ムース1/2   作:残月

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飛竜昇天波⑥

 

 

 

スケベ熱による凄まじい闘気の渦の中心で乱馬は爺さん、九能兄、校長に対して拳を構えた。

 

 

「テメェ等、纏めて吹っ飛びやがれ!飛竜昇天波!!」

 

 

乱馬がアッパーを放った直後、原作よりも凄まじい威力となった飛竜昇天波が生み出される。発生した竜巻に爺さん、九能兄、校長が巻き込まれて吹き飛ばされていった。

 

 

「やった!飛竜昇天波や!」

「うむ、見事じゃ!」

「な、なんて威力だ!俺が食らった時よりも段違いの威力じゃないか!?」

 

 

離れた場所で戦いを見届けていた右京や婆さんも驚いていた。特訓の最中よりも遥かに増した威力に良牙も驚いている。

 

 

「す、凄いです!」

「リンス、飛ばされない様に気をつけろ」

 

 

リンスは子供の重さ故に余波で飛ばされそうになっていたので俺は抱き寄せる。しかし、思ってた以上の威力になったなぁ……スケベ熱による威力UPが想定外だ。その切っ掛けが俺の写真混じりなのが泣ける。

そんな事を思っていたら乱馬が飛竜昇天波の渦に飛び込んで行った。多分、あかねを助けに行ったんだな。原作でも、あかねは虚脱灸の秘伝書が飛竜昇天波の渦に飛ばされているのを見付けて竜巻の中に飛び込んでいたから行くだろうと思っていたから、こっちは予想通り。

 

 

「ま、今回は俺が手助け出来ないから見守るしかないな。おっと」

「こ、これは……皆の者!舞っておる破片を集めい!一欠片も逃してはならん!」

 

 

今回は身体が傷付いていて格闘面では手助け出来ないから静観しかないと思っていたら、紙片が飛んで来たので指先で挟んで捉える。婆さんの叫びから虚脱灸の秘伝書の紙片なのだろう。

 

 

「リンス。紙片を集めよう」

「はい!」

 

 

俺の言葉にリンスは素直に頷いて舞っている紙片を集めに走り出した。

紙片が舞う上空では、気を失ったあかねを乱馬が抱き締め、落下中だった。つーか、思ったよりも高い所まで飛ばされてんなー。

 

 

「あのままじゃ地面に激突やで!?」

「乱馬は兎も角、あかねさんが危ないっ!」

 

 

他の面子も乱馬とあかねに気付き始めた。確かに結構な高さだし気絶してるあかねじゃ受け身も取れそうにない。まあ、でも……乱馬のあの表情は『あかねだけは無事に降ろす』って覚悟だよな。そこに水を差すのは無粋だ。

 

 

「乱馬、写真を寄越せーっ!」

「おお、妖怪が復活した!?」

「モモンガになりきって空を飛んでるぞ!」

 

 

そこで妖怪爺さんが復活した。飛竜昇天波をマトモに食らったのに、なんてタフさだ。

 

 

「乱馬、爺さんが飛んで行ってるから背に乗って滑空するんだ!」

「成る程……そりゃあっ!」

「ぐえっ!」

 

 

俺の叫びに乱馬はあかねを抱えたまま、爺さんの背中に乗り上手く滑空を始めた。と思ったのも束の間、爺さんは写真を取ろうと勝手に動き始めて、その先にはフェンスがある。

 

 

「こら、ジジイ!勝手に動くな!」

「バカモン、写真を取りこぼす訳にはいかんのじゃ!」

 

 

欲に駆られた爺さんはフェンスに張り付いた写真を求めて滑空して行く。しかし、その速度で突っ込めばフェンス激突は間違いない。いやぁ、欲に駆られると碌な事にならんね。そんな事を思っていたら案の定、フェンスに激突した爺さんと乱馬。あかねだけはフェンスへの激突が避けられていた。そのまま落下して地面に乱暴に着地したが乱馬があかねを庇い落下した為、あかねは飛竜昇天波で吹き飛ばされた時以上の怪我は無かった。その事に一安心した俺は爺さんと乱馬に歩み寄り、写真を回収した。

