ムース1/2   作:残月

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登場!ものまね格闘技②

 

 

 

 

乱馬を担いで天道道場に到着すると布団と手当ての準備は既に済んでいた。俺は乱馬を布団に寝かせると傷の手当てをする。深い傷は俺が担当し、浅い傷はあかねにやらせた。

 

傷の手当てをしていると同じく、乱馬の様子を見に来ていた玄馬さんが口を開く。

 

 

「そこなのじゃよ、奴の恐ろしさは……真似っ子けんちゃんに戦いを挑まれた武道家は皆、己の技で敗れておる。それが武道家にとって如何に屈辱的な事なのかは言うまでもあるまい」

「でも、技を真似されたのなら互角の筈だわ。なんで本物の乱馬が……」

「………っ」

 

 

玄馬さんの説明にあかねが疑問を重ね、乱馬が悔しさから顔を背けた。

コピー格闘術は肉体的な部分よりも心理的な部分が大きい。玄馬さんはコピー格闘術の恐ろしさを理解しているから戦ったとしても玄馬さんが勝つだろう。敗れた乱馬や良牙は血気盛んだから見事に真似っ子けんちゃんの術にハマっちまってる。

 

 

「それにムースとの戦いを避けていたわ……」

「それは俺の戦闘スタイルが特殊だからだろ。俺は基本的に暗器で相手を脅して、戦意を削ぐ戦い方をする。俺自身がそれを理解しているんだ。真似っ子けんちゃんがそれをした所で意味がないだろう」

 

 

あかねの疑問に俺は右手の中指の上でヒュンヒュンと音を鳴らして手裏剣を回す。相手を脅すと分かっているのに、それにビビるってのは有り得ないからな。

 

 

「乱馬よ……敢えて言おう。お前は真似っ子けんちゃんに負けたのではない。お前はお前自身に負けたのだ」

「俺……自身に……」

 

 

玄馬さんの言葉は乱馬の心に響いたらしい。もう、大丈夫そうだな。俺は席を立つ事にした。

 

 

「ま、次は負けない様にするんだな乱馬」

「あ、待ってムース」

 

 

 

立ち上がり、帰ろうとした俺をあかねが呼び止める。何事かと振り返ると、あかねが頭を下げていた。

 

 

「ありがとうムース。あの時、私と乱馬を助けてくれて」

「気にするな。最初こそ、武道家として止めなかったが……俺達、友達だろ?」

 

 

頭を下げていたあかねの頭にポンと手を乗せる。ほんとうに普段からこれくらい素直に成ってれば乱馬と上手く行くだろうに……ふと、乱馬に視線を移せばギロッと俺を睨み付けていた。嫉妬する元気があるなら大丈夫そうだな。そう思った俺は乱馬に歩みより、耳元であかねに聞こえない様に囁く。

 

 

「乱馬……俺に嫉妬するのも間違ってはいないと思うが、お前が今、一番嫉妬の炎を燃やさなきゃいけないのは真似っ子けんちゃんだろう?奴はあかねに抱き付いたんだぞ?」

「山籠りで修行しに行く!」

 

 

俺の一言に乱馬の怒りのボルテージが一瞬でMAXになった。なんで、ここまでベタ惚れなのに、あかねに素直にならんのかね乱馬は。

やる気になっている乱馬はもう大丈夫だろうと思った俺は猫飯店に帰った。

 

猫飯店に戻った俺はシャンプー、リンス、婆さんに真似っ子けんちゃんの話をし、乱馬と良牙が敗れた事を話した。アニメだとムースと九能兄も負けていたが、恐らく、この世界でも九能兄は負けているのだろう。

 

 

「やはり負けおったか未熟者共が……」

「真似っ子けんちゃんの戦いは技術力だけじゃなくて心理戦でもあるから、乱馬達じゃ対応出来なかったんだろ。俺も種を知らなきゃ危なかっただろうし」

「心理戦アルか?」

 

 

婆さんは予想していたのか溜め息を吐く。俺もアニメで知っていなければ危なかっただろう。真似っ子けんちゃんの戦い方の中での心理戦があるのかを疑問に思っている様だ。

 

 

「真似っ子けんちゃんは相手の姿と技をコピーして戦いを挑んでくる。対して挑まれた側は『物真似野郎』『単なる猿真似』と侮って戦いに挑む。その結果、油断して戦うから本来の実力は出しきれないだろう。そうなると互角の実力だったとしても100%の偽者と80%の本物の戦いとなる。そうなれば負けるのは……」

「コピーされた本物さん……って事ですね」

 

 

俺の説明にリンスも納得した様だ。油断や慢心ってのは怖いもので本人が本気で戦っているつもりでも実力が出しきれないし、詰が甘くなる。乱馬や良牙が負けたのは正にそれが理由だ。

 

夜も遅くなり、シャンプーとリンスは早々と部屋で寝ている。俺は夕方から夜まで猫飯店を留守にしていたから後片付けは俺がやる事にしたのだ。

しかし……乱馬や良牙は心配だが、俺は俺で真似っ子けんちゃんとの戦いを考えなきゃな……まあ、戦い方は考えてはいるけど。

 

 

「乱馬達が山籠りで修行をしておるなら、ムースも行ってはどうじゃ?と言いたいがムースならば修行をせずとも真似っ子けんちゃんを倒せるじゃろうがな」

「俺は油断はしないし……いざとなったら切札で凌ぐよ」

 

 

洗い物をしていたら婆さんに話し掛けられる。俺は乱馬達の様に油断はしないし、俺には暗器とは別の切札がある。これは乱馬はおろか、シャンプーにすら秘密にしている俺の奥義の一つだ。

 

 

「ならば、お主には別の修行を課すとしよう」

「別の修行って……げっ」

 

 

洗い物を済ませ、婆さんに振り返ると婆さんが手にしていたのは以前俺が変装の時に着ていたスフレのチャイナドレス。いや、ちょっと待って!?

 

 

 

「ムースよ!久々にスフレとなり、乱馬達の修行の手助けをするのじゃ!」

 

 

 

なんかアニメ以上に、ややこしい事態になりそうなんですけどっ!?

 

 

 


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