「痛った!?」
「あいやー!?」
シャンプーと一緒に九能屋敷の地下に落ちて地面に叩き付けられる。しかし、地下に居たのに更なる地下に落とされるとは、九能屋敷は何処まで地下があるんだ。
「痛ててて……」
シャンプーを抱き止めながら落下したので受け身が取れなかった。シャンプーが無事なら俺がどれだけ傷付こうが……
「……ムース」
「シャ、シャンプー……落ち着こう。此処は人の家だ。あ、ヤバ……柔らか……」
シャンプーがトロンとした瞳で俺にすり寄ってくる。抱き止めていたのも含めて密着していたからシャンプーの吐息が掛かる距離だ。良い匂いが……
「おのれ!九能屋敷でハレンチな真似をしおって!」
「邪魔するナ!」
「あー……」
密着していた俺とシャンプーの姿を目撃した佐助が怒って殴り掛かってきたけど、シャンプーの一撃に沈められる。此処って全自動洗濯機の間じゃなかったっけ?イチャイチャする俺とシャンプーを見て怒りを抑えられずに飛び込んで来た佐助は見事に返り討ち……っと。
「さ、ムース。邪魔者は居なくなったネ」
「シャンプー……乱馬とあかねを探さないとだからさ」
キスしようとしてくるシャンプーの唇を指で制する。
不満そうに頬を膨らませてるシャンプーは可愛いが、今は優先しなきゃならない事があるから。取り敢えず地下から出て乱馬とあかねを探さないと。
気絶した佐助は放置して地下から脱出した俺とシャンプー。地下をさ迷っていたら小太刀に再び会ってしまう。
「む、先ほど天道あかねと一緒に居た男!それに……乱馬様を狙う別の女!」
「待て、此方は争う気は……」
「そうね!それに私の良い人はムース!私は乱馬に興味は無いネ!」
小太刀はリボンを構えて俺とシャンプーを威嚇してきた。なるほど、あかね以外にも乱馬を狙ってると思われてんのな。なんて思ってたらシャンプーが俺の腕に抱き付いて叫んだ。非常に嬉しいが恥ずかしいです。
「あ、あら……私ったら失礼しましたわ」
「分かれば良いネ」
顔を赤くしてオホホと笑う小太刀。意外と純情だな、オイ。
「乱馬様のご友人でしたら歓迎いたしますわ。私も乱馬様を探しておりますので、ご一緒しましょう!」
「あ、ああ……んじゃ、道案内頼めるかな。正直広くて困ってたんだ」
乱馬を狙っていないと分かると小太刀はにこやかに道案内を始めてくれた。乱馬が関わらないとマトモなんだよなぁ、小太刀って。
「乱馬様を交えてお茶会でもしましょうか。あ、クッキーも焼きましょう!」
俺とシャンプーの前を道案内をしながらルンルンと歩く小太刀。
俺は思わず小太刀をじっと観察しながら原作の小太刀を思い出していた。
作中で自画自賛していたが容姿端麗、スポーツ万能で頭が良くて料理上手。更に実家が金持ち……まあ、要は性格の問題なんだよな。
小太刀は乱馬と兄の帯刀が絡むと残念な感じになる。
「何をデレデレと見詰めてるカ」
「ひてててて……ひがうって」
そんな俺の視線に気付いたのかシャンプーは俺の頬を強くつねった。いや、マジで痛い。
「……あんな服装が好みカ?ムースが望むなら着てみるネ」
「その話はまた今度にしようか」
勘違いしたシャンプーは、俺が小太刀のレオタードを気にしていると思ったらしい。更に自分が着ているのを想像してモジモジして顔を赤らめていた。
そして俺はシャンプーのレオタード姿を想像する……うん、今度土下座してでもお願いしよう。
「あら……乱馬様の声が聞こえましたわ!乱馬様ぁ!」
「あ、おい!小太刀!」
「後を追うネ!」
なんて話をしていたら小太刀は乱馬の声が聞こえたと叫ぶと、俺達を置いて走って行ってしまう。慌てて後を追うとその先は風呂だった。いや、普通にスーパー銭湯並みに広いんだけど。個人の家でこんな広い風呂を構えるか普通。
