ムース1/2   作:残月

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ムースの日記⑩と乱馬の火傷

 

 

 

◆月○日

 

眼鏡がなくて見づらいが日記を再開。あの後聞いたのだが、やはり乱馬は総身猫舌のツボを突かれていたらしい。総身猫舌のツボを押されたら熱さに極端に弱くなる体質になってしまう。それを解いて欲しければ修行を受けろと言うのが婆さんの言い分だ。

因にだが俺は店の手伝いはしていない。なんせ眼鏡が無いから料理は出来ないし、ウェイターも出来そうにない。眼鏡が無いと、めっちゃ不便。婆さんは心眼の修行に丁度良いと言ってたけど、仕事が出来ないっての。

 

 

◆月×日

 

シャンプーに手を引いてもらい眼鏡屋へ。視力検査をしたら以前よりも視力が回復していた。婆さんから目が良くなる食材や運動を習って実行していたが効果が出てきたらしい。中国三千年恐るべし。

視力検査の後に眼鏡を作って貰ったが、数日掛かると言われた。多少視力が良くなったと言ってもまだド近眼である事に変わりはなく、作成に時間が掛かるとの事だ。帰り際にシャンプーがやけに熱心に店員さんと話をしていた。なんだったんだろう?

帰りもシャンプーに手を引いて貰ったが……シャンプーの手、細くて柔らかかった。

 

 

◆月△日

 

乱馬が猫飯店でバイトを始めた。理由は婆さんが持っている不死鳥丸。これを飲めば総身猫舌のツボを改善できるからだ。因みに昨日猫飯店に来なかったのは、昨日は東風先生に江戸っ子爺さんのツボを押してもらい一時的に治ったからだった。ただし江戸っ子爺さんのツボは一回しか効果がなく、根本的な解決には至らなかった。途方に暮れていた乱馬を救ったのはリンスだった。小学校の手続きで婆さんとリンスが小学校に行った帰りに乱馬と会って不死鳥丸の事を教えたらしい。

リンスは俺やシャンプーを困らせたとして乱馬を少し嫌っていたから、リンスが乱馬に不死鳥丸の事を教えたのは意外だった。理由を聞いたら「可哀想だったので、つい……」と言っていた。リンスちゃん、マジ天使。

 

そんな訳で乱馬は婆さんから不死鳥丸を奪おうとしたのだが失敗の連続。そこで思い付いたのが、猫飯店でバイトをしながら隙あらば不死鳥丸を奪う作戦に出たのだと言う。眼鏡が無いから仕事が出来ない俺の代わりにと婆さんも乱馬のバイトを快諾。女物のチャイナ服を身に纏い、エプロン姿の乱馬はたちどころにシャンプーと並ぶ、看板娘となっていた……らしい。だって俺は眼鏡がないから見えないんだもん。リンスから後々聞いただけである。

 

 

◆月◇日

 

乱馬はバイトをしながら不死鳥丸を奪おうとしているが、今のところ成功したとは聞かない。寧ろ、婆さんに芸を仕込まれている様だ。

乱馬に呼び出された……と言うか、シャンプーの案内で俺の部屋に来た乱馬は「眼鏡を割ってゴメン」と謝りに来た。顔は見えないがちゃんと謝りに来た辺り、本当に悪いと思っているのだろう。普段からこんだけ誠実なら、あかねとの喧嘩も少なくなるだろうに……

 

 

◆月◆日

 

注文した眼鏡が出来たと連絡を貰ったので再び、シャンプーに手を引かれながら眼鏡屋へ。

出来た眼鏡は以前の瓶底眼鏡ではなく横丸長の眼鏡だった。しかも瓶底眼鏡みたいにレンズが分厚くなく、軽い。更に簡単に割れない素材を使用している上にツルが滑り止めになっていて落ちにくくなっているらしい。

 

見た目も良くなって使いやすい……今までの瓶底眼鏡とは、まるで違う。なんて素晴らしい。眼鏡を選んでくれたシャンプーもニコニコとしていた。

帰り際に店員さんが教えてくれたのだが、シャンプーがこの眼鏡を選んだ際に使いやすさやデザインを念入りに注文していたとの事だった。この間、熱心に店員さんと話をしていたのはこれだったのか。マジで嬉しいわ。

 

