ムース1/2   作:残月

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乱馬との決闘と心眼の切っ掛け

 

 

 

 

天道道場なう。

婆さんの挑発に乱馬が乗ってしまい、俺VS乱馬の構図が出来てしまった。道場には先程のメンバーが勢揃いしていた。

 

 

「今度は負けねぇぞ、ムース!」

 

 

当の本人はめちゃくちゃやる気だし。

 

 

「ムース、手加減無用じゃ」

「ムース、頑張るネ」

「ムース兄様、頑張ってください!」

 

 

こっちの応援団は止める気なし……

 

 

「ま……やるからには手は抜けない相手だから手加減なんか考えないけどさ」

「上等だぜ!」

「こほん……では、私が審判を務めさせてもらおう。両者、構え」

 

 

俺が乱馬と戦う覚悟を決めると乱馬は拳をパシンと鳴らす。やる気十分だな。早雲さんが審判をしてくれる事となり、俺と乱馬は同時に構えた。

 

 

「始めっ!」

「行くぜ、ムース!」

「来い、乱馬!」

 

 

試合開始の合図と共に間合いを詰めようとする乱馬。俺はそうはさせないと手裏剣を数枚投擲する。

 

 

「よ、は、っと!」

「避けたか、それに速いな」

 

 

乱馬は俺が投擲した手裏剣を最低限の動きで避けると一気に間合いを詰め、流れるように素早い拳を俺に叩き込もうとする。何とか避けてるけど、このままじゃ当たるな。

 

 

「どうだ、こうやって間合いを詰めりゃ暗器は使えないだろう!オマケに道場の中なら狭くて武器を振り回せない筈だ!」

 

 

ドヤ顔の乱馬が俺を追い詰め始めると、間合いを詰めた理由や道場で戦う事を決めた事を叫んだ。なるほど、俺の暗器の対策は考えていたってか。だが、甘いな。俺は乱馬の拳をわざと食らうと数歩下がる。

 

 

「トドメだ!」

「馬鹿者、暗器使いに迂闊に攻め込むな!」

「………バレたか」

 

 

乱馬が一気に攻め込もうとしたので、罠を張ろうとしたら玄馬さんが叫び、乱馬は動きを止める。俺は心の中で舌打ちすると乱馬との距離を離す為に飛び退いた。

 

 

「邪魔すんなよ親父!」

「乱馬よ……ワシが止めねば今ので勝敗は決していたぞ」

 

 

乱馬は戦いに水を差された事に苛立っていた様だが、玄馬さんの指摘に婆さん以外の人達は首を傾げていた。

 

 

「ど、どういう事なの、おじ様?」

「あのムースはわざと乱馬の拳を食らっていたのだ。そして弱ったフリをして左腕のガードが下がったと見せ掛ける。後は迂闊に攻め込んできた乱馬が罠に掛かるのを待てば良い。案の定、乱馬は一気に決着を着けようとガードの下がった左側を攻めようとした。そしてワシが止めねばムースは右側の袖に隠した暗器で逆に隙だらけになった乱馬に一撃カウンター……と言った所であろう?」

「セコンドが居ると……この戦法は厳しいか。お見事です」

 

 

あかねが今のやり取りを玄馬さんに聞くと玄馬さんは解説を始めた。暗器は直接戦ってるよりも外野から見てた方が種はバレやすい。見事に看破されちゃったよ。

俺は参ったとばかりに右袖に潜ませていた鉄球を床に落とす。カウンターで叩き込んでやろうかと思ったのに。

しかし、流石は乱馬の親父だ。すちゃらかに見えても乱馬の師である事に変わりはないな。普段の姿からは想像できんが強いし、武術に関する事なら乱馬が頼りにするだけの事はある。

 

 

「ホッホッホッ、親心かのぅ。決闘の最中に口出しするとは」

「正式な決闘ではないし、乱馬が相手の戦略を知らぬのは不利と言うものでしょう」

 

