起きてしばらくはダンジョンや冒険者、この街についての話を聞いていた。話していたのはベル君。正直アルテミスから聞いた話が大半だったが、丁寧に説明してくれた。
話が終わってからギルドに行くこととなった。ファミリアの登録に時間がかかるという話だったが、聞けば、アルテミスファミリアはファミリア登録されているのだとか。過去の眷属は全てアンタレスに殺されたため、アルテミスはそこらへんの記憶は思い出したくないものだろう。ともあれ、俺は登録した後はダンジョンに潜るのではなく、オラリオ内をいろいろ見てみることにした。無論、レンやアルテミスも。ベルが案内をしてくれるそうだ。
というわけでギルドの前。
レンは猫の姿でついてきてる。『冒険者になったらケーキを買ってやれる』と言ったらやる気になったらしい。
ギルドは別に酒場と一緒になっているわけではなく、依頼を張っているのであろう掲示板や、モンスターから手に入るという魔石を換金する場所、そして入ってまっすぐのところに受付と受付嬢らしき人がいる。
そこに行って真ん中にいた耳が少しとんがっている———おそらくエルフ———に話しかける。
「あ、冒険者登録をしたいんですけど、ここで合ってますか?」
「はい。少々お待ち下さい」
「お待たせしました。ではここに記入をお願いします。文字は書けますか?」
「はい。問題ないです。ここにくるまでに習いましたから」
「ありがとうございま……………す…………」
「あのどうかしましたか?具合が悪いならえっと……」
どこに連れて行くべきか分からず慌てていた瞬間、エルフの女性が大声で叫んだ。
「Level6ぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅぅ??!!」
「デスヨネー」
何度目だろうか
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「すみませんでしたっ!」
「い、いえ気にしないでください!」
「いえ!そんな訳にはいきません!冒険者の命ともいえるステータスを大声で叫んでしまったんですから!」
彼女はエイナ・チュールというらしい。さっき俺のLevelを叫んだ人だ。
「いいですよ。Levelは公表するものなのでしょう?なら別に問題ないですよ」
「そ、それはそうですけど…」
そう、叫んだことによって、オラリオに新しい最強格が!なんて言われてしまったのだ。しかも主神がアルテミスなのだからさらにそうだろう。
アルテミスは貞潔の女神。処女神。本来男の眷属など作りはしないのだ。
なのに志貴は男。そのため神の一部には『アルテミスに男?!』と大ニュースになっているはずだ。最悪志貴の二つ名は【月の女神の男】になる可能性だってある。
そんな話はさておき
志貴は冒険者としての常識やマナーなんてものを一切知らない。ギルドで受けられる講習に参加している。と言ってもマンツーマンなのだが。教諭はもちろんエイナ。上層のモンスターについてあれこれ教わっていた。 パーティを組むあてがあるのかと聞かれ、今泊めてもらっているヘスティアファミリアのベルのことを言ったら、どうやら知り合いだったらしく。それならとりあえず安心らしい。
それからたっぷり3時間講習を受けた
「そういえばシキくん、キミ防具はしてないようだけどつけない人なの?買ってないだけなら初心者用の防具を支給できるけど」
「え?ああそうですね。俺の動きだとプレートとかは邪魔になるので」
そう。七夜の動きに重装備は合わない。人間離れしな蜘蛛のごとき動きが七夜の動き。人の装備はつけてもいいがベル君よりさらに軽装になるかもしれない。
「へぇ、武器はどんなの使うの?」
ちなみに最初は敬語だったエイナさんだが、流石にむず痒いこともあって普通に話してくれとお願いした。エイナさんの方が年上なのだ。聞けばベル君のアドバイザーでもあるらしい。
「俺はナイフです。買うかは別で後で武器見にいっててみようかなって」
「そうなんだ。あ、確かベル君の専属のヴェルフ・クロッゾ氏に作ってもらうなんてどうかな?」
「ヴェルフさん…ですか?」
聴きなれない名前に聴き返してしまう。考えてみればこの世界で聴き馴染みのある名前なんてないな、と後から思う。
「そう、クロッゾ氏。本人はこう呼ばれるのは嫌いなんだって。あんまりこういう話はしたらいけないんだろうけど…」
それから呪われた一族なのだと教えてくれた。それと別にエイナさんがそう思っているのではなく、あくまでも知識としてだ。この世界の魔剣というのは魔法が放てる剣のことらしい。そして使っているうちに壊れてしまう。魔法が使えない人からしたら、まさに隠し球。形成逆転の必殺、なんだろう。
「…………へぇ、分かりました。多分そのうち会うとも思うので、あったら聞いて見ます。でも…」
「あはは
キミは冒険したいとか、英雄になりたいとかじゃなくって、お金がないから冒険者になるんだもんね。主神さまや、その猫ちゃんのこともあるだろうし」
「はい。レン、これで好物がケーキなんですよ。」
「それは、贅沢な猫ちゃんだね…。でもとっても綺麗な猫ちゃんだよね」
「そうですね」
レンは今講習が終わってものを片付けたたも今は何も置かれていないテーブルの上で丸まって寝ている。
「でも猫は気をつけてね?オラリオは治安が悪いところがあるから猫を意味なく殺したりするかもしれないし…」
本当に心配だ、といった顔でこちらを見ているエイナさん。
…………どう説明するかな
猫だけど俺より強いんです♪とかじゃダメだよなぁ
そういえばレンて人の姿のとき少し耳が長いよな。ちょうどエイナさんよりちょっとだけ長いぐらい。ハーフエルフと言われるエルフとヒューマンのハーフのエイナさん。エルフはもっと耳が長いのだとか。あと結構矜持を大切にしているらしいから接するときは気を使わなくては
「レンは………大丈夫ですよ。基本外出とかしませんし。」
なんとなく、なぁなぁに誤魔化すことにした
「そう?なら……まぁいいんだけど。Level6の冒険者が言うんだからまあ信じるけどさ」
エイナさんも渋々といった様子で納得してくれた。
「しっかしシキくん。キミのことが表沙汰になったら大変なことになるよきっと。キミ優しそうだから勧誘したら案外なびくかも、なんて考える輩もいそうだし。なにより神は面白いもの大好きだからね」
そう。娯楽を求めて下界に降りてきたという神々は基本的に快楽主義者。面白いもの、新しいものに目が無いのだ。外部からきたLevel6というのは神々からしたらいい玩具だろう。
「まあ、なんとかなりますよ。どうせ未来のことなんてわからないんだから、楽しい方に考えた方が得でしょ?」
「—————ふふ、そうね。それじゃあシキくん!私も仕事があるから講習は終わりです!お疲れ様」
「お疲れ様です、教諭」
「ねえ、なんで先生じゃなくって教諭なの?」
「俺にとって先生は1人だけです。あの人は踏み外しそうになっていた俺を人の道に引き戻してくれた———とっても凄い、魔法使いです」
俺はまるでそれが誇りであるかのように真っ直ぐエルフさんの目を見据えていった。
「……とっても素敵な人なんだね。」
「はい」
俺とレンはギルドの外に出る。レンは興味ないかもしれないけど、俺はこの街の武器——ナイフに興味津々なんだ。あのベル君の持っていた黒いナイフ、あんなナイフがあったら見て見たいよ
今回はエイナさんも出てきました。
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