ムース1/2   作:残月

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お待たせしました。更新再開します。
本当なら今話で終わらせるつもりだったのですが長くなったので分割します。



和風男溺泉を探せ⑥

 

 

 

三つの壺が揃った俺達はそれぞれの壺を俺、乱馬、良牙が持ち、弁当をシャンプーとあかね、荷物無しなのが婆さんとリンスだ。老人と子供に荷物を持たせる気はない。

 

電車に揺られながら二時間程経過して目的地の山に到着。ハイキングに向いた山で参道が整えられていた。

 

 

「此所に……三つ子岩があって……」

「其処に壺を捧げれば和風男溺泉が……」

 

 

乱馬と良牙は念願の男に戻れると息巻いているが、俺としては不安要素もある。まず第一に爺さんの妨害だ。これはほぼ確実にあると思った方が良いだろう。リベンジマッチだ。これは俺も気合いが入る。

 

問題なのは和風男溺泉だ。原作やアニメの通りなら成分が枯渇して枯れている泉で残念……となるが、万が一和風男溺泉が湧き出た場合、本当に元の姿に戻れるか否かだ。あの時、ガイドが言っていた。体質に馴染まない内に入ったら体質が混ざり、変身後の姿が変わってしまう。下手をすると元に戻れないリスクがある。

思えば原作のパンスト太郎が良い例だ。パンスト太郎は変身後の姿で蛸溺泉に入りタコの足を変身後の姿に付け足した。つまり、変身したまま他の泉に入ると変身体質が混ざるという事だ。

 

出来たらこの辺りはもっと調べてから、和風男溺泉に入りたかったが仕方ない。一応の対策としては変身前の状態で和風男溺泉に入るしかない。

 

 

「それにしても……良牙君まで付いてきてくれるなんて友達思いなのね」

「い、いやぁ……それほどでも」

「なーに、言ってんだよ、良牙は……ぶわぁ!?」

 

 

俺が考え事をしていると、あかねの発言に良牙が照れたかと思えば、乱馬が何かを口走りそうになったのを感じて池に突き落とした。池に落とされた乱馬は女になってしまう。

 

 

「さあ、行こう皆!青春の時は短い!無駄にしてはいけないん……ぐぇ!?」

「気合い入れるのは結構だがそっちじゃねーよ。方向音痴は勝手に動くな」

 

 

乱馬を突き落としたのを誤魔化そうと走り出した良牙だが、走り出した先は山ではなく駅に向かって走ろうとしたので首に縄を掛けて阻止した。もう方向音痴の次元では無いと思う。

やれやれとため息を吐きながら山頂へと歩き始めた俺達。歩いていると、ふと乱馬が話し掛けてきた。

 

 

「しっかし……ムースは用意周到だよな。俺が赤こけ壺を取り返してる間に黄こけ壺を探し当てて、三つ子を調べあげてから弁当も用意してるなんてよ」

「黄こけ壺の事は単に思い出しただけだよ。三つ子岩の事にしたって地元じゃ有名な岩らしいからな。あかねも知ってたみたいだし」

 

 

乱馬は俺を見上げながら珍しく賛辞を送ってきた。純粋な言葉に裏がないと感じる辺り本当にそう思っているのだろうな。

 

 

「乱馬だって、爺さんから赤こけ壺を取り返したんだろ。あの爺さん相手に大したもんだ」

「はは……良牙にも手伝ってもらったんだけどさ」

「乱馬、あれは手伝いなんてもんじゃないだろ。パンツを被せられた恨みは忘れんからな……」

 

 

俺達の会話に良牙が入ってくる。なるほど取り返し方も同じだったかと思い出す。アニメだと赤こけ壺を取り返す為に乱馬はPちゃんに爺さんが盗んだ下着を頭に被せる。爺さんがその事に気付いてPちゃんを追い掛け回してる間に乱馬は赤こけ壺を奪い返す話だったが……話を聞くとまったく同じやり取りがされていたらしい。良牙はその事に腹を立てているが……

 

 

「良牙、お前は乱馬に更衣室侵入の罪を被せただろ。その事と今回の事でお互い様にするんだな。それとも、あかねに全て本当の事を話そうか?」

「ぐ……わ、わかった」

 

 

俺がギロっと睨むと良牙は押し黙る。ったく……反省しない豚野郎め。

因にだが、俺と乱馬と良牙は会話を聞かれない様に女性陣とは距離を離して歩いている。今の会話を聞かれただけで良牙は社会的に死ぬな。

 

 

「待てい、小童共!」

「や、やっほー」

 

 

等と此処までは順調だったが、俺達の行方を阻むように八宝斎の爺さんが立ちはだかった。さぁて、リベンジマッチといきますか。

 

 

「ジジイ!」

「お父さん達まで!」

 

 

乱馬が爺さんの姿を確認すると叫び、あかねは爺さんに連れ従っている早雲さんと玄馬さん達に驚いている。

 

 

「乱馬よ、わしのコレクション入れにしておった壺を返せ!この泥棒め!」

「そのコレクションは盗んだ下着で赤こけ壺は俺達が九能から借りている壺だ。どっちも爺さんの所有物じゃないだろ」

 

 

爺さんが怒りと共に叫ぶ。が、俺のツッコミに目を丸くしてポカンとしている。

 

 

「そ、そうですよお師匠様。ムース君の意見が正しいかと……」

「それにワシも元の姿に戻りたいですし……どうかご自重を……」

「えーい、黙れ黙れ!一度わしの手に収まった物はわしの物じゃ!返してもらうぞ!」

 

 

早雲さんと玄馬さんの説得も虚しく爺さんの闘気が膨れ上がった。

 

 

