ムース1/2   作:残月

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落ちた呪泉郷。その泉は……

 

 

 

 

 

私、メリー。今、呪泉郷に居るの……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ現実逃避も止めようかな。俺とシャンプーとリンスと婆さんは今、呪泉郷に来ている。

わざわざ呪泉郷じゃなくてもいいじゃんと抗議したら「修行に緊張感を持たせる為」と言われた。あの笑みは絶対にそれ以外の理由があるとみた。因にだがリンスは修行の見学で後学の為にと婆さんが連れてきたのだ。

 

 

「どうしたシャンプー!以前よりも動きに隙があるぞ!」

「ま、まだまだネ!」

 

 

現在、シャンプーは婆さんと共に呪泉郷で修行している。呪泉郷の泉に刺さっている竹の上にのって戦うのはバランス力を鍛え、相手の動きを先読みする訓練にもなる。シャンプーはなんとか婆さんに一撃を与えようと頑張っているが婆さんに軽くあしらわれていた。流石は中国3000年の妖怪。動きが人間離れしてるわ。

 

 

「ほれ、隙ありじゃ」

「あいやー!?」

 

 

シャンプーは一撃を与えようと婆さんに飛び掛かったが逆に一撃を貰ってしまい呪泉郷の泉に落ちてしまった。そして這い上がって来た姿は猫の姿だった。

 

 

「あの泉は猫溺泉。1800年前に猫が溺れたという悲劇的伝説がある泉。それ以来、猫溺泉に落ちた人間は猫の姿になってしまうのだよ」

「シャンプー姉様、可愛いです!」

「みにゃー!?」

 

 

ガイドから猫溺泉の解説が入り、リンスが猫になったシャンプーを抱き上げている。シャンプーは自分の姿が猫になった事に驚いている様だった。シャンプーは猫になっても可愛いなぁ……

 

 

「未熟者め……さて、次はムースじゃな」

「お、おう……」

 

 

婆さんに促されて俺は呪泉郷の泉に刺してある竹に飛び移る。俺はガイドから鴨子溺泉の場所を予め確認していた。アヒルになんぞ、なってたまるか。その泉の場所にさえ気を付けて落ちないようにしないとな。

 

 

「ムースよ……お主の強さは充分な所にまで到達しておるが弱点がある」

「弱点?俺はまだまだ未熟者なんでな。そんなもん、いくらでもあるだろうさ」

 

 

婆さんの含みを込めた言葉に、俺は先手必勝とばかりに袖から手裏剣を放ち、婆さんの足下の竹を狙った。

 

 

「甘い、甘いのぅ」

「くそ……妖怪め」

 

 

婆さんはそれをドッジボールでボールを避けるみたいに簡単に避けると、素早い動きで俺を翻弄する。こんなに動かれちゃ投擲武器は使えないな。

 

 

「お主は優しいのぅ……この状況で飛び道具を使えば相手に不慮の怪我を負わせてしまうと気遣って飛び道具を使わん」

「後ろ……んが!?」

 

 

婆さんの声が背後から聞こえたかと思えば脇腹に鋭い痛みが走る。マジで動きが妖怪染みてるぞ!

俺は足場の竹から落ちそうになるが、袖から鉤縄を取り出すと他の竹に括り着けて落下を防ぐ。

 

 

「見事じゃな……じゃが、その不安定な体勢で次はどうする?」

「こうするんだ……よ!」

 

 

俺は竹のしなりを利用して反動で勢いを着けて婆さんに迫る。逆に泉に落としてやろうか!

 

 

「ほぅ……じゃが……」

「………え?」

 

 

殴り飛ばしてやろうかと思ったら婆さんはなんと無抵抗に手を下ろした。いや、なんのつもりって言うか、このまま殴ったら危ない!つーか、俺も危ない!バランスを崩して危うく泉に落ちる所だった。なんとか竹を掴んで落下は防いだけど。

 

 

「っとと……婆さん!なんのつもりだ!?」

「お主の弱点の一つじゃよ。先ほどもそうじゃがお主は心根が優しいから相手への追撃を止めてしまうじゃろ。相手が戦意を喪失したり、想定以上の怪我を負ってしまった時などに、その傾向が目立つの。故にお前は武器や技を見せ、相手の戦意を削ぐ戦いをしておったが……逆に今はそれに慣れすぎじゃ」

 

 

俺は泉に落ちない様に竹の上に登ると婆さんから指摘される。否定出来ない所がツラい。

 

 

「それが理由でお主は昔、シャンプーと引き分けた後で再戦しなかったんじゃろ?」

「しっかり……バレてたのね」

 

 

流石、婆さん。俺の気持ちなんざお見通しって訳だ。

 

 

「じゃが、武道家ならば時に非情にならねばならん。故に……」

 

 

婆さんはそこで言葉を区切るとニヤリと笑みを浮かべた。ヤバい……嫌な予感がする。そう直感した俺は一目散に逃げ出した。

 

 

「おおっと逃がすか!」

「げ、ヤバい!」

 

 

