ムース1/2   作:残月

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和風男溺泉を探せ③

 

 

 

 

乱馬とシャンプーとはぐれて屋敷内を探していたら、あかねと恐らく小太刀と思われる少女が戦っていた。そういや、アニメだとムースはアヒルの状態であかねに同行してたっけ。明らかに劣勢な状態だったから、俺はあかねを庇う様に前に出てリボンを受け止める。

 

 

「何者!」

「やれやれ、シャンプーや乱馬とはぐれたと思ったら……」

「ムース!」

 

 

小太刀のリボンを受け止めた俺だが、この後どうしよう。あかねを庇ったまでは良いけど、女相手に本気で戦う訳にもいかんな。

 

 

「まあ、なんですのアナタは!」

「乱馬とあかねの友達だよ。少し事情があって、この屋敷に居るが用が済んだら引き上げるから見逃してはくれないか?」

 

 

俺は小太刀に平和的な解決を望んだ。これで済む話とは思えないが試さない事には……

 

 

「乱馬様のご友人なら歓迎致しますが、恋敵の天道あかねを見逃す訳にはいきませんわ!」

「そうか、そりゃ残念だ」

 

 

一瞬、上手くいくかと思ったが、そんなに甘くはないか。俺はリボンを手放し、あかねを庇う様に立つ。

 

 

「ムース……どうするの?」

「とりあえず無力化を目指す。危ないから離れてな」

「覚悟、オーホッホッホッ!」

 

 

あかねが不安そうに聞いてくるが乱暴はせずに済ませたい。レオタード姿で高笑いをしながら襲い掛かってくる小太刀。残念美人と言う言葉が此処までマッチする奴も珍しいと思う。

俺は袖の中に仕込んでいたロープ付きの鍵縄を投擲してロープを阻む。

 

 

「やりますわね……ですが、その程度ではこの黒バラの小太……んきゃ!?」

「甘いのはお互い様ってね」

 

 

右手の袖から出した鍵縄で小太刀のリボンを防いだ俺だが、小太刀から見えない角度で左の袖から野球のボールを投げ、反射で小太刀の後頭部に当てた。見事に命中した小太刀は台詞の途中で倒れた。がに股でうつ伏せに倒れる小太刀。もう少し女らしく倒れられんのかねコイツは……本当に残念美人だ。

 

 

「凄い、あっという間に小太刀を倒しちゃった」

「気絶してる内に移動しようか」

 

 

俺と小太刀の戦いを見ていたあかねは、アッサリと着いた決着に驚いていた。俺としても、あんなにピンポイントで当たるとは思わなかった。俺は小太刀を一先ず置いて乱馬とシャンプーと合流する事にした。そこで油断したのが不味かった。

 

 

「この程度で私は負けませんことよ!」

「あかね!」

「きゃあ!?」

 

 

気絶したかと思われていた小太刀は起き上がるとリボンを俺とあかねに向けて放ってくる。俺は咄嗟にあかねを庇い壁際に下がったのだが、その壁の一部が回転扉になっていた為に俺とあかねは落とし穴になっていた回転扉の向こう側に落下してしまう。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「あかね、掴まれ!」

 

 

落下する最中、悲鳴を上げるあかねを掴み、抱上げてから着地する。横抱きの体勢で着地して、あかねと二人でホッと一息。

 

 

「ふぅー……危なかった」

「あ、ありがとうムース」

「ぷぎぃ」

 

 

何気に高さがあったから、そのまま落ちていたら危なかった。さて、乱馬とシャンプーを探さないと……

 

 

「いつまで抱き合ってるカ!」

「んがっ!?」

 

 

なんて思考は脳天に与えられた一撃に遮られた。そのまま倒れそうになるが、何とか持ちこたえる。

 

 

「痛たたたっ……あ、シャンプー」

「あかねを抱いて……満足カ?」

 

 

振り返ると腕を組み、怒り心頭のシャンプーが俺を見下ろしていた。

 

 

「なんで、あかねが居るんだよ。それもムースと一緒だなんてよ」

「何よ、そっちこそシャンプーと一緒じゃない!」

 

 

そして俺に抱かれたままのあかねと乱馬が喧嘩を始める。とりあえず、話がややこしくなりそうだから、あかねは下ろそう。

 

 

「俺は別行動を取ってたら、あかねと小太刀の戦いに出会してしまってな。その後、落とし穴で落ちた先が此処だったんだが」

「私は乱馬がこの屋敷に入るのを見たから……そう言う乱馬はどうなのよ!女子更衣室に入ってきたかと思えば九能先輩の家に来るなんて!」

「ムースの言う事なら信じるネ……でも、あかねがムースにお姫様抱っこは少し悔しいネ」

「そ、それは……」

「ニャーハッハッハッ!」

 