 

婆さんは笑って玄馬さんと話している。玄馬さんは思わず口出しをしてしまった事に恥を感じているのか、そっぽを向いていた。

 

 

「じゃが、これで分かったじゃろう。にわか仕込みではムースには勝てぬぞ」

「ま、まだだ!」

「危なっ!」

 

 

婆さんに指摘されて乱馬は悔しそうにした後に俺に向かってきた。先程よりも速い攻撃に俺の反応は遅れて一撃を貰ってしまう。その衝撃で眼鏡を落としてしまった。落ちた眼鏡は割れたのかパリンと音が聞こえた。

 

 

「よっしゃ、チャンス!覚悟しろ、ド近眼野郎!」

「ま、待て乱馬!?」

 

 

俺が視界不良で慌てていると、乱馬は千載一遇のチャンスとばかりに襲いかかってきた。

 

 

「ほう、相手の立場が弱くなった瞬間に強気になったのぅ」

「相手の隙を突く非情さも武道家には持ち得なければなりますまい」

 

 

婆さんと玄馬さんの会話が聞こえるが一切、止める気無いのね!視界がボヤけて良く見えないってのに!

 

 

「今回は勝たせて貰うぜ、ムース!」

「危ねぇ!」

 

 

乱馬の繰り出す拳や蹴りを何とか捌くが長くは保たない!乱馬の攻撃の気配を感じながら避ける……って何で避けてられるんだ俺。良く見えないのに攻撃のタイミングは感じ取れる。

 

 

「ムースめ、土壇場で完璧ではないが心眼に目覚めおったか」

「心眼?」

 

 

背後では婆さんが何やら解説を始めているが、俺は乱馬の攻撃を避けるので手一杯だ。

 

 

「ムースは元々、気配察知を高める修行をしておったが上手く会得しておらんかった。じゃが眼鏡を失った事と戦いの気配を感じる事で心眼……即ち気配察知能力が格段に増したんじゃよ。ほれ、その証拠に乱馬の攻撃を避ける速度が上がっておる。眼鏡が無い分、周囲の気配や音に敏感になっておるのじゃよ」

「確かに、いつものムースよりも素早いネ!」

「流石です、ムース兄様!」

 

 

確かに避けられる様にはなったけど避けるだけじゃ勝てない。かと言って見えないんじゃ暗器は迂闊に使えない……これしかないよな。そう思った俺は乱馬の攻撃を避けるのを止めるとグッと前に出る。

 

 

「避けるのは止めたのかムー……グハっ!?」

 

 

乱馬の拳を受けると、その攻撃してきた方向に蹴りを繰り出す。見えないなら、位置を把握してからそこに攻撃するしかない。一か八かのカウンターだったが、上手くいった。だが、俺も拳をマトモに食らったので倒れてしまう。

 

 

「相討ちか。これでムースの1勝1引き分けじゃの。まだ自分に修行は必要ないと言い張るか乱馬よ」

「ムース、大丈夫か?」

「ムース兄様、お怪我は!?」

 

 

婆さんが乱馬に話し掛け、シャンプーとリンスは俺に駆け寄ってくれた。目が見えないから声でしか判断できないけど。

 

 

「けっ、だからってムースの師匠相手に教えを請えってのかよ」

「やれやれ、意地を張りおって。まあ、良いわ。すぐに修行させてくれと泣きつくじゃろ」

 

 

乱馬と婆さんの会話を聞き取るが、乱馬は意地でも婆さんからの修行を受けようとしない。だが、直後にドスッと何かを貫く様な音が聞こえる。

眼鏡が無いので見えなかったから後で聞いたのだが、俺が聞いた音とは婆さんが杖で乱馬の体を突いたらしい。

 

もしかして総身猫舌のツボを押したのか?って言うか眼鏡どうしよう。何も見えないんだけど。


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