だけならばよじ登ることもできるが、レンが出来ない。

いや、魔術の反動なりなんなりを使い登ることはできるが、今回はあくまでこの方法。

魔術って便利だよな〜。この世界では【ステイタス】なんだし、俺も使えないかな。

なんて頭の片隅で考えながら登っていると、微かに話し声が聞こえた。

 

『フレイヤ様は動いたか?』

 

この声……ヘルメスさん?

この人ベル君の知り合いじゃないのか?なんで助けに行かないんだ!

 

「「……………………」」

 

レンは普段と同じだが、俺もレン同様話さず息を潜め、話し声に耳を傾ける。

 

『いえ、フレイヤ派は今のところ静観しています』

 

アスフィさんも!

というか、随分と事務的な会話だな。

まるで、この奇襲騒動をある程度予想していた(, , , , , , , , , ,)ような。

 

『今回の騒動に関しては、フレイヤ様は手を出さないつもりか?』

 

様?

神の間にも主従関係なんてあるのか?

だとしても部下が主人の出方をうかがいながら行動するのはおかしくないか?

それにアスフィさんはフレイヤ派、と言ってた。

その言い方は自分達は違う、と言っているようなものだ。

いや確かにアスフィさんは【ヘルメス・ファミリア】なのだから当然だろうが、自身の主神が使える神にまた己も使えるのではなく、あくまで別と考えるのであれば少し違和感があるように感じる。

 

『どうするのですか?』

 

『何もしないさ』

 

やはり動かないつもりなのか

 

『オレはヘルメスだぜ?今までもこれからも、傍観者に徹するさ』

 

傍観者、と彼は彼のことを評したが。

口ぶりから察するにまず一枚、この事件に噛んでいる。確証なんてないが、あっているだろうという自信はある。

そして、これは予想だが。

もしこの話を広めたり、本人に聞いていたなんて言えばかなり面倒なことになりかねない、そう考えると志貴はレンと目を合わせて気配を殺し彼らの背後に忍び寄る。

タチが悪いかもしれないし、もしかしたら痛いしっぺ返しを喰らうかもしれない。それでも、この自称傍観者の涼しげな顔を少しでも焦らせなければ気が済まなかった。

今もこうして、友人が傷ついているかもしれない現状で助けられるのに助けないのが腹に立ったのだ。

志貴は大切な人以外割とどうでもいいなんて考えの男なので見ず知らずの人と大切な人、どちらかが死ななければならない現状があれば迷わず大切な人を選ぶ。それでも、なんだかんだで両方助けてしまえるのが志貴なのだが、そこは割愛。とにかく、大切な人のために他人を犠牲にできる一途な男。

この世界の英雄にはとことん不向きだ。

それはつまり、ヘルメスという英雄狂い(道化)とはとことん合わないということで。

 

「あれ?ヘルメスさんにアスフィさん。こんなところで何してんすか?」

 

——————————————————————

 

ヘルメスさんとアスフィさん。

2人と話しながらベル君とヘスティアのいる場所を見つけたので、そこに行くことにして2人と別れた。

別れた、と言っても、俺達が勝手に来て勝手に去っていっただけだが。

去り際にヘルメスさんと目が合ったが、俺の狙いはうまくいったみたいだった。

それより、急がないとかなりマズイ状況みたいだった。

一対多

状況は最悪。

勝利は絶望的。

 

「—————あぁ、もう!無事でいてくれよ————ッ!!」

 

「………………………………………」

 

全力で走るに当たって、流石にレンが追いつけないので、あすなろ抱きの逆バージョンのごとく可愛らしくしがみついている。

猫になるのでもいいとも思ったが、もしものとき人の形の方が対処しやすいだろうからな。

狭い路地裏を通っているので俺からしたらかえって動きやすい。

 

右へ左へ。

 

 

路地裏の中のさらに脇道へ。

 

 

少しひらけた道へ。

 

 

とにかく急ぐ。

 

 

ある程度近づくと、目に見えて人が増えた。

と言っても増えたのは通行人や抗争騒ぎの見物客でもない。

【アポロン・ファミリア】の団員だ。

さっき高い建物から見ただけでも周囲に冒険者らしき人達が80は超えていた。流石に遠目に紋章(エンブレム)は見えなかったがここまで近づけば見えてきた。

 

『【ファイアボルト】!』

 

少し遠くの方でベル君の声が響く。

それと同時に小さな爆発音。どちらも三度。

次の曲がり角を曲がったところでベル君とヘスティアがいるはずだ。

その曲がり角を曲がると確かに数人の【アポロン・ファミリア】の冒険者はいたが2人の姿はもうなかった。

そのかわり見覚えのある二人組を発見。

確か名前は………ダフネさんと、カサンドラさん?だったはずだ。2人がいたのは屋根の上だ。2人とも確かLevel.3

彼女達もこんなことに参加してるのか……

そういえば、ギルドの前であったときに”ご愁傷様”なんて言われたな。

もしかしてあの2人も似たような方法で入団させられたのか?

