ムース1/2   作:残月

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乱馬を襲う恐怖のタタリ③

 

 

 

 

俺達は女らんまの分身を捕えるべく天道道場へと、お邪魔していた。表向き……と言うかリンス、かすみさん、なびきには単なるお泊まりと伝えてあるが、本当は分身女らんまを捕え、乱馬の中へと戻す為だ。何言ってんだか、ややこしくなってくるな。

 

乱馬と玄馬さんの部屋に結界の札を貼り、乱馬自身にも憑依出来ないように、デコにお札を貼ってある。更にあかね、早雲さん、玄馬さん、シャンプー、婆さんは部屋の中で乱馬の監視をしていた。リンスはかすみさんとなびきに任せてある。さて、そんな中、俺は外で爺さんと分身女らんまを待ち構えていた。

 

 

「まったく……なんでワシがこんな目に……」

「全部、アンタが招いた災いだろ。たまには善行を積むんだな」

 

 

俺と爺さんは分身香で分裂した分身を消滅させるお札を手にしている。本来なら責任を取る形で爺さんにやらせる所だが、アニメの話同様に女らんまに騙されて結界の札を剥がしてしまいそうだから、俺が同伴して外で待機となった。

 

 

『乱馬さん……』

「む、来たか!」

「確かに……俺が前に見た女らんまだ……」

 

 

すると、何処からともなく女の子の声が聞こえ、爺さんと俺は辺りを見回す。天道道場の屋根の上に女らんまが立っていた。

 

 

 

『こんばんは。ムースさん、お爺ちゃん』

「ああ……こんばんは」

 

 

ニコリと笑みを浮かべた女らんまに少しだがドキッとしてしまう。いや、普通に可愛いんだもんよ。

 

 

「な、なんじゃ……邪悪な分身の片割れではないのか?」

『ごめんなさい。私、乱馬さんと少し触れ合いたかったんです。こんなご迷惑をお掛けするつもりは……』

「そっか……んで、乱馬に何の用だったんだ?」

 

 

爺さんが動揺していると女らんまが頭を下げて謝る。本当に良い子っぽいんだけど。俺が問い掛けると女らんまは少々顔を赤らめていた。

 

 

『そ、その……私は以前、乱馬さんが頭を打った際に生まれてしまった人格なんです。あの時、私は再び、頭を打って、そのまま消える筈だったんですが……』

「どういう訳だか人格が残った……と」

 

 

何となくだが得心が行った。あの晩に俺が見て分身した女らんまが邪悪な分身の片割れに思えなかったのは、それが理由だったんだ。あの時見た『花をも恥じらう、らんま』だったんだ。

 

 

 

『でも、私の意識は殆ど無かったんです。その時でした、お爺ちゃんの肉体分離香で分裂した乱馬さんと私は、それぞれ別の人格になりました……乱馬さんが日々、窶れているのは分かっていました。でも……なんだか、その……』

「止め時を見失ったって訳か……んじゃ今晩を最後にして貰えるか?流石に、乱馬が限界なんでな」

 

 

女らんまの説明に俺は納得したし、理解もしたが、このまま会わせるのはリスクが高すぎる。アニメの時みたいにミイラみたいにガリガリにはなっていないが、目の下に隈が出来て不健康なのは間違いなかった。

 

 

『はい……ご迷惑お掛けしました』

「それは乱馬に言うんだな。ほら、これで行けるだろ?」

「ちょっと、ムース!?」

 

 

頭を下げた女らんまに俺は害が無いだろうと判断した上で窓のお札を剥がし、結界を解いた上で窓を開ける。あかねから抗議の声が上がるが、俺は大丈夫だろうと感じていた。

 

 

「何をしているんじゃ、ムースよ!このままでは乱馬は……」

「乱馬、女らんまが話があるってよ」

『ムースさん、ありがとうございます』

「あ、ああ……」

 

 

 

婆さんも慌てた声を出すが俺は乱馬を呼ぶ。女らんまは俺に頭を下げてから部屋の中に入った。乱馬はどうして良いのか分からずに狼狽していた。

 

 