「貴様、九能屋敷の風呂で天道あかねと混浴とは許せん!」
「だから!地下から此所に辿り着いただけで混浴した訳じゃないっての!大体、こんな色気の無い女と混浴なんて望まないっての!」
「誰が色気の無いってのよ!」
九能に襲われている乱馬。乱馬は九能に襲われながら否定をしているが、もう少し考えてから発言しろよ。あかねにいらん反感買ってるし。
「女の敵!」
「痛だっ!?」
あかねを貶された事からシャンプーが怒って乱馬の頭をひっぱたく。うん、自業自得だ。
「くっくっくっ……天誅だぁ!」
「どわっ、あぶねぇ!?」
シャンプーに殴られた乱馬を見て隙ありと感じた九能は木刀を振り下ろす。なんとか避けた乱馬だが足下の大岩が砕け散った。九能も何気に人外な部分があるよな。木刀で木を斬ったり大岩を砕いたりと凄いよな。
そして砕いた大岩の中から赤い壺が出てきた。
「あ……赤こけ壺!」
「その壺は曾祖父さんが城を作る時に出てきた壺だそうだ。風呂の添え物にしていたのだが……」
乱馬は大岩から出てきた、赤こけ壺を抱き止める。九能が赤こけ壺の説明をするけど……明らかに風呂の添え物には向かないと思う。
「これくれ!」
「ふむ……大して価値のある物には思えんが…やらん」
赤こけ壺を欲しいとねだる乱馬だが、九能は乱馬に赤こけ壺を渡すのを拒んだ。
「お兄様!乱馬様が欲しがっているのに渡さないとはなんとお心の狭い!」
「黙れ、変態妹よ!早乙女乱馬にくれてやる物など何もない!」
意外な所から助け船が出た。まさか小太刀が援護してくれるとは。アニメだと小太刀はあかねとシャンプーと戦ってたけど今は助けてくれた。俺は九能が持っていた赤こけ壺を取り上げると小太刀に話し掛ける。
「小太刀、貰うとまでは言わんが少しの間だけ貸してくれ。用事が終わったら返しに来るから」
「あら、それは乱馬様に差し上げるのですよ」
俺の言葉に小太刀は貸すのではなく差し上げると言うが、『貸し』にするのは小太刀の為になる。協力してくれたお礼だな。
「『壺を貸した』なら壺を返しに乱馬はまたこの屋敷に来る事になるぞ。その時は俺も一緒に来るけどな」
「まあ!なら壺は貸した事に致しますわ!」
俺が小太刀の耳元で囁くと小太刀はパアッと明るく笑みを溢す。普段から、この笑顔が出せりゃ乱馬も惚れたのではないかと思う。
「んじゃ、この壺は借りていくよ。お邪魔しました」
「お、おいムース!?」
「あ、待ってよ!」
「ムース!」
「待て、早乙女乱……ぐえっ!?」
「またのお越しをお待ちしておりますわ」
俺が赤こけ壺を持って九能屋敷を後にしようと歩き始めると乱馬、あかね、シャンプーも後を追ってくる。九能は再度、戦おうと木刀を振るおうとしたが小太刀のリボンで動きを封じられて黙った。動きを止めてくれたのは有り難いが首を絞めるのは止めときなさい。
ま、何はともあれ赤こけ壺ゲットだぜ。いつもこれくらい平和な解決が望ましいものだ。
「おい、ムース。さっき小太刀に何を言ったんだよ。あんなに小太刀が素直になるなんて異常だぜ」
「ん、まあ……それに関しては後で説明をするし、俺も同伴するから。今はこの壺を婆さんに見せて次の壺を探そうぜ」
乱馬の疑問に俺が答えると乱馬に赤こけ壺を渡そうとした。その瞬間だった。
「大量、大量じぁ!あ、お宝発見頂きじゃ!貴様には貸しがあるから貰っていくぞ!」
「え、あ……」
「あ、あのくそ爺!」
なんと八宝斎の爺さんが俺の手から赤こけ壺を奪っていきやがった。まだ前の事を根に持ってやがったか。俺と乱馬は慌てて後を追うが爺さんは素早くあっという間に逃げられた。ここまで順調だったのにチクショウ!
良牙?P助のまま人間に戻らずに、あかねに抱かれてたよ。マジでその内、チャーシューにしちまうかアイツ。