△月◯日
お世話になった天道家を後にして船に乗る為に港へ。乱馬やあかね達には「もう少しゆっくりしていったら?」と言われたが、シャンプーが早くけじめを付けると早々と言った為に、翌日に出発と相成った。シャンプーはあかねに抱擁されながら「頑張ってね」と激励されている。原作と違って親友みたいになってんな。
親友と言えば乱馬のライバルである良牙は昨日の段階で天道家を飛び出していた。俺とシャンプーの話を改めて聞いた後に「お、俺は……長年、苦しんでいた奴になんて事を……」と自分の行動と発言を悔いていた。普段はお人好しで男気がある奴だから、より一層自身の行動を愚かと思ったのだろう。
荷物を担いで走り去ろうとした良牙を呼び止め「何処に行くんだ?」と問うと「東の山で御祓をしてくる!」そう言いながら夕日に向かって走って行った時、俺は凄いと思った。方向音痴も極めれば一種の才能だと思う。
△月△日
中国行きの船の中なう。
行きは一週間掛かったのに帰りは三日で済むと言われた。行きの便はやはり何か怪しく思えてきた。
△月◇日
行きと同様……いや、帰りの方がツラいかも。なんせシャンプーを意識してしまう。お互いに今の距離感を測りかねている。時折、目が合うと思わず逸らしてしまう。だって、今までと違って両思いと思うとドキドキしてヤバい。
△月□日
煩悩よ、俺から出ていけと叫びたい。思えばシャンプーは原作でも乱馬に過激に迫っていたが……俺には頬を染めて恥ずかしそうに迫るのだ。何、この可愛い生き物。思わず抱き締めようとしてしまった。まだだ……女傑族の村に到着して婆さん達を説得してからだ。じゃないと族長や婆さんに殺されかねない。不満顔のシャンプーに怒られた。大切に思ってるから手を出せないジレンマを察してほしい。ヘタレとか言わないで。
△月◆日
漸く中国に帰って来た。なんか妙に長く感じたな……考える事も多いし……婆さん達を説得できるか不安だ。そんな俺の不安を察してかシャンプーが俺の手を握る。そうだよな、頑張らないと。そう思いながら俺とシャンプーは女傑族の村へと歩みを進めた。
◇◆◇◆
村に戻った俺とシャンプーは村の皆さんに歓迎されながら族長の家……即ち、シャンプーの実家へと向かった。帰るなり、リンスがシャンプーに泣きながら抱き付いてきた。やっぱ寂しかったんだな。
「シャンプー姉様、誓いを果たしたのですか?」
「いや、少し事情が変わってきたネ。それをママや曾バアちゃんに話しに来たネ」
リンスの問いにシャンプーは少し苦笑いだった。そりゃそうだよな。下手すりゃ女傑族の掟に逆らう様なもんだし。そう思いながらも俺も覚悟を決めていた。
そして族長や婆さん達に日本で起きた事の報告をしていた。部屋の中には俺、シャンプー、リンス、族長、シャンプーの親父さん、婆さん、俺の両親。
因にだがシャンプーの祖母祖父と曾祖父は既に他界してる。と言っても俺やシャンプーが生まれる前の話なのだが。
俺とシャンプーは日本で起きた事の全てを話した。日本に行ってから乱馬と戦った事。が元々は呪泉郷で落ちた男だという事。シャンプーが乱馬に負けた事。その時に、あかねと思い付いた掟を覆す事。俺が乱馬と良牙と戦った事。俺とシャンプーが両思いとなった……と言うか両思いだった事。
それら全てを話終えると、族長は元より婆さんや俺の両親も険しい顔をしていた。リンスは難しい話を理解できなかったみたいだけど、俺とシャンプーが両思いって事は分かったみたいで目をキラキラさせていた。
「つまり……その屁理屈で女傑族の掟を破ると?」
「と言うよりもシャンプーが乱馬に負けたのを認めるなら過去の俺との戦いもシャンプーの負けって事だから、認めてほしいと言うか……そこを認めてくれればシャンプーも手を汚さずに済みますし」
「ママ、お願い私達を認めて!」
眉間にシワを寄せながら族長は腕を組んで難しい顔をしていた。俺の発言やシャンプーの懇願を聞きながらも何かに悩んでいる様だ。
「やれやれ……コスメよ。もう良いではないか」
「お婆様、しかし!」
何処か呆れた様子で婆さんが口を開く。
「コスメよ。お主がシャンプーを思って厳しく育てたのは知っとるがもう良かろう。シャンプーにワシ等は掟を押し付けすぎた。リンスに甘くしてしまった様にそろそろシャンプーも甘えさせても良いのではないか?」
「お婆様!」
どういう事なんだろうと俺、シャンプー、リンスが首を傾げていると大人達から説明が入った。
シャンプーの祖母祖父。つまりは族長コスメの両親は今の俺やシャンプー同様に女傑族の掟に逆らっていきていたらしいのだがコスメが小さい時に事故で他界したらしい。その時に村では掟に逆らった報いと噂が出たらしい。幼いコスメはそれがトラウマとなり、掟を何がなんでも守ると決めて、シャンプーにも厳しく教えていたのだと言う。
シャンプーを厳しく育てていたコスメだが、リンスが産まれた際にシャンプーに向けていた厳しさの分、甘やかしてしまい考えを改め始めていたのだ。しかし、今さら態度を変える訳にはいかないと意地を張っていたとの事だった。
「コスメよ。お主の気持ちも分からんでもない……ワシも娘を失ったのだからな……だが、ワシ等年寄りの考えを若者に押し付けるのも限界じゃろ」
「婆さん……」
「曾バアちゃん……」
反対側だと思ってた婆さんが俺達の応援側だと思わなかった俺とシャンプーは驚いていた。族長が俺やシャンプーに厳しかった理由も驚いたけどね。
昔から閉鎖的な村だとは思ってたけど、こんな事情が有ったとは……
「じゃが、コスメの言い分も分かる。故にムースとシャンプーには再度、ワシが鍛え直そう。そしてムースがシャンプーの婿に相応しいか検討する。シャンプーは族長の器か見定める、これでどうじゃ?」
「……お婆様がそう言うなら従いましょう」
「私共には不満はありません。ムース、男を見せろよ」
「ムース兄様、シャンプー姉様、頑張って下さい!」
婆さんの提案に族長は条件付きで認めてくれて親父は後押しをしてくれた。リンスはちゃんと理解してるか怪しいけど応援してくれている。
「ならば、シャンプーにムースよ。お主等を鍛え直す。厳しい修行にするぞ」
「望む所ネ!」
婆さんの言葉にシャンプーが猛っている。認めてもらう為にも頑張らないとだな。
「その意気やよし。では……伝説の修行場、呪泉郷に行くぞ!」
婆さんの言葉に俺は固まる。このタイミングで呪泉郷に行くってヤバくね?