「べ、別の歴史から来たムースとシャンプーとその妹ぉ!?」
先程の果たし合いをしたグラウンドから猫飯店に移動した俺達は乱馬(原)、あかね(原)、良牙(原)に俺達自身の事を説明した。当初は笑い飛ばしていた乱馬(原)達だが俺とシャンプーが二人居る辺りから苦笑いへと変化し、リンスを見てから絶句へと変わった。そりゃそうか。しかも別の歴史である俺達の立場や人間関係の違いに更に驚いていた模様。
因みに俺は元のパーカー姿に戻り、ムース(原)もいつもの中華服に戻っている。そのままだとややこしい事になるから。
「ああ、さっきまでは……まあ、話の流れで決闘する事になってな。騙したみたいですまなかった」
「うそ……ムースがこんなにアッサリと頭を下げるなんて……」
一連の説明を終えた後に頭を下げたら、あかね(原)に驚かれた。まあ、原作のムースなら謝っても頭は下げんわな。
「ふん、だが頭を下げようが、あかねさん(原)や乱馬(原)を騙していた事に違いはないだろう卑怯者め」
「不意打ちで決闘に水を指した卑怯者には言われたくないネ。男らしさの欠片もない」
鼻を鳴らした良牙(原)に反論と追い討ちを掛けるシャンプー。良牙(原)は胸を押さえて「ぐっ……」と踞った。ああ、自覚はあったのね。シャンプーが良牙(原)を見る目は養豚場の豚を見る目だわ。
「そっちのシャンプーはムースと良い感じなんだな……」
「シャンプーがムースを庇うって不思議な光景だわ……」
乱馬(原)とあかね(原)は珍しい物を見る目で俺達を見ていた。
「私からしてみたら、そっちが変な感じネ。もっとも素直じゃないのは似てるアル」
「確かに乱馬さん(原)もあかねさん(原)も私達の知る乱馬さんとあかねさんにそっくりです」
シャンプーとリンスは少しだけ性格の違う乱馬(原)とあかね(原)に戸惑いと言うか……何処か納得している様な雰囲気を出していた。原作を知る俺からしてみればこっちが違うのだろうが口は挟めない。
「しっかし……何処か納得したぜ。ムースがいつもより強いから変だと思ったが別人とはよ」
「なんだと乱馬(原)……だったら今すぐ決着つけてやるだ!」
手を頭の後ろで組んだ乱馬(原)が納得した様に呟くとムース(原)が怒りを露にして服の袖から暗器を取り出して威嚇する。ああ、なんか原作の流れだ……じゃなくて。
「そっちの俺は店で暗器を出すな。そっちの乱馬(原)も安い挑発は武道家としての名を落とすぞ」
「ちっ……仕方ないだ……」
「お、おう……」
俺が嗜めると二人は引いてくれた。
「ムースが凄い大人だわ……」
「私のムースはカッコいいネ……」
「流石、ムース兄様です!」
あかね(原)が驚いているとシャンプーとリンスがうっとりとした表情で呟く。おいおい、可愛いなオイ。
「さっきの説明にもあったが……少しの歴史がズレると色んな事が変わっていく。俺達の当たり前が、そっちでは意外な事になってるんだ」
「それで……そっちのオラは乱馬を倒せる程に強くなっていただか……シャンプーとも……」
俺の説明にムース(原)は少し肩を落とした様子である。
シャンプーの辺りでとてつもなく落ち込み様だ。
「今は違うとしても元は同じなんだ。修行次第で追い付けるとは思うが……」
「元の才覚が同じでも鍛えた期間で差が出るじゃろ。そっちのムースは長年ワシが鍛えていたようじゃが此方のムースは独学。追い付くのはどれほど時間が掛かるかのぅ」
俺の言葉に婆さん(原)は笑っている。俺の強さは長年、婆さんに鍛えられたからであり、独学で強くなれと言うにはかなり無理がある。
「だったら今からでもこっちの俺を鍛えてやってくれないか婆さん?」
「シャンプーの婿には乱馬と決めておるんじゃ。ムースを鍛える理由が無いわい」
俺が婆さん(原)に頼むと婆さんはクックッと笑うと否定した。
「おのれ、ケチな猿の干物め……」
「誰が干物じゃ!」
ムース(原)が余計な一言を良い放ち、婆さんから一撃を
貰っていた。
「やっぱり乱馬(原)は私の婿になる運命ネ!」
「うわっと!抱き付くなよシャンプー!(原)」
「ちょっと乱馬(原)!」
後ろでは乱馬(原)達が騒いでいる。なんかリアルにアニメの世界を見ている様だ。シャンプー(原)が乱馬(原)に抱き付いてるのを見るとなんか、モヤッとするが……
「曾バアちゃん、本当にこっちの私の為を思ってるアルか?」
「………勿論じゃ」
ギャアギャアと騒いでる原作組を放っておいてシャンプーが婆さん(原)に問い掛ける。
