ムース1/2   作:残月

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幻の八宝大華輪を探せ!①

 

 

 

 

幻の奥義『八宝大華輪』の秘伝書を求めて山奥まで来た俺、乱馬、玄馬さん、早雲さん。俺と乱馬は道行きを知らないので早雲さんと玄馬さんの後を追う形になっている。

 

 

「ムースが来てくれるのは心強いぜ」

「俺としても、あの迷惑爺さんが更に迷惑を及ぼすのは看過できないからな」

 

 

乱馬は俺が着いてきた事に喜んでいる様だが、俺のメインはこの後の温泉だ。秘伝書を埋めた地点に温泉が沸いた為に秘伝書の回収が困難とされた時に、あかねとその友達が旅行で来てしまうのが原作の話だが、シャンプーとリンスがあかねに誘われて、その旅行に行ってしまっている。あの妖怪爺にシャンプーとリンスの肌を見せてなるものか!

 

 

「此処だ……この崖の下に秘伝書を埋めた」

「おお、あれぞ正しく秘伝書を埋めた大岩!」

 

 

なんて考えに耽っていると、早雲さんと玄馬さんが立ち止まり、崖の下を覗きながら叫ぶ。確かに下には木々に囲まれた森の中に大岩が鎮座していた。

 

 

「お師匠様はまだ来ていないようだ……ならば!」

「うむ、善は急げだ!」

「先に行くぜムース!」

「あ、ちょっと待て!」

 

 

秘伝書を埋めた大岩を見つけたとあって早雲さんと玄馬さんは慌てて崖を飛び降り、乱馬も後を追う。三人は俺の制止を振り切って降りてしまうが……その直後、悲鳴と共に打撃音が聞こえた。やはり下は女性限定の温泉になっていたか。

 

 

「おーい、大丈夫だったか?」

「う、ううむ……」

「まさか、温泉が沸いているとは……」

 

 

俺は崖をロープを使って少し迂回しながら乱馬達と合流する。案の定、桶を大量に投げ付けられたらしい。

 

 

「痛てて……ムースは分かってたのか?」

「下が温泉とは思わなかったが周囲の状況を確認してからじゃないと危ないと思ってな。さて、女湯になってるなら、どうするか……」

 

 

俺は荷物を下ろしながら乱馬の問いに答える。原作でそうだったからなんて言えないから適当に答えは濁したが。

 

 

「よし、こうしよう」

「断る、俺とムースを女にする気だろ。無理だぜ、お湯を掛ければ男に戻っちまうんだからな」

 

 

玄馬さんの案を速攻で拒否しようとした乱馬。玄馬さんはバシャッと水を被り、パンダとなった。手にはペンキが握られている。

 

 

『私が行くのだ。コレで変装すれば完璧だ』

「そ、そうか……パンダに色を付ければのどかなパンダも狂暴な熊に大変身!」

「完璧だ、完璧だよ早乙女くん!」

「あー……確かに完璧だったとは思いますよ。ペンキが白じゃなけりゃ」

 

 

自信満々にペンキを出す玄馬さんだが、白熊になって女の子を脅そうとは無理がある。いや、白熊でも怖いとは思うが日本の山中に白熊はおらんわな。原作でもそれで失敗してたし。

 

 

「だったらどうする?」

「そうだな……俺と乱馬が女になった上で変装して清掃の為に一時的に温泉を封鎖しますとか言って、女の子達に立ち退きを要求するとか……」

「おお、ならばその案で…」

「この愚か者どもがーっ!」

 

 

次の案を考えていると何処に隠れていたのか妖怪爺が早雲さんの頭を叩いた。

 

 

「お、お師匠様……」

「この未熟者どもめ……見ておれ」

 

 

頭を叩かれた早雲さんが突如現れた爺さんに驚いていると、爺さんは猿の着ぐるみを身に纏い温泉にナチュラルに入っていく。

 

 

「お、おお……ごく自然に温泉に入っていく……」

「そうか、その場に状況の一部になる事、これぞのぞきの極意……我らが未熟でございました、お師匠様」

「のぞきの極意を伝授されて感動している場合か!」

「秘伝書を取りに来たんでしょ、のぞきに来たんじゃないんですから」

 

 

玄馬さんと早雲さんは感動しているが、乱馬と俺のツッコミに正気に戻ると俺達に水を被せた。

 

 

「最初からお前達が行けば良かったんじゃ!」

「威張って言う事か!」

「短期決戦だな。岩に素早く飛び移って秘伝書を掘り返そう」

 

 

玄馬さんに女にさせられた乱馬と俺は服を脱いで温泉に来た客を装い、温泉に向かう。

 

 

「乱馬、なるべく周囲を見ずに行こう。俺達は秘伝書を目当てに来たんだ。その経過で覗きをするのは許される事じゃない」

「お、おう……素早く行こう」

 

 

お互いに女の体になっているので互いを見ずに走り抜ける。しかし、後一歩のところで温泉から女の子達が上がって来てしまい、乱馬の足は止まってしまう。俺はそのまま飛び上がり大岩の所へと着地する。