隙を突いて逃げようとしたのに既に婆さんは俺に追い付いていた。俺は咄嗟に蹴りを放つが婆さんは俺の脚に乗ると杖を振りかぶった。

 

 

「そぉれ、行ってこい」

「痛っ!?ってマズい!」

 

 

俺が婆さんに殴り飛ばされると一直線にある泉にブッ飛ばされる。その行き先は先程、ガイドに教えてもらった鴨子溺泉の泉。

 

 

「落ちて……堪るか!」

 

 

俺はなんとか体を捻り、体勢を整えると鴨子溺泉の淵に手を着いて落下を防いだ。そして、その勢いを殺さずに飛び上がる。やった、これでアヒルにならずに済む。そう思った瞬間だった。

 

 

「お主の弱点、その二じゃな。何かが上手くいくと気を抜いてしまい隙だらけになる」

「…………あ」

 

 

婆さんは俺の頭上に居た。まるで俺が泉に落ちない所まで計算してそこで待機していたかの様に。

 

 

「この……うぎゃ!?」

「遅い!」

 

 

俺が迎撃しようと動くよりも先に婆さんは俺を叩き落とした。そして落ちていく先には何らかの泉が……

バッシャァァァァンっと水に落ちる音と感覚が体に伝わる。泉に叩き落とされ、途端に体が重く感じた。ヤバい、暗器を仕込んだ服を着込んだまま小動物にでもなってしまうとマジで溺れ死んでしまう。

直ぐに泉から上がらなければと思い、手を伸ばすと思いの外、アッサリと上がれた。あれ、呪泉郷の泉じゃなくて普通の泉だったのか?と考えたのも束の間。俺は自身の手を見て違和感を感じる。

 

俺の手ってこんなに小さく細い指だったっけ。胸の辺りが妙に重たく、股間が軽く感じる。まさか……まさか……今、俺が落ちた泉って……

 

 

「あいやー、娘溺泉に落ちてしまた。娘溺泉は1500年前、若い娘が溺れたいう、悲劇的伝説があるのだよ。以来ここで溺れた者、皆、若い娘の姿になてしまう呪い的泉。珍しいね、最近もこの泉に落ちたお客さんが居たのだよ」

 

 

その最近落ちたお客さんってのは乱馬の事だな……鴨子溺泉には落ちなかったけど……やはり原作には勝てなかったよ。なんて事を少し前の俺だったら考えて嘆いただろうが今は違う。受け入れると決めたんだからな。そう冷静になろう。COOLだCOOL。

 

 

「あ、あいやー……ムースが乱馬みたいに女になってしまったアル!」

「ムース兄様……お綺麗です……」

 

 

人の姿に戻ったシャンプーとリンスが俺の今の姿を見て驚いてる。だが、まだ慌てる時間じゃない。

 

 

 

「落ち着け二人とも。確かに俺とシャンプーの姿は変わってしまったが今、男溺泉と娘溺泉に入れば問題ない筈だ」

「そ、そうネ!直ぐに泉に入って体質改善すれば……」

「ま、待つね。お客さん!そんな事したら大変よ!?」

 

 

俺の言葉にシャンプーも同意して今、俺が落ちた娘溺泉に入ろうとするがガイドがストップを掛けた。

 

 

「どうしてだ?呪泉郷の呪いに掛かったのなら直ぐに男溺泉か娘溺泉に入れば解決なんじゃないのか?」

「呪泉郷の呪い的泉に入ってしまった者はその姿になってしまうが、その呪いが体に定着するまで他の泉に落ちたら大変よ。呪いが二重に掛かって体に呪いが馴染めずに下手をすれば二度と元に戻れない!」

 

 

男溺泉と娘溺泉と入ろうとする俺とシャンプーに戦慄が走る。直ぐに入れば解決だと思ってたけど、考えが甘かったか。

 

 

「呪泉郷の呪いが体に定着するまでは他の泉に入いる良くない。馴染まない体に再度使用は悪影響よ」

「呪泉郷は化粧水か!」

 

 

体に馴染むまで使いましょうってか!?

 

 

「そ、それで馴染むにはどれほどの時間が必要なのですか!?」

「人によって様々ね。早い人は三ヶ月程で馴染むが遅いと十年は掛かるよ」

 

 

リンスが慌てた様子でガイドに呪いが馴染む期間を聞くが思っていた以上に長かった。原作やアニメでなんですぐに男溺泉と娘溺泉に入り直さなかったのか不思議だったけど、これが理由だったか……

 

 

俺は今まで俺自身とムースの気持ちが半分ずつで俺という存在がなりたっているんだと思っていた。まさにムース1/2だな、ムースの体に俺の心で1/2ずつとか、なんて冗談めいた考えをしていたけど……まさか、まさか……原作主人公の乱馬みたいになってしまうなんて……これじゃ本当に『らんま1/2』じゃなくて『ムース1/2』だろうが!

 

 

なんて錯乱した思考を頭の中でリフレインしていた。俺、これからどうなるんだろう……




作品タイトルの二つの意味の判明回でした。

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