それは俺も思っていた事だ。原作やアニメでも乱馬をシャンプーの婿にする気が薄かった気がする。乱馬のピンチには駆け付けて手助けや鍛えたりしていたけど、婿にする為の行動は極端に少ない。シャンプーの独断の行動は多かったけど、それに対して婆さんが手助けしたのは精々、反転宝珠の話くらいだ。それを考えると婆さんは乱馬をシャンプーの婿にする為の動きは消極的だった。
そして俺の知る婆さんは女傑族の掟の縛りをどうにかしたいと考えていた……つまり原作の婆さんも同じ事を考えていたのでは、と思う。
「だったら……もうちょっとやり方があるんじゃねーの?」
「ふん、くだらん事を言ってないで、サッサッと帰るんじゃな」
俺の言葉に婆さんは南蛮ミラーを差し出しながら答える。余計な事は言うなと言わんばかりだ。
「解析は済んでおる。お主が頭に思い描いた世界を思いながら南蛮ミラーに涙と血を落とせば、その世界に行ける筈じゃ」
「どうやって解析したのかは、さておき……やっと帰れるな」
帰れるのは良いんだけど……どうやって解析したのだろう。深くはツッコミを入れん方が良いだろう。
「え、もう帰っちまうのかよ!?まだ俺はそっちのムースに勝ってないってのに!」
「そうね……シャンプー(原)やムース(原)は数日一緒に居たけど私達はさっき会ったばかりなのに」
俺達が帰る事に乱馬(原)とあかね(原)は不満そうにしていた。俺ももう少し話をしたかったけど仕方ない。
「悪いな。向こうで婆さんが待ってるんだ」
「何日も留守にしてたから早く帰って顔を見せないと心配されるネ」
不満そうにしていた乱馬(原)とあかね(原)に簡単に事情説明をした後に俺は懐から暗器を取り出して指先を斬る。ツゥと血が指先から滴り、南蛮ミラーに落ちていく。後は俺の涙を落として元の世界を思い浮かべれば完了だ。
「あ、服をお返ししなきゃ……」
「よいよい。思い出の品として持ち帰ればよい。それがお主達がこの世界に来た証じゃ」
「じゃあ……遠慮なく貰っていくよ」
リンスは買って貰った服を返そうかと思ったが、婆さんの好意によりそのまま持ち帰る事に。一方でシャンプーはシャンプー(原)とあかね(原)に別れを告げていた。
「あかね(原)、乱馬(原)と仲良くな。そっちの私は掟に縛られて大切なものを見失わない様にするヨロシ」
「うん、ありがとうシャンプー。乱馬(原)とは仲良く出来るかは……わからないけど」
「大きなお世話ネ。用事が済んだならサッサッと帰るアル」
ガールズ達は女子特有の話をしていた。リンスは歳の差故か話には参加していなかった。
「そっちのムースとは決着つけたかったけど……しょうがないよな」
「ふん、いつか必ず追い付いてやるだ」
「そっちの俺達にもヨロシクな」
「ああ、そっちもそれぞれ頑張れよ」
乱馬(原)ムース(原)良牙(原)に見送られながら、俺はこれから彼等が送るであろう原作話の事を思いながらしっかりと返答した。詳しく話をする訳ではないがエールを送る位は良いよな。
「裏の空き地を使えば他の者を巻き込まずに済むじゃろう。達者でな」
「ありがとう婆さん。世話になりっぱなしだったな」
「曾バアちゃん、謝々」
「ありがとうございました!」
婆さん(原)から空き地を使えば良いと言われてそっちへ向かう前に最後のお礼をそれぞれする。本当に世話になったから。
「構わぬよ……ワシも孫が増えたようで楽しかったわい」
婆さん(原)は楽しそうに笑っていた。迷惑を掛けていたと思っていたので少し嬉しかったりする。そして俺達は婆さんに言われた通り、裏の空き地で南蛮ミラーを再起動させて元の世界へと帰った。こうして俺達の原作世界への旅は終わりを告げたのだった。マジで不思議な体験したもんだ。
◆◇sideコロン(原)◆◇
別の歴史から来たムース達が帰って行った。やれやれ、騒がしい日々も終わったかの。
「そういや、あっちのムースもアヒルになって苦労してたんだよな?」
「いや、あっちのオラは娘溺泉に落ちていて女になっていただ」
「ちょっと待て!その話聞いてないぞ!?」
良牙(原)の呟きにムース(原)が答え、婿殿が騒いでおる。もう少し、話をさせるべきじゃったかのぅ。
「何が大切なものを……アルか。そんなの私には関係ないネ」
ぶつぶつと向こうのシャンプーに言われた事を気にしているシャンプー(原)にワシは新たな希望と一抹の不安を抱えておった。やれやれ、奴等との接触で考え方に違いが出始めておるの。向こうのムース達との繋がりはコヤツ等にも良い刺激となったかもしれんな。
しかし、向こうのムースは何かを隠している様じゃった。何かに焦っているとも言えるが……それは向こうのワシがなんとかするじゃろ。
ギャアギャアと騒ぐ小童共を見ながらワシは向こうの孫達の無事を祈った。