「な、なあムース。本当に大丈夫なのか?」

「信じてやれよ。お前から出てきた人格なんだから」

『……乱馬さん』

 

 

不安そうな乱馬が俺が声を掛けるが俺は信じてやれとしか言えない。すると女らんまが乱馬に抱き付いた。

 

 

「え、あ、ちょっ……」

「何、自分自身にドキドキしてんのよ……」

「妙な光景ネ」

 

 

女らんまに抱き付かれた乱馬は顔を真っ赤にしていた。あかねが乱馬を睨むが正直、無理もないと俺は思う。女らんまは小柄だが、スタイルが良い。しかもランニングシャツにトランクスと言う薄着な状態で抱き付かれればドキドキするだろう。

 

 

『ごめんなさい。乱馬さんに無理をさせてる自覚はあったんですけど少しでも一緒に居たかったんです』

「そ、そっか……」

 

 

ギューっと乱馬の背中に手を回しながら抱き締める女らんま。乱馬はドキドキしながらだから返事がお座なりになってる。

 

 

『私が生まれたのは偶然でした……でも、少しだけでも一緒に居られて幸せでした。さようなら』

「あ、おい……」

 

 

女らんまが抱き締めていた乱馬から離れると、その体が粒子の様に消えていく。その粒子は乱馬の体に向かって消えていく。

 

 

「これは……」

「分裂した肉体が一つに戻ろうとしておるのか……肉体分離香で分かれた邪悪な分身が自らの意思で戻ろうとするなぞ聞いた事がないぞ」

 

 

俺が何事かと驚いていると婆さんの解説が入る。そうか、アニメの時と違って朝日で消滅するのではなく、自らの意思で分離した自分自身を元に戻そうとしているのか。確かに邪悪な分身には見えないな。

 

 

『ありがとう……お兄ちゃん』

「お、おい……あ……」

 

 

女らんまの最後の言葉に乱馬は女らんまを抱き締めようとするが、その手は空振ってしまう。女らんまを抱き締める寸前に体が消えてしまったからだ。

乱馬は空振った手を見つめて何処か後悔している様な表情だった。

 

 

「お兄ちゃん……か。お前の分身とは思えないくらいに良い子だったな」

「……ああ。そうだな」

 

 

俺の言葉に乱馬はグッと拳を握る。乱馬はこれからは魘される事も体調不良もないだろう……だけど、乱馬の心には刺が残った。そりゃそうか。

 

 

「婆さん、これで心配は無いとは思うけど?」

「うむ……じゃが、今日は様子を見た方が良いじゃろう」

 

 

女らんまが乱馬の体に戻った事で問題が無くなったとは思っていたが、婆さんは今日くらいは様子見をした方が良いと判断したみたいだ。

 

 

「んじゃ、俺が乱馬と玄馬さんの部屋で一緒に寝るわ。其処の爺さんも心配だしな」

「ちょっと、お爺ちゃん!なんでまた肉体分離香を準備してるのよ!」

「い、いや……これを使えば、らんまちゃんに会えるじゃろう?」

 

 

俺の発言に視線が一斉に爺さんに向けられる。爺さんは肉体分離香に火を灯そうとしていた。それを、あかねに咎められると爺さんの言い訳が入る。さっきの別れを見て、その一言が出せるのかアンタ。まったく懲りてないな。

 

この後、全員で爺さんをボコボコにした後で簀巻きにして池に沈めた。ここまでしても次の日には復活してくるから、あの爺さんは恐ろしい。

 

この晩、念の為に天道道場に泊まる事になった俺達。婆さんは客間に泊まり、シャンプーとリンスはあかねの部屋に泊まり、俺は乱馬と玄馬さんの部屋で眠っていたが、夜中にふと目が覚め、乱馬を見ると乱馬は布団を頭から被っていたが中から少し音が聞こえた。

 

 

 

「………ぐすっ」

 

 

今回の件は乱馬の心に思ってた以上に傷を作ったのかもな。もしも……もしもだがアニメと違って分身が消えずに乱馬の体に戻ってしまった事で女らんまが抱いていた思いも乱馬に受け継がれてしまったのだろうか?

 


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