 

俺とあかねの説明にシャンプーは納得してくれた様だが、乱馬は何故か言い淀む。いや、そこはちゃんと説明しろよ。しかし、そんな話を遮る様に何処からか笑い声が響く。

 

 

「引っ掛かったね、早乙女君!」

「佐助!」

 

 

明かりが灯ったと思えば、そこは妙な部屋だった。縦に細長く、ハムスターを運動させる車輪みたいな……あ、この部屋、福引の間だわ。上を見上げれば天窓から佐助が顔を出している。

 

 

「此処は九能屋敷地下迷宮!一度入った者は二度と出る事は叶わん!」

「個人の家の下にそんなもん作るなよ」

 

 

佐助の叫びに俺は思わずツッコミを入れてしまう。本当に技術の無駄遣いだと思う。だが、そんな俺のツッコミを無視して佐助は仕掛けを作動させた。玉乗りサイズのボールが大量に流れてきたかと思えば部屋が回転し始めて俺達は強制的に走らされる。

 

 

「ニャーハッハッハッ!これぞ猿隠流からくりハウス術、恐怖の歳末大売り出し福引の間!季節外れだが此処がお前の墓場となるのだ!」

「ムース!」

「おっと!」

 

 

大量のボールに追い付かれない様に走り続ける俺達。そんな中、シャンプーが俺に抱き付いてきた。咄嗟の事で慌てたけど俺はしっかりと受け止める。

 

 

「さっきはあかねを抱いてたけど、此処は私の場所ネ」

「何もこの場で主張せんでも……」

 

 

シャンプーはそのまま俺の胸に甘える様に身を寄せてきた。あ、凄い柔らかい……

 

 

「そっか……ごめんね、シャンプー」

「ううん、あかねが悪いわけじゃ無いネ……でも、さっきはちょっと悔しかったアル」

 

 

あかねとシャンプーは普通に会話を続けてるけど、人を一人抱えて走るって、かなりキツい。そんな中、乱馬はあかねと俺達を交互にチラ見していた。乱馬よ、お姫様抱っこをしたいなら素直に言えよ。素直じゃないんだから。

 

 

「おのれ、拙者を無視してイチャイチャするとは許せん!食らえ、猿隠流忍術けん玉輻射砲!」

「痛っ!?」

「いだだだだっ!?」

 

 

その空気を察してか、佐助が天窓から部屋の中に入ってくるとけん玉を使った攻撃を始め、俺と乱馬を狙い始める。特別製のけん玉なのか紐がかなり長く、離れた距離から俺と乱馬の後頭部にけん玉の玉が連続して当てられた。シャンプーとあかねを狙わない辺りが微妙に紳士だ。だが、地味に痛い上にやられっぱなしが頭に来たのか乱馬は逆走して佐助に迫った。

 

 

「このぉ!もう堪忍袋の緒が切れたぜ!」

「おっと!てありゃ!」

 

 

しかし佐助は素早い動きで乱馬の攻撃を避けると、部屋の軸になっている柱に身を移し、更にそのまま乱馬に攻撃を続行した。流石、忍者とだけあって素早いな。

 

 

「いだだだだっ!?」

「ニャハハハハ、げふぁ!?」

 

 

体勢を崩した乱馬に追い討ちを掛ける様に佐助はけん玉輻射砲を浴びせ続けた。

そっちに夢中になっていたので俺はシャンプーを抱き抱えたまま跳躍し、背後から佐助にドロップキックを浴びせた。俺とシャンプーの二人分の体重を乗せたドロップキックは佐助を地面に叩き落とした。

 

 

「そこまでだぜ、佐助!」

「なんのまだまだ!こんにゃろう!」

 

 

トドメを刺そうと乱馬が佐助に迫るが、佐助はけん玉で天窓近くに設置されていた仕掛けを作動させるパネルを叩き割る。すると、走っていた床が突如落とし穴となり俺達を飲み込んだ。

 

 

「危なっかしいな!」

「ムース!」

「あかね!」

「乱馬!」

 

「ニャハハハハ!これぞ運命の分かれ道!辿り着くのは天国か地獄かお楽しみに!」

 

 

 

俺とシャンプー、乱馬とあかねがそれぞれ分かれて落とし穴に落下してしまう。佐助の説明を聞きながら俺達は落とし穴に落ちてしまった。あの二人、喧嘩しなきゃいいんだが……俺は落下しながらシャンプーを抱き止め、そんな事を思っていた。

 

 


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