青い壺を猫飯店に運んで婆さんに鑑定して貰うと、青い壺は呪泉郷に伝わる伝説の『青こけ壺』だった。
やっぱ原作じゃなくてアニメの方だったか……アニメだと和風男溺泉の話は追加要素が多数あり、まず青こけ壺、赤こけ壺、黄こけ壺を探さなければならない。三つの壺を探したら三つ子岩のある山まで行き、道中で八宝斎との戦い。それを乗り越えた後に三つ子岩に三つの壺を捧げ、一番星が現れると和風男溺泉が沸き出る……のだが、和風男溺泉は成分が枯れて閉店したと看板が浮き出てくるのがオチとなる。見事なまでの骨折り損のくたびれ儲けである。
俺がそんな事を考えていると、婆さんが乱馬達に青こけ壺の説明をしていた様で次は赤こけ壺探しとなる。婆さんが青こけ壺の暗号の解読をし、赤こけ壺の在処を示した地図を書いていた。
婆さんから地図を受け取った乱馬は店を出て、走り去っていく。良牙も後を追い掛け、俺とシャンプーもその後を追って行く。
良牙は乱馬への対抗心からなのか、乱馬が持つ赤こけ壺の地図を奪おうと乱馬に攻撃を仕掛けていた。
「よせ、良牙!方向音痴のお前が地図を持っても意味はないだろ!」
「黙れ、そもそも和風男溺泉の地図は俺が最初に見付けたんだろうが!」
勝手な言い分で乱馬の地図を奪おうとする良牙に俺は少しイラッと来た。まったく……女子更衣室の件で少しは懲りたかと思えば……
「元を正せば、お前が先に乱馬を裏切ったんだろうが」
「頭、冷やすヨロシ」
「んが!……って、どわぁ!?」
俺が良牙の頭にエルボーを叩き込み、シャンプーがハイキックで良牙を近くの川に落とした。
ちと、やり過ぎた気もするが反省して貰わんとな。そう思いながら俺とシャンプーは乱馬の後を追った。
そして地図の示す場所に辿り着いた俺達の前には大きな屋敷が。どうやらこの屋敷に赤こけ壺があるらしいのだが掲げられた表札を見て乱馬が絶句していた。
「く……九能……」
「あれか、風林館高校の蒼い雷」
「立派なお屋敷ネ」
三者三様にリアクションは異なるがコッソリと九能屋敷に侵入する事に。
「黙って入って良いアルか?」
「話して分かってくれる奴じゃねーよ」
シャンプーが乱馬に聞いているがダメだと思う。どうするかな……
「さ、行くネ。ムース」
「あ、ああ……」
悩んでる間にシャンプーに腕を引かれて九能屋敷に侵入する事に。まいったな……普通に不法侵入だよ、これ。
「大丈夫だってムース。出てくるのが九能なら問題ねーよ……あ」
「ったく、俺はそうやって楽観的には……って、おい」
「な、何アルか?」
楽観的に不法侵入が問題ないと話す乱馬。いや、問題しかねーよとツッコミを入れようとしたら乱馬が足下に張ってあった釣糸みたいな糸に足を引っ掛けた。
その俺と乱馬のリアクションに不安そうな表情になるシャンプー。マズい、この後の展開は……
「シャンプー!」
「ひゃん!?」
「うわわわわわわっ!?」
突如、俺達の居た地点に矢が射られ、斧が飛んで来た。俺は咄嗟にシャンプーをお姫様抱っこで抱き上げて走る。シャンプーに矢や斧が当たらないように気を配りながら避けて走り、屋敷の奥へ。
「ム、ムース……その、お姫様抱っこは初めてアルな……」
「頬染めて可愛いんだが後でね!?」
「この状況でイチャイチャすんなよ!」
シャンプーは俺の首に手を回して甘える様にすり寄って来た。非常に可愛いんだが今はそれどころじゃない。乱馬は乱馬で俺達に嫉妬してるし。悔しかったら、あかねとイチャイチャしてみせろ。
なんとか罠を掻い潜り、安全な所に身を隠した俺達は赤こけ壺探しを再開する事に。ここまで来たらもう、戻れないし俺も腹を括るか。
「しっかし……広い屋敷だし何処に赤こけ壺があるんだ?」
「屋敷って言うか最早、城だな。普通の一般家庭に罠なんか無いだろ」
乱馬が赤こけ壺が何処に有るのかと悩み、俺は九能家の屋敷にツッコミを入れた。規模からいって観光地の城とかと変わらない大きさなんだよな九能屋敷。
「出会え、出会え!侵入者よ、九能家お庭番筆頭、猿隠佐助がお相手致す!出会えぃ!」
俺達が頭を悩ませていると何処からともなく叫び声が。あ、佐助だ。そっか、アニメ版だからコイツも出るんだった。
「どうした拙者の名を聞いて怖じ気づいたか!?」
一人で九能家を守ってるお庭番佐助。あの変態兄妹に良く仕えてるよな、本当に。
「よ、佐助」
「む……早乙女乱馬。貴様が侵入者であったか。この九能家屋敷に不法侵入するとは見下げ果てた奴!くたばれ、ニャハハハハ!」
木の枝でポンと佐助の頭を叩いた乱馬。その事に驚いた佐助だったが、飛び退いて叫ぶと石の灯籠に触れて一部分を動かし高笑い。
「で……何なんだ、それは?」
「あれ……可笑しいな、これで仕掛けが動く筈なんだが……なんせ曾爺さんの代から使って無かったからなぁ……」
「どんだけ侵入者がいないんだか……」
乱馬のツッコミに佐助は作動しない罠に首を傾げていた。曾爺さんの代から使ってないって、ほぼ未使用って事かよ。
