婆さんに言われて夜に乱馬の監視をする事、はや三日。暇人を観察している俺は何人なのだろう……
「く……ふぁぁぁぁぁぁ……」
木の上で乱馬の部屋を監視している俺は欠伸が止まらない。昼間は猫飯店で仕事して、夜は乱馬の監視してれば眠くもなる。これって、なんかのエピソードであったっけな……いかん、眠くて頭が回らない。
「乱馬を監視してどーしろってんだか……つーか、いつまで続くんだこれは……って、ん?」
暇だし、無意味な監視は辞めて帰ろうかと思った、その時だった。乱馬と玄馬さんの部屋から薄ぼんやりと光が見える。
「妙だな……さっき、明かりは消した筈だが……」
部屋の電気を消したのに部屋が僅かに明るく見えるとは何事?俺は木から天道家の屋根に飛び移り、音を立てないように、そーっと中を覗いた。
「…………っ!?」
中で見た物に驚愕しながらも、咄嗟に息を殺し、叫ばなかった自分を褒めたい。俺は気配を殺しながら気取られぬ様に再度、窓から部屋の中を見た。
そこには男の乱馬とおさげをほどいた女の乱馬が寄り添っていた。有り得ない光景に驚きながらも俺は必死に記憶を辿る……これは確か、アニメのエピソードで『乱馬を襲う恐怖のタタリ』だった筈。
爺さんの秘術……って言うか呪いのお香「肉体分離の術」をかけられ、分離してしまった男の乱馬と女の乱馬。二人に分離した乱馬は互いに恋におちてしまうってストーリーだ。
だが、このエピソードはそんな簡単な話じゃない。分離した女の乱馬は邪悪の権化として生まれた存在で、男の乱馬が女の乱馬を求めると女の乱馬は男の乱馬の生気を吸い取っていくって話だった……ヤバイな。いや、マジで。
婆さんはこれを察知してたから俺に乱馬を監視しろって言ってたんだな。
「………いっそのこと、今の内に隔離しちまうか?」
俺は袖から暗器を取り出して男の乱馬に狙いを定める。男の乱馬を気絶させて猫飯店に連れて行って、婆さんに診て貰えば万事解決な気がしてきた。
でも……エピソードを変えて大丈夫なんだろうか?いや、しかし、このタイミングで男の乱馬を助ければアニメの時みたいにミイラみたいにガリガリにならないで済むし……
「うーむ……どうすっかな……」
「あら、どうするんですか?」
悩んでいると背後から声が聞こえる。振り返ると窓から透けた体で体を半分外に出して此方を見ている女の乱馬……って、バレてる!?
「ら、らん……あ……」
女の乱馬に驚いた俺は足を踏み外して屋根から落ちた!やっべぇ!?
「なん……のがっ!?」
「ムースさんっ!?」
なんとか体勢を整えて庭に着地した俺だが、屋根から足を踏み外した際に瓦も外れてしまった様で屋根から外れた瓦は俺の頭を直撃した。
薄れいていく意識の中で俺が見たのは涙目で俺の方に来る女の乱馬の泣きそうな顔だった。