「やるしか……ないみたいだな」

「冗談じゃねぇぞ!此処まで来て引き下がれるか!」

「邪魔するってんなら容赦しないぜ!」

「私達もやるわ!」

「当然ネ!」

 

 

俺の言葉を皮切りに乱馬、良牙、あかね、シャンプーは邪魔する気満々の爺さんと闘う体勢に入る。

 

 

「ホッホッホッ、こりゃ良い見世物となるのぅ。リンス、危ないから下がっておれ」

「は、はい」

「じゃあ我々は観戦しようか早乙女君」

「そうだね、どっちに加勢しても後が怖いし」

 

 

婆さんは三つの壺と弁当を持って壁際まで下がり、リンスの警護もしてくれている。これで心置きなく戦えるな。早雲さんと玄馬さんも婆さんとリンスの側で観戦する様だ。

 

 

「行くぜ!」

「ふん、小童共が!元祖無差別格闘流奥義、御彼岸御萩重!」

 

 

乱馬と良牙とあかねとシャンプーが爺さんに一斉攻撃を仕掛けようとすると、爺さんは妙な構えから腕を振るう。俺は即座に横に避けて射線上から退避した。すると爺さんが振るった位置から竜巻が発生し、四人は竜巻に飲み込まれ宙に舞い上がる。

 

 

「つ、遂に出た……御彼岸御萩重」

「あれぞ、お師匠様が御彼岸の日にお萩を独り占めした際に思い付いた奥義。今でも思い出す、あのアンコの艶と香り……卑しきお師匠様ならではの奥義」

「解説どうも!」

 

 

早雲さんと玄馬さんの解説を聞いた後、俺は両袖から鉤爪付きのロープを取り出し乱馬達に向けて伸ばし、それぞれをキャッチしてから良牙を一番下にして乱馬、あかね、シャンプーの順番に落とす。下敷きになった良牙は苦しそうだが乱馬、あかね、シャンプーのダメージは最小限で済んだ。

 

 

「何しやがる!」

「直接叩き落とされるよりもマシだろ?それにあかねやシャンプーはあの高さから落ちたら危なかったんだし」

 

 

良牙が俺に抗議しに来るが仕方ないだろ。因にだが良牙の次に乱馬を落としたのは良牙の上にあかねやシャンプーを落としたくなかったからだ。

 

 

「わしの御彼岸御萩重の射線を見抜いて避けたのは褒めてやるが……打つ手は無かろう。さあ、壺を返してさっさっと帰れ!」

「こっちにも意地があるんでな!」

 

 

爺さんの叫びに俺は袖に仕込んでいた鉄球を爺さんに放つ。当然、避けられるが一瞬動きを止められれば十分だ。

 

 

「秘技、手裏剣豪雨!」

 

 

この技は相手の視線を外側へと向けさせて、動きを止めたと同時に相手が居る位置に手裏剣を雨のように降らせる技だ。俺は鉄球を投げたと同時に、両袖に仕込んでいた手裏剣を爺さんが居る位置に満遍なく落ちるように上空に投げた。そして爺さんが鉄球を避けて動きが止まれば後は手裏剣が雨のように降り注ぐ。逃げようにも動きを止めてしまった以上回避は間に合わない筈……だった。

 

 

「なんと……じゃが、甘いわ!」

「げっ!?」

 

 

なんと爺さんは懐から手拭いを出すと自身の頭の上で振り回して手裏剣を叩き落とした。手裏剣が雨のように降り注ぐにも関わらず爺さんは楽しそうにしていた。んな、バカな。

 

 

「未熟者めが!」

「げほっ!?」

 

 

爺さんは全ての手裏剣を叩き落とした後に俺との間合いを詰めると、キセルで俺の腹を突いた。あまりの出来事に呆然としてしまった俺はガードする事も出来ずに重い一撃を食らってしまった。俺はそのまま仰向けに倒されてしまう。

 

 

「手裏剣豪雨とは洒落た技じゃったが……あの様な技は厚手のコートか気で強化した手拭いでもあれば防げるわい。落ちてくる速度とタイミングが同じじゃから後はそれに間に合うようにコートや手拭いを振るえば良い。ついでを言うなら刃引きをした手裏剣なんぞ怖くないわ馬鹿者が」

 

 

やはり化物だ、この爺さん。落ちてくる手裏剣の速度とタイミングを見切って手拭いで叩き落としやがった。口で言うのは簡単だがそれを実行するのは格段に難しい。流石、腐っているが達人だな。つうか、突かれた腹が超痛い。

 

 

「そんな……ムースまで……」

 

 

あかねの絶望した様な声を出す。やっぱ俺や乱馬達では敵う相手じゃなさそうだ……

 

 

「どれ、さがっておれ。お主等の敵う相手じゃなさそうじゃ」

「むっ」

 

 

俺達が爺さんに敗北したのを見ていた婆さんが前に出る。そんな婆さんを見て、爺さんは俺達の時とは違って警戒した様に構える。

 

 

「油断のならぬ相手じゃな!」

「それはお互い様じゃ。見よ、このシルバーパワーを!」

 

 

互いに気配で強さを察したのか互いに闘気を異常に高めている。おいおい、地鳴りまで発生してるぞ。

 

 

「むう……中国三千年妖怪と日本の邪悪の権化。果たして勝つのはどちらでありましょうか?」

 

 

解説をする玄馬さん。確かにこの戦いの結末は予想不可能だ。なんせ強さの次元が俺達とは違う。こんなんで戦いを予想しろとか無理だよ。

 

互いに隙を窺ってるのか闘気を高めたまま膠着状態になった婆さんと爺さん。この戦い……どうなる?アニメだと婆さんのブラジャーで決着が付いたけど。しかし、この戦いの結末は意外な形で訪れた。

 


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