猫飯店に帰ったらリンスに「格好良くなりましたね、ムース兄様!」と言われた。普段からキミは俺をどんな目で見ていたんだいリンス。

 

 

◆月□日

 

 

乱馬が婆さんから火中天津甘栗拳を学んでいた。この技を覚えれば、婆さんから不死鳥丸を奪える……と本人から学んでちゃ世話無いと思うが。

この技は女傑族に伝わる秘拳の一つで、目にも止まらぬ速い拳で火中の栗を熱さを感じる前に拾う事が出来る。

当然、修行方法も名前の由来となった火中の栗を拾う事だが、普通の人には当然無理である。だが、乱馬は男に戻れるかの瀬戸際であり、無理にでも物にしようと頑張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side乱馬(女)◆◇

 

 

俺はシャンプーの婆さんに総身猫舌のツボを押されてしまい、お湯を被れず男に戻れなくなっちまった。

シャンプーの妹リンスから婆さんが総身猫舌のツボを治す不死鳥丸という薬を持っている事を教えてもらった。

 

なんでその事を教えてくれたのか聞くと、「乱馬さんはシャンプー姉様を倒したり、ムース兄様を虐めた人ですけど……ムース兄様とシャンプー姉様の友達ですから」と言っていた。一番にムースやシャンプーの事が出るなんて本当に慕っているんだと感じる。

リンスの言葉に俺はシャンプーやムースに散々迷惑を掛けたのだと実感させられる。そういや、ムースの眼鏡を割っちまったんだった。

 

猫飯店でバイトを始めてからムースと会う機会も増えたので眼鏡の事は謝ったけど、他は謝らないぞ。そんな中、婆さんから火中天津甘栗拳を教わったが火中の栗を拾うなんて、無茶苦茶だ。だが、やらなきゃ俺は男に戻れない。

 

 

「でも……熱ちゅい……」

 

 

俺は練習の為に焚き火の中に栗を焼いているが上手くいかない。まだスピードが足りてない証拠なんだろう。もっと……もっと早く手を動かさないと……

 

 

「練習するのも良いが、火傷して練習出来なくなったら本末転倒だぞ」

「ムース、まだ技の習得が出来ない俺を笑いに来たのか!?」

 

 

俺が悩んでると後ろから声を掛けられる。振り返るとバケツを手にしたムースが立っていた。

 

 

「真面目にやってる奴を誰が笑うか。ほら、氷水だ。火傷した手を冷やしとけ」

「お、おう……サンキュー……」

 

 

ムースは俺の前に氷水の入ったバケツを置いた。焚き火に手を突っ込んで火傷でヒリヒリと熱くなっていた手が冷やされて気持ちいい。

 

 

「まったく……婆さんも無茶をさせる。火中天津甘栗拳は一朝一夕で身に付く技じゃないってのに」

「ムースは……火中天津甘栗拳、出来るのか?」

 

 

俺の隣に座るムースに俺は思った事を聞いてしまう。もしもムースが火中天津甘栗拳を使えるなら俺はムースに完全に敗けているからだ。

 

 

「いや、使えないぞ。そもそも俺の戦闘スタイルに火中天津甘栗拳は合わないからな。婆さんが乱馬に火中天津甘栗拳を教えたって事は乱馬と相性の良い技だって事だからだと思うし」

 

 

ムースに言われて納得する。手数の多さやスピードに頼る火中天津甘栗拳は無差別格闘早乙女流にピッタリだと思うからだ。

 

 

「ま、頑張るんだな。男に戻りたい気持ちは痛いほど分かるが手伝う訳にはいかないから応援しか出来ないが」

「へっ。火中天津甘栗拳を物にしたら婆さんから不死鳥丸を奪って男に戻って……ムース、お前と再戦だ!今度は負けねぇ!」

 

 

俺が叫びながらムースを指差すとムースは俺を見据える。シャンプーが選んだという眼鏡は今までの瓶底眼鏡で見えなかったムースの瞳が良く見えた。

 

 

「再戦は兎も角……根を詰めすぎるなよ。肩に力が入りすぎて無駄に力が入ってるぞ」

 

 

そう言って俺に背を向けて歩いていくムースの背中は何処か大きく見え、自分に足りない何かがムースにはある……そんな気がした。

 

 


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