天道道場に到着し、呼び鈴を鳴らすと、かすみさんが出迎えてくれた。
「あら、ムース君。シャンプーちゃん」
「お久しぶりです、かすみさん」
「日本に引っ越して来たネ」
にこやかに挨拶をする最中、リンスはシャンプーの後ろに隠れていた。
「ほら、リンス。かすみさんに挨拶をしなさい」
「は、初めまして……リンスです……」
初めて会う人にリンスは緊張してるのか、シャンプーの後ろから出てこようとしなかった。
「あら、可愛い子ね」
「リンスはシャンプーの妹なんです。それと婆さん……あれ?」
かすみさんがリンスの事を誉めてくれて嬉しかった。その流れで婆さんの紹介もしようかと思ったら、いつの間にか婆さんの姿が消えていた。
「他にもいらっしゃったのかしら?」
「ええ……シャンプーとリンスの曾祖母の婆さんが一緒だったんですが……」
「いつの間にか居なくなってたネ」
「お婆様、何処に行ったんでしょう?」
俺達は揃って首を傾げた。何処に行ったんだ妖怪婆さんは。
「あら、随分大荷物ね」
「あ、すいません。引っ越し蕎麦を持ってきたんです。近所で猫飯店って中華料理屋を開店したので、そっちもよろしくお願いします」
俺やシャンプーが持っていた岡持ちに気付くかすみさんに猫飯店の話もしておく。こういった事が後の営業にも繋がるからね。
「あらあら、じゃあ居間に行きましょう。皆にも教えてあげなきゃ」
「お邪魔します」
かすみさんはパタパタと居間に向かう。恐らく、居間の片付けに行ったのだろう。俺達は、かすみさんの後を追って行く。
居間に行くと早雲さん、かすみさん、なびき、あかね、パンダに変身してる玄馬さんが居た。この人、パンダでいる時間の方が多いんじゃなかろうか。ついでに、あかねに抱かれてる子豚が一匹。居たのかPちゃん。
「シャンプー、帰ってきたの!?」
「日本に引っ越してきたから暫くは、この街に留まるネ」
会うなりキャイキャイと騒ぎだす女子二人。シャンプーがあかねと騒ぎ始めたからリンスは俺の後ろに隠れちゃったよ。しかし……本当に原作とはかけ離れた間柄になったよな。でも、それを考えると今後はどうなるんだろう?原作の流れだとシャンプーの婿として乱馬を鍛えていて、その過程で奥義を伝授したり、良牙やムースと戦ったりしてたけど、今の婆さんに乱馬を鍛える理由って無いんだよな。
「よう、ムース」
「久しぶりだな、乱馬。修行……って事で日本に住むからヨロシクな」
居間に居なかった乱馬が丁度帰ってくる。パシッと握手を交わしたのだが、俺の後ろに居たリンスはササッと隠れてしまった。
「恥ずかしがり屋なのね」
「私達の周りには居なかったタイプね」
かすみさんはにこやかに笑みを浮かべ、なびきは珍しい物を見る目でリンスを見ていた。
「シャンプーの妹?私は天道あかね。よろしくね」
「………リ、リンスです」
あかねの自己紹介にリンスは恥ずかしそうに俺の袖に隠れながら挨拶を返した。知らない人ばかりで不安そうにしていた。
「リンス、この家の人達は良い人達だから大丈夫だぞ」
「は、はい……」
リンスの頭を撫でてやると少し安心したのか、力が入っていた体から緊張が抜けた気がした。俺やシャンプーと違って初めて村から出て知らない人に会うのだから無理もないか。
「やれやれ、リンスの人見知りも治さねばならんのぅ」
「あ、さっきのババア!」
「私の曾バアちゃんアル」
これまた、いつの間にか天道家の居間に婆さんが居座ってラーメンを食べていた。乱馬は乱馬で気になる事、口走ってるし。
「何かあったのか?」
「さっき、急にこのババアに襲われたんだよ」
俺の問いに乱馬は婆さんを指差しながら叫ぶ。何をしてんだよ婆さん。
「ホッホッホッ……ちと腕試しをな。中々、やるようで何よりじゃ」
「なんで、乱馬の腕試しをしたんだ?」
俺はその場の全員を代表して婆さんに問う。婆さんが乱馬を腕試しをする理由なんてないのに。
「ムースのライバルとして鍛えようかと思っての。ムースよ、お主は同年代の者と互角の戦いをした事がないじゃろう。それは武道家としては致命的な実戦不足となる。乱馬はムースを除けば、この年齢の武道家としては確実に上位じゃ。ならば鍛えればムースの良きライバルとなろうて」
「あのな婆さん……俺は無差別格闘流の跡継ぎだ。他流派の誰かに鍛えて貰おうなんて考えちゃいないぜ!何よりも前にムースに負けた時から俺は特訓してるんだ。今度は負けねえ!」
婆さんの主張に乱馬は噛み付いた。まさか、婆さんが乱馬を鍛えようとした理由が俺だとは……
「よくぞ言った乱馬!」
「偉い、乱馬君!」
乱馬が無差別格闘流の跡継ぎ発言や特訓してた事を玄馬さんや早雲さんは喜んでる。
「お主とムースは似た境遇……無理にでも鍛えてやろう」
「似た境遇……どういう意味だよ?」
婆さんの言葉に乱馬やあかね達が首を傾げる。婆さんが呪泉郷の事を話すのかな?と思ったら既に婆さんは水の入ったコップを手にしていた。おい、ちょっと待て!
「ぶわっ、冷た!?」
「うにゃん!?」
「え、女に変わった!?シャンプーは猫に!?」
「うぇっ!?ね、猫!!」
俺とシャンプーに水を浴びせた婆さん。水を浴びせられた俺とシャンプーは女と猫になってしまう。その光景にあかねは驚き、乱馬はシャンプーが猫になった事で後退る。そういや乱馬は猫が苦手だったんだ。俺は猫になったシャンプーを抱き寄せて膝に乗せた。
「と、まあ……俺もシャンプーも呪泉郷で泉に落ちてな。俺は娘溺泉にシャンプーは猫溺泉にな」
「そ、そうか……似た境遇って、そう言う事かよ」
女になった俺の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らすシャンプー。乱馬は怯えたままだった。これじゃ話にならんのでお湯を貰って元の姿に戻った俺とシャンプー。
「それに私、正式にムースの許嫁になったネ」
「本当!?おめでとうシャンプー!」
シャンプーとあかねが、はしゃいでる。女子は好きだねぇ、この手の話。
「ま、そんな訳で乱馬、お主を鍛えてやろう。ワシの見立てではお主は強いがまだムースには届かんじゃろう」
「こ、このクソババア……」
話を打ち切るかの様に乱馬に評価を下す婆さんだが、火に油を注ぐ言い方は止めてくれ。乱馬も頭に来てるみたいだし。
「だったら、勝負だムース!婆さんに言われなくても、お前との決着は着けたかったんだ!」
怒りの矛先は婆さんから俺に向いた。俺、今日一度も乱馬に喧嘩売ってないのに最終的に俺が悪い事にされたよ。