 

 

「ちょっと大丈夫?温泉に飛び込もうとして岩のところに着地なんてドジねー?」

「あ、あはは……お騒がせしました」

 

 

乱馬は足を止めたが、俺は大岩へ飛び移った事は周囲には温泉に飛び込もうとして失敗したと見られた様だ。

 

 

「よし、今の内に秘伝書を……おわっ!?」

「伏せろ!」

 

 

秘伝書を掘り返そうとしたタイミングで乱馬に温泉に落とされる。その為、俺と乱馬は男に戻ってしまった。

 

 

「何すんだよ、早くしないと……げ」

「あっちを見ろ!」

 

 

小声で話す俺達の視線の先にはあかねやシャンプー、リンス達が……しまった。もう来たのか。

 

 

「あ、あかねにシャンプー……」

「温泉旅行とは聞いてたけど、まさか此処だったとは……」

 

 

知ってはいたけど……参ったな。シャンプー達が来る前に秘伝書を掘り返そうと思ったのに。って言うか秘伝書って本来、役立たずなんだから別に掘り返さなくても良かったんだっけ。完全に忘れてた……。

 

 

「ど、どうするムース?」

「落ち着け、乱馬。まだ向こうは俺達に気付いてないんだ。さっさと秘伝書を回収して逃げよう」

 

 

取り敢えずバレる前に撤退しかあるまい。本当なら秘伝書も回収せずに逃げるべきだが、乱馬は秘伝書が役立たずとは知らないから秘伝書を無視して逃げるのは不自然となってしまう。

 

 

「よ、よし……だったら……」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「あいやーっ!?」

「あっかねちゃん、シャンプーちゃん!」

 

 

乱馬が秘伝書を掘り返そうと瞬間、聞きなれた声の悲鳴が聞こえた。振り返ると、モモンガの着ぐるみを着た爺さんがあかねやシャンプーに空から迫ろうとしていた。それを見た俺と乱馬は即座に体が動いていた。

 

 

「「させるかっ!」」

「ひぎゃ!?」

 

 

俺は右拳を、乱馬は左拳を妖怪爺に叩き込んでいた。我ながら見事なコンビネーションだったと思う。

 

 

「ったく……こりないジジイだぜ」

「悪は滅んだ」

「お爺ちゃんは兎も角……アンタ達は……何をしてたのよー!」

 

 

爺さんを撃退した俺達だが、背後から掛けられた声にハッとなって振り返ると、あかねは秘伝書を埋めていた大岩を持ち上げて俺達に振り下ろそうとしていた。ヤバい、早くも説得しないと……と思った瞬間、背中にとても柔らかい感触が……まさか!

 

 

「ムース、一緒に来たかったのカ?大歓喜!」

「シャ、シャンプー!?ちょっ……ヤバい、柔らかいじゃなくて……」

 

 

シャンプーが後ろから抱き付いてきた。ヤバい、互いに裸だからダイレクトにシャンプーの柔肌が……最早、俺の神経は背中のしか機能していないと思われる。

 

 

「ワハハハッ!あかねちゃん達の裸も見れたし、八宝大華輪の秘伝書も手中に納めたり!」

「しまった秘伝書が!」

「秘伝書?」

 

 

そんな俺達の隙を突き、爺さんが秘伝書を奪い取って飛び立ってしまう。つーか、乱馬タフだな。あんな大岩で殴られて即座に復活しやがった。あかねは大岩抱えたまま爺さんが持つ秘伝書を見て、唖然としてるし。

 

 

「って、そんな場合じゃなくて……させるか!」

 

 

俺は桶を手にすると投擲で爺さんの手の秘伝書を狙う。

 

 

「馬鹿者め、そんなもんに当たる訳がなかろう!」

「させるか!」

「頼んだぞ、乱馬、ムース君!」

 

 

俺の投げた桶を避けた爺さんだが、隠れていたのか早雲さんと玄馬さんが木の枝で爺さんを殴り返す。俺の桶を避けた事で早雲さん達の攻撃を避けられなかった爺さんは野球ボールの様に戻ってきた。

 

 

「貰ったぁ!」

「げひぃ!?」

 

 

乱馬が爺さんをエルボーで沈めると秘伝書を奪い返した。よくやった乱馬……あれ……なんかクラクラして……

 

 

「ムース?ムース!?」

「おい、大丈夫か!?」

「ちょっとムース!?」

「ムース兄様!?」

 

 

皆が俺を呼ぶけど意識が遠のく……もう……だめ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くしてから目を覚ましたのだが、俺は温泉で体が温まったのと、シャンプーに抱き付かれて興奮したのが原因でのぼせたらしい。あの後、事情を話して俺を温泉から引き上げた後、温泉から離れた地点にテントを張り秘伝書の解読をしていたらしい。

シャンプーに抱き付かれて、暴れりゃそりゃのぼせるわな。全神経が背中に集中してたし。

つーか、シャンプーが今までにないほどに積極的だった気がする。原作の乱馬も同じ気持ちだったのだろうか……

 


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