 

 

「取り敢えず、これで良しっと」

 

 

俺は懐からライターを取り出して写真を燃やす。これで乱馬の名誉も俺の名誉も守られた。後で乱馬が持っているだろう写真のネガも燃やさないと。

 

 

「乱馬、邪灸人体図は!?」

「あ、それは……」

「今、紙片を皆が集めてるよ。全部揃えば乱馬の体を治せる筈だ」

 

 

気を失っていたあかねが目覚めて乱馬に詰め寄る。目の前で邪灸人体図が破れたのを見た乱馬が言い淀んだので俺が答えると、二人の目がパァッと明るくなる。

 

 

 

「そっか……まだ希望は残ってるんだ!」

「ううむ……足りぬ。虚脱灸を示した部分だけが失われておる……」

「そ、それじゃ乱馬は……」

「もう元には戻れない……」

「馬鹿、本人の前で言うなよ!」

 

 

一縷の希望があったと思った乱馬だが僅かに足りなかった人体図に絶望していた。よりにもよって虚脱灸を示す部分だけが足りないから無理もない。周囲の言葉も地味にダメージとなっているだろう。

 

 

「ムース、婆さん、良牙、うっちゃん、リンス……皆、今までありがとう。嬉しかったよ」

「おい、乱馬!?」

「乱ちゃん!」

「乱馬さん……」

 

 

乱馬は悟った様な表情で立ち去って行った。その様子に良牙や右京も呆然としたまま見送ってしまう。リンスは泣きそうになってるし。

 

 

「それもこれも、このジジイが……焼き入れたる!」

「あー……待った右京」

 

 

怒り心頭の右京が巨大なヘラで爺さんをボコボコにし始めた。だが、その爺さんの頭に邪灸人体図の最後の紙片があるから。

 

 

「なんや、ムースの兄さん!このジジイは何遍殴っても足りひんくらいなんやで!」

「その爺さんの額に人体図の紙片があるんだよ。それが足りない紙片じゃないのか?」

 

 

俺をキッと睨み付ける右京だが俺の指摘にピタリと動きが止まる。

 

 

「おおっ……これは正しく虚脱灸を示す紙片!」

「それならコレで乱馬は!」

「元に戻るんやな!」

 

 

婆さんが紙片を拾い上げ、叫ぶ。その事に良牙や右京は喜びの声を上げて叫ぶ。この後、武者修行に出ようとしていた乱馬と一緒に行こうとしていたあかねを引き止めた。乱馬の背中にお灸を据えて虚脱灸を改善させた。力が復活した乱馬は再び襲ってきた九能兄と校長をぶっ飛ばして力が戻った事を再認識していた。

 

 

「あはははっ!戻ったぞ!」

「やった……やったね、乱馬!」

 

 

九能兄と校長をぶっ飛ばした乱馬は力が戻った事に喜びながら笑い、あかねも歓喜の声を上げながら乱馬に駆け寄る。

 

 

「戻った、戻ったぞー!」

「…………」

 

 

乱馬と抱き合って喜びを分かち合おうとした、あかねだが浮かれていた乱馬はそれに気付かずに校舎や植えてある木を薙ぎ倒したりと、あかねをスルーしてしまう。乱馬に抱き着こうとした、あかねの腕が虚しく上がったままだった。

 

 

「せっかく素直に抱き着こうとしたのに残念だったな、あかね」

「体が戻ったのは喜ばしいのに、あかねさんが可哀想です」

「……うん、二人ともありがとう」

 

 

俺とリンスの言葉にシュンとしたあかねがマジで可哀想だった。今度、猫飯店で何か奢ってやろう。乱馬は後でお説教だな。

 

何はともあれ、虚脱灸はなんとか乗り越えたな。俺の体もそろそろ治さないと。シャンプーも里帰りを終えて帰ってくる頃だし。

 

 

 

 

 

 

 


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