「こりゃ参ったな……ほがっ!?」
「アホか、二人ともさっさっと行くネ」
「そうだな」
「お役目、お疲れ様です」
侵入者を前に呑気にしていた佐助をシャンプーが頭上から踏んづけて佐助を倒し、俺と乱馬は先を急ぐ事に。去り際に俺は佐助に合掌をした。基本的に苦労人なんだよな、この人。
「な、なんの逃がすか、てりゃあ!」
「うわわわっ、なんだこりゃ!?」
「あいやー!?」
「乱馬、シャンプー!」
佐助が合図すると同時に九能屋敷の木が倒れて俺達に襲い掛かって来た。なんだ、この仕掛け!?アニメには無かった仕掛けだ!俺は左に避け、乱馬とシャンプーは右に避けた。分断された俺達は別々に逃げる事になる。
「ムース、壺を探しながら後で合流だ!」
「ムース!」
「ったく……穏便にはいきそうにないな。無理するなよシャンプー!」
「逃がすか、九能家屋敷を甘く見るなよ!」
それぞれ別方向に逃げる俺達。佐助は乱馬とシャンプーを追って行ったか……出来れば俺がシャンプーと一緒に逃げたかったが、贅沢は言ってらんないか。そう思いながら俺は乱馬達が逃げた方向とは別方向に走り、赤こけ壺を探す事にした。
◆◇sideあかね◆◇
今日、乱馬が女子更衣室にお爺ちゃんと一緒に下着を盗みに来た事件が起きた。でも、それは私の誤解だったみたいで乱馬は良牙君が持ってきた和風男溺泉を探していたみたい。私は乱馬の話を聞かずに下着泥棒の言い訳だと思っていたけど、ムースやシャンプーが『乱馬を信じろ』『和風男溺泉は存在する』と言っていた。良牙君が掘り当てたのは単なる水道管だったみたいだけど、本当に和風男溺泉があったのかな……
「ムースやシャンプーの方が……乱馬を知ってるみたい……」
私がポツリと呟いた言葉は私の心を締め付けた。私と乱馬は許嫁だけど、良牙君の方が友達付き合いが長い。ムースやシャンプーは乱馬が中国に修行に行ってた時からの付き合いで呪泉郷に落ちた仲間でもある。私は乱馬との付き合いが一番短いし、信頼が薄い気がしてきた。乱馬が和風男溺泉を探した時だって私を頼らずにムースやシャンプーを頼りにしていた。私は……本当にただの許嫁ってだけなのかな。
「ぶきぃー!ぶきぃー!」
「え、Pちゃん!?」
そんな沈んだ私の思考を戻したのは聞き慣れた鳴き声だった。その声の主を探すと川の方から鳴き声が聞こえてくる。私は急いで川を覗き込むと川の流れに流されそうになっていたのはPちゃんだった。助けようと川に飛び込もうとしたら川沿いを走っていく三人組。乱馬、ムース、シャンプーの三人だった。あの三人が何処に行くのか気になった私は、素早くPちゃんを助けると三人の後を追った。
Pちゃんを抱き上げたまま走り、三人にやっと追い付いたかと思って辿り着いたのは、とてもデカいお屋敷。乱馬達が中に入って行ってしまったので、私は家の人に事情を聴くと共に乱馬達の話も聞こうと思った。だけど、入った場所が同じでも進んだ方向が違ったのか乱馬達を見失ってしまう。引き返そうかと思った所で竹に囲まれた小屋を発見。琴の音が聞こえてきたから人が居ると思って声を掛けようとしたら襖を破って琴爪が飛んで来た。
「聖ヘベレケ女学院、新体操部のエース……人呼んで黒バラの小太刀」
「え、小太刀……って事は此処って九能先輩の家!?」
襖が開かれ、そこから顔を出したのは私や乱馬と格闘新体操で戦った黒バラの小太刀だった。なんで、乱馬達は九能先輩の家に来たのよ!?
「まあ、天道あかね。我が屋敷に来るとは私との決着を付けにいらしたのね。ならば、お望み通り決着を付けましょう!九能家、秘技仕込み振袖!」
「違うってば!話を聞いて!」
小太刀が着ていた着物の振袖には刃が仕込んであるのか、小太刀が振袖を振り回す度に周囲の竹が綺麗に切られていく。私はPちゃんを抱いたままで避けるのが精一杯だった。
「乱馬がこの屋敷に入ったのを見たから私は追いかけて来ただけなの!」
「まあ、乱馬様が我が屋敷に……なら此所で天道あかねを始末すれば乱馬様は私の物に……ならば本気で行きますわよ!」
戦いを止めて貰おうかと思って乱馬の名を出したけど、火に油を注いだだけになっちゃったみたい。小太刀は着物を脱ぎ捨てると中に新体操のレオタードを着ていたらしく、私にリボンで攻撃し始めた。
「オーホッホッホッ!天道あかね、覚悟!」
「乱馬!」
小太刀の攻撃を避けきれない。私は抱いていたPちゃんが怪我をしない様にと胸の中に抱き締めて庇った。そして私の口からは、この場に居ない許嫁の名が飛び出していた。
「………あれ?」
目を瞑り、攻撃される事を覚悟した私だけどいつまでたっても痛みが来ない。それを不審に思った私が目を開くと、最近良く目にする人が私を守っていた。
「何者!」
「やれやれ、シャンプーや乱馬とはぐれたと思ったら……」
「ムース!」
小太刀のリボンを素手で受け止め、私を庇う様に立っていたのはムースだった。