いや、仮にそうだったとしても、主神に逆らえない状況だったとしても友人に手を出されたことには変わりない。

 

『————ラバラにしちゃう夢……』

音を立てずに屋根に登りレンを降ろす。

2人は俺達に気づいた様子もなく呑気に話しているが内容がよくわからない。夢?なんだよ、随分日常的な会話するんだな。

前にあった時同様、オロオロした感じに必死に何かを説明しているカサンドラさん。

 

でも今はそんなことどうでもいい

 

『そうよね、夢はそれくらい————』

 

 

今まさに話していたダフネさんの言葉を遮るように口を開く。

2人とも俺達の存在にやはり気づいていなかったようで、声を掛ける。

まともに戦闘なんてしてしまえば、手加減できないかもしれないので不意打ち狙いだ。

 

「おい」

 

「ふぇ?」

 

カサンドラさんは間の抜けた声を出し、ダフネさんは言葉を遮られたことにより反射的に後ろを振り返る。

この襲撃が計画なら俺がここに来れない算段をつけていたのかもしれない。

ベル君を狙わずともレンさえいれば最低限の目的だって終了していたはず。

 

アレはレンとまだ契約をしていない。つまり俺の見た(. .)夢。

レンがずっと見たがっていた。

大切な、レン(.)夢。

 

俺にとっての死神。紅赤朱

アレと俺を守るために戦ったレン。

そんなレンをもう死んでいると決めつけて。一瞬見ただけで最悪だと切り捨てた。

 

『まるで捨てられたゴミのようだと思ってしまった。』

 

アレと対峙するとわかって、心臓は通常より一回り大きく稼働した。

理性を司るのは脳であり、心臓はただ脳の指令を守る器官にすぎない。

そんなのはデタラメだった。一体どこの教科書がそんなこと広めたのか。

理性は脳に。だが原初的な感情を司るのはやはり心臓に違いない。

何故なら、あんなにも理性を総動員して震えを抑えたというのに、肉体は身勝手には痙攣していた。

心臓は理性を駆逐し、ありったけの恐れと迷いをまき散らした。

ジェット噴射の勢いで血管に流た闇。

全身、それこそ指の先まで張り巡らされたチューブを伝って、遠野志貴の肉体を痙攣した。

それを理性で押さえつけて、力の限り疾駆した。

肉体には知性がない。原初的な恐れに対する理論武装ができないのは当然だ。

自らの死を予感して逃走を促すのは生命の本能であり、最も優れた性能である。

それを理性で押さえつけて走るのだ。

心臓が、呼吸が乱れるのは当然だ。

 

だから、狂いそうな呼吸とはそういうコト。

自らの心象世界、自らが”死”と認めたモノに挑むコトなど間違えている。

間違えているから、肉体は発狂することでその過ちに対抗する。

 

逃げた。

何度も逃げて、ときには反撃して返り討ちにあって殺されて。

俺であれば少しはあった勝機。

しかしレンにはそれがないはずだったのだ。実際無かった。それなのに俺はずっと失念していた。

あのとき触れた唇を覚えている。

それは少し寂しげで、

まるで——————————

 

 

 

 

 

…………落とされる死神の鎌。

アレに握られた瞬間、俺の頭は潰される。

おそらく苦しみはないだろう。

なにしろあの怪力だ。タイムラグなんかないし、一瞬で握りつぶされるんだから、死んだことさえ気が付かないかもしれない。

 

———ああ、そうか。

なら別に、死を恐がる必要なんてなかったわけだ。

最期になって気が付くなんて抜けている。

視界には振り落とされるヤツの魔手。

 

……ただ、視界の端に。

小さくて柔らかそうで、苦しそうに、お腹を動かして息をしているなにかが見えた。

 

——————打撃が迫る。

 

これで最期?これで最期だって?

そんな筈はない、だってまだ右足は生きているしナイフだって握ったまま、意識は何一つ欠けていないしキズだって負っていない、なにより俺はまだ、何一つだってしてやいない………!

 

 

—————ふざけるな、まだ俺は

 

 

 

 

—————戦ってさえ、いないじゃないかっ………!

 

俺はそこで初めて己が死に立ち向かった。レンを救うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり、何が言いたいのかっていうとさ。

何となく今の状況がそのときに似ていた気がしたんで思い出したんだ。

敵の強さだってこっちじゃ段違いに弱いし、あのときのように自分の死に立ち向かったわけじゃないけど。

もう一度言う。

何がいいたいのかって言えば

 

 

「俺の友人に手を出したんだ。そのツケは払ってもらうぞ」

 

 

 

————————————————————

 

 

「レン、キミは目についた【アポロン・ファミリア】のヤツらを頼む。俺はベル君達を追うから」

 

「………………………………………………………」

 

コク、コクと

無言で頷くレンに微笑みかけてベル君達を追うために行ったであろう方向へ駆けた。

 

「はぁ………はぁ………なんで………、追ってこないんだ…………?」

 

「ベル君、これは逃げ切れたってことかい!?」

 

屋根からは降りているようで今の俺は2人を見下ろすように屋根の上にいるわけだが、追っ手が来ないのはさっきの2人。ダフネさんとカサンドラさんはこの襲撃の司令部に位置していたらしく、2人の意識がなくなったことで連携が少し乱れた。

そこにもれなくレンが追い打ちをかけている。

おそらくかなり離れたところに待機しているヤツがいない限り、そろそろ壊滅している頃だろう。

すこし安心してゆっくり降りて話しかけてみるとし………よ…………う…………

 

ハッ!!

そういえば何も言わずに【ロキ・ファミリア】から何も言わずに出てきたぞ…………?

アルテミスってば待たされると怒るタイプだし…………!!!!

 

 

脳内で怒っているアルテミスを連想する………

 

 

 

 

や、やべぇ!急いで戻らないと!!

 

「わ、悪いベル君!!多分だいたい片付いたから!そういうことでッ!」

 

「へ!?し、シキさん?!」

 

「し、シキ君!?ど、どういうことだいっ?!」

 

「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!!!!」

 

「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

途中でレンも回収して、いつだったか有彦の部屋にいたトンデモ生物と遭遇したときのように急ぐ。

なんとか15分かからずに往復することができ、とりあえず怒られはしなかったが、【ロキ・ファミリア】の面子にはいろいろ聞かれたが後でまたベル君達のとこ行かないとな。なにせ住む場所が燃えたわけだし。

とりあえず問題はひと段落っと。




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